フランドールの旅   作:めそふ

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ロスワのフランドールはイベント見て解釈違いでもうダメでした。


旅の始まり

 外に出よう。

 紅魔館の主の妹であるフランドールは唐突にこんな事を思い付いていた。

 普段は外に出ようなどという事は一切考えず、また館から出させてもらえる訳でもなかった彼女であったが、どういう訳かこの日は、滅多に思う事の無かった考えが浮かんできたのである。

 思い付いてからの彼女の行動は早かった。

 部屋に掛かっていた鍵を無理矢理壊し、その前ドアを開き外に出る。

「なんでも壊せるのにわざわざ鍵を掛けるなんて、意味が無いってことがまだ分からないのかしら」

 館の住民に対して呆れながらも、鍵を壊した事に何かを感じる事も無く、彼女は地下の階段を登って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「外に出たいって? また随分と珍しい事を言うわね」

 

 そう言って驚きながらフランドールを見るのは彼女の姉であるレミリアであった。

 

「もしあんたが本気で外に出る気なら、私に言わないで無理矢理出て行くとばかり思ってたわ」

「いつかそうやって出ようとしたら、パチュリーに雨降らされたからね。不本意だけどお姉様には言っとこうと思ったの」

 

 あぁ、そんな時もあったなぁと紅霧異変が終わって少ししたばかりの時を思い返していたレミリアだったが、ふと我に返る。

 

「だから私に許可を貰いに来たと。だからといって出す訳ないでしょう。大体、あんたが外に出たいって何をするつもりなのよ」

 

 レミリアはフランドールに向けて当然の疑問を投げかける。何せ、普段外に出たいなどとは殆ど言わないし、彼女が何を思って外に出たがるのか単純に興味があったのだ。

 

「別に、外に興味が湧いただけよ。ただ外を見て回りたいって思った。本当にそれだけ」

 

 彼女自身、自分がどうして外に出たいと思ったのかまだよく分かっていない。ただ、外から来た人間や妖怪に刺激されたことが少なからず原因になっているのは間違い無かった。

 しかし、それでもレミリアは首を縦に振らない。当然だろう。元々情緒不安定気味で何をしでかすのか分からない妹なのだ。彼女を外に出したことで起きた問題の尻拭いなど御免であった。

 だが、フランドールはレミリアの反応に別段表情を変えることもなかった。

 

「どうせそんなことだろうと思った。別に最初から期待なんてしてないわよ。勝手に出てこうとしたらお姉様が可哀想だと思ったからね。一応言ってあげただけよ」

 

 そう言って彼女は立ち上がる。その目はすでにレミリアではなく、紅魔館のエントランスに向いていた。

 

「話を聞いてなかったのかしら。さっき出すつもりはないと言ったばかりよ」

 

 声の調子を落とし、少し怒気を孕みながらレミリアは指を鳴らす。

 刹那、彼女の後ろに紅魔館のメイド長である十六夜咲夜が現れる。

 

「はい、ただいま」

「咲夜、パチェに雨を降らすように伝えなさい。あと、これから汚れるだろうから掃除と着替えも頼むわよ」

 

 承知致しました、と言う返事の瞬間、咲夜の姿が消える。これで数分もすれば紅魔館周辺に雨が降るだろう。

 吸血鬼の弱点は多くあり、その中の一つである流水を用いてフランドールを館から出さないつもりなのだ。最も姉であるレミリアも同様に吸血鬼なのでこの方法は彼女にとっても忌々しい物である。要は、そんな方法を取らざるを得ない程の緊急事態なのだ。

 レミリアからすると、フランドールのせいで博麗の巫女や胡散臭いスキマ妖怪に目を付けられるよりフランドールと暴れる方がましなのである。

 

「さて、面倒だけど遊んであげる。姉として、少しは妹の世話ぐらいしてあげないとね」

 

 小さな身体から想像も付かない悍しいほどの妖気を溢れさせるレミリアの目は既にフランドールに焦点を向けていた。

 既にエントランスに向かって歩いてフランドールはその言葉を聞き、動きを止める。そうしてゆっくりと振り返った彼女の表情は歪んだ笑顔で満ちていた。

 

