亡き明日のアルカディア   作:白羽凪

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9話まで挙げます。


第8話 日の当たらない場所

週明けて月曜日、定刻に学校に着き、自席でただぼーっと座っている達海は、ちょいちょいと前の席のほうから自分を手招きしている手を見つけた。

 

 千羽のようだ。

 

 

 

 達海はそれに呼ばれるがまま千羽の元へ向かった。

 

 

 

「どしたんだ? 千羽」

 

 

 

「うん、ちょっと暇でさ。時間をつぶしたい訳なんだけど...」

 

 

 

「話せる相手が俺しかいないって?」

 

 

 

 

 千羽はこくりと頷いた。

 

 

 

 

「ごめんね、私ってこんな性格でさ、こうやってこそこそ何かをするしかないの。だから、友達って言える人も少ない」

 

 

 

「自虐すんなよ。...言えば俺だって、友達は多いほうじゃないし」

 

 

 

 

 達海のその姿勢に、能力を手に入れたことのおごりは全く無かった。

 

 あくまで自分は自分。存在が空気であるままの自分だと、達海は認識していた。

 

 

 

 

「似たもの同士だね」

 

 

 

「だから今こうやって話せる仲なんだろ」

 

 

 

 

 達海は空気を変えるために笑ってみせた。

 

 

 

 

 

「それで? 話したいなんて言ってるんだ。面白い話の一つや二つあるんだろ?」

 

 

 

「うん、そこは。...この前さ、オカルトな本読んでたでしょ? それにまつわる話」

 

 

 

「ははぁ...いいね」

 

 

 

 

 外の世界のオカルトの話だろうか。

 

 自分の知らない世界の話は、ばっちこいだ。

 

 

 

 

「それでまあ色々とあるんだけど...。内と外、どっちの話から聞きたい?」

 

 

 

「そんじゃま、外から」

 

 

 

「分かった。...この間、白飾外の都市伝説にまつわる本を読んだんだけどさ、なにやら神隠しってのがよく起こる地域があるらしいよ。割と近くの町に」

 

 

 

「へぇ...。神隠しって...どんなのだっけ」

 

 

 

「人が勝手にいなくなって、帰ってこなくなる現象。一概に言えばそうだね」

 

 

 

 

 その説明を聞いて、達海はピクリと反応した。

 

 それが、白飾の都市伝説と呼ばれるものの説明に近かったから。

 

 

 

 

 達海はおそるおそる千羽に尋ねてみた。

 

 

 

 

「それって...この街でも起こるのか?」

 

 

 

「...いや、起こらないでしょうね。神隠しっていうのは、文字名のとおり神による仕業だと考えられているからね。そういうのは大体神社とかがある地域で多いそうなのだけど、この街に神社は無いから」

 

 

 

「ああ、そういえば」

 

 

 

 

 白飾は少々外の街と様子が違う。

 

 白飾に神社がないのもその一つ。

 

 

 

 

 達海は、神社というものの存在を、せいぜい本でくらいしか認識できていなかった。

 

 

 

 

「怖いもんだな。急にいなくなるって」

 

 

 

「まあ、あくまで言い伝えだし、全く同じ現象が起こらない白飾には関係がない話だね。じゃあ次、内の話、いく?」

 

 

 

「どうぞ」

 

 

 

 

 内、というのはおそらく白飾市内の話だと、達海は予測をつけた。

 

 であるならば、自分の知りたい話が飛んでくるかもしれない。

 

 

 

 

 そう身構えていると、千羽は躊躇いなく話し出した。

 

 

 

 

「この街にはね...能力者と呼ばれる人間が存在するらしいよ」

 

 

 

「...!!」

 

 

 

 

 能力者という言葉を聞いて、達海は先ほどよりも大きく身を揺らした。

 

 そして次に、自分の正体がばれたのではないかと肝を冷やす。

 

 

 

 

 しかし、千羽は表情も身体も、何も動かない時間が少しあっただけで、すぐに話を戻した。

 

 

 

 

「まあ、見たって言う人間はおそらくこの学校にはいないし、一種の都市伝説だと思うけどね。私も見たことはないし」

 

 

 

 

 達海は、とりあえず自分のことを問いただされなかったことにほっと一息ついた。

 

 

 

 

「千羽は、それ、信じてるのか?」

 

 

 

