出来る限り更新のスパンは短めにしようと善処致します、それでは本編をどうぞ!
チュンチュンと小鳥のさえずりが暖かな光と共に聴こえてくる、その音を聞いて角谷杏はゆっくりと起き上がる、彼女が寝ていたのはふかふかのベッド…ではなく使いこまれて主人を微塵も癒そうとしない生徒会室のカチコチのソファーであった。
「…痛てててて」
体を起こすと全身あちこちが痛みだしパキパキと音が鳴る、辺りを見回しここが自分の部屋でないことを知ると首を傾げる。寝起きの頭で考えること数秒、思い出し手を叩いた。
「そうだ、昨日帰ってきたらいきなり仕事が追加されて夜中までかかっちゃって終わりと同時にここで寝たんだった…理事長め、蝶野さんが車壊したことの当て付けか?」
寝ぼけ眼を擦り壁にかけてある時計を見る
「時刻は7時か…確か12時集合だからまだ大丈夫だな」
杏は今日、ケイと12時に銚子港で落ち合うことになっているのだ
…取り敢えずヨレヨレの制服を変えたり朝ご飯食べたりシャワーを浴びに部屋に帰ろう、そう思いトボトボと生徒会室を出た。
暫く歩くと何やら機械の音が聞こえる、一瞬レイバーかと気になったが今日は練習は無いはずのでそれは無いと判断し無視する事にした。そのまま校門まで進むと見覚えのある顔に出会い挨拶をする
「おはようさんツチヤ」
「あ、会長!おはようございます」
と挨拶を返すツチヤの手には何かが握られていた
「お?どうしたのビデオカメラなんて持って」
「いや〜ガネーシャの整備が大分進みまして今武器のテスト中なんですよ、で、それを記録してくれってナカジマ先輩から頼まれて」
「ガネーシャってあの丸っこいレイバーの事?噂じゃ結構いい武器積んでるらしいけど?」
「えぇ、20mm機関砲に7.62mm機銃とこれだけでも良い武器なんですがコイツの一番の目玉は“荷電粒子砲“ですよ」
「粒子砲か…この間のガンバルギーニに積んであった武器みたいな代物か」
「あれよりもっと強力ですよ、当たればどんなレイバーもイチコロっす。ただめちゃくちゃ電力を消費するからバッテリーの調整が難しくて…」
「成る程ねぇ、強力な武器はそう簡単に使えないってことか」
「でも準決勝までにはちゃんと仕上げて出場出来るようにしますよ、その心算でナカジマ先輩達めっちゃ頑張ってますから」
「そっかそっか、呼び止めて悪かったね、んじゃまぁ頑張ってね」
「ういっす!」
そう気さくに挨拶するとツチヤは駆け足でハンガーへと向かっていった
家に帰ってからすぐにシャワーを浴びてから適当に服を選びコンビニで買ったおにぎりを頬張りながら家を出る。大洗駅に着いたのは午前9時30分、銚子港まではおよそ2時間弱なので丁度良い時間だ。改札を通ると電車が止まる音が聞こえ慌ててプラットホームに行き発車寸前での所で乗車出来た、ベルが鳴り電車が動き出す。朝早いのもあってか乗客は杏以外いなかった
「ちょっとした貸切だねこりゃ。んまぁ水戸駅までは直ぐなんだけどさ」
と結構大きい声で独り言を言っても誰一人気にする人が居ないと言うのは奇妙な心地だな、と杏は感じた
ふと車窓を見ると広大な海が見える、思わず窓を開けるとフワッとした温かい風と共に潮の匂いが鼻腔をくすぐる。今年は海水浴とか行けてないな、去年はかーしま達と行ったんだけど今年は特車道の皆んながいるしレクリエーションと称して生徒会予算で海水浴でも行こうかね…
「なんてね、んな金ないよ」
と一人で笑ってる内に電車は水戸駅へと着き乗り換える、周りをキョロキョロすると最初乗ってた電車とは違い結構混雑している。ここから2時間弱かけて銚子まで行くのに立ちっぱなしは疲れる、そう思い座席の空きが無いかと探す。
(お、ラッキー一つだけ空いてんじゃん)
急いで背負っているリュックを前にして座席に座ると同時にベルが鳴り電車が動き出す。
リュックからタブレット端末を取り出しデジタル新聞を見る。新聞と言ってもお堅いのではなく特車道に関する情報だけを集めたものである。1面にはデカデカと「プラウダ対ヴァイキング」と書かれている、本文をつらつらと見てインタビューなどはすっ飛ばしレイバーの編成、試合会場だけを注視する
