ありふれない解放者は世界どこでも最凶 作:マイティージャック
【グリューエン大火山】を攻略した侑李は、アンカジ公国で二日間の休息を取っていた。次に挑む迷宮は、エリセンと言う街の近くにある、メルジーネ海底遺跡である。その為に必要な、必需品や消耗品を買い足していたが此処である問題が生じた。迷宮のある場所が少々厄介であったのだ。メルジーネ海底遺跡。そう"海底"遺跡である。行くまでは問題ないのだが、行った後が問題である。往復は空間魔法を使って行けば問題ないのだが、メンバーの中で一番の"ドS"である、メイルが造った迷宮だ。遺跡自体、内部が海に浸かっていたら戦えないし、酸素も心許ない。
そもそも攻略させる気が有るのかすら、怪しいレベルである。そんな事はないと信じたいが、如何せん否定出来ない自分がいるのも、また事実である。
「あの
侑李は遠い目をしながら思い出していた。
メイルと街で買い出しをした際、自分の人相が悪いせいで子供達に大泣きをくらい、それを見ていたメイルがマジで衛兵に通報、数日間も拘留される。釈放後にメンバーに会えば、俺が全力で脅かして子供を泣かせた事になっていて、誤解を解くのに大変苦労はしたし、アジトで風呂に入ろうとすると四割の確率で風呂上がりの全裸のリーダーがいて、顔を真っ赤にさせたリーダーからビンタを貰い、メイルの仕業とわかるまでは、他のメンバーからゴミかクズを見るような視線に晒された事も少なくない。この他にも、楽しみにとっておいた、お気に入りの銘柄の酒を、目の前で一気飲みされたりなど、ろくな思い出がない。そんな、ろくでもない思い出が多いが、頼りになる時もあったので、ある程度は自分の中で折り合いをつけている…………………筈だ。
そんな事を思い出しながら、侑李は今日もせっせとゴロツキから金を巻き上げてるのであった。
エリセンまでは、空間魔法を使って移動したので、到着は直ぐに済んだ。宿を取り、明日に向けて準備をし、あるものを買いに街へと繰り出す。この街には、海人族が多数住んでおり、特に子供の海人族の誘拐も頻繁に起きる。面倒なので見て見ぬふりをする……………………訳にもいかず誘拐犯を潰して
深夜、港で
「どうやら、ここが入口みたいだな。海底遺跡っていうよりただの洞窟だが……全部水中でなくて良かった」
侑李は洞窟の奥に見える通路を進む──瞬間、侑李は砂の障壁を築く。
刹那、頭上からレーザーの如き水流が流星さながら襲いかかる。圧縮された水のレーザーは直撃すれば人体に穴を穿つだろう。天より降り注ぐ暴威をあっさりと防ぎ切るが、砂は元来水に弱いので障壁が簡単に突破させる。武装硬化させれば余裕で防げるが、侑李のとった行動は【グリューエン大火山】攻略後に発現された新たな擬態。それは
「のしモチ」
そう。擬態(餅)である。最初は火や氷、雷など自然現象にしようかと思っていたのだが、侑李はある事を思い出した。それは毎年一定数は餅による死亡事件がある事を。そして餅は汎用性が高いことも。餅は硬化しやすく粘り強いし、流動性もある。はっきり言って最強じゃね?と思ってしまう程であった。だからあえて餅を選んだ。武装色で硬化させれば、その強度は計り知れないし、捕獲する場合は餅特有の粘り気で捕獲もできる、伸縮性があるので簡単には逃さない。砂でも似たような事も出来なくはないが、手札が多いことには越したことはない。しかも、ここでなら慣熟訓練もできる。
「丸モチ!」
侑李は、腕を膨らませ武装硬化させて天井を殴ると、ぺしゃんこになったフジツボ擬きの魔物……だった死体が落ちてきた。どうやら水のレーザーを放っていたのは、この魔物のようだ。何はともあれ
「実験は成功だな」
軽く普段の腕の十倍まで膨らませて見たが、まだまだ膨らませそうである。だが、欠点として全力で武装硬化すると餅の粘り気が損なわれる点がわかった。これは今後の課題である。
