亡き明日のアルカディア   作:白羽凪

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学校再開しますね


第四話 蠢き

 

 翌日になった。

 昨日はあの雰囲気のせいで美雨と上手く話すことが出来なかった。

 だから今日こそはと達海は一人燃えていた。

 

 一本早い便で登校し、ただひたすらに氷川が俺の後ろの席に座るのを待った。

 

 始業15分前。美雨が到着する。

 達海は美雨をじっと見つめたまま、落ち着くまでじっと待っていた。

 

 

「...」

 

「...(ジー)」

 

「......。おい」

 

「へっ?」

 

「いつまで見てるんだ、変態」

 

 

 声音の低い美雨の声で達海は正気に戻る。どうやら準備はとうに終わってたみたいだ。

 

 

「ああ、悪い悪い」

 

「全く、なんなんだ。私が入ってきてからというもの、ずっと私しかみていなかったじゃないか」

 

「いやぁ...まぁ、話す機会伺ってたんだよ。状況が落ち着くのを待ってた」

 

「そうならもっと自然でいればいいだろ」

 

「それはそうだな」

 

 

 達海を突き放そうとするために美雨はあえて厳しめな態度を取るが、はっきりと言っていいほど達海には効果が無かった。

 

 美雨も折れたみたいで、ため息を一つついた。

 

 

「はぁ...。もういい。別に特別嫌う理由も無いし。...それで? お前は何を話したいんだ? 悪いが大体極秘の案件だから、出生にまつわるところはほとんど答えれないぞ?」

 

「分かってる分かってる。むしろそれに触れることが怖いんだから。んー...じゃあさ」

 

 

 達海は昨日の千羽との話を思い出した。

 街について思うこと。

 

 外から来たのだ。何か思うところはあるはずだ。

 

 

「この街に来てさ、どんなことを感じた?」

 

「? 意味のなさそうなことを聞くんだな」

 

「氷川はさ、外から来たんだろ? 俺達白飾市民はさ、白飾が世界で一番文明が発展してると聞かされてるし、そう思ってるんだよ。そんな街に外から来たんだ。なら、感想の一つや二つ、あるんじゃないかなと」

 

「感想、か」

 

 

 美雨は少し神妙な顔つきで答えた。

 

 

「なぜかこの街は、生きてると体の奥底から力が湧いてくるような感じがするんだ。なぜだろうな、根拠はないんだ。けど、そんな気持ちだ」

 

「ほーう...」

 

「...なんだ、何か文句でもあるのか?」

 

「全然。聞けてよかったよ」

 

「そう、そうか...。まあ、それならいいんだ」

 

 

 美雨は少し頬を赤らめて、顔を背けた。この反応を見れただけで、本日の会話は収穫ありだ。

 

 美雨も、人間の子なのだ。

 

 少し雰囲気が打ち解けてきたあたりで、達海は昨日の話を挙げた。

 

「そういえば、昨日はびっくりしたよ。自己紹介であんな事言い張るんだから」

 

「...文句が?」

 

 さっきの表情とは一転、美雨は鋭い目つきに戻った。それを察して、達海は慌てて弁明する。

 

「違う違う。そうじゃない。...そうじゃなくて、あれだ。...ああまで言うってことは、何か強い信念か何かあるんじゃないかって勝手に思っただけだ。別にそれが悪いとも思わないし、なんなら強い意志がある人、うらやましいって思うし...」

 

「ふーん」

 

 

 美雨はそれでも疑いの目を向け続ける。

 

「...まあ、特に深い意味なんてない。ただの信条だ。私はな、死んだとき、自分の正義は正しかったって思える生き方をしたいんだ。それだけだ」

 

「だから、曲がったことが嫌いなんだな」

 

「率直に言えばそうなる」

 

 

 そう言い切れる氷川を、達海はますますうらやましいと思った。

 信念を持って生きる。それはまるで自分と対照的な生き方だった。

 

