亡き明日のアルカディア   作:白羽凪

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日常のあるべき姿


第11話 疑念、信頼、真実、親友

 

 弥一は固まったままの達海の腕を掴み、強引に持ち上げた。

 

「おい、一旦離れるぞ。...立てるだろ?」

 

「...ああ」

 

 達海は動揺の中から声を振り絞ってまだ少し竦んでいる足に力を入れた。

 しかし、力加減を誤った分、変に能力が働き、地面にほんの少しひびが入った。

 

 

「...。肩、いるか?」

 

「...すまん、頼む」

 

 

 達海は、弥一の目の前で能力を露呈してしまったが、弥一はそっと手を差し伸べた。達海はそれに甘え、弥一の肩を借りて、近場の公園まで歩いた。

 ベンチに腰掛け、二人はようやく落ち着いた。

 

 

 落ち着いたからこそ、脳内で混乱している部分が溢れて出てきた。

 

 

 

 

 

 弥一の能力。 

 

 弥一がどういう人間なのか。

 

 達海自身の能力がばれているのか。

 

 これから...どうなるのか。

 

 

 

 

 そうして達海がどうしようもなく頭を抱えていると、弥一は周りに人がいないのを確認して語りだした。

 

 

「...見せちまったな、俺の能力。あまり、人前で、しかもこんな時間に見せたくなかったんだがよ」

 

「...」

 

 

 達海は答えることが出来ないでいた。

 

 

「おいおい、だんまりかよ...。別にこっちも、何も言わずにいることだって出来たんだぜ?」

 

「...弥一は、組織の人間なのか? 見てしまった俺の命を消さなきゃならない身分なのか?」

 

 

 初めて、達海は親友を疑う。

 弥一は少しの間黙って、神妙な顔つきのまま答えた。

 

「...いいや、俺はどちらにも属してねーよ。世間一般的にノラと言われる能力者だ。お前と境遇は一緒かもな」

 

「そうか...よかった」

 

 

 弥一がどちらでもないという真実に、達海は大いに喜んだ。しかし、それを身体で表現できるほど、精神に余裕はなかった。

 

 前のショックとは比べ物にならないほどのショックを達海は受けていた。

 

 

「...ま、ここで話すのもなんだ。俺んち泊まれよ。明日休みでいいからさ」

 

「...ああ、そうする」

 

 

 とにかく、達海は今状況を整理する時間が欲しかった。

 だからこそ、達海にはその提案を断る理由は無かった。

 

 

 

 

 

---

 

 

 親に一報を入れ、達海は弥一の部屋にお邪魔することにした。

 

 

「一人暮らしなんだな」

 

「親に『一人暮らししたい』なんていったら、『息子が家にいる負担より、家賃を払う負担のほうがまし』っておふくろに言われたからな。ひでえ親だよ」

 

 弥一は大いに自虐して一人笑う。達海も声に出すことは出来なかったものの、微笑むくらいはやって見せた。

 

 

「まあ、適当にくつろいでてくれよ。ソファ使っていいから」

 

 

 そういい残して弥一はキッチンのほうへ行く。達海はその間に一人用のソファに腰掛けた。

 

 しかし当然落ち着くことができるはずもなく、むしろ震えはどんどん強くなっていった。

 

 

(弥一も能力者で...俺も能力者で)

 

(学校の皆に、どう顔向けすればいいんだよ?)

 

(言わなくていいとは分かってるけど...)

 

(そんな不安を抱えて生きれるほど、俺は...!)

