月一試験当日。僕自身は何の問題も無く(もちろんデッキを間違える、何てこともしていない)試験に臨んでいた。そう、僕は問題無いんだ。問題なのは…
(なんで十代の奴はまだ来てないんだよ…!)
試験時間を半ば過ぎても、一向に十代が教室に来ない事だった。
(昨日メールで「明日は絶対寝坊すんな」って忠告しといたのになあ…)
時計を見ると、途中退出可能時間まで1分を切っていた。今から呼びに行けば、ギリギリ間に合うかもしれない。まあ、名前書いて記号問題だけ適当に埋める位だろうが。
解答用紙を裏返し、机の上を手早く片付け、時間が来ると同時に教室から出る。
(まだ見直し終わって無かったけど、まあいいや。もしまだ寝てたなら、叩き起こしてやらないと)
だがその考えは杞憂に終わった。寮とアカデミアの途中にある坂道で、車を押している十代を見つけたからだ。
「ちょっ!十代何してんの!もう筆記試験終わるよ!」
「んぎぎ…お?おう!連夜!丁度いい所に!何かこの車エンストしたらしいんだ!手伝ってくれ!」
「あー、もう!分かったよ!ほら、十代ももっと力入れて!」
どうせ先行けって言っても聞かないだろうから、協力してさっさと終わらせるのが得策だ。…さっき「力入れて!」って言った時、「足を踏ん張り腰を入れぇぇい!!」と言いそうになったのはナイショだ。
二人で車を坂の上まで押し上げ終えると、十代は「サンキュー連夜!じゃ!」とだけ言って教室に走って行った。
「あら、もう行っちゃったのかい?あの子。後でお礼しないとねえ。君もありがとう。助かったよ」
「ああいえ、構いませんよ。元々十代を呼びに来たんですから。ところでその車、エンストしたそうですが、どの様に?」
「何かねえ、坂道登ってたらスーッとエンジンが止まっていったんだよ。その後で何回もエンジンかけようとしたんだけど、ウンともスンとも言わなくて」
「ふむ…ちょっと失礼」
一言断って、車を調べ始める。
「何をするんだい?」
「ちょっと原因究明を…燃料ポンプは…故障してないな。フィルターも燃料ホースも特に詰まってない…となると」
〜10分後〜
「これでよしっと…エンジンかけてみてください」
僕の言葉に、恐る恐るといった様子でエンジンをかける。すると、ドルルルルッ!とエンジン音が響く。
「よかった。どうやら点火プラグが緩んでた様です。一応締め直しましたが、これは専門の人に見て貰った方がいいですよ」
なんで僕が工具一式を常備してるかって?デュエルディスクの調整とかあるんだよ。色々と。
「本当にありがとうねえ。私は購買部で働いてるから、いつでも来てちょうだい。あの子にもお礼したいしねえ」
「いえ、お気になさらず。それでは僕はこれで」
言い終えると同時に学校のチャイムが鳴る。筆記試験が終わった様だ。
軽く頭を下げ、その場を離れる。さて、十代の奴、ちゃんと問題解けたのかな?
「…なんて、考えてたんだけどなあ…まさか寝てたとは」
結論→間に合ったけどほぼ意味無し
「う、わ、悪りぃ。問題見てると眠くなっちまうんだよ」
「問題見たら、どころか授業中も寝てるっすけどね、アニキの場合」
「そのうち勉強の2文字で寝そうだな」
ほら、翔くんも三沢っちも呆れてる。
「まあ、もう終わった事だしそれは置いといて、何でこんな人少ないの?」
教室に残ってるのは、辺りを見回しても僕等以外ほとんどいなかった。
「ああ、どうやら購買部で最新パックの発売があるらしいな。みんな午後の実技試験に向けて、ちょっとでもデッキを強化したいんだろう」
「そ、それ本当っすか!?急がないと!アニキ達はどうするっすか?」
「俺は今のデッキを信頼してる。新しいカードは必要ない。とはいえ興味はあるから俺も着いて行くとしよう」
「僕も同意見」
「俺もだ!どんなカードがあるかワクワクするぜ!」
「んじゃ皆で行こう。早くしないと売り切れちゃうかもしれないしね」
「それは困るっす!アニキ、急ぐっすよ!」
「おう!どんなカードが出るか楽しみだぜ!」
「元気だねえ、最近の若い子は」
「お前も同い年だろう」
僕と三沢っちはのんびりと十代達の後を追うことにした。
