ありふれない解放者は世界どこでも最凶   作:マイティージャック

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遅くなりました。言い訳はしません。
それではどうぞ!


七代迷宮【氷雪洞窟】後編

 

 

視界を染めた輝きが収まり、侑李はゆっくりと目を開く。そこは二メートル四方のミラーハウスのような細い通路だった。

 

 

「……分断されたか」

 

 

自分しかこの場にいない事に侑李は軽く溜め息を吐く。迷宮のコンセプトからこうなる可能性が濃厚だったので、侑李はそのまま前に向かって進み始めていく。もはや鏡と言っていい通路を歩いて十分ほど経った頃、侑李は中央に天井と地面を結ぶ巨大な氷柱のある大きな部屋に辿り着いた。円柱型の氷柱も、鏡のように侑李の姿を反射している。

 

 

「ここが到達点か……となると……」

 

 

侑李は独りごちながら、その氷柱へと歩み寄っていく。直径が大きいので、正面から相対しても歪曲することはない。あずき色の短髪、鬼人(オーガ)族の代紋が入った濃紺のダンダラ模様の部分を白色に染めた羽織を纏い、下に白の長着と黒の袴を着て、ブーツを履いた侑李の姿を綺麗に映し出す。

 

 

「……ふっ。世紀末スタイルもいいが、こっちの方が落ち着くな」

 

 

改めて、自身のファッションを満足そうに、再確認する侑李。そんな侑李の耳に、既に聞き飽きた声が届いた。

 

 

『いや、そうじゃないし、そこじゃないだろ』

 

 

「……やっぱり出て来たか」

 

 

侑李は目を細めて声が聞こえた方に顔を向ける。氷柱に映っていたのは、呆れたように目を向けて、額に手を当てている姿の侑李だった。

 

 

『さすがお前(オレ)だな』

 

 

「今までのことを考慮すれば当然だろ。“己の負に打ち勝つ”、それがこの大迷宮のコンセプトなら尚更、な」

 

 

侑李は真っ直ぐに負の自分自身に向けて言い放つ。ここに到達するまでの挑戦者の情報を読み取り、自らの汚い部分を根幹とした存在をぶつける。そして、それに勝つことこそが、この【氷雪洞窟】の最終試練であり、攻略が認められる絶対条件なのだと。

───己の心の弱さを(クソッタレ)につけ込まれないようにするために。

 

 

『正解だ。オレはお前の負の感情のみで構成されている。つまりオレはもう一人のお前だ』

 

 

氷柱の中の侑李はわざとらしく称賛の拍手を送る。対する侑李はこんなにも苛つくんだな、と複雑な気分で睥睨していた。氷柱の侑李が拍手を止めると、その色が変わり始めていく。蒼かった目が真っ黒に染まり、全身が白くなっていく。あずき色の髪は薄い金髪に、肌も褐色に染まっていく。前世の自分を見ている気分である。その間、侑李はただ只管に黙って見ていた。

 

 

『ははっ、やっぱり流石だな』

 

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、虚像の侑李は氷柱から足を踏み出す。すると、氷柱から波紋が広がり、フィクションの怪物の如く現世へと姿を現した。

 

 

『さて、そろそろ殺り合おうか?』

 

 

氷柱から出てきた虚像の侑李はそう言って、拳を構える。その構えには一厘の隙もなく、侑李も無言のまま、自身の虚像を見据えて同じく拳を構える。互いに殺気と覇気を放ち殴り合う。虚像は能力だけでなく、技術まで再現されている。そして互いの拳が放たれたその時、赤黒い稲妻を発生させ、衝突する二人の覇気。その覇気は【氷雪洞窟】どころか【シュネー雪原】全体に広がる二人の覇気。周囲の氷壁は、まるで最初から無かったかのように粉微塵に砕け【氷雪洞窟】が悲鳴をあげる。放たれた拳はぶつかり、拳同士が押し込め合っている。侑李は瞬時に無双ドーナツを展開させる。対する虚像の侑李も瞬時に無双ドーナツを展開し、相殺する。相殺された瞬間に侑李は砂漠の金剛宝刀(デザート・ラ スパーダ)を放つも、虚像の侑李は砂漠の大剣(デザート・グランデ・エスパーダ)放ち、苦もなく相殺して難なく防ぐ。防がれた瞬間に、は丸モチを放つも、虚像の侑李は力餅で迎え撃ち、互いの拳がぶつかり合った瞬間、轟音と共に互いに弾かれあって距離を大きく取る。

