ガールズ&レイバー   作:恵美押勝

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ど〜も恵美押勝です!今回はいよいよ最終決戦、この杏備忘録も終盤へと差し掛かってきました。
1週間に1話と言うスローペースにも関わらず読んでくださる読者に方には感謝してもしきれません。
それでは本編をお楽しみください!


杏備忘録part4

 

「とうとうここまで来ちゃったなぁ」

決勝戦当日、杏はコクピットの中で深く息を吐いた

___決勝戦の相手は黒森峰…私の学校も十分に強いけどあそこはうちらより数倍は強い、現に去年いや、ここ10年黒森峰に敗れ準優勝止まりしている

「だが、それも去年までだ。今年は絶対に優勝してみせる!」

と思わず声に出たのを操縦座席の先輩がクスリと笑う

「先輩、私は大マジですよ?笑うなんて酷いな〜」

「ごめんごめん、杏ちゃんがそんな真剣な声を出すなんて滅多に無いからさ」

「私は最初から優勝を狙って、ここに入ったんです。先輩だってそうでしょう?」

「そうね、私もそのつもりで入ったわ。でも2年連続準優勝、それも凄いことだけどやっぱりガッカリしたわよね。狙うわ優勝だったもの…だけど今年はいけそうな気がするわ」

「何でです?」

「そうね…杏ちゃんがいるからかしら」

「私ですか?」

「杏ちゃんが入ってから模擬戦やったでしょ?あれからなんか空気が変わったのよね。“1年生に負けてるようじゃ私達もまだまだだ、初心に帰って頑張らねば”

ってね。そのおかげで練度も更に上がったし杏ちゃんが立てた作戦のおかげでここまで圧勝することができた」

「私は作戦を立てただけです、後は皆さんのおかげですよ」

「謙遜しなくていいのよ、舞台裏で活躍する照明がいなければ俳優は輝けないからね」

杏は自分のことを1年と見ず対等に見てくれる先輩がありがたみを感じていた。最初の出会いは五十嵐ではなくこの人であれば良かったと思うほどだ

「…先輩」

その時、インカムからノイズ音が流れた

『…諸君!ついにここまでやってきた!何度私達には黒森峰に敗れその度に辛酸を舐めてきたのだろうか!だが今年は違う!今年の我々は去年までとは一味も二味も違う!今度は奴らが辛酸を舐める…いや飲む番だ!諸君、覚悟はいいか!』

インカムから威勢の良い返事が聞こえる、勿論その中に杏も含まれている

『よし!では行くぞ!レイバー・フォー!!!』

✴︎

決勝戦の作戦はこうだ

・隊長のファントムが最大広域でジャミングをかける

・その間指揮車、EX-13部隊が捜索し発見次第攻撃を行う

・ハンニバル部隊もそれ続き突撃

・どさくさに紛れて相手のブロッケン部隊に杏のブロッケンが混ぎれこむ

・最後に杏が的のフラッグ車を見つけて撃破する

…と言う寸法である。この作戦を発表した時隊長からは「無茶だ」と言われ却下されかけた。無茶なのは百も承知、だが真正面から言って勝てないのであれば相手の虚を突く必要があるのだ、こちらの練度がいかに成長しようと相手は常に我々の1歩先を進んでいる。これが黒森峰と言う学校なのだ、それを受け入れなければならない。だが練度が高い故に定石通りの事にしか対応が出来ないと言う欠点がある、つまり想定外の事態には初動がほんの少し遅れるのだ。それがこの作戦を立てた最大の理由でる、無茶と言われようが我々が勝つためにはこれしかない。

と力強く訴えると最初は苦虫を潰したような顔をした隊長であったが徐々にその目に炎が宿り最後には杏の手を掴み

「よし、分かった。それでは杏くんの作戦で行こうじゃないか!」

と言い承諾してくれた

杏は無茶な作戦にも関わらず最終的に承諾してくれた隊長に深く礼をするのであった

✴︎

『各員へ通達、これより1分後最大広域でジャミングをかける。ジャミングをかけたら試合が終わるまでは通信は出来ない…おまけにセンサーの類も使えん、だからEX部隊がドンパチやる音が聞こえたらハンニバル部隊は出撃せよ。…さて、今のうちに話したいことがあるなら話しておけ。では一時通信を切らせてもらおう』

