ガールズ&レイバー   作:恵美押勝

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ど〜も恵美押勝です、長かったこの話もいよいよ今回で最終回!
尚今回の話もプラウダ戦記レベル、もしくはそれ以上に重い描写があると思います
それでもいいよって方はどうぞお楽しみください!


杏備忘録part5

どのくらい時間が経っただろうか、2時間、3時間ぐらいだろうか。

目が覚めた時、杏の目に飛び込んできたのは白い天井であった。ここで自分がとこかで寝かされていると自覚した、そして鉛のように重い身体を起こし辺りを見渡す。ベッド以外何も無い殺風景な部屋だ、その中で彼女は鏡を見つけた、ベットから降りて鏡へと近づく。鏡に映った己の姿は無機質な青い服を着せられいる、おまけに鼻を利かせると消毒液の香りがした

「…そうか、私意識失って病院に担ぎ込まれたのか」

彼女はポツリとそう呟き下を俯く。純白の床がみるみる滲み頬に伝う何かを感じた

「あの時鳴った音は間違いなく白旗が出る音だった…そして白旗が出たのは私の機体だ…!」

杏の機体から白旗が出たということ、それはつまりフラッグ車である彼女がやられたと言うこと、敷いては敗北を意味する

「負けたのか…!私は…!私達は…!あと一撃…!あと一撃で勝てたのに…!」

杏は部屋の中でさめざめと泣いた、涙は止まることを知らない。胃の中がむかむかしてきた、胃酸が渦を巻いてるような感覚を覚え口を押さえて必死に堪える

ムカムカが和らいだと思うと今度は胸が押さえつけられる感覚がする

____ごめん…先輩、安斎、ケイ、みんな…ごめんなさい隊長…!皆んなの頑張りを、努力を、戦いを、私が裏切ってしまった…!私は最低なことをしてしまった…!

罪悪感が胸を覆う。まるで首を絞められてるように息が出来なくなる、人間は極度のストレスに見舞われると呼吸困難を引き起こすと言われてる。今の彼女は正にそれだ。敗北の事実に罪悪感が今の彼女を支配してるのだ。いくら肝が座って数々の危機的状況を乗り越えた彼女にも限度はある

徐々に息が出来なくなって苦しくなってきた

(い…息が…出来ない…これは…本当に…!まずい…!)

必死に息を吸おうとする、しかしいくら吸っても満たされない。徐々に視界が暗くなってくる。

(…ごめん)

と最後にポツリと呟き杏の意識は途絶えた…

✴︎

「…それでその後どうなったの?先輩とかも大丈夫だったの?」

と水が入ったコップを手にケイが尋ねる

「あぁ、私が意識を失った後すぐ医者が来たらしくてね、処置してもらってどうにか助かったらしい。

先輩も同じ病院に担ぎ込まれてたみたいだけどどうやら私よりマシだったみたいで寝ている私を見て何かポツリと声をかけたらすぐ学校へと帰ったらしい」

「…声をかけたの?」

「あぁ、でもその後から一度も先輩には会えてないから結局何を言ったかは知らずじまいさ」

「…確かあの人試合の後転校したのよね」

「そうさ、あの人に一番謝りたかったのにな…」

「貴方は暫くの間私達に姿を見せなくなった、それはやっぱり罪悪感を感じてたから?」

「うん、無茶なことをさせた挙句それを不意にしてしまった、だから合わす顔なんて無いと思ったんだ。それと…」

「それと?」

「怖かったんだ、表に姿を出したら皆から責められそうで、皆から何かされるんじゃ無いかって…

それで私は自分の部屋に閉じこもった。今思えば罪悪感より恐怖が上回っていたんだろうな…」

そう言いながら杏は再び過去の話をし始めた

✴︎

学校に行かなくなり自室に引きこもってからどれくらい経っただろうか、起きれば罪悪感に悩まされ続けテレビを付けてレイバーの姿が見えようものならあの時の試合がフラッシュバックし仲間に謝罪に行こうと思って学校へ行こうとし服を着ようとしても報復を恐れまた息苦しくなってくる。寝ることで彼女は全てを忘れることが出来た。幸いにも夢にまでは影響しなかった、睡眠だけだ今の彼女にとって唯一の救いだ。

