ガールズ&レイバー   作:恵美押勝

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ど〜も恵美押勝です。すっかり寒くなり鍋物が恋しくなるこの頃皆様いかがお過ごしでしょうか。ガルパンで鍋といえば勿論、アンコウ鍋ですがあれ食べたことないんですよね。美味しそうなんだけど食べる機会がない…!
さて、下らないお話はこれまでにして。本編をどうぞ!


プラウダ戦です!part2

どういう訳かは分からないがいきなりみほは目が覚めた、彼女は名残惜しい布団を勢いよく剥がしベットから起き上がった。暖房などしてなかったので部屋の中が物凄く寒い

「つめたかつめたか…」

手をさすりながらタンスの中を探りパーカーを見つけた、着替えてほんの少しだけ暖かくなるとちょっとした余裕が出てくる。時計を見ると時刻はまだ6時、学校までまだ2時間以上はある

はてどうしたものか、2時間とは言え二度寝するには危険な時間だ、かと言って学校に行くのには早すぎる。どうするべきか悩んでいると腹の音が鳴った

「取り敢えずご飯にしよう」

そう思いまずカーテンを開けて部屋を明るくしようとすると眩い光が目に入ってきて思わず目を瞑ってしまう。いつもとはベクトルの違う眩しさに驚愕するが再び目を開けると理由が分かった

学園艦が雪国へと変わっていたのだ、彼方此方に雪が積もりどこを見渡しても白一色だ。

成る程、どうやらこの雪が光を反射して余計に眩しかったのか。しかしそのようなことはもうどうでもよかった。生まれて初めて見る雪景色にみほは興奮しっぱなしであった

「すっごい綺麗…」

実際に初めて見た景色、テレビの中でしか見たことがない景色。液晶の中では分からなかったリアルをみほは全身で感じていた。そうなると人間は足を踏み入れたいと言う欲求が生まれるものでみほも例外ではない。早く支度を済ませて散歩しながら登校するとしよう

そう思い、いつもより素早く彼女は身支度を整えることができた

 

冬服に着替え手袋、マフラーをしてもドアを開けた瞬間冷気が容赦なく体を襲い体を震わせる。いつもはエレベーターで降りるけど今日は景色を見ながら階段を使おうと考え寒さを堪えながらエントランスまでたどり着いた

「やっぱり凄く綺麗だなぁ」

みほは思わず声を漏らした、そして一歩前へ進むとジャク、と心地よい音が鳴る。

いつも見慣れた景色だが雪に覆われただけでも随分違って見えるなぁ…雪がこんなに綺麗だなんて思わなかった

雪を踏み締める感触を楽しみながら辺りをキョロキョロ見回して歩くといつも使っている自販機が見えた。駆け寄ってみると暖かいココアが売っている、この寒い日に暖かいココアは大変魅力的なものだ、気づけばみほは買っていた

「…まぁ、食後のお茶ってことでいいよね。ココアだけど。…ん?」

自販機が何やらブザーの様な音を鳴らしている、気になり見てみると硬貨を入れた時に出る画面が「66666」となっていた

「当たっちゃった、生まれて初めて」

みほは思わぬ幸運に唖然としてしまう、しかし直ぐにハッとして自販機に目をやる。30秒以内に選ばなくては無効になってしまうのだ。とは言えパッと買いたいのが思いつくわけではなく結局ココアを選んだ

