カルデアの魔術師は狂王との距離をはかる   作:からくさ

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クー・フーリン【オルタ】が分からない

 

 

 

 

 

 

 そういえば、立香が言っていた。

 クー・フーリン【オルタ】のことが分からない。読めない。と。

 他人のことなんて分からないことが当たり前なんて言えばそれで終わりなのだが、立香の言うことはリンドウにも何となく分かった。

 

 そもそもクー・フーリン【オルタ】とは、オルタとついている通り、通常あるべき姿とは異なる形となって現れた存在である。

 クー・フーリンといえば、ランサーやキャスターのクー・フーリンがその「通常」だろう。

 ではクー・フーリン【オルタ】とは。

 女王メイヴが聖杯によって産み出した、「自分と共にあれる王になったクー・フーリン」であるとか何とか。

 

 いやいやそんなに変わるものなのかとか言いたいことは色々あるが、なかったはずの新たな存在を作り出そうとすると変質してしまうものなのかもしれない。メイヴがそう願っただけかもしれないが。

 

 とにかく、他のクー・フーリンと比べると遥かに異なる性質を持つ【オルタ】に、立香はどう接するか悩んでいるようであった。

 リンドウはというと、何となく流れで接しているまま、それ以上でもなく以下でもなくの状態だった。特に苦手意識はなかった。

 それなりに上手くは付き合えているんじゃないかとは思っていたので……まさか、だった。

 

 

 

 

 

 まさにこちらに襲いかからんとしてきていたもので、不意討ちで襲われ、魔術を放とうとした直前だった。

 目の前で、血飛沫が散った。

 

「おい」

 

 獣がいなくなった向こうに現れたのは、

 

「クー・フーリン」

 

 オルタ。だった。

 独特のシルエットを持つ彼は、槍を振り、血を払った。そして森の中、辺りに鋭い視線をやり、ジロリと、最後に鋭い視線をこちらに向けた。

 

「あっちの方は……」

「終わった。戻っておまえがいないから探しに来た」

 

 そういうことらしい。

 

「軽率に勝手に行動するのは止めろ」

 

 苦言を呈された。

 安全を確保するために、先に敵を払いに行ったのに、動いてどうする。

 

「オレはおまえの槍だ。おまえの指示に従う。敵を殺す。だが、愚かに付き合うのはごめんだ」

「ごめん」

 

 勝手に動いて、襲われたのは自分だ。

 魔術で撃退できたかどうかは必要なくなったから置いておいて、それが事実だ。

 怪我もした。痛みを感じる腕を見下ろす。

 

「怪我か」

「あー、不意討ちでかすった」

 

 ぼーっとしてたからさぁ、と笑う。

 しまった、隠せるものなら隠すべきだった。これくらい手当てすれば何ともないのだから、あとで手当てして、しれっとしていれば良かった。

 

 表情や考えていることは読めないが、オルタもさすがに呆れるのだろうか。分からない。

 まあ、見られたものは仕方ない。

 かすったにしては、少し深いかもしれないが、

 

「これくらい間違っても致命傷にはならないし、簡単に手当てかな。クー・フーリンは怪我は?」

「ない」

「そっか」

 

 じゃあ皆と合流しようか、とオルタを促しかけたのだが。

 傷から血が出ているところを見て、オルタを見上げた。

 

「ついでに、使った分の魔力補給する?」

 

 血液からでも魔力は供給できる。

 軽く腕を上げ、首を傾げて言ってみた。今でなくとも、敵を払うのに魔力は使ったはずだ。

 

 見上げたオルタは、変わらずの無表情だった。

 

 これは断られるか。必要ないこと言ったかな。

 余計なことは好まないようだとは分かっている彼だ。リンドウは「魔力補給でも普通にやった方がいいか」とでも言って腕を下げようとした。

 冗談は控えた方がいいタイプかな、と分析もしながら。

 

 しかし、何か言うよりも腕を引っ込めるよりも先に、腕を取られた。

 手を掴む手が、リンドウの腕を引き寄せる。

 次の瞬間には、ぬるりとした感触と、熱さを手首に感じていた。

 クー・フーリン・オルタの顔があった。手首に触れんばかりの距離にあって、その口から覗く赤い舌が──傷に這う。

 傷をなぞる。

 血を舐めとり、出ているものだけではなく、傷のより奥に血を求めるように舌が傷を深く、抉る。

 

「──ぃた」

 

 傷を広げるような動きに生じた痛みに、声を洩らすと、舌が離れた。

 赤が混じった唾液が、つー、と繋がり、途切れる。

 

「おまえが怪我をしたんだろう」

「えぐる、からじゃん」

 

 痛いのは。

 そういう加減は出来ないタイプか。というか、まさか舐められるとは思っていなかった。

 そんな考えが、たくさん頭に巡る。驚いたのだ。

 驚きながらも、抗議にならない抗議をした。それが、呼び水になるとも思わずに。

 

「なら」

 

 腕を引かれた。

 顔が近づく。

 ランサーや、キャスターと同じ造りの顔。けれど他の「クー・フーリン」にはない赤い模様と、異なる目付きが迫る。

 

「こっちで寄越せ」

 

 低い囁きをもたらした口が、口を塞いだ。

 唇が触れた。

 先ほど手首に触れた熱が、生々しくなった気がした。そんな感覚を抱いている間に、唇の間をこじ開けられ、口内を暴かれた。

 傷を深く抉ろうとした舌が、今度は口の奥へ伸びる。深く、唇が重なる。

 魔力が吸われる。

 

 魔力が取られる感覚がしたから、とっさに動かそうとしていた手を止めた。

 何だ、驚いたが、魔力のやり取りの行為か。しかし、このやり方をされるとは思わなかった。オルタにとっては、本能的な単なる「方法」の一つなのだろうか。

 

 

 

 

 

 はっとした。

 途中から、意識が薄れていた。魔力の吸われすぎではなく、単に酸素不足でそうなったのか。体の調子で、推測する。

 完全に意識を失っていたわけでもなく、うっすらとした意識から回復してきたところらしい。

 体は、支えられていた。

 見上げると、クー・フーリン【オルタ】がいる。やはりの無表情で、こちらを見下ろした彼は、口を開く。

 鋭い歯が、目についた。

 

「オレはおまえが分からない」

 

──クー・フーリン【オルタ】のことがよく分かりません。

 立香の言葉を思い出した。

 いきなりであることと、自分が言われるとは思ってもおらず、目を見開く。

 

「無闇に傷つくな」

 

 そのままの距離で、オルタは言う。

 

「オレの前で無防備になるな。おまえを差し出すな」

「……禁止事項、いっぱいだな」

 

 どうにか言えたことは、それだけ。

 急に何だとかいうのは、二の次になってしまった。

 

「オレに喰われたくなければ、従え」

 

 従うのは、そっちじゃなかったっけ。

 

 何となく付き合えていたはずのクー・フーリン【オルタ】ことが分からなくなった日になった。

 

 

 

 

 

 

 

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