スパゲッティをフォークで巻き取る。
今日の昼食はミートスパゲッティ。エミヤのスパゲッティは美味しい。美味しいのだけれど、くるくるくるくると麺をフォークに巻きつけ続ける。
「……俺、オルタのことが分からないのはオルタだから仕方ないと思ってたんだよな」
「オルタ?」
向かい側にいるランサーのクー・フーリンが、言葉の一部を繰り返した。偶々食堂の入り口で一緒になって、一緒に昼食の席についたのだ。
たった今、彼が口に運ぼうとしたフォークから、スパゲッティが滑った。
「オルタ全般のことか? オルタの『俺』のことか?」
オルタのクー・フーリンのことだと、後者を肯定した。
「分からないのは仕方ないってどういうことだ」
「クー・フーリンは、プロトでもランサーでもキャスターでも、根っこに同じ性質があるなって思うことがよくあるんだ」
「まあ、全部俺だからな」
「でも、【オルタ】っていうのは、本当にいたクー・フーリンそのままを形取ったわけじゃなくて、実際にはなかった存在が形になったみたいな存在だろ?」
ランサーのクー・フーリンはちょっと考えて、「そうみたいだな」と言った。
「だから、クー・フーリンなのは間違いなくても、他のクー・フーリンとはもしかすると根っこから違うかもしれなくて、『他のクー・フーリン』に当てはめようとして読めないのは仕方ない、当然だって思って接してきたんだ。だから『分からない』ことが気になることも、際立つこともなかった」
「今は違うって?」
「……うん」
一口食べたっきり、くるくると回し続けていたフォークを止める。
「クー・フーリン【オルタ】が分からない」
彼は、どういう意味を込めて、何を考えああ言ったのだろう。
──「オレはおまえが分からない」
──「無闇に傷つくな」
──「オレの前で無防備になるな。おまえを差し出すな」
複数の言葉と、間近で見た目を思い出す。
「……クー・フーリンはさ、俺のことが分からないって思う?」
クー・フーリンはスパゲッティを頬張ったところで、首を傾げる。咀嚼しながらも、考えるように目をどこかへ向ける。
「さすがに『分かる』とは言い切れねえが、『分からない』とは思わねえな。どういう人間かっていうのは、これまでのそれなりの時間で分かってきたしな」
それは、自分の感覚と同じものだろう。
全てが分かるなんて、言い切れない。だけれど、これまで接してきた中で、どういう人物かというのは感じて、知ってきた。
「オルタと何かあったのか?」
「何かって言うことはなかったけど」
なかったんだよなぁ。
ただ、分からないだけで。
大した傷ではなくて、もう絆創膏程度になっている手首をちらりと見やる。
「俺は無防備なんだろうか」
こちらのクー・フーリンに聞いても仕方のないことなのに、問うてしまう。クー・フーリン【オルタ】本人に問おうとは思えないからだ。
ランサーのクー・フーリンは再び、律儀に考える様子になった。
「無防備かそうじゃないかって言ったら、嬢ちゃんと比べると格段に防護は秀でてる方だろうよ。魔術師だしな」
質問の仕方が悪かった。そういうことじゃ、たぶん、ないんだ。戦闘のときのことじゃなくて、こちら側の「サーヴァント」の前での話。
けれど、明確に言い表せないのに問い続けることは間違っている。
だから、そうかと言って、スパゲッティを口に入れた。
巻き取りすぎて相当な量となった麺は、口いっぱいに頬張ることになった。