 

 

『本当に強いな、お前(オレ)。もう、人が持てる力の域を越えてるよな?』

 

 

「…………」

 

 

侑李は九頭餅で虚像の侑李に面制圧をしかける。虚像の侑李は慌てることなく、飛び上がりながら展開した無双ドーナツで同じく九頭餅を放ち、相殺する。

 

 

『怪物じみた力に血に濡れた手、殺しを躊躇わないお前(オレ)の姿を見て……彼奴らはどう思い、何て言うんだろうな?』

 

 

「…………」

 

 

侑李は黙って砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)を放ち、同時に力餅で挟撃する。全く同時に砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)が放たれ、力餅も相殺される。

 

 

お前(オレ)は此処に戻って来てから、いや……彼奴らに出会ってからずっと考えていた』

 

 

「…………」

 

 

『拒絶されたどうしよう、化け物と言われるかもしれない、仲間と思われてないかもしれない、てなァ』

 

 

侑李は虚像の侑李の言葉を黙って聞いていた。

 

 

『そうさ!所詮、中途半端の怪物に仲間なんていやしない!お前(オレ)を一生理解してくれる奴なんて現れない!そうやってお前(オレ)は孤独になり、無惨に死んで逝くんだよ!』

 

 

今まで黙って聞いていた侑李は、ようやく口を開く。その第一声は

 

 

「…はぁ」

 

 

落胆のため息だった。

 

 

『………なんだと?』

 

 

「どうもこうも、おめぇは所詮、負の側面に過ぎないってことだよ。俺の全部を知ってるだぁ?寝ぼけた事を抜かしてんじゃねぇよ。だいたい、そんなもんユリウス(前世)の時からずっと考えてたよ。それをまぁ、今更言われて取り乱すわけもねぇし、何ならもっとディープな事を言われるもんと思って構えてたら、これだ。正直に言ってがっかりだよ。確かにおめぇが言ってるで悩んでいた。拒絶される恐怖を抱いていた。だが、それは当たり前なんだよ。生きてりゃ、何度も直面する現実だ。なら、それと真っ直ぐ向き合わなくちゃならねぇ。過去を糧に、未来へ……前に進んでこそ、望みは掴めるもんだからな」

 

 

 

『だが、お前(オレ)は──』

 

 

「そもそも、答えならとっくに出てるしな」

 

 

『フフフフフ!!!……まったく、敵わないねぇな……お前(オレ)

 

 

虚像の侑李は急に笑いだした。一分くらい笑い続けると侑李の方を向き、拍手をしだした。そして

 

 

『流石だな。試練をやる意味がなかったのだが、一応出して見た物のやはり意味はなかったな。合格だよお前(オレ)。あとは頼んだぜ』

 

 

そう言って虚像の侑李は溶けるように消えていった。それを見た侑李は

 

 

「自分に言われるのってのは変な気分だな」

 

 

何とも言えない表情()をしながら奥へ進んだ。

しばらく奥へ進むとミフネと合流した。

 

 

「その様子だと無事に合格できたようだな」

 

 

「勿論よ。今更あんな事を言われた所で折れる私じゃないわ」

 

 

二人はその後も会話を続けながら奥へと進むと、そこには精緻で複雑な魔法陣が輝き出していた。

 

 

「……やっとゴールか」

 

 

「ここまで長かったわね」

 

 

