それでは、本編をお楽しみください
「廃校ってどういう事ですか!」
「それと特車道とどう関係があるのですか!」
「会長!」
次々と杏に向けられた質問が来る、杏は神妙な顔をしたまま皆の方を見る
「確かに皆の疑問はもっともだ。あまりにも突拍子もない現実じみた話じゃないからな、だからこの場を借りて全てを説明しよう。あれはまだ西住ちゃんが転校するよりもっと前、去年の2月ぐらいだった…私ら生徒会は学園艦について重大な話があるということで文科省に行くことになった。重大な話とは何か、その時私はおおよその検討がついていたがそうなる事がない様に祈りつつも自分の予想が当たってしまった時のためにある資料を懐にしまって赴いたんだ」
✴︎
「文科省に呼ばれるって会長何をしたんですか?まさか学園艦予算の横領を…?」
「会長かそんなことする訳ないだろ柚子ちゃん!…そうですよね会長!?」
「いやぁ…」
「そこははっきり否定してくださいよ!」
「何はともあれ上の連中がわざわざ招いてくるなんてロクなことじゃないと思うよ。ご褒美を渡される様な事うちらはやってないからねぇ、面倒ったらありゃしないよ。折角の休日を…」
ブツクサ呟きながら杏らは文科省内へ入り受付嬢に話しかけて案内してもらうことになった。ドアを叩き「どうぞ」との声がして部屋へと入る
中に入ると30代ぐらいの男性が座席に腰掛けこちらを待っていた、男性が杏達を座るよう促し言われるがままに座る、そうするとその男性は内ポケットから名刺を取り出してこちらに渡した
「…“文科省学園艦教育局長“の辻さんねぇ…うちのような小さな高校にどのようなご用件でしょうか??
「その小さな高校ですから用があるのです」
「と、言いますと?」
「端的にお伝えしましょう。あなた方の学園艦、大洗女子学園は廃校と決定されました」
「廃校!?」
「学園艦は運営費も維持費も大規模な費用だから財政を圧迫してるんですよ。ですので政府の方針で学園艦の統廃合が決定したわけです」
「道理でここのところ明らかに予算を減らされたり修理要請とかを出しても中々受理されない訳だ。…選考基準ってのは聞かせてもらえるんでしょうねぇ?」
「基準といたしましては過去数十年間で学問、スポーツなどにおいて成果が見られない学校です」
「政府が無駄に使ってる費用とか抑えれば統廃合なんてしなくてもいいのにねぇ、学園艦を廃校処分にしたら解体費、艦内にいる勤労者達への新しい仕事の手配、そして艦を動かす原子力の処分…どう考えたって維持費よりも高くつくのに馬鹿なことを決定したもんですね」
「か、会長抑えてください!桃ちゃん何とかしてよ!」
「いや、私としても会長と同じ意見だ。到底納得いくものではない!」
そう熱くなる桃を辻はため息を吐きながら話し始める
「そう言う政治の議論は他所でやって頂きたい、これは既に決定した事なのでね。今年度中に納得頂ければ結構です」
「じゃあつまり来年には…」
「そう言うことになります。大洗女子学園は過去20年間にわたり目立った実績もない、おまけに生徒数も減少している…統廃合のリストに上るのは必然かと」
「…」
「大洗は昔は特車道とバレー部が活躍してたらしいですが、もし今も続けていれば少しぐらい寿命は伸びたかもしれませんね。まぁ今となっては後の祭りですが…」
「成る程、いいこと聞いちゃった私」
杏はニヤリと笑うと待ってましたと言わんばかりにポケットから書類を取り出した
「要は来年までに特車道で活躍すれば良いってわけですね」
「何が言いたいんでしょうか」
「決まってんじゃないですか。夏の大会で優勝ですよ」
「会長、本気ですか!?」
「こんな所で冗談言ってもしょうがないだろかーしま」
「何を言い出すかと思えば、夢物語は程々にしなさい。諦めてこれからの一年を有意義に過ごせば…」
「そうは問屋が卸さないんです、あなた方お上にとっては単なるリストにチェックを入れるだけの作業かもしれないがされる側はこの上なく迷惑を被るんですよ、ですから夢物語と言われようが可能性があるなら足掻きますよ。それに…どうも夢物語じゃなさそうだ。神様って奴はどうも最後の最後で手を伸ばしてくれるらしい」
杏は書類を広げ辻に見せる
