フランドールの旅   作:めそふ

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これは萃フラなのか…?


拳は最良の言語なり

 先程まであれだけ猛威を振るっていた太陽は雲の裏に隠れて鳴りを潜めている。

 随分都合良く曇ったものだと半ば感心しながらフランドールはこれから始まるであろう物に想いを巡らせていた。

 突如としてフランドールの目の前に立つ萃香から、小さな少女の姿からは想像も出来ない程の圧倒的な雰囲気が発せられる。

 今までに感じた事の無い圧力。

 それは、自らの姉であるレミリアのそれよりも明らかに上回っていると感じられた。

 

「さぁ! おっ始めようか!」

 

 その一声と共に大地の割れる音が響く。

 気が付くと、フランドールの鼻先に萃香の頭突きが迫ってきていた。

 フランドールは咄嗟に身体を仰け反らせ、萃香の頭突きを既の所で躱す。

 未だ何が起こったのか把握出来ずにいる頭を可能な限り回転させながら、フランドールは後ろに飛び立って萃香との距離を取った。

 

「おやおや、随分動きがぎこちないじゃないの」

 

 フランドールとは違い、萃香の方はかなり余裕が有るのだろう。

 彼女は自らが持つ瓢箪に口をつけ、恐らく酒であろう液体を呑んでいる。

 

「生憎だけど、弾幕勝負くらいしかやらないものだからこういうのは初めてなの。貴方みたいなのとやるのは尚更だしね」

 

 フランドールは弾幕を用いた勝負は幾度か経験が有ったものの、殴り合いをも用いる勝負は殆ど経験した事が無かった。

 加えて、単純な力で姉を超える者と邂逅するのも初めての事であった。

 

「なんだ、あんたの姉さんぐらいの期待をしちゃったのは私の間違いだったかな」

「あら、お姉様基準で判断しないでほしいわ」

 

 ここまでのやり取りで、フランドールはすっかり冷静さを取り戻していた。

 しかし、冷静さとは相反する筈の高揚感も、同時に彼女の内側で止め処なく溢れ続けている。

 湧き上がる熱が次第に身体を支配していくのを感じながら、彼女はいつかの人間との弾幕勝負を思い出していた。

 あの時も同じ気持ちだったなと何処か懐かしく思いながら、フランドールは目の前にいる萃香に目を向けた。

 

「Cool head and warm heart. 心は熱く、頭は冷静にって感じね」

「なに独り言言ってるのさ!」

 

 痺れを切らしたのか、萃香は自らの頭上に、あらゆる物を焼き尽くさんとする業火を想起させる様な光球を創り出した。

 

「ほらっ!」

 

 そうして作り上げた巨大な光球を、萃香はフランドールに向けて放り投げた。

 常人では反応出来ない様な速度である。

 弾幕勝負の様な密度は無いものの、避けさせる気は全くない代物であるのは間違いなかった。

 ただ、吸血鬼であるフランドールにとってはそれに限った事ではない。

 フランドールは向かって来る光球の目を右手に移動させ、自らと接触する寸前でその目を握り潰した。

 突如として、耳を塞ぎたくなる様な轟音と共に爆発が起こる。

 萃香は巻き上がる砂埃を凝視しながら、先程の爆発を不審に思っていた。

 

「おかしいな……今当たる前に爆発した様に見えたけど。何かした様にも見えなかったし」

 

 未だ晴れぬ砂埃の中を眺めていると、何の前触れも無く広範囲にわたる弾幕が飛び出し、萃香へと襲い始めた。

 萃香にとって不意を突かれた事態であったが、それでも冷静さを失う事は無く、その場で構えをとり、当たりそうな物のみに絞って弾幕を弾き返し始めた。

 放出される弾幕が終わり、辺りに広がっていた砂埃も晴れ始める。

 その中から、次第に一つの影が明確な姿を持って現れ始めた。

 

「一つ聞きたいんだけど、あんたさっき何したのさ」

「ふふっ、内緒」

 

 そりゃ教えるわけないかと萃香は苦笑を浮かべながら、フランドールに注意を向けた。

 先程のやり取りから見てフランドールが何か隠し球を持っているのは間違いないだろうし、何より百戦錬磨の勘が言うのか、その奥の手に限っては警戒すべきだと感じたのだ。

 