「ココアとココアがダブっちゃった…流石にココア2杯はなぁ」

どうしたものかと悩んでいるとクラクション音が後ろから聞こえた、振り向くと特車道で使っている指揮車が近づいてくる。車はみほの隣で止めると窓を開けた

「おはよう西住さん、早いねぇ」

「あ、ナカジマさんおはようございます」

「雪景色が珍しくて散歩かい?」

「えぇ、そんなところです。ナカジマさんは何を…?」

「ん、ドライブだね」

「試運転…って新しく指揮車をレストアしたんですか?」

「んにゃ、今度の試合会場はバリバリ雪原地帯だからさ。チェーン巻いて少しでも雪に慣れておこうかなって」

「本音は?」

「雪景色の学園艦を爆走したい!」

あんまりにもキリッとした表情でものを言うものだからみほは思わず笑ってしまう

「西住さんも乗ってかない?町内回った後学校へ戻るつもりなんだけど」

確かにこの雪の中走るのは面白そうだしいろんな景色も見ることが出来る、断る理由もないのでみほは二つ返事でOKした

「よし、じゃあ乗った乗った」

ドアを開けてもらい中に入ると暖房が効いており暖かい。ホッと息をつくココアが飲みたくなってきた、みほはポケットから取り出す

「お、ココアか。いいねぇこんな日にゃぴったりだよ」

「ナカジマさんもどうですか?2杯持ってるんです」

「ん?いいの?それじゃ遠慮なく」

ナカジマに渡し自分の缶のプルタブを引っ張る。プシュッと連続で音が鳴り車内が甘い香りで満たされる

ナカジマはほんの一気に半分近くまで飲むと息を吐きプルトップホルダーに引っ掛けた

「それじゃ行こうか」

アクセルが踏まれ車が進み出す、暫く進み窓の外を見るとやはり見慣れた景色のはずが初めて見たと思うほど新鮮である。食い入る様に見ているとナカジマが声をかけてくる

「綺麗でしょ、この街はいろんな景色を見せてくれるけど雪景色が一番最高だよ」

「同感です、私もここに来てまだ1年も経ってませんがこの景色が一番好きですから」

「まぁ次の試合会場はこんなの比じゃないぐらい雪があるんだろうねぇ、いや〜怖いな初めての試合会場が雪原地帯とは」

「ナカジマさん達はこの試合が初参戦ですもんね」

そうなのだ、今から丁度1週間程前にとうとうガネーシャの修理が完了した。みほにはガネーシャが猛獣の類に見えたため彼女ら自動車部のチームは”レオポンさんチーム”と名付けられた

「ジェネレーターの類が面倒じゃなけりゃアンツィオ戦から参加できたんだけどねぇ、西住さん。やっぱり雪原地帯でレイバー動かすのって難しいですか?」

「う〜ん、私は経験ないんですけどお姉ちゃんが昔『雪原地帯は二足歩行の奴はいつもより気をつけて操縦すれば問題ない、多脚ならばいつもどおりやればいい』って言ってました」

「随分ざっくりとした説明だけどなるほどねぇ、んじゃ私達は操縦にはさほど影響が出ないってわけか。助かったなぁ、やっぱ初心者は多脚レイバーか」

「初心者って言いますけど乗り始めて30分もしないうちにレイバーでドリフト決めるのは初心者って言わないと思いますよ…」

「いやぁあれでもいつも通りのじゃないんだよ。百点満点中60点ってとこかな、それに私達操縦が出来ても射撃がね…」

「ガネーシャに積んでる荷粒子砲は断続的に出る武器なので初弾を外しても射線軸をずらせばなんとかなりますよ」

「いやぁそれがさウチの子撃てても5秒が限界なんだよね、それ以上過ぎるとエンジンがオーバーヒートしちゃう。カタログスペック通りなら7秒は撃てるんだけどな。まぁ四の五の言わずに射撃訓練をやれって話なんだけどね」

そんな事を喋っていると車はいつの間にか住宅街に入ってた

「あれ、ここって…」

「ん?この近くにコンビニあるからよってこうと思ったんだけど…この辺に知り合いでもいるの?」

「この辺りは麻子さんの家があるんですよ

…多分今頃沙織さんが起こすのに手間取ってるんだろうなぁ。特に今日みたいな日は」

「寒いと布団から出たくないからねぇ、ましてや低血圧なら余計にキツいか。…コンビニ寄った後行ってみる?」

「いいんですか、ありがとうございます!