「それは…転校生の書類ですか」
かけているメガネを直しながらそれを見ると彼の表情が一瞬強張ったものになった
「…西住みほ。あの黒森峰の副隊長ですか…!」
「そう、彼女を新設した特車道に誘うんですよ、彼女と一応経験者である私が組めば夢物語も夢物語ではなくなるって訳です」
「馬鹿な、特車道の名門と呼ばれる黒森峰から大洗に転校してくる時点で大体察せるはず、そんな彼女を誘うと言うのですか。何と…」
「辻さん、あんた情で統廃合を決定してますか?いいやそんな訳はないよな。無情には無情で行かなければ勝てない…彼女には大義の為の犠牲となってもらいます」
そう告げる杏の真剣な表情に辻は何も言い返す事が出来なかった。
それは彼女を権力を振りかざす自分達政治家と同じだと思い蔑んだわけではない、高校生ながらも達観した感性を持ち覚悟を決めた真剣な表情で語る彼女に一種の畏怖を感じたからであった
「では、これで失礼させて頂きます。小山、河嶋。帰って書類洗いざらい出すぞ」
✴︎
「それで特車道を復活させたと言う訳ですか。やはり…」
語り終えた杏にみほが話しかける
「復活させりゃ上から助成金が出るしねぇ、その分を運営費に回せるしな。
ところが蓋を開けたらまぁ当然と言うか雀の涙程度のはした金だったよ」
「じゃあ世界大会って言う当初の目的は…」
「それは本当だよ、どーせ始めるなら上の方を狙いたかったしね」
「でも会長殿、いきなりで優勝は余りにも無謀ではありませんか?」
「いやぁ20年前はこの学校もそれなりに強かったって資料で見たからさ、強いレイバーもあるんじゃないかと思った訳なんだけど…どうも最後の試合の後売っ払ったらしくてな」
「じゃあ、ここにあるレイバー達は売れ残りということになる訳でありますか」
「そーゆーこと」
「ちょい待ち会長、それじゃウチらのガネーシャはなんである訳ですか?この中じゃ一番高性能ですよ」
「多分ガネーシャはレアすぎて元の持ち主が売るのを拒んだんじゃないかな、もしくは整備に手間がかかり過ぎるから業者が買い取るのを拒んだってこともあるね」
「成る程…」
「だが売れ残りのレイバーで勝てるだなんて本気で思っていたのか?」
とカエサルが話に割り込んでくる
「…会長は打算があったようだが私としてはそうは思わなかった、だが残された道はそれしかなかったのは紛れもなく事実だ。何の特色もない古臭いだけが取り柄の学校が生き残るには」
そう桃が言うと何処となく寂しい表情をしながら杏が口を開いた
「無謀なのは重々承知さ、私と西住ちゃんが加わっても優勝できる確率が上がるだけで100%じゃないからな…せいぜい40%がいい所だろうさ。でも“絶望的なギャンブルでも最初から負けを考えるな、負けの思考は敗北に繋がるだけだ”って友達から教わってね。諦めて泣いてしみじみとした1年を送るよか足掻いて足掻いて足掻きまくる方がいいのさ。その方が私の性にも合うからな」
そう語ると柚子がみんなの前に立ち
「今までずっと皆んなを騙すようなことをして本当にごめんなさい」
と頭を下げた
「この学校が仮に無くなったら私達離れ離れになってしまうのでしょうか…?」
「そんなのやだよ!折角華とも皆とも仲良くなれてこれからっていうのに…」
仲間達から悲痛な声が上がる、一年生なんかは泣き出してまうぐらいだ
____私も離れ離れになるのは嫌だ、ここで出会った仲間と別れるなんて辛過ぎることだ、せっかく見つけかけた新しい人生を、特車道をこんな所で終わらせてたまるか。短い期間のうちにどれだけ自分はここにお世話になったんだ、終わらせやしない、誰も泣かせやしない。私が…私が皆んなを守るんだ。これは私の人生だけじゃない、みんなの人生がかかった試合なんだ。
みほは固く手を握り締めて改めて決意を固める、戦う覚悟は既に完了した。みほはこの重苦しい空気を変えるため拳を握りしめてみんなの前に立った
「皆さん、まだ試合が終わったわけじゃありません!
負けが決まったわけじゃありません!
会長の言う通り最後の最後まで足掻いて足掻きましょうよ!」
「…西住ちゃん」
「だって私、来年も特車道をしたいんです!いいえ、ただ特車道をしたいんじゃないんです、この場にいるみんなとやりたいんです!