そんなことを何回も何十回もしてると何に対してもやる気が湧かなくなるもので起きて布団の上で1日を過ごすなんてのも珍しいことではなかった。そしてこの日もそんな1日を送るはずだった…

(もう朝か…もう一度寝るか、寝過ぎて頭痛いけど寝りゃどうにかなるさ。寝ることだけが救いなんだ…)

そう思って布団を被ろうとした時、ノック音が聞こえた。先生が引きこもりの生徒を訪ねにきたのかと思い無視を決め込むことにしたがノックは一向に鳴り止む気配がない。どうやらよほど熱心な先生らしい、ノック音で睡眠が妨害されたらたまったものではない、適当に応対してお帰り頂こう…

そう考えながら杏はドアを開けた。外の空気がスゥッと入ってくる、少し肌寒い。どうやら世間はもう秋のようだ。

___もっとも、私には関係ないことだけど

「はい…どちら様でしょう…か…!?」

「久しぶりだな、杏」

「た、隊長…!」

外に居たのは隊長であった。久しぶりに会ったその人は今まで見た雰囲気とは異なっており物腰柔らかい印象を受けた

「お久しぶりです…あのっ!」

謝らなくては、今この場で謝罪しなくては。隊長が来たのは私が責任を取らないから痺れを切らしてきたのだ。

…こうなってしまったらどんな罵倒も受け入れる覚悟を決めなくては。あまりにも唐突だがしなくてはいけないと先延ばしにしていたのが今日になっただけだ。

これは責任から逃げ続けた私への罰なんだ

意を決して頭を下げようとしたその時、杏の目に隊長の手が飛び込んできた

「待った」

「…?」

「お前は今夏の大会のことで謝罪をしようと思ったのかもしれないが謝るなら少し待って欲しい」

そう言って隊長はポケットからケースを取り出した

「それはDVD…?」

「そうだ、お前の部屋に再生機はあるか?」

「あるにはありますが…」

「よし、それじゃ使わせてもらう」

失礼、と言いながら隊長は部屋へとずかずか入っていく。

「すいません散らかってて…」

「構わんよ、突然来訪したのだからな。…お、あった」

ケースからDVDを取り出し再生機に挿入する、数秒後真っ黒な画面に映像が映る

「…これは、決勝戦の時のハンガーですか」

普通の試合にはハンガーなどなく、レイバーはその辺に立たせておくだけのだが決勝戦に限りキチンとしたハンガーが設けられているのだ

「そうだ、この映像は監視カメラのでな。お前が使ったブロッケンのハンガーさ」

暫くすると画面が切り替わりブロッケンの後ろ姿が見える

「あんまこの辺は関係ないからちょっと飛ばすぞ…よしここだ」

リモコンを弄り早送りにしある程度経ったところで一時停止した

「ブロッケンの背後にある階段に人が…?」

「これじゃ分かりづらいと思うから拡大するぞ」

突如画面がパソコンの編集ソフトのようなレイアウトになりマウスポインターが動いている

「改竄の余地が無い様に編集過程も記録してある。…んまぁデジタル技術の驚異ってやつだな。あんな小さかった謎の人物が…ほら」

鮮明に拡大されたその人物は

「五十嵐…先輩!?」

顔は映ってないが着てる服装は杏達の学校のジャケットに加え背格好は五十嵐のそれであった

「そうだ、コイツは間違いなく五十嵐だ」

「でもなんで、先輩のブロッケンは別のハンガーに…」

「まぁ見てろって、謎の人物が分かったところで今度はこれを見てもらいたい…整備班が試合直後に撮ったものだ」

一時停止させ隊長は一枚の写真を杏に見せた、それにはブロッケンの背面…ダクトが映ってた

「やけにすす汚れが激しいですね、普通に使っていればこうなるはずはないんだが…」

「そう、“普通に”使っていればこうはならない、かと言って試合でこうなるかと言われたらそれも違う。仮にペイント弾がそこに直撃したら煤汚れ以外の鮮やかな汚れがつくはずだ」