 

 

 

「おい」

 

 自分の世界で塞ぎこんでいた達海に、声がかけられた。弥一だ。

 

 

「ほい、コーヒーね。お店のを飲んだ後のインスタントで悪いけど」

 

「...ありがとう」

 

 弥一が差し出したマグカップを、達海は両手で受け取った。

 

 

 手を通して、温かさが伝わる。

 そこにはきっと、心の温かさもあった。

 

 

 手渡されたコーヒーを一口飲んで、達海は、普通に会話できるくらいには少し落ち着いた。

 

 

「...どうだ? 落ち着いたか?」

 

「...うん。ありがと」

 

「しっかしまあ、悪かったな。ああするしかなかったんだよ」

 

 

 弥一はカーペットの上に座って、途切れていた話を続けた。

 

 

 

「さっきも言ったけど、俺はノラの能力者。お前も知ってるであろうガルディアでも、ソティラスでもない。そいつらは闇の住人だからな。見た人は消さなきゃならないわけだが...、ま、ノラにそれは関係ない話よ」

 

「安心したよ。...お前が、どっちでもなくて」

 

 そういいつつ、達海は泣きそうになっていた。こういう部分、本当にメンタルが弱いなと達海は考える。

 

 

「...ま、この際、はっきりと伝えとくか」

 

「何をだ?」

 

「俺の能力の詳細。...ま、あくまで相手がお前だから話すんだけどな」

 

 

 弥一は一度深呼吸してはっきりと話し出した。

 

 

「俺の能力は見てのとおり獣化。まあ、あんな感じで身体の部分、および全身を虎にすることができるな。完全獣化したら、『人間の言葉が喋れて、意識を持っている虎』になるわけだな」

 

「なるほど...。さっきのは、部分的なものか?」

 

「まあな。胴の周りはまだ人間だったろ? あれがまあ7割くらいだ」

 

「そうか...」

 

「あ、これもこの際だから話しておくと、能力ってのは1~3種、E~S型まで区分が存在するんだ。1種は直接的な肉体変化、2種は任意での環境変化、3種は肉体自体は変わらないものの、本来人間ならできないはずのことができたりする特殊能力。この規定だと、俺の能力は1種だな」

 

 

 さもそれが当たり前のように弥一は語るが、その一部ほどしか達海は理解できなかった。

 

 

「...まあ、こんな話をいきなりしたところで現状を飲み込めれないだろうよ。俺が達海の立場でも、多分そうなってるだろうし」

 

「すまん。ちょっとしか分からない」

 

「分かってるよ。...でも、今お前が欲しいのはこんな教科書みたいな話じゃないだろ」

 

「...はっきり言って、そう」

 

「だろうな。お前のことだ、明日からどうすればいいかとか考えてるんだろ?」

 

 

 達海は答えられなかった。

 まさしく考えているのはそれだったのだから。

 

 それを弥一も察したのか、少し渋い表情をして言い放った。

 

 

「こればかりはどうとも言い様が無い。何事も無かったように生きるしかないよ。幸い、真昼間からおっぱじめるような馬鹿はいないし、日中は比較的平穏に過ごせる。それに慣れるしかないな」

 

「やっぱり、そうか...」

 

「というかあれだろ? 実際、お前も少し前から能力を発生させてたんだろ?」

 

 

 唐突に弥一が告げた言葉に、達海は固まった。

 自分が長らく思いつめてたことが、あっけなく口にされたのだから。

 

 

「...気づいてた、のか?」

 

「おかしいなとは思ってたんだよ。それを確定させたのがこの間の体育のとき」

 

「あっ...」

 

 

 達海は思い出した。

 調子に乗って変に能力を使ってへまをしてしまったこと。

 

 あれが起点になっていたなんて、思いもしなかった。

 

 

「具体的なのは分からないけど...、さしずめ能力は重力操作だな。これは区分的に3種に入る」

 

「やっぱり、あれはまずかったんだな」

 

「当たり前だ。あんなあからさまな使用、一部の人間はすぐに察すぞ」

 

 

 弥一は少し怒った表情をしていた。そのまま弥一はコーヒーのカップをテーブルにおいて立ち上がる。

 

 

「まず教訓その一。変わらない日常を送りたいなら、むやみに能力は使うな。じゃないと学校内にいる能力者に目をつけられるぞ」

 