「「う、売り切れ〜!?」」
「ごめんなさい。先程あるお客様が最新パックを全部お買上げになられて、品切れなんです」
「そ、そんな〜」
「誰だよ、そんな事する奴」
「あれ?どったの?十代」
「ああ、連夜か。実はな…」
追い付いた僕と三沢っちに十代が事情を説明する。
「何と言うかまあ…すごいね、色んな意味で」
「全くだ。今更そんな沢山のカードを仕入れても、十分に把握出来ないだろうに。そもそも、DP制度があるとはいえ、よくそれだけのカードを買えたものだな」
ここ、デュエルアカデミアには、DP制度というものがあり、このDPはテストの成績や、実習デュエルの結果なんかで増やすことが出来る。溜まったDPはカードパックから食品、文房具や生活用品などと交換できる。学生にとってありがたいシステムなんだが、それを踏まえても新作パック全部というのは、いささか疑問が残る。
「ま、売り切れたもんはしょうがない。今日のところは諦めるんだな」
「はあ〜。仕方ないっすね」
「くっそー、次入荷した時は絶対手に入れてやる!」
そう言って悔しがっている二人の後ろから、こちらを呼ぶ声が聞こえた。
「あら、あんた達ちょうどいい所に」
「あ、トメさんじゃないか。車大丈夫だったか?」
「ええ、そこの彼が見てくれたおかげでね」
「?何かあったのか?」
「うん。さっきの筆記試験の時にちょっとね」
「そういえば連夜くん、途中退室してたっすね」
「そうそう、あんた達が来ると思ったから、これ、取っといたのよ」
そう言ってトメさんが僕と十代にカードパックを渡した。
「これってまさか最新パック?売り切れたはずなんじゃ」
「言ったでしょう?あんた達が来ると思ったから取っといたって。さっきのお礼よ、受け取ってちょうだい」
「サンキュー!トメさん!」
「すみません、わざわざ」
「いいのよ、それにオシリスレッドなんだから、レアカードの一つでも持ってないとねえ」
「連夜くんはレアカード人にあげる位持ってるっすけどね…」
「気持ちの問題だよ。じゃ、早速開けてみようかな」
パックを開封し、中のカードを取り出す。
「えーっと、『ワンチャン!?』、『王宮の鉄壁』、『ワイトプリンス』、『レベルスティーラー』に『ワン・フォー・ワン』…なんかレベル1関係のカードばっかだな。やたら実用的だし…そっちはどうだ?十代」
「見ろよ連夜!俺の相棒のカードだ!」
「『進化する翼』か。十代ハネクリボー持ってたんだ」
「ああ。俺の相棒だぜ!」
「いいなあ、二人ともいいカードが出たみたいで」
「ふ、幸先が良いのは確かだな。…おい連夜。お前今そのカード使ったデッキ考えているな?」
なぜバレた!?三沢っちはエスパーか!?
「顔に出ていた。新しいデッキもいいが、今は次の実技試験に備えたらどうだ」
「うう、不安で胃が痛くなってきたっす…」
「そうかあ?俺は今から楽しみでしょうがないぜ!」
「俺も特に問題は無いな」
「右に同じく」
「うう、その自身が羨ましいっす…」
「翔くんはもっと自分に自信持ちなよ」
「そうだぜ翔!当たって砕けろだ!」
「十代、砕けたらだめだろう…」
「あれ、本当だ。まあとにかく、皆で良い結果残そうぜ」
そう十代がまとめ、皆で気合を入れてそれぞれの名前が呼ばれるのを待った。
そして、実技試験でついに僕の番になったんだが、僕の相手というのが…
「ふん!オシリスレッドの落ちこぼれなぞ、この俺が叩きのめしてくれる!」
「…お手柔らかに」
なぜかブルーの生徒だった。話を聞くと、なんでもブルーの万丈目という生徒が、レッド生の十代に勝負を挑んだため、お互いの相手をする予定だった生徒があぶれてしまったため、僕の方もレッド生徒とブルー生徒がデュエルすることになったらしい。…せっかく十代と公式戦できるはずだったのに。
「本来ならば、俺は万丈目さんとやる予定だったんだ。それがいきなりレッドの落ちこぼれとデュエルしろときた。こんな奴倒した所で何にもならんというのに」
イラッ
「正直全力を出すまでも無いが、かかって来い、相手をしてやる」
イライラッ
「まあ、俺の足元にも及ばんだろうがな。笑い話くらいにはしてやる」
ブチッ!