「そんじゃチャチャっとコンビニ行くかね」

ナカジマは駐車場に車を止めるとみほを残してコンビニへと行った。

____しかし生徒会長に呼ばれて以来あれから1週間近く経つが一度も呼ばれてないな。どうやら会長は例の件については話す気がないらしい、ある程度目星はついているが憶測の域にすぎない。出来れば外れてくれると嬉しいのだが…

いや、それよりも今は明後日の試合の方が大切だな。レオポンさんとカモさんの練度は日に日に上達してきて間違いなく今の私達と同じくらいの腕はある。カモさんチームは確か会長が引っ張ってきたらしいけどあの人は原石を見つけるのが得意なんだなぁ。

でもだからと言って油断は出来ない、いくら腕が立つとは言え彼女らはまだ試合の雰囲気を知らない。故に本番の時緊張して変に体に力が入らなければいいんだけど…

一度模擬戦したいけど練習に使うペイント弾が無くなったから無理だ。アンツィオ戦の時に会長に補給を要求すべきだったなぁ

なんて事を考えているとナカジマが戻ってきた

「お待ちどうさま」

「何買ってきたんですか?」

「朝ご飯用のサンドイッチ、西住さんも食べる?」

「いえ、私はもう済ませてきたので」

「そっか、ならこれは私が全部食べようっと」

そう言い全部口に頬張るとホルダーからココアを取り出して一気に全部飲む

「…っはぁ〜!美味いねぇ朝に食うサンドイッチは特に」

みほも喉が渇いたので缶に手を触れるがもう既に冷え切っていた

よし、とナカジマは言い出しキーを回しアクセルを蒸した

あっという間に麻子の家につき「ちょっと待ってください」と断りみほは降りる

家に近づくと窓ガラス越しから沙織が悪戦苦闘してる声が聞こえた

「沙織さーん!」

みほが大きな声でそう叫ぶと窓ガラス越しでも聞こえたようでカラカラカラと窓が開く

「あれ、みぽりんなんでこんな所に!」

「色々あってここまで来たの、起こすの手伝おうか」

「ありがとう、本当に助かるよ!」

沙織に玄関を開けてもらい寝室へ進むとまるで冬眠している熊のように布団に潜り込んでいる麻子がそこにいた

「さっきから何度も起きてって言ってるけど起きないんだよ〜今まで必殺技だったおばぁの事も効かなくなったみたいだし…」

「生半可じゃ麻子さんは起こせないよ、こうなったら無理やりにでも布団を剥がさなきゃ。沙織さん、息を合わせて一気に引っ張るよ」

「分かった!」

「1…2の…3!」 

布団を勢いよく剥ぐと中には丸くなった麻子が見えた、暫くそのままでいたがやがて観念したのか丸まったのを戻し上半身だけを上げた

「……何だ沙織お前随分起こすのが乱暴になったじゃないか…ん?おい沙織、どうやら私は酷く寝ぼけてるらしい。ここに西住さんが居るぞ」

「寝ぼけてなんかいないよ麻子」

「おはよう麻子さん!」

寝ぼけ眼でジーッとみほを見つめると目を擦りもう一度見つめると麻子は大きくため息をついた

「この間の空砲と言い今回の布団剥ぎと言い西住さんが起こしに来ると酷い目に合うな、

 しかし何だってここに…大体人が早朝に起きる事自体がおか…」

ブツクサ言う麻子を沙織は猫を運ぶかのように彼女を持ち上げ食卓に座らせた。そこから先は見事な早技もので15分もしないうちに沙織が彼女にご飯を食べさせて着替えさせた。