「久しぶりに緊張してきちゃったなぁ」

 

 不確定要素が多く明確な答えは出ないものの、自分が倒されるかもしれない可能性が出て来た事に、萃香は少しばかりの高揚を覚えていた。

 

「どうやら思ったより出来るみたいだね。こりゃ楽しくなりそうだ」

「そっちこそ、ちゃんと楽しませてね?」

 

 二人は同時に不敵な笑みを浮かべた後、地を蹴り出してお互いへと飛び出す。

 先に手を出したのは萃香であった。

 飛び出した勢いのままフランドールと衝突する寸前で、更に大地を踏みしめる。

 加速された勢いと共にフランドールに向かって拳を振り下ろした。

 余りにも近い距離である為に、フランドールは避け切れないと悟ったのか咄嗟に左腕で受け止める。

 それが予想よりも遥かに重い一撃であったのは、自身に響く衝撃と共に理解する事が出来た。

 フランドールは堪え切れず、自らが持っていた勢いも完全に封殺され、後方へと弾き飛ばされる。

 足が地に着かないながらも、空を飛ぶ要領で体勢を立て直し、そのまま空中で静止した。

 萃香の方はフランドールを吹き飛ばした後、既に追撃の準備に入っており、此方に向かって駆け出していた。

 フランドールは直様萃香の背後へと回り込むと、振り向く萃香目掛けて拳を突き出した。

 萃香はまるで読んでいたかの様にして彼女の拳を捕まえると、もう片方の手で大振りの一撃を放った。

 フランドールは対応し切れず、先程の一撃が完全に決まってしまい、膝から崩れ落ちる。

 地面に倒れ伏しそうなのを既の所で堪えると、萃香を囲む様にして動き始める。

 萃香は足を止め、自らを翻弄せんとするフランドールの動きに意識を集中した。

 足を止めた萃香をさも格好の獲物かの様に、フランドールは四方から連撃を始める。

 だが、萃香はそれらを苦を感じる様子も見せずに捌いていく。

 背後からの攻撃は上体を屈める事で躱し、正面や左右からのものはいとも簡単に受け止めて見せた。

 埒が明かないと感じたフランドールは攻撃の手を休め、萃香の頭上へと飛び上がる。

 

 禁忌「レーヴァテイン」

 

 飛び上がった先で彼女は一瞬にして炎熱を纏う大剣を創ってみせた。

 そうして創り上げた大剣と共にフランドールは萃香へと急降下を始める。

 彼女の持つ大剣を見て、受け止めるのは難しいと判断した萃香は後方に飛ぶ事で、その一撃を避けてみせる。

 フランドールの大剣が大地とぶつかり合う瞬間、辺り一面に炎が走り、同時にけたたましい音を周囲に響かせた。

 

「おーやるじゃん」

「何、まだまださ!」

 

 フランドールは地面に刺さった大剣を右手一本で抜き取り、そのまま横一線に薙ぎ払った。

 萃香は先程同様に後方に飛ぶ事で大剣の直撃を避けるも、その大剣から飛び出してきた光球の嵐に不意を突かれ、そのまま巻き込まれてしまう。

 体勢が整っていない事もあり、濃密度の弾幕が次々と直撃していった。

 

「効くかこんなもん!」

 

 萃香は自らも全方位に弾幕を放つ事で、フランドールの弾幕を相殺しにかかった。

 萃香の目論見通り、殆どの弾幕はお互いのそれによって消滅する事となった。

 フランドールは自らが放った弾幕が全て掻き消されたのにも関わらず、殆ど気にしてはいない様子を見せる。

 彼女は持っていた大剣を消し、萃香に向かって駆け出した。

 本来であれば読み易いはずの直線的な動きながらも、彼女の持つ速さはそれすらも意識させないものであった。

 萃香は牽制の為、始めに作った光球を、大きさは小さめではあるがいくつか創り出しフランドールへと放り投げた。

 しかし、フランドールの持つ圧倒的な速さによって殆どの物が直撃する事なく、彼女が既に通り過ぎた地点へと着弾していく。

 そんな中、たった一つだけがフランドールの姿を捉えていた。

 そしてそれがフランドールに直撃する瞬間、彼女に触れる事無くその身を炸けさせた。

 