「攻撃でもない…と言うことはまさか、細工を…!?」

「あぁ、そこに気づいたのならこの後の展開は予測出来るだろう。…どうする、見るか?」

「…あまり気乗りはしませんが見ておかなければ後悔する事になると思うんです…続きをお願いします」

「よし、じゃいくぞ」

映像が再開される、五十嵐がダクト部位に近づきおもむろにガサゴソカバンを弄り何かを取り出した。スティック状のそれを傾けて彼女はダクトに粉状のものを入れた、そして次に布の様なものをちぎり同じくダクト内に放り込む。トボトボと階段を降りる五十嵐を映して映像は終了した。

「…やはり五十嵐が細工をしてたんですか」

「あぁ、砂糖とボロ布を入れたそうだ、ブロッケンを運用すると砂糖が熱さで溶け出し飴状になる。そいつが排熱を妨害するってわけだ。おまけにボロ布のおまけ付き、行き場をなくした熱が膨張しダクト内でドカン!…って寸法だな」

「私はこれで負けたと言うわけですか…道理で背後の衝撃が来たわけだ」

「しかしこれには欠点があってな、通常通り運用していれば砂糖が溶け出すほど熱くなるって状況にはならんのだ。かと言ってボロ布だけじゃ不十分だ…」

「それは、私がカノン砲を利用したからでしょう。カノン砲を使用するとジェネレーターの温度が急速に上昇する、当然排熱が必要になります、奴は…五十嵐先輩は私がカノン砲を使うと知ってこの細工をしたんでしょう。…恐ろしい人だ、一歩間違えていれば私も先輩も死んでましたよ」

「その通りだ、こいつは殺人未遂の何物でもない。…大袈裟に聞こえるかね?」

「いやちっとも、それで五十嵐…先輩は?」

「無理して先輩を付けなくて構わん。奴は今陸で警察に引き取らせる間留置場代わりにした

倉庫に居る。…会いにいくか?」

「お願いします」

考える余裕なんてなかった、彼女は顔にこそ出てないが怒りと失望が入り混じったどす黒い感情がうねうねとしていた。その感情を飲み込むほど今の彼女は冷静ではない

「…分かった、案内しよう」

隊長に案内されること数十分、学園艦の地下に到着する。薄暗くジメジメしたこの場所はいかにも留置場に拘束されるべき人物がいそうな場所だ。そう思ってると先輩が立ち止まりポケットから鍵を出した、重々しい扉が開けられる

「久しぶりだな、五十嵐」

「…お久しぶりです、隊長」

そこに居たのは髪が伸びていたが間違いなく五十嵐であった

「今日はお前にお客さんが居るぞ、お前がブロッケンを整備してくれた事にお礼を言いたいそうだ」

「…まさか」

コツコツとわざと大きな足音を出し杏は五十嵐の前に立つ

「五十嵐…!」

「杏…!お前か…!」

睨み合う2人、側から見れば火花が散っていたことであろう、間に隊長が入り諫める

「取り敢えず2人とも部屋を移すぞ、ここで暴れられても困るからな」

「何処に行くんですか?」

「隣の部屋だ、あそこはちょっとした会議スペースみたいなところでな話し合うのにちょうどいいんだ」

隊長は五十嵐の肩をグッと掴みながら部屋を移した。部屋の内装は成る程、机と椅子が2つ、確かに話し合うにはうってつけだろう

「それじゃ、後は2人で話し合え。私が割り込んだらややこしいことになりそうだからな、だが決して手は出すなよ。杏、お前が仮に手を出したならばお前とて警察に突き出すからな」

「分かってます」

「よろしい、…それじゃあな」

扉が閉じられ2人きりになる、ピリピリした空気の中先に口を開いたのは杏だ

「五十嵐…あんたどうしてあんなことをやったんだ。ダクトを弄るなんて…!私は前に言ったよな?『私個人を憎むのは勝手だ、だがチームを巻き込むことはやめろ』と、それを忘れたのかお前は」

優勝のためにどれだけ皆が頑張ったと思うんだ、お前がそれを踏みにじった自覚はあるのか、それともお前は私だけじゃなくチーム全員が憎かったのか感情の赴くままに杏は話す、一気にまくしたてたので息が切れてしまった。深呼吸する彼女を見ながら五十嵐が机を強く叩く

「全員が憎かった?何を言うか!私が憎んだのは杏、お前だけだ!何故お前が副隊長になれた!本来なら私が、この私が隊長の横にいるべきだったんだ!なのにお前なんぞに…!こんな1年のガキに…!私の3年間はなんだったんだ!」