通信が切断されインカムの赤いランプが消える、杏は残された時間で話したいことがあるためチャンネルを素早く弄る

『やぁ、安斎、ケイ。とうとう来ちゃったね。決勝戦前だから言っておきたい事がある。何、深刻なことじゃないさ』

『どうしたのよアンジー、らしくもない真剣な声しちゃって』

『そうだぞ、急に改まって』

『私が今日まで戦えたのはお前たちのおかげだ、お前たちがいたから、私は副隊長としてやっていけたんだ』

『私達特になにもしてないわよお互い友達になったってだけで…』

『それだよ、それがありがたかったんだ。私が入ってきたばかりの時、1年生内の隊長になった時作戦を立てたらお前たちはいつも捕捉したり逆に私が考える以上の作戦も提案してくれたりした。本当これが助かった…選抜になってから私がやれるのかって不安も無い訳じゃなかった。そんな時支えてくれて、勝てたことで私は自信を持つことが出来たんだ。私1人じゃ無理でも力を合わせれば出来ない事はないって…!』

『杏…お前』

『前回の作戦も今日の作戦もお前達と推敲して出来たものだ、だがその2回ともお前達には危険な役割を背負わせてしまった…すま

『ストップ、アンジー!危険な役割だと分かってても最終的に望んで参加したのは他でもない、私自身…いえアンチョビだってそうだわ。貴方に押し付けれられたからと思って渋々参加したんじゃないわよ』

『そうだ杏、私は私の意思で役割を演じた、それまでだよ。杏がそんな変に背負い込むことはないんだからな…全くお前は生真面目だよなぁ』

『安斎…ケイ…!』

『さて、辛気臭い話はこれでお終いよ。そろそろ時間になりそうだし…最後に“エイエイエオー!”って言って締めましょうか!』

『それは…ちょっと恥ずかしいような』

『いいじゃないか杏、こう言うのはノリだノリ!』

『…分かった』

『それじゃ行くわよ』

『『『エイエイエオー!!!』』』

通信機越しの声だがまるでその場で肩を組み叫んでるような感覚を杏は覚えた。しかしそのような時間ももう終わりである。インカムのコール音が鳴った。

『時間だ!いいか皆んな!最終決戦だ!弾の出し惜しみなんかするな!では各員の健闘を祈る!特に杏!

…頼んだぞ!』

最後に自分の名前が呼ばれ返事をしようとするがもう遅い、通信機はノイズ音しか伝えない。

コクピット越しにも知覚出来る駆け出すEX-13の駆動音を聴きながらインカムを外し杏は下を俯く、勿論返事が出来なかったことを悔やんでいるのではない。最後の大役を任されたことを隊長に名前を呼ばれたことで改めて自覚したのだ。

____そうだ、この試合は私にかかっているんだ。皆を火中の栗を拾いにいかせても私がトドメを刺さなければ意味がないんだ。

この作戦を自ら立ててから分かりきったことだが改めてプレッシャーとなり体を覆う、だがこの彼女を止まらせるものではなかった。むしろ覚悟を決めさせて前へと進ませる燃料の様な役割を果たしている。

彼女は今すぐにでも前へと進みたい気持ちを押し殺し電力温存のため電源を切る、コクピット内が暗くなり気持ちを落ち着かせるため目を瞑る。そしてじっと耳を傾ける、聴覚以外全ての感覚が無くなった、そう錯覚を覚えるぐらいに耳をすませた

10分か20分くらい経ったころだろうか、静寂だった開場にドン、ドンと轟音が響く。それに引き続き何かを連射する様な音が聞こえてきた。間違いない、安斎達が奇襲に成功したのだ。その事を理解し電源を入れるよりも早く駆動音が重なり合って聞こえる

(ハンニバル部隊も動き始めたか!)

