「……クー・フーリン、見つけたー」
二人目発見、である。
訓練部屋で見つけたのは、ランサーのクー・フーリンだった。ちなみにプロトとさっき会ったので二人目。
「お? 何だよマスター、何か用か? 手合わせするか?」
「嫌だよ。サーヴァントと手合わせって勝負見えてるじゃん」
「手加減してやるって」
「手加減って、何か似合わない言葉だな。絶対してくれないし、手加減されるのも嫌だから結局しない」
サーヴァント同士でやってくれ。
それに、戦闘訓練の類いをしに来たのではないのだ。
室内には他にサーヴァントはおれど、目当ての姿はない。室内をぐるりと見渡したところで、ランサーのクー・フーリンに尋ねる。
「オルタ見てない?」
「オルタの『俺』か」
「うん」
「見てねぇな。あいつに用か?」
「うん」
「そういえば、この前……。オルタの俺と仲直りか?」
「仲直りって、喧嘩した覚えがないんだけど」
「そうだったか」
そうだよ。単に、少しよく分からなくなっていただけだ。
二人目のクー・フーリンと別れ、部屋を出た。
さて、どこにいるのか。当てなんてないから、テキトーに歩いて探し回るのみだ。
「……クー・フーリン見ーつけたー」
三人目。やったーリーチだー……。
見つけたのは、キャスターのクー・フーリンだった。
「よお、マスター」
「ちょっと隣失礼する」
「いいぜ。座りな」
聞き込みついでに少し休憩だ、と座ると、いつもキャスターのクー・フーリンの側にいるもふもふの獣たちが寄ってくる。
「おまえら可愛いなぁ」
フォウさんには敵わないけど、癒しだよなぁ。
「んで、『見つけた』ってことは何だ、俺のこと探してたのか」
「実のところ、クー・フーリン【オルタ】を探してる」
かれこれ一時間なんだけど、と付け加える。見つからないんだ、とも。
「部屋にはいねえのか?」
「いなかった。代わりに、廊下で拗ねてるメイヴちゃんに会った」
と言うと、キャスターの彼は「ああ……」と言った。
「オルタの俺なら、さっきメイヴに絡まれてて、メイヴがどっか行った隙にうるさいからってどっかに行ってたな」
「どっかって、方向的にはどっち」
「あっち」
おっと、初めての有力情報だ。
聞き込み終了。立ち上がる。
「了解。ありがと、いってみる」
「役に立てたなら良かったぜ。それより」
「ん?」
何だろう、と首を傾げる。
「そこまでオルタを探してるのは珍しいな」
「そう?」
そうかもしれない。いつもなら、いないならいないで、出てくるまで待つ方だ。
「ちょっと用があって」
キャスターのクー・フーリンと別れ、廊下をひたすら歩いていくと、人気がなくなってきた。
と言うか、ゼロ。話し声もなし。
自分の足音だけが響き、耳に届く。
外が見えるようになっているガラス張りの窓から見えるのは、見事なまでの白い景色だ。吹雪で、見えた景色もなくひたすらに白い。
「さてと、どこまで行けばいるかな」
歩いていても見つからない可能性はあり。あっちが歩いていれば、のんびり歩いているこちらが追い付けるはずもないのだ。
でも、どこかで止まっているんじゃないかなぁ、と薄々思うんだ。
「あ」
クー・フーリン【オルタ】発見。
寒そうな景色を一枚隔てるガラスにもたれ、彼はいた。
しかし、動かない。近づくと、なぜか分かった。
寝ている、のか。彼は目を閉じていた。
近づいてもピクリとも動かず、目も開かない。
リンドウは目を瞬き、オルタを見つめる。
「そういえば、寝てるところ見るの初めてかも」
なるほど、それでこんなにも見慣れないわけだ。
起こすのは忍びなく、貴重な機会ということもあるので、隣に座って観察することにした。
クー・フーリンの名の通り、他のクー・フーリンとほぼ同じ作りの顔。綺麗な顔立ちだと改めて染々感じる。
ただ、オルタならではと存在を主張する、赤い模様がある。
肌に刻まれた模様なのだから、触ってもシールのように凸凹があるわけではない。とは分かっていながら、何となく触りたくなる。
模様にしてはあまりに、彼の一部のようだからだろうか。
ぼんやりと眺めるまま、相手が目を閉じていることをいいことに、そっと手を伸ばす。人差し指で、目の下に触れる。赤い模様をなぞる。
「何だ」
びくっと体が派手に跳ねた。心臓もびっくり跳ねた。
「起、こしちゃった?」
反射的に離したときのまま、中途半端な位置に手を浮かせたまま尋ねると、
見つめる先のクー・フーリン【オルタ】が目を開いた。
「元々寝ていたわけじゃない」
確かに。寝起きの目ではない。
「寝てるって思うじゃん……」
起きてるなら、来た時点で目を開いてくれても良かったじゃないか。
「狸寝入りしてやり過ごしたかったんですか、オルタさん」
「何だその呼び方は」
ただの気分と言いながら、隣に座ったままでいると、オルタの方がふいに目を逸らした。