「...やっぱり、学校に能力者はいるのか?」

 

「まあな。特に白学にはそういった匂いの人間がいくらでもいる。俺も具体的には分からないけどな。なんなら隣に立っている人間が能力者の可能性もある」

 

「...そうなってくると、ますます日常を送れるのか不安になってくるな」

 

「だから教訓そのニ。とにかく日中出会う相手を詮索しないことだな。こいつは能力者? なんて考え出したらきりが無い。せいぜい確信を持ってからかかったほうがいいな。けど...」

 

「けど?」

 

「お前はそういったことしたくないんだろ? だったら尚更詮索はするな。無理だと思っても、何も無かったように過ごせ。それが、先輩能力者である俺に言えることだな」

 

(やっぱり、そうするしかないんだよな...。忘れろ、忘れることが一番なんだ)

 

 達海はなんとなく光明を見つけた気がした。

 その気のまま口にしてみる。

 

 

「頑張ってみる」

 

「よし、それならいい」

 

 

 決心をした達海を見て少し安心したように弥一はカーペットに座りなおした。

 

 

「しかしまあ、さっきのあいつには驚いたよな」

 

 

 先ほどの体験をすぐ笑い話にできる弥一に対して、達海はまた肩に力を入れていた。

 

「...あいつは、組織の人間なのか?」

 

「さあな。...ただおそらく、あいつもノラだ」

 

「明確に分かる証拠があるのか?」

 

「具体的にはないな。けど、強いて言うとすればさっき言ったとおり両組織の連中は日中にはおっぱじめない。早くて夜の7時半くらいだけど、その時間に始める連中は基本消されることのほうが多い。ましてやさっきみたいな時間に始めるなんてもってのほか。おそらくノラによるノラ狩りだな」

 

「そんなものがあるのか?」

 

 

 弥一は顔をしかめて答えた。

 

 

「俺もこれまでそういうのには遭遇したこと無かったからな。...これでも俺、内心驚いてるんだぜ?」

 

「ごめん、そういう風には見えない」

 

「だろうよ。でもこれが、能力の有無による日常生活のオンオフの賜物って言えばそうなんだぞ?」

 

 弥一の自己肯定に、達海は素直に納得していた。

 ここまで割り切ることが出来れば、多分少しは楽になるんだろうと。

 

 

「...話を戻そうか。とりあえず、今回の襲撃は組織によるものじゃない。でも、俺もお前ももう組織に目をつけられてるのは確か、といったところだな」

 

「そうだよな...」

 

「だから俺からお前に言えることは一つだな」

 

「?」

 

「能力のことは忘れろ。自分が持ってることも、他人を詮索しようとしてることも全て忘れろ。そうすれば、組織も手を引く可能性がある」

 

「なるほど...」

 

 

 いつどこで目をつけられてるか分からない以上、それが一番効果的な話だということは達海も納得していた。

 けれど、一つ納得できなかったことがあるとすれば...。

 

 

「お前は...どうするんだ?」

 

「俺は今までどおり過ごすさ。どうせ目をつけられてることには変わりないし。けど、今までもそうやって生きて来れたんだ。大丈夫だろ」

 

 

 いつも通り。

 そういって楽観的に笑う弥一に達海は安心を覚えた。

 

 達海は手元に持ったままですっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干して、弥一に向けて言い放った。

 

 

「今日、泊まるのOKだよな」

 

「オフコース。...明日休むか?」

 

「いや、朝一で帰って学校行くよ。...少し気分晴れたから、多分大丈夫」

 

「そうか」

 

 

 弥一は満足そうに頷いて、一つ言葉添えをした。

 

 

 

 

 

「俺はいつでもお前の隣にいるからさ、だから安心しろよ」

 

 その一言が、達海には何よりありがたかった。




迷走中ですね。
困ってます。
ここまで読んでいただきありがとうございます
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