「ふふっ……。まさか、お姉様がこんな魅力的なお誘いをしてくれるなんて思っても見ませんでしたわ」

 

 途端、フランドールからも、強者たるに相応しい妖気を溢れさせる。

 両者の妖気により、多くの妖精メイド達は恐れ、逃げ惑い、またある者たちは腰を抜かしてその場から動けないでいた。

 そしてその妖気が限界まで高まった時、ふとフランドールが妖気を止めた。

 

「……でも止めとくわ。今日はそんな気分じゃないのよ」

 

 婉容な微笑を浮かべながらもフランドールははっきりとレミリアの誘いを拒否した。

 

「え?」

 

 レミリアは冷や水を浴びせられた様な表情をしながらフランドールの言葉を未だに信じられないでいる。

 

「えっ、今なんて言った? ちょっともう一回言ってよ」

「……何をそんなに驚いているのか分からないけれど、今日はそんな気分じゃないからやらないって言ったのよ、お姉様」

 

 信じられないのも無理はないだろう。何せ、フランドールは何かあれば、いや何もしなくても襲いかかってくる時があるような凶暴極まりない性格であった。その彼女が気分だからやらないというのは、天地がひっくり返っても起こらないような事なのである。きっと誰に言っても信じてもらえないだろう。

 

「フラン、あなた頭でも打った?」

「あら、随分面白い冗談を言うのねお姉様」

「とぼけないで。まさかあんたがこんな事言うなんてね、一体どういう風の吹き回しかしら?」

「だから最初から言ってるじゃない。私はただ外を見て回りたいだけ、今はそれが私にとって1番魅力的な事だってね」

 

 フランドールの返答はレミリアにとっていまだ釈然としないものであった。

 訝しむレミリアを余所に、フランドールは何度も同じ事を言わせる姉に少々呆れながらも話を続ける。

 

「ついこの前の怨霊騒ぎの時、人間だの地底の妖怪だのが外から入り込んで来たでしょう? あの連中を見てたらね、外にはあの連中みたいにもっと面白い事があるんじゃないかって興味が湧いた。私はただ純粋にそれが見てみたいだけよ」

 

 彼女の言葉にレミリアは思う所があった。

 思えば、彼女とここまで真剣に話し合ったことも殆どなかった。お互い、対して干渉もせず、自分達の思うがままに生きてきた。故に、姉妹であったとしてもお互いの事など殆ど理解してこなかったのである。その結果がこれだ。力のままに暴れる事を好んだ彼女がそれを拒むまでに至ったのにも関わらず、それに全く気付くことが出来なかったのだ。

 

「くくっ……、あっははははは!」

 

 度重なるイレギュラーによるものなのか、レミリアは何故か笑いが込み上げてきた。

 

「急に馬鹿みたいに笑い出して……。怨霊にでも取り憑かれちゃった?」

「フラン、あなたの方も随分と面白い冗談が言えるようになったのね」

「心外だね。お姉様と一緒にしないでほしいわ」

 

 さて、と少し落ち着いたレミリアは咲夜の名前を呼ぶ。と同時にレミリアの後ろに咲夜が現れる。

 お呼びでしょうかと颯爽と現れた彼女の顔は、穏やかな微笑みを浮かべながらもどこか満足げな嬉しげな表情が感じられた。

 

「咲夜、悪いけどパチェに雨を降らすのを止めるように伝えてくれる? あと、フランの外出の身支度をしてやってほしいわ」

 

 レミリアの言葉に、フランドールがぴくりと動いた。

 フランドール本人も、まさかこんなあっさりと外出が許されるとは思ってもなかったのだろう。案の定、彼女の表情には驚愕と困惑が入り混じったような感情が少しばかり浮かび出ている。

 しかし、本来なら驚くであろうレミリアの言葉を受けても、咲夜は一切表情を変えなかった。

 

「えぇ、お嬢様、私は初めからパチュリー様の所になど行っておりませんよ」

「え」

 

 さらりと主の命を破った事を暴露した咲夜に何となく複雑な気持ちに抱くレミリア。

 そしてさらに咲夜は追撃を加える。

 