「なんだ、ビビって声も出ないのか?まあいい、いくぞ!」
「デュエル!」「…デュエル」
「ねえアニキ、連夜くんの体からドス黒いオーラが見えるのは気のせいっすかね?」
「安心しろ、翔。俺にも見えてる。相棒もすんげえ怯えてる」
「俺もだ。あんな連夜は初めて見る。何というか、アレだな、これは」
「「「普段大人しい人を怒らせると怖い」」」
「先行は俺だ!ドロー!俺は『ゴブリンエリート部隊』を攻撃表示で召喚!カードを1枚伏せてターンエンドだ!」
「僕のターン、ドロー。…カードを1枚伏せて『手札抹殺』を発動。お互いは手札を全て捨て、捨てた枚数分デッキからドローする」
「は、しょっばなから手札交換とはな!ろくなデッキじゃねえようだな!」
「…手札の『インフェルニティ・デーモン』の効果発動。自分の手札が0枚の時にこのカードをドローした時、このカードを見せることで特殊召喚出来る。インフェルニティ・デーモンを特殊召喚。さらに手札から『ナイト・ショット』を発動。相手フィールド上のセットされたカードを破壊する」
「ちっ!スキルドレインが…」
「永続魔法『インフェルニティ・ガン』を発動。1ターンに一度、手札のインフェルニティと名のついたモンスターを墓地に送ることが出来る。『インフェルニティ・デストロイヤー』を墓地に。カードを1枚伏せて『インフェルニティ・ミラージュ』を召喚。ミラージュの効果発動。自分の手札が0枚の時、このカードを生け贄にすることで墓地のインフェルニティと名のついたモンスターを2体特殊召喚出来る。『インフェルニティ・デストロイヤー』と『インフェルニティ・ビースト』を攻撃表示で特殊召喚。さらに先程伏せたリバースカードオープン、『おろかな埋葬』。デッキからモンスターを1体墓地に送る。『インフェルニティ・ジェネラル』を墓地に。さらにインフェルニティ・ガンのもう一つの効果発動。自分の手札が0枚の時、このカードを墓地に送ることで墓地のインフェルニティと名のついたモンスターを2体特殊召喚出来る。『インフェルニティ・ジェネラル』と『インフェルニティ・アーチャー』を攻撃表示で特殊召喚」
「そんな…バカな…たった、たった1ターンで5体のモンスターを召喚するだと?あり得ない…」
「バトルフェイズ。インフェルニティ・デストロイヤーでゴブリンエリート部隊を攻撃。『インフェルノ・デストロイ・ナックル』」
ブルー生徒LP 4000→3900
「インフェルニティ・デストロイヤーの効果発動。自分の手札が0枚の時に相手モンスターを戦闘によって破壊し、墓地に送った時、相手に1600ポイントダメージを与える」
「な!ぐああああ!」
ブルー生徒LP 3900→2300
「残りの全モンスターでダイレクトアタック」
「ま、待て!う、うわああああああ!!!」
ブルー生徒LP 2300→−4800
「う、嘘だ…オベリスクブルーのこの俺が、オシリスレッドの落ちこぼれなんぞに負けるなんて…認めない、認められるはずがない」
床に手をつき、嘘だ、あり得ない、マグレに決まってる、と未だにブチブチ言っているブルー生徒をほっといて、さっさとデュエルフィールドを後にし、十代達の元へ戻る。
「いやー、暴れた暴れた。スッキリしたー」
デュエルしてた時とは打って変わって晴れ晴れとした表情だった。
「お疲れさん。昨日見たから分かってはいたものの、やはりあのデッキの爆発力は恐ろしいものだな。1ターンで初期ライフの倍以上削るなんて」
「いやー、思った以上に回ってくれたよ。後攻ワンキルも決めれて、気分爽快ってね」
「僕、連夜くんが怒ってるとこ初めて見たっす」
「俺もだ。やっぱ怒る時はちゃんと怒るんだな」
「そりゃあんだけ言われれば誰だってブチ切れるってもんですヨ」
「確かにな。こう言ってはなんだが、連夜があのブルー生徒をワンターンキルした時はスカッとしたよ。ここにいるレッドやイエロー生徒の大勢が同じ気持ちだろう」
「「それは言えてる(っす)」」
どうやら皆同じ気持ちだったらしい。
「よっしゃ!次は俺の番だ!」
十代が掌に拳をバシッと叩きつけ、気合いを入れて立ち上がる。
「勝ちなよ、十代」
「へ、当然だぜ」
「相手はブルーの中でもトップクラスの実力者だ。さっきの連夜のようにいくと思うなよ」
「僕も応援してるっすよ!アニキ!」
「ああ!任せておけ!」
皆の激励を受け、十代はデュエルフィールドへと向かって行った。
「コレでお互いのライフは1000ずつ。なあ万丈目!ここで俺が攻撃力1000以上のモンスターを引けたら最高に面白えよな!」