_____こりゃ準決勝はプラウダになりそうだね、ヴァイキングには悪いけどこの試合プラウダが勝つ要素しかない。まずレイバーの性能がダンチだ、プラウダのドシュカに対して旧式も旧式の95式じゃあねぇ…それに試合会場は雪が降った場所らしい。そんな場所をオートバランサーもしっかりしてない95式がまともに動けるとは思えん、仮に動けたとしてもあのポンコツで何が出来る。警棒しかないんだぞ?それに積雪地帯は青森所在の学校であるプラウダのホームグラウンドだ、この状態で勝たせる指揮官がいたらそいつは間違いなく天才だよ、この試合やる前から勝負が付いてるようなもんだ。
そう思いながらたタブレットの電源を切るも他所の試合を客観的に見ると今度は自分達の試合が気になるものでまだ先の準決勝のことについて思考を巡らせる
プラウダのレイバーとうちらのレイバー…んまぁ性能はプラウダに劣るがヴァイキングよかマシだ。そこは戦術と腕だな、確かイングラムがドシュカを倒した例があったよな…金沢辺りに。とは言え少しばかり強化しとかないといくら腕があっても無理だからなぁ、攻撃はライアットガンがあるからいいとして防御面はどうすべきか…追加装甲的なのがあったら買うか、でもそんな金はないしなぁ。寄付でも募るか、ダメ元で。連戦で少々株は上がってるだろうし出してくれるありがた〜い人も探しゃいるだろ、うん。
そんなことを考えてたらウトウトしてきた、肉体と脳を酷使した翌日の体に電車の揺れは効果抜群だ。まるでゆりかごの中にいる様な心地である
まだ2時間近くあるし寝た方が合理的だろうと判断し杏は思考を放棄して寝ることにした。
杏は夢を見た。それは走馬灯であった。幼稚園の時家にあった作業用レイバーを操縦しこっ酷く叱られたが叱られた記憶よりレイバーの方印が象に残っていた。ジンジン伝わる振動に背負われた時より高い景色、その事が彼女をレイバーに夢中にさせた。それから彼女は毎日のようにレイバーを動かし続けた。雨の日も、風の日も。そんな我が娘を見て両親は「この子にはレイバーの才能、いや特車道の才能がある」と見込み習わせた。
小学校に上がっても彼女は特車道を続けた。偶然にもこの学校は選択授業制があり迷うことなく特車道を選んだ。他の子と比べて圧倒的な操縦経験がある彼女は直ちに隊長に抜擢された。初心者だらけのチームであるので自分が持っている技術を誰にでも惜しみなく教えた。その結果友達も増えチームはまとまっていき6年生になる頃には特車道ジュニアグランプリで優勝するほどの腕前、リーダーシップを持ち密かに「神童」とも呼ばれていたがまだこの時代は特車道がマイナーであったのであまり知ってる人はいない。中学校は特車道の強豪校、高校でいえば黒森峰的な学校に入学する事にした。入学してすぐに特車道の授業が始める。そこで彼女はケイとアンチョビと知り合うのである新たな仲間と共に彼女はここでも特車道を、レイバーを楽しめる…
____そう信じて疑わなかった
金属音が鳴り電車の心地よい揺れが止まる。夢の世界も閉ざされる、ハッと目を覚まし窓の外を見た。ぼんやりした視界で目的地の名前が書かれた看板が見えた
電車を降り改札へと向かう、ICカードを改札にかざしながら見回すと見慣れた顔が見えた。向こうは彼女に気づいたらしくニコニコしながら手を振る
「お久しぶり、ケイ」
と彼女も手を振り返す
「今日はどうするの?」
「取り敢えずご飯でも食べよっか」
「じゃあウチの学園艦寄ってく?」
「いや、せっかく銚子に来たんだから何か魚食いに行こ」
「そうね、ウチの船最近肉料理ばかりだったからたまの魚も悪くないわね」
「決まりだ、んじゃ行こう」
杏は内心ホッとした、とう言うのはサンダースの船はケイが言った通り肉料理が中心である。それだけなら別にいいのだが問題はその量である。全てがアメリカンサイズなのだ。両手で掴まないと食べれないハンバーガーにこれでもか、と言う量のポテトは当たり前、とてもじゃないが杏には食べきれない量だ。
(つぐつぐ思うんだがケイはよくあんな環境に居て太らないな…)
などと若干失礼なことを考えながら彼女達は港へ向かった。