魔法陣の上に乗り最深部に転移する二人。二人の目の前に広がったのは視界を染め上げた光が晴れると、そこは幾本もの太い円柱形の氷柱に支えられた綺麗な四角形で、純水で出来ているような透き通った氷で構成されている広い大空間だった。更に、地面には大量の湧水によって水に溢れかえっている。この空間はそれほど低温でないことが窺える。そして、対面には巨大な氷の神殿がある。間違いなく、解放者(ヴァンドゥル)の住処だろう。ミフネは目の前に広がる大空間に芸術に圧倒され魅了されていた。

 

 

「…………すごい」

 

 

「(相変わらず、すげぇな。オスカーの所も楽しみだな)」

 

 

侑李は懐かしみながら、ちょっと期待していた。その後、神殿内にある魔法陣の上に乗り神代魔法の変成魔法を獲得する。

 

 

「グッ!」

 

 

「ウゥ!!何こ…れ!?頭が!」

 

 

ミフネは初めて味わう激痛に苦しみながらも、何とか耐える。暫く経ちミフネが

 

 

「これが変成魔法ね。魔物の使役と強化、そして魔物を生み出す魔法のようね」

 

 

「それだけじゃないぞ。変成魔法の本来の定義は『有機的な物質に干渉する魔法』だ。それは食材から植物、はたまた人体にまで及ぶ」

 

 

「つまり、変装が容易になるってことね。種族関係なく」

 

 

「条件や代償があるがな。獣人族じゃなくて亜人族は難しいが魔人族なら容易にできるぞ」

 

 

「そうなの?『魔物の上位種』って聞いたんだけど?」

 

 

「そんな訳ないだろ。奴らとの違いなんて、見た目と保有する魔力量くらいだ」

 

 

「へぇ〜」

 

 

二人で話していると魔法陣が再び輝きだす。そこに現れたのは

 

 

『記録が再生されるってことは、どうやら来たようだね』

 

 

神経質そうな感じがする男、ヴァンドゥルだった。

 

 

「相変わらず細かい奴だ」

 

 

『今、"細かい奴だ"とか言っているだろうが、残念ながらこれは私の素晴らしい芸術作品の一つでね。会話することが出来ないのが欠点なのだが。それより見たまえ!この素晴らし芸術の数々を…………』

 

 

「はぁ。始まったよ」

 

 

「どうしたの?ため息なんか、ついちゃって」

 

 

「芸術のことになると、話長いんだよ。こいつ」

 

 

十分ほどかなりハイペースで、ヴァンドゥルの芸術作品の自慢話を聞かされ、疲れ切ってしまっている二人。ようやく話が終わり真面目な顔つきになったヴァンドゥルは

 

 

『まずは攻略おめでとう。君なら余裕でクリア出来るとわかっていた。だからと言って特別何かを容易してる訳では無いが。それとすまなかった。殿なんてせず、全員で帰還できた筈なのに、最善にして最悪の案を君に任せてしまった。本当にすまない。彼女に会った時は謝った方がいい。相当泣いていたぞ。その後の事は祭壇の近くに手記があるから、読んで置いてほしい。奴を倒せる手助けになると私は信じてる。最後に私は苦手だが、酒をみんなで酌み交わそう。…………君のこれからに自由の意志と、真なる芸術の導きがあらんことを願っている』

 

 

その言葉を最後に再生は終了した。

 

 

「あぁ。必ず約束は守る……………行くぞミフネ」

 

 

そう言って侑李は手記と攻略の証であるブローチを回収し出口に向かう。

 

 

「えぇ。でもいいの?」

 

 

「何がだ?」

 

 

「ここに滞在したりとかしなくて」

 

 

「そんな時間はないし、済ませたい用事もできた」

 

 

「………わかったわ。ごめんなさい、変なこと言って」

 

 

「気にするな。俺は気にしてない」

 

 

二人は出口の方へ行き【氷雪洞窟】を後にする。【氷雪洞窟】を出た侑李はミフネを抱かえて砂の高速移動で【魔国ガーランド】に行き、適当に見つけた魔人族の男女を捉え殺し、格納したら空間魔法でエリセンまで戻った。

 

 






次回はハルツィナ樹海編です。…………多分
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