「っ! またか!」

 

 フランドールは立ち上る砂煙を物ともせずに飛び出し、大振りの拳を放った。

 萃香は咄嗟に両腕でフランドールの一撃を受けるも、その勢いを完全に殺す事は出来ずに踏ん張る足で地面を割りながら後退を余儀無くされる。

 常人が受ければそれだけで消し飛ばされてしまう様な一撃だっただろう。

 しかし、鬼である萃香の耐久力は並外れた物である。

 全くと言って堪えた様子は無く、フランドールに向かって余裕の笑みを浮かべていた。

 

「頑丈だねぇ。本気で殴ったつもりだったんだけど」

「悪くは無いけど、まだまだ軽いね。そんなんじゃ私は倒せないよ?」

「そうね。じゃあ本気で壊しにいこうかしら」

「やれるもんならやってみな!」

 

 フランドールの放つ佇いが先程とは明らかに変わったのが分かった。

 確実に奥の手を存分に振るい始めてくる。

 萃香はフランドールに向かって挑発をしてみせたものの彼女に対する警戒をより一層強める。

 此方から先に仕掛ける事にした萃香は、切り札の一つを使う事に決めた。

 

 鬼符「ミッシングパワー」

 

 突如として萃香の身体が巨大化し始める。

 

「わぁ」

 

 500年程生きてきた中でも一度も見た事が無い光景が目の前に広がっていく事に、フランドールは口を開けながら呆然と眺める事しか出来なかった。

 萃香の巨大化が終わった時、フランドールの目の前に広がる物はまさに壁そのものであった。

 

「こんなに大きい姿の妖怪なんて初めて見たわ」

 

 萃香は未だ呆然としているフランドールを見下ろしながら、その巨大な拳を彼女に向けて振り下ろした。

 拳が落ちて来る事で起こる風切音は轟音と化し、周囲に吹く風もまた暴れ始める。

 それでも、フランドールは振り下ろされる拳を前にしても冷静な表情を保ったまま一歩も動く事はしなかった。

 

「でも、私には何の意味も無いわ」

 

 フランドールが自らの右手を握り締める。

 

「ぐっ!?」

 

 振り下ろした腕が一瞬にして四散した。

 本来の形を失った肉片は霧となり辺りに舞い始める。

 その光景を萃香は冷や汗をかきながら見守っていた。

 

「あ、危なかった……」

 

 萃香は、フランドールに自らの拳が当たる瞬間、唐突に悪い予感を感じ、自身の能力である密と疎を操る程度の能力を用いて腕にあった密度の殆どを移動させたのであった。

 片腕の大半は破壊されてしまったものの、その中身は空である為に萃香自身は殆どダメージを受ける事は無かった。

 

「ただ、タネは掴んだぞ……」

 

 しかし、あの一瞬の内に萃香はフランドールの行動をしっかりと注視していた。

 その結果、萃香はフランドールの今までの破壊行為が手を握る事が引き金となっている事に気付く。

 更に、先程腕を破壊された事でフランドールの能力は飽くまでも形有る物、固体を壊す事に限られるという事が分かった。

 その証拠に、破壊された腕は消失した訳ではなく、形を成さなくなっただけでしっかりと存在している。

 

「要は、今度はこっちが奴の腕を壊しちまえば良い訳だ」

 

 萃香は巨大化を止め、元の姿へと戻る。

 

「あら、もう止めちゃうの?」

「何、良い方法が思いついたもんだからね」

 

 そう言って萃香は不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

「良いねぇ、楽しみだわ」

 

 フランドールも萃香の笑みに応えてみせる。

 そして、魔力を集中させ何処からともなく3人の分身を出現させる。

 

 禁忌「フォーオブアカインド」

 

 四人のフランドールは萃香に向かって全速力で突っ込み始めた。

 

「あれま、こんな事も出来るのか」

 