「…私は私なりの努力をしてきたしあんたはあんたの努力をしてきた筈だ。その結果私の努力が僅かながらもあんたを上回り隊長もそれを認めてくれた…それだけの話だ。そんなに私が憎いなら私を越えてみせるぐらいの事をすれば良かったのにそれをこんな馬鹿らしいことで…」

「超えて見せろだ?…一々お前は癪に触る事を言う!そりゃ越えて見せたいさ、凡人の努力なんざ天才の努力の前じゃ無に等しい、例えいくら頑張っても私はお前に敵うわけがないんだ…!だからこそ余計に腹が立ってくるんだよ…お前の存在がなぁ!」

「勝手に諦めて逆恨みか!準決勝の時撃たなかったのもそんな気持ちだったからか!」

「そうだ!隊長のため、チームのためとお前に復讐をするのを我慢してきたが…あの時の私はトリガーに力が入らなかった、もう我慢の限界だったんだよ」

「…!その時お前は感じるものはなかったのか?」

「あったさ…!そりゃああったさ…!でもな、撃たなかった時お前の焦った声が聞こえた時、私はこの上ない幸福を感じたんだ…!あいつが私の行動で気持ちが揺らいだ、これはアイツに対しての復讐だと…!それがどれだけ嬉しいことかお前には分かるまい!」

「分かってたまるか、そんな下衆の心。理解するつもりもない」

「だろうなぁ…!」

人が快楽に弱いのは周知の事実であろう、五十嵐とて例外ではない。彼女が覚えた薄汚い快楽はあっという間に彼女を蝕み、僅かながらに保っていた理性を完全に断ち切った。

彼女は復讐という快楽に溺れた哀れな怪物と化したのだ

「気づいたら私は砂糖とボロ布持ってブロッケンのダクトにぶち込んでいた…!その後はお前が嫌でも知ってるだろうさ、細工が功を成した時笑いを堪えるのが大変だったぞ!?」

「この…屑が…!」

「なんとでも言え!私はお前が泣くはめになるなら悪魔にでも魂を売ってやるさ!だがよぉ…一つだけわかんねぇことがあるんだよ…!何でお前のせいで負けたのに誰1人としてお前を責めないんだよぉ!おかしいだろ!!」

「…誰も責めなかっただと?」

「そうさ!誰もお前が悪い、お前のせいで負けたんだと責める奴がいなかった!隊長ですらだ!私の復讐は全員がお前を憎めばそれで終わりだったんだ…!なのにあいつら…!いや、仮にも優勝を目指してた同志が他人の失態を責めない訳がないんだ…」

「何が言いたいんだ」

「お前が!全員に媚を売ったからだろ!だから誰も…!」

媚を売ることは嫌いだと最初にあった時私はそう言った…だがもういい、黙れ。今すぐにでもコイツの口を塞ぎたい、右手がプルプルと震えている。

駄目だ駄目だ、堪えなくては。ここで手を出したら奴と同じになる、それだけはごめんだ

だが震えは一向に止まらない、目の前にいる下衆野郎が発した言葉が頭の中でリフレインするたびに震えが強まる、頭の中、胸の中が憎悪で覆われる。そして徐々に理性がなくなっていく。

___この時五十嵐は葛藤する杏を見て内心ほくそ笑んでいた。私が警察行きになったのは確定した事だ。だがただでは行かん、コイツを手土産にしていきたい…私の正直な気持ちを話せば必ずやコイツの理性はなくなり私を殴るだろう、そうなれば私の勝ちだ。さぁ来い杏、私を殴れ!

次の瞬間彼女の目に目にバンと音が鳴る

…勝った!後は隊長を呼べば!