(最早介護みたいだね…)とその光景を見てみほは苦笑いするしかなかった

そしてナカジマに頼んで彼女らも車に乗せてもらい一緒に登校することにしたおかげでこの日は珍しく時間に余裕を持って麻子は投稿することが出来た。

教室についた後

「しかし私が早く着いたからってそど子の奴あんなに驚いた顔をして、これから毎日送ってもらいたいものだな」

と言うと沙織からもっと早く起きる努力をしろ、と軽く頭にチョップを入れられるのであった。

✴︎

その日も練習が終わりいよいよ試合前日となった

いつもならば練習が終わり次第解散して各自自主練をするのだがその日は違いそれぞれのレイバーの前で何やら話し合っていた

「カイロまで用意するんですか?」

「うん、と言っても必要なのは暖房がない軍用レイバーとパイソンだけだけどね」

「とするとジャケットだけじゃ不十分だからしっかり着込まないと…」

「あんまり着込みすぎると操縦に支障をきたすかもしれませんからある程度着込んだら後は精神力で我慢するしかないですね」

「お〜怖い怖い、私寒いのが苦手だからエコノミーで良かったとこれ程までに思ったことがないな。西住さん暖房ガンガン効かせてもいいか?」

「あまり暑すぎると相手の熱源センサーに引っかかりやすくなるから程々に…ね?」

一方ウサギさんチームでも似たような事を話していた

「ねぇねぇタイツ2枚重ねにしようかみんな」

とあゆみが言うと

「レッグウォーマーもしたほうが良いよね、操縦する時に足が悴んでちゃたまらないもの」

と優希が言う

するとまた

「色付きのリップ塗ろうよ、準決勝って結構人来るって言うし!」

と香里奈が言う

そのうちチークを塗るだのアイシャドーを塗るだの服装から化粧の話へといつ間にか移っていた

装飾系の話が出ると意気揚々になったのはカバさんチームである、何処で手に入れたか分からないちょんまげや月桂樹、はたまた新撰組の羽織りなど各々の好きな時代の装飾品を付けて笑い合っていた

さてそうやってやいのやいの騒いでいると真っ先に駆け出してくるのが風紀委員のそど子である

「貴方達メイクは禁止、コスプレも禁止!全部校則違反よ!戦車道は授業の一環なんだから 

 ね!」

そう言うとあちこちからあからさまな落胆した声が聞こえてきた

「えー、じゃないの。私が来たからには規則の違反や風紀の乱れなどは出来ないと思いなさい!そのための風紀委員なんだから、大体貴方達は…」

と言ってる最中後ろからポン、と肩を叩かれる。誰だと思い振り返るとエルヴィンがそこにいた

「…自分の人生くらい、自分で決める」

とキメ顔をしながら言う彼女にそど子は肩を震わせながら

「何言ってんのよアンタ!それに変な帽子に制服でも指定のジャケットでも無いのを着てるなんて全身校則違反の塊じゃない!まずはここから正さないと…」

と手をわちゃわちゃさせながらエルヴィンに迫る

「ちょっと待ってくれせめて帽子だけは…」

「問答無用!」

と帽子に手をかけようとしたその時何処からともなくペタン、ペタンと足音が聞こえてきた。全員が音の方向に一斉に振り向くとその人物はメガホンを持っていた

「シ…シゲル先生…?」

みほが尋ねるとシゲルはメガホンをポンと叩くと息を思いっきり吸って

「たるんどるぞ貴様らー!!」

とハンガーが揺れるかと思うくらいの声で叫んだ

「えぇい!サンダース、アンツィオに勝って調子に乗るんじゃない!相手はプラウダだぞ?めちゃくちゃ強いんだぞ?サンダースやアンツィオが目じゃないぐらい強いんだぞ!油断してりゃ即お陀仏だぞ!いいかデカい相手にぶつかるならそれ相応の覚悟を持って挑め!わーったか!わからねぇ奴はオホーツク海に叩き込むぞ!返事!」

そう言うと全員返事をせずにはいられなかった。それだけが言いたかったのかシゲルはまたペタンペタンと音を鳴らしながらハンガーの奥へと戻ろうとした、ふとなにかを思い出したかの様に踵を返しみほに近寄った