駅からほんの少し歩くと潮の匂いがしてきた、大洗の海とはまた違う感じの匂いだ。
「何食べたいケイ?」
「ん〜?寿司とか?」
「こんな場所で寿司食ったら財布がすっからかんになるぞ…」
「じゃあ海鮮丼」
「海鮮丼かぁ…いいねぇ」
「あ、港が見えてきたわよ!」
日曜日だと言うのに幸いなことにそこまで人がおらずどの店も2人ぐらいの席なら空いており2人は適当な店を選び入店した。
テーブル席に案内され店員さんがお冷やが持ってくるなり彼女達は海鮮丼を注文する
コップをチン、と鳴らし久しぶりの再開に乾杯する
「まずは2回戦突破おめでとうだね、アンジー」
「ありがとうさん、初心者の私達がここまでいけるとは思わなかったよ」
「何言ってんのよ、あなた達はそんじょそこらの初心者なんか目じゃないわよ…ところでアンチョビには会ったんでしょ?元気だった?」
「うん、相変わらず元気だったよ。アイツ、アンツィオじゃドゥーチェなんて名乗っててさ慕われてんだよ」
「そっかそっか、アンチョビがみんなから慕われる隊長かぁ」
「ケイも隊長だったんだろ、お疲れ様」
「ん、ありがとう。サンダースは特車道の人数も多くて隊長になるのも一苦労だったわ…」
「確か100人近く居るんだろ?そん中で隊長になるって凄いなぁ」
「みんないい子でさ、私の事を“マム”って言ってくれんのよ。んで、みんなフェアプレイの精神で試合に挑んでてさ。ちゃんとルールを守ってどんな相手でも手を抜かないで対等に接して勝っても負けてもお互いが笑顔になれる試合が出来た…私がやりたかった特車道はあそこにあったの。そして最後は何の因果か貴方の学校と戦う事になってさ、あの試合が私の人生の中で一番楽しい試合だったわ」
「大袈裟だなぁケイは」
「大袈裟じゃないわよ、自分で言うのもアレだけど強豪校として名が通ってるウチらを突如現れた貴方達が2回も出し抜いたのよ?それも運とかじゃなくてちゃんとした作戦でさ。おかげでそこから興奮しっぱなしだったわよ」
そう言うとケイは水をクビリ、と飲んだ
「アンジーは隊長じゃ無かったけど生徒会長になったんでしょ?あなたらしいわね、中学の時から仕切っていたもの」
「なったはいいんだけどアホみたいに忙しくてね、何せ8000人いるからさウチら。これでも小規模らしいけど。その長みたいなポジションに着く訳だからもう大変だったよ、毎日大量に出る書類にお金のことばかり…よくもまぁ2年前の私は生徒会長になろうと思ったよ、知ってりゃならなかっただろうな」
などとぼやいている内に海鮮丼が届いた、これと言った奇抜さは無い普通の海鮮丼であったがこんなもので2人にとっては丁度いい具合である。
2人は食べると時は寡黙になるタイプで黙々と食べ続ける、その間杏は中学校時代の事を思い出す
____入学してから2週間ぐらいが経った頃、杏は特車道の授業を受けることになる。隊長が全員集合をかけた時、彼女はその人数の多さに息を飲んだ。小学校の頃がお遊戯レベルに見えてくる程だった、そこまでの大人数なのでチーム分けが行われる。1年生を中心に2年が副隊長、3年が隊長…と言った具合である。そこで杏はケイとアンチョビ(もっともアンチョビはその時は安斎と名乗っていたが)と知り合った。実は彼女達も小学生の頃から特車道をしておりその頃から勇名を轟かせており杏と同じくらいの有名人だった。
そんな有名人が3人も揃ってるとなるとチームのあちらこちらから黄色い声が上がるが同時に不安の声も上がる
やる時はやるけどいつもは昼行灯な杏と真面目な安斎、そして底抜けに明るいケイ。この性格が全然違う彼女らが性格の違いを原因として何か揉め事にならないかと思ったのだ。
しかしそれが杞憂であったことは直ぐに分かった、と言うのも確かに性格こそ違えど指揮官としての考え方はほぼ一緒で例えば杏が提案した作戦に安斎が捕捉しケイが作戦の担当を割り振る…といった形でお互いの性格をカバーし相乗効果を図ったからだ。結果として最初こそまとまりがなかった1年生だが徐々に結束力を高め2年生にも劣らない実力を身につけつつあった。そして全員、夏の大会に向けて努力して行った。無論杏としても例外ではない、大会に出て更に実力を身につけ更に特車道を楽しむためにも彼女は出場したかったのだ