邪魔だと思われているのだろうか。でも用があるんだなぁ。
「話、してもいい?」
「勝手にしろ」
「うん」
勝手にする。
「この前さ、オルタは俺のことが分からないって言ったよね」
「そんなこと言ったか」
「言ったよ」
なかったことにはさせないぞ。こっちは結構悩んだんだ。
悩んで、考えて考えた結果、今日探した。自分なりに考えた結果を話したいと思ったから。
「俺にしてみれば、俺だってオルタのことが分からない」
言うと、彼の目がこちらを見た。
「『クー・フーリン』については知ってるけど、オルタのことあんまり知らないし、聞いたことがないから」
「……おまえの言っている意味と、オレの言っている意味はおそらく違う。オレのは、感覚的な問題だ」
そんなことを言われて、首を傾げてしまう。意味が分からん。
まあいいさ。いいんだよ、そんな細かいところ。
「どっちだっていいよ。違っても違わなくても。とりあえずさ、知るところから始めようよ」
少なくとも、自分はクー・フーリン【オルタ】のことを知ろうと思う。知りたいと思う。
歴史上に残るクー・フーリンの逸話や、カルデアにいる他のクー・フーリンから読み取ることではなくて。クー・フーリン【オルタ】その存在について。
「もちろん俺も俺のこと話すし。俺、あんまり身の上話なんてしたことないから結構レアな話だぞ」
だから俺も話すけどオルタも話してよ、と笑う。
自己紹介は、召喚に応じてくれたときにしたけれど、それは簡単なものでしかない。名前くらいか。最低限すぎる。
「オレが話すことなんてない」
「ええぇ。何なら、メイヴちゃん混ぜてもいいけど」
「やめろ」
即答されるものだから、笑ってしまう。
「まあ、身の上はそっか」
彼は、オルタなのだ。
「じゃあ、俺の話に付き合ってよ。あと、これまでより一緒に過ごせたらなおよし。俺、これまで結構遠慮してたけど、これからは遠慮なく突撃しに行くから構ってよ」
何となく、彼の側は落ち着けそうなんじゃないかと思った。
クー・フーリン【オルタ】は、他のサーヴァントにはない雰囲気を持っている。戦闘では荒々しいのに、それ以外は『静』の一言に尽きる。静かなのだ。
余計なことはしない、ということが影響しているのか。
昼寝とか一緒にできそう。
と思ったところで、もう一つ言われていたことを思い出した。
「あ、そうだ。無防備になるなって言ったけど、あれ、味方だし契約してるサーヴァントなんだから許してよ」
いや、根本的に、と言い直す。
「そもそも俺無防備なつもりはないんだけど」
「充分無防備だ」
そう言うオルタの視線が、こちらを射ぬく。
その目に、無意識に全ての動きが止まった。瞬きした瞬間、瞼の裏にあの日の彼が、重なった。
──「無闇に傷つくな」
──「オレの前で無防備になるな。おまえを差し出すな」
耳に、甦る。
「……やっぱ、お前が分かんないよオルタ」
お前は、どういう意味を持ち、考えを持ち、何を思いそれらを言ったのか。
「俺は、マスターとしてサーヴァントを信じてる。時に傷ついても、共に立ち続けることが出来ると思ってる。お前が怪我するのなら、俺だって怪我する覚悟は持ってる。無防備でもいいじゃないか。味方だろ。戦場で窮地に立てば、俺の持ってるもの全て差し出したっていい」
なあ、これで答えになるか、と最後に言った。
何を考えているのか、分からないのは当たり前だ。それなら、その上で答えよう。言おう。
これが、お前の言葉に対する俺の考えだ。
見上げ、見つめ、言うと、にわかに胸ぐらを掴まれた。引き寄せられ、眼前にその顔が迫る。
「警告された上でそこまで言って、オレの側にいるのならオレに喰われる覚悟はあるんだろうな」
「だからその喰われるって何だよ。物騒だぞ。──まあ、万が一、それが俺に牙を剥くってことならそれでもいいよ。ただ、その場合は全力で──」
「オレの側から去らなかったことを悔やめ」
眼前、息がかかる距離だったとはいえ、間にあった距離はなくなっていた。顔が見えなくなった。髪が、頬と、首を擽った。
「────」
首と肩の境目に、熱と、痛みが走った。
何が起きたのか。クー・フーリン【オルタ】が顔を埋めている箇所が、痛みの源だ。
何を、と見下ろすと、彼が顔を上げた。
鋭い歯に赤い血がつき、唇を染めていた。あれは、おそらく、自分の血だ。
ずきずきとした痛みが体を揺らすが、傷を確かめるために手を動かせなかった。
クー・フーリン【オルタ】の目が、獲物を定めたがごとく、鋭くこちらを捕らえてきていて。
喰われそうだと、思った。
訂正するべきか。
何を考えているのか分からないのは当たり前。それでいい。その上で、今から関わっていこう。
だけど、ここでまだその「分からない」を深めてくるのは何なのだろう。
──クー・フーリン【オルタ】は一体何を考えているのだろう