だから皆さん…共に立ち上がり、戦いましょう!」
高らかに拳を振り上げて叫ぶ、そして僅かな静寂が場を包み込んだ。それを剥がしたのはやはり友の声であった
「西住殿…この秋山優花里、どこまでもご一緒します!」
「そうだよ!諦めたら何かも終わりだよ!恋も特車道も!」
「まだ私達は戦えます!」
だが、麻子は黙ったままだった
「麻子さん…」
「西住さん、本当にいいんだな?勝ちの呪縛に縛られる事になるんだぞ?」
「麻子さんの心配してくれる気持ちは凄いありがたいです…でもこれは私が決めた事です、私の意思で選んだ選択です。ですから私は喜んで呪縛にまた縛れましょう…と言ってもこの大会だけですけどね」
「そうか…分かった。アンタが決めたんだ、口を挟むのは野暮だったな。…すまなかった」
「いいんですよ、麻子さん。これからも無茶な命令をするかもしれません、今まで以上かもしれない。そんな私ですけどどうぞよろしくお願いします」
「構わん、アンタの手となり足となってみせようじゃないか。…なぁ、前から思ってたんだけど“西住さん”じゃなくて“みほ”って呼んでもいいか?やはりさん付けは他人行儀みたいでどうも落ち着かん」
「勿論良いですよ!改めてよろしくお願いします、麻子さん」
「こちらこそ宜しく頼む“みほ”」
二人は互いに歩み寄り固い握手を交わした、周囲から拍手が巻き起こりみんなの前だったと言う事に気がつくとみほの顔が見る見る赤くなってくる。
咳払いをしとにかく、と言う
「降伏はしません、最後まで戦い抜きます。ただし、誰も怪我をしないように。各員作業の続きを!カバさんチームとウサギさんチームは修理作業を、それ以外の方はリロードを!アトラス、サムソン、ラーダーと言ったガソリンを使用するレイバーはエンジンルームを温めて下さい!何せ3時間もあるんです、落ち着いて確実に作業をこなして下さい!これが逆転への一歩となりますから!」
ハイッ!と威勢の良い返事と共に全員が持ち場へと着く。私も私の持ち場へ着かなきゃと思い後ろを振り返ると杏が手をこまねいていた
✴︎
一方、観客席の特等席ではまほとしほが妹の、娘の活躍を見にきていた。試合の全貌を映し出すモニターにはみほ達が立てこもってる廃教会にプラウダらのレイバーが囲んでいる絶望的な状況が映し出されていた。
白い息を吐きながら仁王立ちするしほ、彼女は画面を一瞥すると毅然とした表情で話し始めた
「…帰るわよ、こんな恥ずかしい勝負見てられないわ。なんで逃げるだけで反撃すらしない、そんな戦い方をして西住流の名をこれ以上汚すならやはり勘当するのは正解だわ」
「待ってくださいお母様、まだ試合は終わってません、いやまだ“始まって”もいません。みほがあのような状況こそ本領を発揮するのは姉である私がお母様よりも知っています」
「…貴方は随分あの子の肩を持つのね、西住流そのものと言ったけどあれは嘘かしら?」
「私は西住流そのものです…ですがそれ以前として私はあの子の姉です。姉として妹を信じ、最後まで見守るのは当然のことかと」
あの時何もしてやれなかった私が言えた話ではありませんが、とまほは最後に小声で呟く。その事が聞こえたのかどうかは定かではないがしほは表情こそ変えないがまほの方を見つめる
「そうね…貴方がそこまで言うのならば見てあげてもいいでしょう。もしあの子が勝つのならばそれはそれで貴方にとってもいい学習になるかもしれません」
嘘だ、内心まほはそう思った。何故ならみほがこれから戦術を立てて勝ったとしてもその戦術は自分には到底出来やしないことをしほが分からないはずがないからだ。それでもあんな事を言って我が子の活躍を見ようとするとは…
___あの人にも人としての心はあると言うことか…お母様、私は私自身も憎いが貴方も憎い。みほに対して慰めや褒めもしなかった貴方が憎い。貴方が一言「貴方はよくやった」と言ってくれればあの子はどれだけ救われたことか…いや、それは私にも言えることだ。お母様だけを憎むのは筋違いと言うものだろう。
しかし何れにしてもお母様は冷血で現実主義な事に変わりない…しかしその認識を改める必要がありそうだ
だが私は…やはりあの人が憎い。心の奥深くではやはりあの人の事を憎んでいる。いつまでも憎んでいてはいけないとわかっているのだが…!
まほは自分の拳を握り締めていることに気がつきハッとした
いけない、今はこんなに一人勝手に気持ちを募らせてる時じゃないだろ…!見守らなくては、見届けなくては…!
まほは気持ちを切り替えるため自分の顎に手を当て現状をどうするべきか考える事にした。
あの状況ならみほはどうするだろうか、私なら防御力の高い軍用レイバーを先頭にして比較的包囲が薄い場所から脱出、そして撒くことに成功したら指揮車か人の足を使ってフラッグ車の捜索、そして見つけ次第火力の高いレイバーを先頭にして再び突撃、と言ったところだろうか…
しかし、その作戦は相手が普通の人間の時しか通用しない言わば型にはまった戦術だ。それが悪いとは言わないが数多の実戦を経験して来たプラウダ高と言う精鋭達にそれが通じるのだろうか?
…みほ、お前はどう挑んでくるつもりなんだ。
まほはモニターに映った廃教会の中にいる妹を透かして見るようにじっと凝視した。
今回はいつもより短めとさせて頂きました。感想、評価をお持ちしております
それではここまでお読み頂きありがとうございました!