「一旦は先に進むか」
奥の通路へと歩みを進める。通路は先程の部屋よりも低くなっており、足元は膝下くらいまで海水で満たされていた。
「……少し低いな」
擬態(餅)で攻撃する際、今の攻撃パターンだと大振りが多いので、天井が低いと技が出しづらい。その後も魔物の襲撃を迎撃しながらも通路の先にある大きな空間に入る。
「ッ!……なんだ?」
侑李が、その空間に入った途端、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。
「角モチ!」
二の腕から手首までを角材のように変形させ武装硬化で固定し殴るが、表面が飛び散っただけで、ゼリー状の壁自体は壊れなかった。そして、その飛沫が侑李の衣服に付着する。付着した部分が溶けだした。
「チッ!厄介だな!」
侑李が悪態をつきながら体を砂の流動体に変え、ゼリー状の飛沫を落とす。どうやら出入り口を塞いだゼリーは強力な溶解作用があるようだ。警戒して、ゼリーの壁から離れた直後、今度は頭上から、無数の触手が襲いかかった。先端は槍のように尖ってはいるが、見た目は出入り口を塞いだゼリーと同じだ。だとすれば同じように強力な溶解作用があるかもしれない。
侑李は、のしモチでガードしながら、天井を丸ごと砂で覆い、ゼリーに含まれている水分を一気に奪い尽くす。
「……砂ってやっぱ便利だな」
そう独り言ちていると、遂にゼリーを操っている魔物が姿を現した。
天上の僅かな亀裂と砂で覆った部分から染み出すように現れたそれは、空中に留まり形を形成していく。半透明で大雑把な人型、ただし手足はヒレのようで、全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち、頭部には触手のようなものが二本生えている。その姿はクリオネのようだ。ただし全長十メートルある巨大クリオネだが。
その巨大クリオネは何の予備動作もなく全身から触手を飛び出させ、同時に頭部からシャワーのようにゼリーの飛沫を飛び散らした。
「武装のしモチ」
武装させたのしモチを発動させる。そして見聞色を発動し、核となる魔石を探すが………………見つからない。
「どうなってやがる?……………まさか!」
見聞色の索敵範囲を広げると、巨大クリオネと同じ波動が、部屋全体から伝わってくる。
「既に、奴の胃袋の中だったわけか…」
驚愕していると、再び、巨大クリオネが攻撃を開始した。今度は触手とゼリーの豪雨だけではなく、足元から海水を伝って身体の一部を飛ばしている。
侑李は砂で壁を覆うと水分を奪い尽くす。そして巨大クリオネも本気になって来たのか、負けじと、壁全体から凄まじい勢いで湧き出してきた。しかも、いつの間にか水位までも上がって来ており、最初は膝辺りまでだったのが、今や腰辺りまで増水している。壁と並行して何度も巨大クリオネを殴り飛ばしているのだが、直ぐにゼリーが集まって復活してしまい、一向に終わりが見えない。
そこで侑李は一時離脱を決断して地面にある亀裂から渦巻きが発生しているのを見聞色で発見した。
「武装丸モチ!」
侑李は渦巻く亀裂に向かって、武装硬化させた丸モチで殴りつけた。一撃で亀裂を押し広げ、ドンドン深く穴を開けていく。やがて階層を突き破り、貫通した縦穴から途轍もない勢いで水が流れ始めたので、侑李は足をさらわれて穴へと流れていく。
「(さてさて、どうなる事やら…)」
【メルジーネ海底遺跡】の攻略は始まったばかりである。
────────その頃の奈落では───────
奈落にて少年は左腕を斬り飛ばされ、穴掘り逃走を終えて、四日目くらいである。
そろそろ覚醒しそうだね!
因みに目の前で一気飲みの件は、マジギレしてアジトを半壊させ、メイル共々、他のメンバーから説教をくらってます。
丸モチはカタクリがルフィに対して放った象銃のことです。勝手に名付けました。