「これを見越してましたので。その証拠に、既にフラン様の身支度を済ませておりますわ」

「……あなたが優秀なのは知ってたけど、流石に此処まで手際が良かったっけ?」

「主が考え付くを事を先に汲み取るのもメイドの仕事ですわ」

「屁理屈言っちゃって……。どうせ私がフランに一本取られる方に賭けてたのが本音でしょ」

 

 ばちこんと主に向けてウインクをする咲夜とそれを何とも言えない表情で見つめるレミリア。2人の主従による漫才の様なものは暫くの間続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

「フラン、外に出るからにはくれぐれも余計な面倒は起こさないようにしなさいよ」

「くどいわ。お姉様だって人の事言えないでしょう」

 

 レミリアのあまりのしつこさにフランドールはそろそろ苛立ちを覚え始めた。ただ、ここで暴れると今まで耐えてきたものが水の泡になると思い、再び我慢を重ねる。

 レミリアの心配は最もである。本来、紅魔館を統べる者として紅魔館が不利になるような状況には絶対にしたくないものである。しかし、今回リスクを負ってまでフランドールの外出を許可したのは、姉としてのなけなしの情を以って彼女を信じる事にしたからだ。姉のとしての情を思い出させる程、フランドールの言葉はレミリアにとって重く響くものであった。

 ふと思い出したかの様に、フランドールは咲夜を見る。

 

「まさかあの小心者の咲夜がお姉様より私を優先するなんてね。ちょっと驚いたのよ?」

 

 咲夜は主であるレミリアに完璧に忠誠を誓っていると思っていたので、妹であるフランドールの方を優先した事は、フランドールにとってはかなり意外だったのだ。

 

「怨霊騒ぎの時に、私の事を信じて下さったのはフラン様だけでしたからね。至らないものであるとは思いますが、どうか私めの感謝としてお受けとって下さい」

「そんなに気にする事でもないのに。咲夜も物好きねぇ」

 

 私も途中までは信じてたのにと拗ね始めたレミリアを宥める咲夜との会話もそこそこに、フランドールは前を向いた。

 メイド達が開き始めた扉から、吸血鬼の大敵である日の光が溢れ始める。

 鬱陶しさと同時に少しの興奮という相反する気持ちを抱えながら、彼女は日傘を開いた。

 そしてとうとう彼女は、太陽の登る紅魔館の庭園へと一歩を踏み出す。

 庭園を抜け、門に着くとそこには、背が高めの赤髪の女性が立っていた。

 

「あれ? フラン様、どうかしましたか?」

 

 そう話しかけてきたのは、紅魔館の門番である紅美鈴だった。

 吸血鬼なら本来寝ているはずの時間に1人で外に出ていることを珍しく思っているようであった。

 

「500年くらいも休んでいたからね、お外に散歩でもしにいくのよ」

 

 と言って、フランドールは美鈴を大して気にも掛けず門を抜けていく。

 対して美鈴は、開いた口が塞がらないと言った表情で何を言うでもなく、ただフランドールが紅魔館から離れていく姿を見つめているでしかなかった。

 

 

 

 

 紅魔館内の大図書館にて。

 

「レミィ、本当に行かせてよかったの?」

 

 レミリアの友人であり、紅魔館の知識人であるパチュリー・ノーレッジは、フランドールの外出を許可した事に少しばかり疑問を抱いていた。

 しかし、レミリアはもう後悔などしていなかった。それに、妹を信じたことでどんな変化が起こるのか、少しワクワクしているのだ。

 

「なあに、あれでも私の妹だからね。そんじょそこらの野良妖怪なんて相手にならないよ。まぁ、どっかしらでやり過ぎるのは心配だけどさ。今はそういうのに興味無さそうだし、取り敢えずは大丈夫だと思うわ」

 

 ふーんと何処か釈然としない様子で返事をするパチュリーであったが、深く追求する事はなかった。

 そうして、その話題に興味を失ったかのようにすぐさま本を読むのに集中し始めた。

 そんなパチュリーの様子を見て静かに笑うレミリアであったが、暫くすると彼女もまた、友人と一緒に本を読み始めていた。これからの変化に胸を躍らせながら。

 

 

 

 

 

「さて、何処に歩いて行こうか」

 

 

 




口調がちょくちょく変わるのは原作リスペクトって感じですわ。

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