「うーん...、分からないけど、この街なら、って思うな。白飾っておかしいからさ、そんな話があっても不思議じゃないとは思う」

 

 

 

「なるほど」

 

 

 

 

 非日常に足を踏み入れていないころの達海なら、同じようなリアクションを取れたかもしれない。

 

 

 

 けれど、そういったリアクションが取れないところまできてしまった達海は、もう自分は戻れないところまできてしまったのかもしれないと、心の底でそう思った。

 

 

 

 

「...はい、私のネタはこれでおしまい。どうだった?」

 

 

 

「興味をそそる内容だったな。というか、親近感ありそうで怖い」

 

 

 

「ふふっ」

 

 

 

 

 千羽が笑って、手元にある本を手に取った。

 

 その瞬間、野沢先生が教室に入ってきた。

 

 

 

 ひょっとして、このタイミングを完璧に分かっていたのだろうか。

 

 

 

 

 そんなどうでもいいことを思いつつ、達海は席に戻った。

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

~Side S~

 

 

 

 

「...先生」

 

 

 

 千羽は、人のいなくなった教室の外れに聖を呼んだ。

 

 

 

「あら、どうしたの? 千羽さん」

 

 

 

「...近々、重役で話をしたほうがいいかと。お父様にも、そう伝えてるから」

 

 

 

「...承知しました。提案を出しておきます」

 

 

 

 

 これは、達海の知らない話。

 

 誰も知らない、闇の話。

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

 

「...なぁ、達海。どうして俺らのクラスは午後に体育が多いんだ?」

 

 

 

「それも五限目にな。そんなもん知らんけど」

 

 

 

 前日に引き続き、この日も食後の五限目は体育だった。

 

 また小塚の下で授業を受けなければならないと思うと、自然に達海のテンションは下がっていった。

 

 

 

 

「次! 藍瀬! 新妻!」

 

 

 

 野太い小塚の声が耳を打つ。

 

 

 

 

「おうおうおよびなことで」

 

 

 

 

 先日に続き今日もグラウンドでの体育。競技は走り幅跳びだった。

 

 線を一本引いたのを境目にレーンが2つ。それを隔てて達海と弥一は並んだ。

 

 

 

「よし! はじめ!」

 

 

 

 

 笛とともにお互い走り出し、助走をつける。

 

 

 

(あまり飛びすぎると目をつけられるな...。上手く調整した記録を出したいんだが...)

 

 

 

 達海の頭の中は、空中にいるときの重心のあり方で精一杯だった。

 

 

 

 

(助走は変に力を入れずに...、なるべく低く飛んで、最後は重力で強く地面に引っ張る...!)

 

 

 

 その時、達海の感覚から、また音が消えた。

 

 

 

 

(くそっ! また...!)

 

 

 

 

 昨日小塚が口にしたゾーンという言葉が頭の中を過ぎる。

 

 その一瞬、先ほど構築したはずの重力を動かすタイミングが、わずかにはやまった。

 

 

 

 

 ドシャァ! と音を立て、達海の足は砂場を削れる。

 

 その時、身体を襲った痛みで達海は我に帰った。

 

 

 

 

「...いって!」

 

 

 

 見れば、足が変な方向を向いて着地していた。

 

 達海はなんとか立っては見るものの、明らかに歩くフォームが崩れていた。

 

 

 

 

「...おい藍瀬、お前...どこか痛めたか?」

 

 

 

「へ?」

 

 

 

 顔を上げると、心配そうに小塚が達海の顔を覗いていた。

 

 

 

「えーっと...そうですね...。はい。足を少し」

 

 

 

「やはりな...。着地姿勢が完全に崩れていた。さしずめ捻ったんだろう。一応保健室に行っておけ」

 

 

 

「いや、これくらいなら休めば...」

 

 

 

 達海がそう言うと、小塚は厳しめの表情を見せた。

 

 

 

 

「捻挫はちゃんと治さなければ癖になるぞ。地味かもしれないが確かな怪我だ。具合のほう、朱鷺沢ときさわ先生に見てもらえ。歩けないなら新妻でも連れてきゃいいだろ」

 

 

 

「...はい、分かりました。...弥一、頼める?」

 

 

 

「OKでさぁ。それじゃ先生、行ってきます」

 

 

 

「おーう新妻、お前は戻って来いよ?」

 

 

 

「ですよねー」

 