杏は目を開ける、ブロッケンのOSが立ち上がるにつれて彼女の感覚も戻ってくる、そして起動完了したと同時に口を開いた

「行きますよ先輩!音がしたのはおそらく森林地帯のポイントT-15!そこを横から侵入していきます!」

「OK!ポイントS-13、14を通ってくルートだね!それじゃ全速力で行こうか!」

ブロッケンが駆け出し大地が揺れる、今彼女らが走っている場所には彼女達しかいない。だが数分後には敵味方入り混じる戦場の真っ只中へと入り込むのだ。

*

森林地帯へ近づけば近づく程音が大きく、重なり合って聞こえる。45mm砲の音、99mmチェーンガンの音が腹の底から響くようだ。

そしてとうとう森林地帯…ポイントT-15へ到着すると凄まじい光景が広がっていた。

1輌のブロッケンにEX-13が3輌がかりで挑み内1輌が懐に飛び込んだ際足をやられるがマウントを取り0距離射撃をしてようやく1輌を倒したと思ったら残った2輌が別のブロッケンにかかっていく光景に突然の奇襲で混乱し連携が取れず孤立したブロッケンをハンニバルが容赦無く撃つ光景、こちらが有利かと思ったらブロッケンが正確な射撃でハンニバルを倒したり近づいてきたEX-13を蹴り仰向けになったところを射抜く所も見えた。まさにせめぎ合い、どちらが有利で不利などそんな単純に2分割できるような光景でない事を杏は目の当たりにした。

「杏ちゃん…凄い状況だね…!」

「想像以上の光景ですよこれは…」

「ここからどうするの?」

「必ず一輌増援を要請しに本拠地へと向かうレイバーが居るはずです、そいつに案内してもらいましょう」

「成る程、本来なら通信で済む話だけど使えないから直接話すしかないと、おまけに対レイバーセンサーの類も使えないから後をつけてもバレる心配もない…」

「そう言うわけです、ん?どうやらツアーガイドの方がいらっしゃったみたいですよ」

杏の視線の先にはこちらに背を向けて走る1輌のブロッケンがいた、そいつの後ろを取り移動する。

ついて行った道は杏ともう一輌しかいなく恐ろしいほど静かであった。あまりにも静けさに思わず杏達は会話するのを躊躇う、息をしたり唾を呑みこんだらバレる…そう神経質になるぐらいであった

数分後ようやくブロッケンが止まる、杏機は木の後ろに隠れる。メインモニターの先には15輌近くのレイバーが立っていた

(あれが敵の本拠地…フラッグ車もいると言うことか)

杏の目論見通り大量に整列しているブロッケン集団の奥にカラーリングが異なるブロッケンがいた。あれこそがフラッグ車、勝利の鍵である。

尾行したブロッケンが膝立ちになる、パイロットを降ろしているのだろう。それと同時に目の前のブロッケン集団のコクピットが開く。

正確には聞こえないが何かを叫んでいるだけは辛うじて判明出来た。

「敵の奇襲だ、こちらの戦力だけでは全滅してしまう。支援頼まれたし」おおよそそんなとこだろう

数十秒が経ちコクピットが閉じられ目の前のブロッケンも立ち上がる、そして一目散に仲間達が奮闘してる場所へと駆け出す。杏はその光景を息を殺しながらじっと見ながら操縦桿を操作してカノン砲を構える、前回のライフル同様カノン砲にはコードが付いておりそれをブロッケンに繋げることで射撃準備が完了する。

コードを股間部に接続しボタンを操作する、これでチャージ開始だ。

「先輩、チャージ完了したら飛び出して撃ってください」

「当てるのは勿論コクピットだよね」

「そうです、そうだ、お分かりかと思いますがカノン砲って言ってもSF作品に出てくる様な当たれば即撃破、の様な代物じゃありません。持続して当てることで初めて威力を発揮します」

「うん分かってる、落ち着いて、確実に当てていこう!」

持続して当てなければいけないというのは一見不便な様に思えるだろう、だがカノン砲の強みは「当て続ければどんなレイバーも撃破出来る」と言う点だ。ブロッケンの装甲は軍用レイバーの中では一番硬くイングラムの主力武装である37mmリボルバーカノンを受けても無傷であった程だ。その様な装甲に並の武装は意味をなさない、だがカノン砲であるならば問題ない

「チャージ完了まであと5…4…3…2…1…!」

0になった瞬間ランプが赤から緑へと変わりチャージ完了を告げる

「先輩!」

「うん!」

ブロッケンは木の影から出てフラッグ車と対峙する、藪方蛇に出てきたレイバーにフラッグ車が身構えるが味方だと誤認してすぐのそれを解く。今フラッグ車は完全に油断している、