だが今度ばかりは彼女の思惑通りに行かなかった、杏は彼女ではなく机を殴ったのだ。残った僅かな理性が少しでも怒りを分散させるため選んだ最善の手であった

恐る恐る五十嵐が杏の顔を見るとその顔は虚無であった、怒りなんて生易しい感情ではない、怒りを超越したような言葉では言い表せない表情だ

「…五十嵐、私はお前が憎いが同時に私自身も憎い」

「…」

「お前が私に部屋に入り込んだ時、情けをかけて通報しなかったが…今思えばその情けをかけた自分が恨めしい。情けをかけるべきではない人間を判別出来なかった自分が恨めしい…!」

「杏…」

「もう私はお前に対してどんな言葉をかける気も失せた、ありとあらゆる罵倒表現を使っても私の気持ちが鎮まることはないだろう」

「ならば最後に勝ったのは私だな、お前を黙らせることに成功したのだからな」

「…下らない、お前な何にも勝ってなんかいない、自分が下衆である事を示した、それだけだよ」

「喚け喚け、私はお前に勝ったんだ!最後の最後でなぁ!」

「最後の最後まで哀れだな五十嵐…もう二度と会うことはないだろう。じゃあな」

部屋を出る最後まで何かを叫んでいて狂ったように笑ってたがわたしにはもう関係ない、おそらく奴はこの先も「私に黙らせることで勝った」と言う下らぬ事を宝石や指輪の類い見たく大事に扱いそれだけを誇りとして生きていくのだろう。だが彼女が持ってる指輪の類はガラス玉だ、それも粗悪品。もっとも奴のような子供にはお似合いだな

杏は振り返る事なく部屋を開け静かにドアを閉めた、ふと気がつくと目の前に隊長が居た、隊長は杏に気づくと場所を変えようと言い杏の部屋に戻った

「隊長…」

「よく耐えたな」

「え…?」

「その手の傷、何か固いものを殴ったのだろう?机とかな」

手の傷と言われピンとこなかったが自分の右手を見てみると確かに手の表面が所々傷がついており血が出ていた。だが不思議と痛さは感じない、多分大量のアドレナリンが頭の中で分泌され痛覚が麻痺してるのだろう。

「よくぞあの下衆野郎を殴らずにいれた。かくいう私も耐えるのが必死だったのだがね」

そういう時隊長は左手をポケットから出し杏に見せた。その手は血が出てないが傷がついた跡がしっかりと残っている

「仲裁しようと思ったがあの状況で部屋に入るのは奴をつけ上がらせることなりそうな気がしてな」

「…『奴とて隊長がいなきゃ感情のコントロールも出来まいか』って感じですかね」

「そうだな…さて杏よ、この先お前はどうする気だ?私は高校も特車道を続ける気だが…」

「私は…私はもう特車道から身を引きたいと思います」

理由は至高単純だ、もう杏はレイバーには乗れない。これから彼女がレイバーを乗るたびに決勝戦を思い出し試合をするものなら五十嵐を思い出しロクに戦えないことは容易に想像できた。言い換えれば彼女は燃え尽きたのだ、いや本来なら燃え尽きるはずがない彼女の特車道に対する情熱を消したのは五十嵐、他でもないそいつだ

杏がやめると宣言し、しばしの沈黙の後隊長は黙って彼女を抱きしめた

「…!隊長」

「杏…すまなかった…!私が奴の心中を知ってさえいればこんな事には…!」

抱きしめながら彼女は涙を流した、それは自分の失態で杏の道を閉ざしてしまった事に対する杏への心からの謝罪であった。

「そんな、隊長がどうしてご自身を責めるんですか!悪いのは五十嵐と…私なんですから」

「…お前こそどうして自分を責めるのだ、お前が責められる要因などこれっぽっちも…」

「いいえ、確かに最終的な敗因の原因は五十嵐です。ですが…あの時カノン砲は一発は撃てたんです…そこで当てれば…!ですから敗因は私自身にもあるのです」

「馬鹿を言うな…!何故お前が責任感を感じる必要などあるのだ!何度も言うがあれは五十嵐が…!」

「それでも私は本来なら1撃で決めなけらばならないところを失敗してしまったのです。やはり私にも責任の一端があるかと思います」

「そんなのはたらればの話だ!仮にお前が責任があるとしても奴は準決勝からの命令違反、細工などをしてるのだから割合から見れば五十嵐とお前で9:1!お前に責任など無きに等しいのだ!それでもお前は自分自身にも責任があると思ってるのか!」