「西住の嬢ちゃん」

「は、はい何でしょう?」

「支度できたら後で宿直室に来てくれ、ちょっと話したいことがある」

「分かりました」

返事をすると今度こそシゲルは奥へと姿を消した

「…確かにシゲル先生の言う通り我々は根拠なしの自信を抱いていました。明日の試合もわたしにも何処となく遊び感覚があったかもしれません…反省しなくては」

「でもビックリした〜いきなりメガホン使って叫ぶんだもん鼓膜が破れるかと思ったよ〜」

「と言うか西住さんあの先生に誘われたのか」

「デート…でしょうか?」

「え!?シゲル先生ってロリコンなの!?」

「多分違うと思う…分からないけど真面目な話なことだけは確かだよ」

「もう支度はほぼ終わってるようなものだからここは私達に任せて西住さんは宿直室に行ったらどうだ?」

「いいの麻子さん?…じゃ、お言葉に甘えて」

 

 

✴︎

宿直室の場所までは恐ろしいぐらい静かな場所だった、暗闇の中を借りてきた懐中電灯だけを頼りに進んでいくと明かりが差し込んでいる箇所が見えてきた

「あれが宿直室か…」

懐中電灯の明かりを消し光が漏れ出ている場所へと近づくと壁には確かに「宿直室」と書いてあった

ノックをすると中から入ってくれ、と低い男の声が聞こえた

中に入ると瓶ビールと急須が乗っかったちゃぶ台に座ったシゲルが見えた

「よく来たな…まぁ座れや」

何処となく既視感を感じながらみほは言われるがままに座った

「未成年が相手じゃ酒と言うわけにはいかねぇからな、茶でも飲んでくれ」

とシゲルは急須を傾けお茶を湯呑みに入れ差し出した。礼を言って飲む

一旦飲みホッと一息をつくとシゲルが聞いてきた

「なぁ嬢ちゃん、明日の試合大丈夫か?」

「大丈夫って…それは勿論、作戦はちゃんと立てましたから。あとはやれる事を本番で…」

「いや、そう言う事じゃねぇんだ。あの時お前さんの機体を撃ったのはカチューシャっちゅーガキなんだが…そいつ今はプラウダの隊長やってんだ」

「…」

「それで必ず試合前の挨拶の時会うことになるだろ?その時嬢ちゃん大丈夫かと思ってな」

「…と言いますと、私が向こうの隊長に会った時試合に支障をきたすぐらいの感情を抱くと言うことですか?」

「ま、早い話そうだな。…んでどうなんだ、そこん所は」

「先生が心配するのも最もだと思います、だけど…」

私はもう特車道にトラウマなんてない、悩みこみ塞いでいた過去とは違う。私にはやらなきゃならない事があるんだ。それに…守りたいものだってある。だから私は強くなれた。背負った使命が私を強くした。そうであるならばプラウダの隊長に、私の人生を狂わせた張本人に会うことなど大したことではない

「私はもう逃げないって決めましたから、これからはがむしゃらに進んでいくだけです」

そう告げたみほをしげしげと見つめビールをあおると

「…強くなったな嬢ちゃん」

と呟いた

「昔の手探りで進んでた自分の道を探してた自信の無い目がすっかり消えてら。今のお前さんは自分で自分の道を作るって言う自信に満ち溢れた…いや、覚悟を決めたいい目をしてる。…全く、若い奴ってのは成長が早くてつくづく感心するぜ」

目を擦りビールを飲んだその顔は真っ赤にまっていた。大の大人がそう言う顔をするといたずら心が湧くもので

「シゲル先生顔真っ赤ですよ」といじわる気味に言うと酔っ払ったんだよ、と誤魔化されたのがおかしくて思わず笑ってしまう。

「強くなれたのはシゲル先生のおかげでもあるんですよ。先生が私がした事を肯定してくれたから私は自分自身に自信を持つ事が出来たんです。本当にありがとうございます」

「なんだか照れ臭ぇな。長いことこの職をしてきたが生徒にお礼を言われたなんざ初めてだからな、こっちこそ久しぶりに整備の楽しみを味合わせてくれてありがとうよ。お前らが無茶するたびこっちもやりがいがあるってもんだ、…さてと」