 少なくとも、そんな信念を、達海は持ち合わせていない。

 

「なるほど...。うらやましいよ、そういうの」

 

「お世辞か?」

 

「違う。...そうやって信念を持った生き方、多分俺には出来ない。だから、羨ましいんだ」

 

「そうか」

 

 

 それっきり、お前と話す気はないと言わんばかりに、美雨はあさっての方向を向いた。少しずけずけと入り込みすぎてしまっただろうか。

 

 しかしそれはどうしようもなく、達海はおとなしく前を向きなおした。

 そうして、朝のSHRが始まる。いつもと変わらない一日の始まりだ。

 

 

 

 

---

 

 

 

 

 放課後になった。

 ありきたりな毎日を過ごしていると、本当に一日の大切さを忘れてしまいそうになる。何をやったか、何を話したか、それすらも忘れてしまいそうなのが怖い。

 

 だから、誰かの自分を呼ぶ声には、多少なり敏感になるのだ。

 今日という一日を、何も無かった日にしないために。

 

 そんな訳で。

 

 

「悪い! 藍瀬、今日生徒会の人手が足りないんだ。ちょっと仕事手伝ってくれないか? 埋め合わせは今度するから」

 

 と獅童にお願いされた達海は、現在生徒会室の端に立っていた。

 

「えー、というわけで今日は生徒会メンバーだけでなく、ちょっと外部からの手伝いにも来て貰いました。人数揃ったんで説明始めます」

 

 いつになく真面目そうに零が話し出す。普段からこうすればいいのにと思いながら達海は耳を傾けた。

 

 

 

「クラスでの発表がまだですが、近々、白飾祭(はくしょくさい)が開催されます。これは、白飾の全ての高校による合同の文化祭みたいなものです。まあ、みなさん白飾市民なんで知らない人いないと思うので、知ってる前提で話し進めますね」

 

 

 そういわれて思い出した。

 白飾祭。この街における一番大きな祭りだ。

 運営は高校生合同委員会。各高校の生徒会が合同で作業を行うのだ。

 

 白飾祭の話が出た瞬間、生徒会室内がどよめいた。

 

 この白飾祭は、この街で唯一と言っていいほど、夜が安全な日なのだ。

 誰も消えない代わりに、都市伝説を立証することもできない。全くと言っていいほど何も起こらない日が、この祭りだ。

 

 

 達海も、小さい頃はよく親といっていたのを覚えている。

 

 

 しかし、そんな毎年ある祭ごときで、なぜ生徒会室内が騒ぐのか、達海には納得できなかった。

 その答えは、そこからの零の言葉で解決された。

 

 

「それでまあ...、今年のメイン担当校が、まさかのうちなんですよ。というわけで召集しました。はい、今日はたっぷり働いてもらいます」

 

 さっきまでの張り詰めた空気を一気に切り裂くように、零はトーンからやる気を消した。

 

 

「仕事は大まかに分けて三つ。市内回って広報する係と、学校内で作業進める係、それと、街の重役に挨拶に行く係。まあ、めんどくさい事に私が挨拶に行くのは確定なんで、適当に数名連れてっていきます。拒否権無し。残った人でやりたいほう回ってください。あー、それと、市内広報はツーマンセルで行動、片方生徒会であることを徹底。分からないことは大人に聞け、それじゃ、さっき私に声かけられた人、行くよー」

 

 そうして説明中途半端に、零は部屋から出て行った。

 残されたメンバーが困惑しているが、仕事を決めればいいことだけは分かった。

 

 

 

 

 結局、俺は獅童とふたりで街を回ることになった。

 ポスター交渉、告知、世間話。印象アップのために、あちこち駆け回った。

 

 

 午後5時半になったあたりでさすがに疲れたので、達海と獅童は近場の公園のベンチに腰掛けた。

 

 

「ふいー...疲れた。獅童、まだ回る場所がある?」

 

「...残念ながらな。けど、休憩は休憩だ。今はしっかり休め」

 