「“それでも”です」

杏がここまで自身の責任について固守するのは自分自身でも分からなかった。だが全ての責任を五十嵐押し付けるのは間違ってるのではないか、そんな思いが彼女にはあった。

「…全くお前は本当に糞真面目な奴だよ」

「えぇ、よく言われます。…最後に一つだけ聞いても宜しいでしょうか?」

「あぁ構わんぞ」

隊長が鼻をすすりながらそう言った

「奴は私が原因で決勝戦敗退になった事を誰一人として責めていない、と言いましたそれは本当なんですか?」

「あぁ、皆負けたことは悔しかったけど黒森峰をあと一歩追い込めた事がとても嬉しかったみたいだ、これまでそんなことは一度もなかったからな…寧ろ『久しぶりに試合を全力で楽しむことが出来た』と感謝する者も居るぐらいだ」

「そう…でしたか」

____私は愚か者だったのだろうか、こんなにも私のことを評価してくれた仲間が報復すると思い込んでいたのだろうか。穴があったら入りたいぐらいだ。やはり私は…

「杏、これから戦車道の授業があるんだ、顔を出してかないか?」

やはり私は…

「ありがたいお話です…しかし私に会う資格などありはしません…!仲間を信じられず恐れた私が合わせる顔などありはしません…!」

「お前って奴はまたそう言う…いやいいだろう、嫌がるお前を仲間の前へ晒すだなんて事は不本意だからな。気持ちの整理が出来たこところにでも…」

「いえ、恐らく会う事はないでしょう」

「なんだと?」

「私…転校する事にしたんです」

「転校…だと!?お前…」

「度々私のわがままに付き合わせてしまった事は大変申し訳なく思っています。ですが最後に1つ、私のわがままを聞いてくれませんでしょうか」

「…分かった、それで?」

「これを…」

そう言いながら杏はポケットを弄り手紙を出した

「これは私がみんなに書いた手紙です、無礼を承知でお願いしたい。どうかこの手紙をみんなの前で読んでいただけないでしょうか?」

「…いいだろう、お前のことだ…どんなことを書いてるかは概ね見当がつく。みんなへの謝罪だろ。本当お前はバカ真面目だよ…だがこの手紙確かに受け取った」

「ありがとうございます!」

「して杏、お前はどこに転校するんだ?」

「大洗女子学園と言う所です。…ここよりもずっとずっと小さい学園ですが特車道がないんです」

「…そうか、お前は本気で特車道を…」

そう呟くと隊長は腕時計を見てハッとした表情になった

「いかん、もうこんな時間か。そろそろ午後の授業に出なくては…」

そう言うと隊長はガッチリと杏の手を掴んだ

「お前は転校しても恐らく何らかのトラブルに巻き込まれる事があるだろう。だがそうなったとしても決して自分一人で背負いこもうとするな、向こうで仲間が出来たら遠慮なくそれを頼れ。それが最後の隊長命令だ」