そう言うと置いてあった鞄をあさり白い袋を取り出した

「…これは?」

「まぁ試合までのお楽しみだな、始まる前のミーティングの時に中身を見てくれや」

「分かりました」

「そいで明日はどんな作戦で行くつもりだ?」

「こちらは指揮者を除けば9輌、相手はその倍の18輌…その内全部のレイバーがドシュカですね」

「ドシュカか…流石ソ連モチーフの高校、レイバーまでソ連製とはご苦労なこった」

「それで普通のドシュカじゃなくてKV-2、JS-2クラスの砲塔を搭載してるのもあるそうです」

「…どちらともリアクティブアーマーがあるとしてもあまり被弾したく無いな。当たりどころが悪けりゃアーマーの意味が無くなっちまう」

「同感です、ですから短時間の内に一気に進出、フラッグ車を見つけ次第全輌で襲い、落とすってのが一つの手ですね」

「確かに良い手かもしれないがでもよ、それじゃ失敗した時襲われるのはお前さん達だぜ?数の差で言えば向こうが圧倒的に有利なんだ。戦いは数って言うぐらいだぜ」

「やっぱり慎重に行くべきですよね、とすれば相手の特徴に気をつけて戦い確実にフラッグ車に近づくって言う基本的な手が最善かぁ…」

「その方がいいと思うぜ俺は、向こうは引いてからの反撃が得意だからな。ひでぇもんだ、まるで相手のプライドをズタズタに引き裂くようなやり方さ。向こうの隊長はチビなんだがああ言う奴ほどプライドは無駄に高くて他人を馬鹿にすることしか考えてないような奴だ」

「…」

「言いすぎたな。すまねぇ…ともかくプラウダはそう言う手段で多くの高校を葬って来たのは事実だ」

「…奇抜な作戦が使えない以上普段の練習がものを言うってわけですか」

「その通りさ、…お前さん自信ねぇのか?」

「まさか、確かにこれまでの試合は定石通りの戦いとはお世辞には言えませんが少なくとも定石通りの戦いでもいけるように練習はしてきたつもりです。それに基本が出来なければ奇抜な手も使えませんから」

「成る程なぁ」

納得したように頷くとシゲルは壁時計を見てそろそろ帰るか、と言った。

「もう遅せぇし学園艦と言えでもあんま夜に女子高生が一人で帰るのもよくねぇからな。俺が家まで送ってやろう」

「え、大丈夫ですよそんな、ご迷惑でしょうし…」

「なぁに若いのが遠慮すんな」

と半ば無理やり車に乗せられ送ってもらうことになった。

数分もしないうちに寮につきみほは車から降りる。

「お嬢ちゃん明日頑張れよ!」

「はい!絶対勝ちます!シゲル先生、レイバーの整備宜しくお願いします!」

「まーかせてくれや!そんじゃ今日は早く寝るんだぞ!」

そう言うと窓を閉め車を走らせた、その光景を見ながらみほはお礼をするのであった

✴︎

一夜開け、いよいよ試合当日になった。今回はいつもとは違い夜の試合である、極寒の地に夜と来ればその寒さは殺人級だ、これだけ寒いとせっかくの防寒具もあまり役に立たないらしく

「…寒い!寒すぎる!こんなに寒いと肌が乾燥しちゃうよ、やだも〜!」

と沙織の悲痛な声が辺り一面に響いた

「レイバーの中に入ればマシだから…さてと、指揮車にチェーンは全部かかってるしアトラス、サムソンにはラジエーターに不凍液も入れたよね」

「はい!自動車部の方がそれはもうかじかむ手を堪えて準備出来ました!」

そう言うと噂の自動車部と風紀委員らが何やら緊張した顔でキャリアの前に立ち止まっていた

「あの、ナカジマさん達も園さん達もいきなり試合で大変かと思いますけど落ち着いて戦いましょう!皆さんなら落ち着いていけば勝てますから!」

「了解!ガネーシャの性能をプラウダの整備士達に拝ませてやりますよ!」

「分からないことがあったら無線で聞いてくれ、特にそど子はな」

「だ〜か〜ら〜そど子って呼ばないでよ!私には立派な名前が…」

「分かった分かったそど子」

といつものやり取りを横目で流し辺りを見回すと見慣れない雪景色に興奮してか雪合戦をする者、戦国武将の雪像を者やかまくらを作る者など試合前なのにも関わらず落ち着きった様子なので苦笑いするしかなかった