 獅童は缶コーヒーのプルタブを開けて、喉の奥にコーヒーを流し込むように飲み始めた。

 

 

「というか、いいのか? こんな時間まで仕事をやってて、まだ終わらないんだろ? 学校に一度帰らないといけない以上、帰る時間、大分遅くなるぞ?」

 

「ん、それは上も重々承知だ」

 

 

 帰る時間が遅くなるということは、次第にリスクが高まるということだ。

 とはいえ、7時8時くらいに家に着くなら、都市伝説の時間と照らし合わせてみても、まだ危険と呼ぶレベルではない。おそらく。

 

 

「まあ、それでも色々怖いと言うなら、俺が送り届けてやらないことも無いが...」

 

「やめとくよ。俺もそこまで女々しくないし」

 

 

 獅童の心遣いはありがたかったが、それでは男の面子が台無しだ。

 昨日ただでさえ桐にズタボロにされたんだ。これ以上の損失は厳しい。

 

 

「まあいい。...しかしまあ零も酷な仕事をさせる。なんで俺らのとこだけこんなに仕事振りが多いんだよ」

 

「ん? 零?」

 

 

 獅童のらしくない姿を見てしまった。

 獅童はあろうことか、一つ上である零を呼び捨てだ。

 

 

(これってもしかして...)

 

 

「あ? ああ、失敬。時島先輩だ」

 

「...」

 

「なんだ、何か俺の顔についてるか?」

 

「...獅童、できてんの? 先輩と」

 

「あいにく彼女を作るつもりは無いんでな。それは違う」

 

 

 獅童に、真顔であっさりと否定されてしまった。どうやら違うらしい。

 

 

「まあいいや。...よし、休憩終わり。獅童、行ける?」

 

「行ける。行かないといけないだろ。時間押してるんだから」

 

 

 満場一致でその場を離れる。

 そのまま二人、会長に押し付けられた仕事を迅速にこなして回った。

 

 

 

 

---

 

 

 結局色々とあり、学校から開放されたのは7時半だった。

 最終便のモノレールに乗って、達海は家付近まで戻ってくる。

 

 

「...あ、晩飯」

 

 真っ直ぐに家へ帰ることを考えてたため、コンビニを素通りしていたみたいだ。

 別に一食抜いたところで人は死ぬわけではないが、今日は食欲が抑えきれない。

 

 せっかくだしということで、裏路地を抜けて飲食店を探した。

 どんどん路地を進んでいく。暗い、暗い道を行く。

 

 

 そうして、気がつけば白飾に似合わない廃ビルが立ち並ぶ空き地に辿り着いてしまった。

 

 

「...こんなところ、あったのか」

 

 ずっとこの街に住んでいたにもかかわらず、全く知らない場所だ。

 どこからとなく不気味な雰囲気が漂う。明らかにおかしいと思える。

 

 

 

 すると、ふと、数名の人影が飛んで現れた。ばれてはまずいと思わず隠れる。

 

 そのまま近くにあった壁に身を隠し、目の前の人間たちを観察する。

 両方30才くらいだろうか、中途半端な距離間で間合いを取っている二人の男がいた。

 

 

(...これ、都市伝説?)

 

 

 一瞬そう思って声が出そうになるが、ここでばれては一環の終わりだとぐっと堪えた。

 

 その瞬間、当たりを強い光が覆った。耐えきれなかった達海は強く目をつぶる。

 

 やがて、視力は徐々に戻ってきた達海は、ゆっくりと目を開ける。

 すると、左隣に自分より一回り小さい女の子が立っていた。

 

 

「...え?」

 

(さっきまでは、いなかったのに...)

 

 

 その少女は俺が困惑して何も言葉に出来ないこと関係なく、口を開いて言葉を紡いだ。

 

 

 

「世界は滅びるよ。あなたは、どうするの?」




受験生の身分なので更新不定期になったら察してください。
ともあれ、ここまで読んでいただきありがとうございます。
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