 

 

 

 弥一はサボろうとしていたのを見抜かれ、バツが悪そうに舌を出した。

 

 

 

「んじゃ、行きますか」

 

 

 

 弥一に肩を貸してもらい、保健室まで歩いていく。

 

 その道中、達海は、うまく制御も出来ない力を、変に使ってしまったことをただひたすら後悔していた。

 

 

 

「なぁ弥一、さっきの...」

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「いや...」

 

 

 

 それが外から見てどれだけ不自然だったか知りたがるが、怖さも混じり、聞きだせずにいた。

 

 

 

 しかし図らずも、弥一はそれを口にする。

 

 

 

 

「しっかしまあ、さっきのお前、相当おかしかったぞ?」

 

 

 

「...どんな感じに?」

 

 

 

「助走は普通だったんだけどよ、飛んでる時、低く飛んでた割にはなかなか落ちないし、なかなか落ちないと思っていたら今度は急に不自然に落下するし...。そりゃ、あんな感じで足捻っても不思議じゃねえよ」

 

 

 

「やっぱり、そんな感じか」

 

 

 

(やっぱり、想像どおり変なことやってたんだな...。今後、体育で変に意識するのは控えようか)

 

 

 

 そんなことを思っているうちに、二人は保健室についた。

 

 

 

 

「ま、大きな怪我じゃなさそうだし、しっかり休め。俺は帰らないと小塚に怒鳴られるからなぁ...」

 

 

 

「分かった。ありがとな、弥一」

 

 

 

「いいって事よ。それじゃあな」

 

 

 

 

 そう言って弥一は足早にグラウンドに戻っていった。一人残された達海はコンコンとノックし、保健室のドアを開ける。

 

 

 

 

「すいませーん」

 

 

 

「あら、えーっと...、藍瀬君。どうしたの? 怪我?」

 

 

 

「えぇ、まあ...」

 

 

 

 

 保健室を身体測定でしか利用しなかった達海は、養護担当の、朱鷺沢ときさわ 響きょうに名前を覚えられていたことに内心驚いた。

 

 

 

 しかしそんなことお構いなしに朱鷺沢は話を続けた。

 

 

 

 

「...ふーん、捻挫ね。とりあえずこっち来て」

 

 

 

「え、この距離で捻挫って分かるんですか?」

 

 

 

「まあね。気だるそうにしてないから体調不良じゃないし、目立った外傷もない。考えれるのは捻挫や肉離れくらい。それで、君は今一応普通に立って入れてるから肉離れは無いと。そうやって削っていけばそれくらいはね」

 

 

 

 

 少々ドヤ顔で朱鷺沢は解説を行った。

 

 

 

「というわけで、来なさい」

 

 

 

「はぁ...」

 

 

 

 ぽんぽんと朱鷺沢は自分の隣の椅子を叩く。達海はその指定された席に着いた。

 

 そのまま朱鷺沢は達海の足を掴んでじろじろと眺めた。

 

 

 

「...ふーん、なるほど...」

 

 

 

「えっと...どうなんでしょう?」

 

 

 

「軽症よ。全く問題ないわ。とりあえず、この時間ここで休んだらそこそこ治るわ。処置も何にもいらない」

 

 

 

「そんなんでいいんですか...?」

 

 

 

「医者がいいって言ったら問題ないの。ノープロブレム」

 

 

 

「は、はぁ...」

 

 

 

 養護教論がこんなのでいいのかと思いつつ、達海はため息をついた。

 

 

 

「と・こ・ろ・で」

 

 

 

「?」

 

 

 

「この時間、保健室利用者がいないの。休んでる人もいないし、ベッドは全部空いている」

 

 

 

「はぁ...。それで?」

 

 

 

「というわけで...しない?」

 

 

 

「...!?」

 

 

 

 

 達海はごくりと息を飲んだ。

 

 

 

(まさかこれは、えっちぃ展開のやつ...!?)

 

 

 

 

「お話」

 

 

 

「...は?」

 

 

 

「だってさ、暇なんだもん。誰もいない保健室で一人じっとしてるの。一応業務中だから変に携帯端末弄れないし。だから、お願い?」

 

 

 

「...はぁ、分かりました」

 

 

 

 

 

 結局、達海の残りの時間は、朱鷺沢との世間話に費やされるのだった。




個別まで遠くてしんどい。
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