___まぁ、変に緊張してカチコチになるよりはマシかな、とは言え昨日たるんでるって言われてこれだからなぁ…シゲル先生が見たら怒りそう

なのでそろそろ集合をかけてお遊び気分を切り替えてもらおうと思ったその時何やら低いエンジン音が聞こえてきた

「あれは…レイバーキャリアかな、優花里さん?でもウチらと違って起き上がらせるためのリフトがないや」

「あれはいつぞやの喫茶店でも見た98式 特殊運搬車ですよ、向こうはドシュカをあれに積んでいるんでありますね」

車がみほ達より50mぐらい離れた所で静止して2名が降りてくるのが見えた、一人はみほよりずっと高いがもう一人は杏よりも小さい

「あの凸凹コンビは一体…?」

「漫才をしに来たってわけじゃなさそうだね、ゆかりん分かる?」

「あれはプラウダ高校の隊長と副隊長ですね。小さい方が隊長で大きい方が副隊長です。彼女らには北の大地の申し子、暴君、だの色々あだ名はありますが一番有名なのは“地吹雪のカチューシャ” “ブリザードのノンナ”ですかね」

「地吹雪…ブリザード…」

特に地吹雪は冷徹な彼女を表すにはピッタリのあだ名だとみほは思った

そんな彼女らがみほ達の陣地へつきキョロキョロすると大きな声で笑い出した

「ハハハハハ!このカチューシャを笑わせにここまで来たわけ!?こんな土木作業用に毛が生えたようなレイバーばかり集めて今まで見てきたどの高校の中でも一番面白いわ貴方達!」

と煽るものだから周辺の空気は一気に冷える、だがそんな空気も物ともせず杏がかまくらから手を擦りながら出てきてカチューシャに近寄る

「やぁカチューシャ、生徒会長の角谷だ。今日は一つ宜しくね」

と腰を落としながら手を差し出すとそれがカチューシャのプライドを傷つけたのか、明らかにイラついた声で「ノンナ!」と叫ぶ。そうするとノンナはカチューシャをヒョイと持ち上げて自身の肩に足を乗せた

そして身長が擬似的に高くなったのが彼女のプライドを癒しあんなにイラついた顔が見る見るうちに意地悪そうな顔に変わっていく

「貴方達はね、このカチューシャ達より何もかも下なの!練度も、レイバーの性能も、隊長としての能力も、統率力もそして身長もね!」

「…ナポレオンコンプレックスって本当にあるんだな」

そう一気にまくしたてた後にも関わらず杏が呟いた一言を彼女は聞き逃さなかった

「ナポレオン…?ノンナ!」

「はい、ナポレオンコンプレックスと言うのは身長が低い事に劣等感を覚え嫉妬深くなり少しでもイニシアチブを取るため高圧的、高飛車的な態度で接してしまう人のことを言います」