そんなある日、1年生全員と2年生全員で模擬戦を行った。と言ってもこの試合は単に1年生の実力を測りたかった訳では無い。2年生は1年ながらも自分達に近づきつつある彼女らを快く思わず実力を持って先輩と言う立場を分からせてやる…そんな下らないプライドを固辞するために行われたのだ。
試合は2年生の圧勝で終わると思われていた。だが現実は技術力でも統率力でも勝っていた1年生の圧勝であった。先輩風を吹かせてやろうと思った2年生は自分達がどれだけちょっと実力が付いていたくらいで浮かれていたか、いかに己の立場に甘えていたかを思い知らされた。
この模擬戦を境に2年生は2つの派閥に分かれた
「自分達の実力不足を認め改めて特車道に専念する」と
「負けたのは偶然だ、1年生にそんな実力などあるはずがない」と言う風にだ
だがそのような事情を1年生が知るはずもなく、模擬戦が終わった後も杏達の元練習を重ね夏の大会への道を走り続けていた。決して楽ではない道を走り続けること数ヶ月、セミが鳴き始めた頃いつもの練習が終わり全員が集合させられる。朝礼台に上がった隊長の手には何やら紙が握られていた、そして隊長はその紙を広げこう言い始めた
「各員、本日の練習もご苦労であった。さてお前たちももう分かってるだろうがいよいよ全国特車道大会中学生の部がやって来た、それに当たって本校では来週から強化合宿を行う事にする」
一気に周囲が騒めく、隊長はそれを治め話を続ける
「この合宿は全員が参加できるわけではない、今から呼ばれたものが参加できる…これが表す意味、お前たちなら分かるだろう」
1人の生徒が挙手しこう言う
「選抜チーム…つまり大会出場者、と言う訳ですね」
隊長は顔色一つ変えずその通り、と言った
「今回の選抜に当たって例年ならばテストを行いそこから選ぶのだが…今年は違う。厳しい言い方だが我々は付け焼き刃の実力は欲していない、よって今年はお前たちのこれまでの成績を以て選ばせてもらった。具体的には日頃の訓練への積極性、及び向上性、そして模擬戦での貢献度だ」
そう言い終わるといよいよ発表の時がやってきた、この時ばかりは流石の杏でも耳を立てた、50音順に発表されていくのでもし呼ばれるなら彼女の順番は少し遅い。最初に安斎の名が呼ばれ杏はチラッと彼女の方を見る、一見表情が変わってないように見えたが口元に目を凝らすとほんの少しだけ口角が上がっていた。そしていよいよカ行に入る、1人が呼ばれまた1人が呼ばれる。まだかまだかと息を凝らして待つと遂に自分の名前が隊長の口から出た
杏は喜びのあまり破顔しないように軽く自分の掌をつねって堪えようとするもほんの微かに口元が緩んでしまう。あの真面目ま安斎ですらにやける程の喜びなのだ、自分が耐えられるわけがない。そう思いながら視線はケイの方に向いた。彼女をよく見るとその手はサムズアップしていた、仲間から祝われるのが嬉しくて更に顔が緩みそうになるがどうにかして堪える、必死に耐えているとふと聴き慣れた名前が聞こえた。ケイも選ばれたのだ、その顔は背を向いてるので分からないが彼女のことだきっと自分のように堪えているのだろうと想像しさっきのお礼と同じようにサムズアップした
そして全員の名前が呼ばれ解散指示が出る、バラバラになる中ケイが真っ先に杏に近づき安斎も近づいて来た
「アンジー!おめでとう!」
「私も選ばれたんだぞ!凄いだろ!」
「この3人が選ばれたか、こりゃ大会が楽しみだ」
「そうね、私達この数ヶ月間でだいぶ腕が上がったし…互いをよく知ることもできたし私達が優勝に貢献出来るって事もなきにしもあらずって感じね」
「1年だからって舐められないようにしなきゃねぇ」
「おいおい、大それた夢を持つのは構わないがまずは合宿だからなお前ら〜!」
いつものように杏とケイがボケて安斎が突っ込む、様式美とも言える展開に杏は何処となく安心感を覚えるのであった
次回、いよいよ杏が電話でケイに語った「酷いもの」の正体が明らかになります。ご期待下さい!
それでは御視聴ありがとうございました!