この油断こそ彼女らが必死になって追い求めた瞬間だ。無茶を承知で挑んだ作戦が功を成した瞬間だ

「でも、当てなきゃ意味がないんだ…!先輩頼みます!」

「了解!」

カノン砲から閃光が走りペンキが水のように砲塔から出てくる。さじずめ水を捻り出したホースの様だ

放たれた攻撃はブロッケンのコクピットに確かに当たった、だが当たった直後片腕で胸を覆い攻撃が遮られる

「ならば、腕を壊すまで!」

フラッグ車は胸を覆いつつ左に移動しながらマシンガンを撃ってくる。杏機も片腕で防御しながらフラッグ車の動きをトレースする

こうして同じ箇所に10秒程当ててもまだ反応はない

「硬いな…流石37mmを弾く装甲なことだけはあるか」

「でも流石にそろそろ通じるでしょ杏ちゃん…!」

その時、フラッグ車の覆っていた腕が力なく垂れ下がった

「よし、ようやく通ったか!」

コクピットが露わになり勝機が見えた。しかし

「エネルギー切れか…!」

カノン砲のエネルギーが切れペンキの出が止まる

「もう一度チャージしないと」

「チャージ完了まで1分か…それまで敵の攻撃を避けなちゃ…!」

杏がチャージするためボタンを操作してる間にも敵はマシンガンを放り捨てタックルを仕掛けてきた。だがそんな単調な攻撃を受けるほど彼女らは初心者ではない。敵は攻撃を外し倒れ込む

「よし…これで数秒は攻撃が出来ない!」

「杏ちゃん、あとどれくらい!?」

「あと…45秒!」

立ち上がるブロッケン、すぐさまこちらを振り向き殴りかかる、今度は正確な攻撃だ。先ほどマシンガンを防いだ手でパンチを防ぐ。だがマシンガンの攻撃は防げてもレイバーの腕は精密機械そのものだ、ブロッケンのパワーで殴られてはひとたまりもない

「腕が!」

「このくらいは計算の範囲内ですよ!あと30秒で完了します!」

この時杏はチャージする時の特有の音が先ほどとは少し違ってた事に気がつかなかった。この見落としは数十秒後悲劇を呼ぶことになる

 

防ぐ手段がなくなった杏機はひたすら避けるしかなかった。左ジャブ、左ストレート、一つでも当れば致命的だ。万が一頭に当たればメインカメラが使用不可になりチャージが完了しても当てることができなくなる

必死になって避け続けること数十秒が経つ

「あと15秒でチャージ完了出来…!クッ…!」

敵の攻撃を受けバランスが崩れ、すぐに立て直す、弱攻撃であったので最悪の事態は免れた

「先輩どうしたんですか!」

「ブロッケンの様子がおかしい!なんか油圧関係が少し…!そのせいで動きが鈍ってる!」

「あと10秒…10秒持たせてください!そうすれば私達の勝ちですから!」

「やってやろうじゃないの!」

そう先輩が意気込みレバーを動かしたその時ボン、と言う音が聞こえた。そして突如これまで受けたことがない振動がブロッケンを襲う

「グッ…!背後からの攻撃…!?そんな事なんて…!」

「オートバランサーがなくたって…!」

先輩がレバーを引き起こし体勢を立て直そうとする、しかし再びボン、と言う音が聞こえる。今度は先程よりも数倍大きな音だ。衝撃もその分大きくなる、故にそのまま倒れ伏すかと思われたと思われた…

「なんの…!」

先程格闘戦で壊れ垂れ下がった腕を地面に突き刺す

杏はすかさずボタンを操作して腕の爆砕ボルトを起動する、爆発の衝撃がブロッケンの機体を浮かしその勢いを利用し脊椎ユニットを仰け反らせる事で無理やりではあるが体勢を元に戻すことに成功する

しかしモニターが脊椎ユニットの損傷を告げた

「何とか立て直せたけど…!腰にこれ以上の負担はかけられないか!」

コクピット中が警報音で埋め尽くされる、やかましいと悪態を吐きたくなる中、救いの音が聞こえる

「チャージ完了…!これで決めてください先輩!」

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!」

トリガーに力が込められカノン砲から閃光が放たれペイントが…

爆音がみただび聞こえる、今度のはコクピット中の警報音をかき消す程の音量だ。そしてその衝撃も半端なものではなかった。

「…ッ!?」

後方に衝撃が来たと思ったら突如内臓が浮かんだ感覚を覚える、そして次の瞬間には前方にも衝撃が襲ってきた。杏の頭はモニターに叩きつけれる。いかにヘッドギアをしようとその衝撃は尋常なものではなかった

(ま…まずい、意識が…撃たなくては…!)

抵抗虚しく杏の目は閉じられようとしている。

目を閉じる瞬間最後に聞こえたのはボシュ、と言う気の抜けた音であった…

 




いよいよ次回杏備忘録最終回です!
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