 フランドールの多彩な引き出しに感心しながらも、萃香は、向かってくるフランドール達へと構えた。

 フランドール達は四方に別れ、それぞれ異なった方向から萃香を狙い始めた。

 前後左右、立体的かつ変則的であり本来の四倍ともとれる猛攻が萃香に放たれていく。

 かく言う萃香はそれらの攻撃に、受け止め、捌き、そして合わせると言った風にして全てに対応している。

 

「吸血鬼風情が鬼に正面から敵うと思うな!」

 

 萃香は前後方に居るフランドール二人のストレートを掴み、一気に引き寄せる事で2人を衝突させる。

 更に、掴んだ腕を離さず、そのまま振り回す事で左右に居るフランドール二人も薙ぎ払った。

 小さく呻き声を上げながらフランドール達は体勢を整えようと空中で静止する。

 萃香は、そのフランドール達の行動をも読んでいた様で全方位に向かって濃密度の弾幕を放った。

 完全に体勢が整っていない状態で静止を決めたフランドール達は、当然の如く弾幕に飲み込まれてしまう。

 度重なる弾幕の直撃により、三人の分身が消滅する。

 残ったフランドールもかなりの痛手を負ったらしく、普段の様相からは想像もつかないほど厳しい表情をしている。

 これを好機と見た萃香はフランドールへと全速で突っ込み始めた。

 かく言うフランドールも萃香に向かって右手を突き出し、今にも握り締めようとしている。

 

「今だ!」

 

 萃香は自身の体積を極限まで広げることで霧となり、自らの形を完全に失わせる。

 

「……目が消えた?」

 

 現状を飲み込めていないフランドールはほんの僅かな時間ではあるものの動きが硬直してしまう。

 萃香はその隙を見逃さず、直ぐさまフランドールの背後に回り込み、自身の姿を取り戻す。

 

「しまっ」

 

 フランドールが振り向く間も無く、萃香は二つの光球を創り出し、フランドールの両腕目掛けて爆発させた。

 熱と光の暴動によって弾き飛ばされたフランドールは、空中で乱回転を繰り返しながら自らの両腕の殆どが吹き飛ばされている事に気付く。

 

「やられた。これじゃ目が潰せない……」

 

 一旦距離を取ろうと暴れる体制を無理矢理整え、爆発の勢いをそのままに更に加速を始める。

 

「そりゃ、悪手だよ」

 

 フランドールが声がした方向を探し、それが自分の下からである事に気付いた瞬間、目の前の地面が割れ、巨大な萃香が姿を現した。

 

「そんな無茶苦茶な」

「それをやってのけるが私なのさ」

 

 萃香の巨大な手がフランドールへと迫る。

 フランドールは先程一気に加速を決めた分、直ぐには止まる事が出来ず、そのまま萃香の手中の中に収まってしまった。

 そのまま地面に向かって鉛直に投げられ、フランドールが叩き付けられた大地が轟音と共に一瞬にして陥没を起こす。

 彼女はその後も起き上がれずに暫くの間地に背を付けたままであった。

 

「降参か?」

「えぇ降参。全身の骨がバッキバッキよ。今は身体治すのに精一杯でもう煙も出ませんわ」

 

 フランドールの言葉を聞き、萃香は元の大きさへと戻っていく。

 小さくなったのにも関わらずそれでも萃香がフランドールを見下ろす構図が変わっていない事は萃香が完全に勝利した事を意味していた。

 

「見ての通り、私は暫くは動けない。煮るなり焼くなり好きにすればいいよ」

 

 フランドールは半ば諦めた様な声を萃香に向けて発した。

 その言葉を聞き、萃香はフランドールに向かって満面の笑みを浮かべてみせる。

 

「じゃあ、私の第二の用事に付き合って貰おうか」

「あーそういえば喧嘩と酒とかいってたもんね」

「そう、次は酒だ。喧嘩の後は取り敢えず酒を呑み交わすもんだからね」

「いいけど、何処で呑むのよ? 此処とか?」

 

 フランドールの疑問に、萃香は自信を持った表情を彼女に見せる。

 

「人里に行くのさ」

「え?」

 

 フランドールは本日二度目である、開いた口が塞がらないという事態に陥った。

 

 

 




次回「フランドール死す(笑)」
デュエルスタンバイ!

多分お酒の方でも負けます
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