「…はい!」

二人は手を離し力強く抱き合った、お互いの服が涙で濡れることなんてお構いなしに号泣するけど

「さらば友よ!いささか早すぎるとは思うがお前の第二の人生に幸あれ!」

「隊長!短い間でしたが本当にお世話になりました!!」

杏は隊長が居なくなる気配を感じるまで頭を下げ続けるのであった

✴︎

「これが私の過去…私が特車道を辞めた理由さ」

杏はそう言い今日何杯目かの水を煽り飲んだ

「アンジー、貴方そんな事があったのね…あの時、私達に声をかけてくれればよかったのに…でも会わないことが貴方にとっての優しさだったのね」

「そうさ、だから特車道なんかに復帰してなきゃお前らと会うつもりはなかったんだ」

「…そうだ、もう一つ気になってた事があるの。どうして貴方はもう一度特車道を始めたの?消えていた炎を灯したのは誰なの?」

「…知りたい?」

「勿論、そのつもりで来たんだから」

「聞いて驚くな…?“文科省“だよ」

「文科省…?ってあの政治の?」

「そうさ、文科省が特車道を最近推してるのは知ってるか?」

「まぁね、確かそれで始めた学校が急激に増えたって聞いたわ…ひょっとして」

「そうさ、そん中に私の学校がいるんだ」

「でもそれが貴方とどう関係があるの?特車道は強制じゃ無いんだから貴方はしなければ…」

「そうはいかなかったんだよ」

杏は携帯を取り出して写真を見せた

「…高校の名前が並んでいるけどこれは何かのリスト?…あら、貴方の学校もあるじゃない」

「こいつはな、学園艦の廃校リストだ」

「…えっ?」

「私達の学校、大洗女子学園は廃校になる」

「嘘…でしょ?」

「本当だ、こいつは文科省に呼び出された時隠し撮りした代物だからな」

「そうなのね…でも貴方は何故特車道を?廃校になると言うのならば尚更…」

「ケイ、逆さ。廃校になるから私は再始動したんだ。私はね、やられても基本的にはタダでは起きない主義なんだ。よほどの事がない限りな」

「まさか廃校と特車道に関係が…!」

「ヒントをあげよう、廃校の条件になったのはこれと言った功績を挙げてない学校だ」

ケイは顎に手を当てしばらく唸っていたが分かったらしくパン、と手を叩いた

「特車道大会で優勝して功績を作るのね!」

「その通り!」

「でもアンジー、貴方がいくら経験者と言っても貴方以外は初心者よ?今は違うけど…貴方にしては無茶な作戦じゃない?」

「”勝つと信じて前に進む“そう教えてくれたのは誰だっけ?それにお前さん忘れてないか?うちの主演女優を」

「みほの事ね!確かにあの子と貴方がいればそりゃ無茶な作戦でも勝ち目はあるわね

…でもあの子転校生じゃなかったっけ?貴方転校してくることを知ってたの?」

「うん、事前に連絡が来たからね。んで私これはいけるって思って内心飛び跳ねたんだけど

すぐに我に帰った。西住流の人間が戦車道がない学校に転校してくる、これが成す意味は分かるだろ?」

「分かるけど…でも現実にあの子は参加していたわ。…無理矢理誘ったの?」

「初めはね。んで断られたから少し揺さぶりをかけたんだ、そこで断られるか気乗りしない返事だったら断るつもりだったよ。嫌がる子を無理矢理やらせても何のメリットもないからね。…しかしあの子は大きな声で『特車道、やります!』と言ってくれた。友のためにね」

「友達の…?」

「うん、悪いなとは思ってたんだけど友達と一緒に来て話にこられたから揺さぶりの出汁に使ったの」

「貴方…結局悪い人よね」

「そうするしかなかったんだよ。私だけじゃ無理だからさ…でも私安心したんだ。西住ちゃんは友達思いの良い子だって分かってさ、優しさがない人間がレイバーを操るほど怖い事はないからさ…」

そう言うと残ってた水を全部飲み話を続ける

「西住ちゃん本当に優しい子でさ、恨まれて当然の私に『舞台を設置する会長さんの様な人が居なければキャストは輝けませんから』って言ってくれるのよ。本当に良い子だわ…

そう言えばお前さんも似たような事言ってくれたよな。そう言うところじゃ西住ちゃんとケイって似てるのかな、ねぇ?」

意地悪っぽく笑いながらケイの方を見るとほんの少し顔を赤らめて黙りこくっていた。気持ちを落ち着かせるために水を一杯飲み咳払いしてからケイが話す

「…それでも良かったわ。酷い目に遭いながらも昔通りの明るいアンジーに戻れて。人間どんな目にあっても最後に笑えれば良いのよ」

「どうかな?今はこう笑えるけど心から笑えるのはまだまだ先だね」

「そうね、この大会で優勝しなきゃいけないものね」

「そうさ。負けられない、後に引けない戦いなんだ」

「次の試合はプラウダよね、正直な話私達よりも強い高校だけど…アンジー、いいえ貴方とみほと一緒ならいけるわ。絶対優勝してよ、廃校になってまた貴方が私の前から消えるにはごめんだもの」

「あぁ、絶対優勝してみせる。約束しよう」

「…じゃあ童心に帰ってこれやりましょうか」

ケイは小指を突き出し杏に差し出した

「やれやれ、私はもう高3なんだけどね。しかしこう言うのはノリと、友に教えられたからな」

杏も小指を差し出した、そして歌を歌いながら硬く結び合うのであった。

 




アメリカ、イタリアと続き次なるみほ達大洗の相手は極寒の地ソ連の申し子プラウダ高校である!
去年の黒森峰、敷いてはみほ自身の運命を狂わせた強大な相手にどう立ち向かうのか悩むみほ、学園艦が北へ向かう中みほは杏からあんこう鍋のお誘うを受ける。
生徒会がまた何かを企んでいるのだろか
次回「プラウダ戦です!」ターゲットロック、オン!
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