「何を戯言を!そんな簡単に…」
「さあ、それはどうかな!俺のターン!ドロー!…よっしゃ!俺はこのカードを召喚だ!来い!『E・HEROフェザーマン』!」
「な、バカな!」
「フェザーマンでダイレクトアタック!『フェザーブレイク』!」
「ぐっ…俺が、この俺がオシリスレッドごときに…」
「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」
ビシッと決めゼリフ&決めポーズまでして、十代がこちらに戻ってくる。
「へへっ、どうだ、ちゃんと勝って来たぜ」
「さすがアニキっす!ブルーのトップ相手にあんな勝負が出来るなんて!」
「途中どうなる事かとヒヤヒヤしたが、土壇場での引きの強さは相変わらずだな」
「しかも最後に引いたのが攻撃力1000ジャストのフェザーマンだもんね。ホント、さすがとしか言いようが無いね」
「へへっ、まあな!」
皆で十代の健闘を讃えていると、頭上から声が聞こえた。
「見せて貰いましたよ、遊城十代くん。君のデッキへの信頼感、モンスターとの熱い友情、そして何より勝負を捨てず、最後まで諦めることのないデュエル魂。それはここにいる全ての生徒が認めるものでしょう。よって、勝者である遊城十代くん、君はラーイエローへ昇格です」
瞬間、観客席からの歓声が会場に響き渡った。辺りを見渡すと、誰もが(一部ブルー生徒を除く)が十代の事を称賛している。
「そして天城連夜くん」
「うぇ!?」
「君の卓越したデッキ構築、正確なプレイング、そして常に落ち着いて状況を把握する事の出来る冷静さ。君の実力もまた、十代くんに勝るとも劣らないものです。よって君もラーイエローへ昇格です」
再び歓声が沸き起こる。先程十代を讃えていた人達が、今度は僕に称賛を送ってくれる。
「アニキも連夜くんも凄いっす!オシリスレッドから2人も昇格するなんて!」
「ふ、2人の実力なら当然と言えるだろう。だがあえて言わせてもらう。おめでとう、2人とも。そしてようこそラーイエローへ」
「俺も、お前は絶対昇格するって思ったぜ!」
「うん、ありがとう、みんな。十代もおめでとう」
「でも、これでレッド寮も寂しくなるっすね、いきなり2人も減っちゃうんすから」
「ん〜、それはどうかな?」
「?どういうことっすか?連夜くん」
「にしし、すぐわかるよ。きっと」
「やっほー、ただいま」
「ういーっす」
「アニキに連夜くん⁉︎何でココに⁉︎イエローに昇格したんじゃなかったの⁉︎」
「何でも何も、ここが俺の部屋だからな!俺はレッド寮が気に入ってる!燃える炎!熱い血潮!情熱の赤!まさに俺にピッタリだぜ!今更変わる気なんて更々無いぜ!」
「あはははは!いかにも十代らしい理由だ!」
「そう言う連夜は何で残ったんだよ?」
「僕は一つ決めてあることがあるんだよね」
「「決めてあること?」」
僕は十代に向けてぐっと拳を突き出す。
「君に公式戦で勝つ。それが目標だ。それを成し遂げるまでは、僕はここを離れる気は無い。本当は今日達成したかったんだけどね」
「へ、成る程な。いいぜ、受けて立つ!」
突き出された僕の拳に十代も拳をぶつける。
「じゃあアニキも連夜くんもここから出て行かないんすね〜。よかったよ〜」
「うわ!おいコラ!くっつくな翔!」
「うえ〜ん、どこまでも着いて行くっすよ〜アニキ〜」
「だー!分かったから離せって!」
そんな2人の様子を笑いながら思った。もう暫くは、この空気を楽しんでいたいと。
オマケ〜デュエル終了時〜
ブルー生徒をフルボッコし終わった後の三沢っちとの会話
「そういえば、最後に伏せてあったカードって何だったんだ?」
「ああアレ?『インフェルニティ・バリア』だよ」
インフェルニティ・バリア
カウンター罠/自分フィールド上に「インフェルニティ」と名の付いたモンスターが表側表示で存在し、自分の手札が0枚の時に発動出来る。相手の発動した効果モンスターの効果、魔法、罠の効果を無効にし、破壊する。
「ちなみにさっき確認したら、デッキの1番上のカードが『大嵐』だったよ」
「…あのターン凌いでもどのみちほぼ終わりだったんだな…」
終わり
どうも。図1のようになります。です。今回使用したデッキはシンクロ、エクシーズの無いインフェルニティです。もしこの世界にシンクロやらエクシーズがあったら…確実にもっと凄惨な結果だったでしょうね。気軽に人を挑発するのはやめましょう。
さて、次回はついにあの方のご登場です!主人公のデッキ何にしようかなあ…。それではみなさんまた次回!