「…つまりカチューシャがチビだと言いたいわけ?」

「向こうから言わせればそう見たいですね」

ノンナが冷静に返事をするとカチューシャの顔が赤くなった

「よくもこのカチューシャを侮辱したわね!粛正してやる!…行くわよノンナ!」

プンスカした表情のまま肩車され立ち去ろうとするカチューシャの目にみほが映った。コロコロと表情が変わるものでまた意地が悪い顔になった

「あら、西住流の…」

「西住、西住みほです」

「去年はどうもありがとう、貴方のおかげで私達優勝出来たわ。今年も宜しくね、甘ちゃんの家元さん」

「…“身長が低い奴ほどプライドが無駄に高くて他人を馬鹿にすることしか考えてない”…先生の言った通りだ」

「またカチューシャを侮辱する気…?甘ちゃんがいい気になるんじゃないわよ」

「甘ちゃんで上等ですよ、カチューシャさん。私、それを変えるつもりはありませんので」

「バカね、それで負けたのをもう忘れたの?」

「今の私は去年貴方が知ってる西住みほと言う人間とは違います。おおよそ貴方は私を煽ることで戦意消失を狙ったのでしょうが…その逆なのが証拠です」

「やる気満々なのは結構だけどね、レイバーの差がダンチな時点で貴方に勝ち目なんてないのよ?」

「戦いは性能差で決まるものではありません、殲滅戦ならまだしも今回はフラッグ戦…レイバーの性能差など勝敗に関係するのは微々たるものだと思うのですが」

「そ〜そ〜」

と気の抜けた声が聞こえ振り向くと杏が後ろに手を組みながら立っていた

「そんなことは去年性能差では黒森峰に負けてたカチューシャが一番よく知ってるはずなんだけどねぇ?」

「会長…」

「それにさ、玉座に座り込んでる暴君が足元をすくわれるのは世の常だよ。カチューシャ」

「…いいわ、そんなに自信があるなら勝ってみせなさいよ。もっともそんなのは空っぽの中身のない空虚な自信だってこと、すぐに分からせてあげるんだから。

西住みほ…楽しみにしてるわ。成長した甘ちゃんがどんな戦いを見せてくれるのか。じゃあね、ピロシキ〜」

と別れを告げると今度こそ帰っていった

しばらくその光景を見つめていたがハッとして集合をかけた

✴︎

「とにかく、相手の車両の数に飲まれないよう徹頭徹尾落ち着いて行動してください!フラッグ車を守りながらゆっくり前進、それで相手の出方を見ましょう」

「…ゆっくりもいいが、ここは一気に攻めたらどうだろうか」

「カエサルの言う通りだな、先手必勝ぜよ」

「気持ちは分からないでもないですがリスクが高すぎるかと…」

「大丈夫ですよ!クイック勝負はバレーの基本です、猪突猛進ですよ隊長!」

「私も賛成です!」

「梓ちゃんも!?」

「何だかこの試合負ける気がしないんです!相手は私達のことを舐めてるんですよ!ならそれを利用してギャフンと言わせてやりましょうよ!」

「うむ、それがいいな。西住、ここは突撃するぞ」

波は完全にみほの考えと反対方向に乗ってきた。

この盛り上がりよう、士気があるのはいいことだが一歩間違えれば破滅への一歩になる。どうしたものか…

目を閉じ顎に手を当てみほは悩んだがやがて決心し目を見開く

「分かりました、一気に攻めましょう!」

「良いんですか西住殿!?」

「慎重に行く作戦では?」

「長時間試合をすれば降雪に慣れてるプラウダがいずれ有利になるのは明白だし…それに今のみんなのやる気を無下にするような事はしたくないからね」

___シゲル先生には申し訳ないけれど、と心の中で付け足す

「こんな天候が特別な試合は早めに終わらせるに限る。何せ雪原地帯での練習なんて私たちゃ出来てないからな、戦いの最中に慣れるって言うのもあるが…あまりそう言うことには期待しないほうが良い。結局の所試合ってのは自分がどれだけ練習してきたのか見せる場でもあるからさ。まぁ繰り返しにもなるがダラダラ試合せず集中してチャチャって決めた方が最善の手の時もあるってことだなうん。そうでしょ、西住ちゃん」

「はい、相手はこれまでとは違う強敵ですが全力を尽くして頑張りましょう!」

「「「「オー!!!」」」」

甲高い声が幾つも重なり北の大地に響く、振り上げた拳は手袋が伝える熱とはまた違った芯から燃えるような熱さであった。




いよいよ次回から戦闘シーンに突入します!
大洗の運命やいかに!?
この続きは次回の講釈で。
感想などお気軽にお願いします。めちゃくちゃ作者が喜ぶんで
それではここまで読んでくださりありがとうございました!
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