フランドールの旅   作:めそふ

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スーパーインテリサイコパス幼女であるフランちゃんですが、此処ではもうちょっと優しくなってます。いや原作でも意外と優しかったりするんだけどね。


迷える吸血鬼、導く人間

 季節は夏。ましてや日盛りの真っ只中であるが為に、太陽を好まない妖怪はおろか、人間でさえもその日差しに飽き飽きしていた。

 無論、フランドールも例外ではない。それどころか、太陽が大きな弱点の一つである吸血鬼にとってはこの状況は最悪にも等しいものであった。

 しかし、フランドールは歩みを止めなかった。

 時より当たる日の光に体を焼かれる痛みや夏の暑さによる不快感よりも、彼女の周辺の風景は、それ程までに彼女に刺激を与えるものであった。

 ただそれも束の間。時が経つにつれて彼女を襲う不快感は段々と大きくなっていく。

 当てのない散歩を楽しんでいる訳だが、こうも日差しが強いと、何処かで涼まなければならなくなるのは時間の問題であった。

 

「……外に出る季節間違ったかもね」

 

 そう1人で呟きながらも、彼女は一休み出来そうな場所を探す。

 幻想郷の地理を殆ど知らずに1人で出てきてしまったが為に、どこに向かえば良いのか分からないのだ。

 

 暫く歩いていると、フランドールはある深い森に目をつけた。

 そこは魔法の森と呼ばれる物で、木々達によって日光が殆ど届かないという森であった。

 日光と暑さを凌ぐ目的でその森に入ると、そこはフランドールにとって思ったより快適な場所であった。

 本来、瘴気に耐性を持たない普通の人間がこの森に入れば、息をするだけで体調を崩してしまう。妖怪もそれ程までとはいかないが、好んで足を踏み入れる場所でないことは事実である。

 しかし、森全体に漂う瘴気の鬱陶しさを除けば、地下暮らしを続けてきた彼女にとってこの森の雰囲気は別段嫌なものではなかった。

 暑さと日光を凌げたことで気分が落ち着いてきたフランドールは、森の中を見渡す。

 一様に生い茂る樹木や化け物茸、足元に生え広がるシダやコケと言った植物。

 目に映る全ての物がフランドールにとっては初めて見る光景であった。

 館に籠りっぱなしで、自然と触れ合う機会など殆どなかった彼女であったが、今まさにその自然に触れ合うことを心から楽しんでいた。

 

 そのまま暫く歩き続けていると、森を抜けた。

 森を抜けた先には一本の小道があり、少し先にある階段へと続いていた。

 階段があるということはこの先に何か建物があるのだろう。

 そんな期待を抱きながら、フランドールはその道を歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

「あ〜あっついわ〜。ねえ魔理沙、あんた涼しくなる魔法とか使えないの?」

「それが出来たらこんな所までお茶をたかりに来るわけないぜ」

 そうお互いに愚痴をこぼしながら博麗神社の縁側に寝転んでいるのは、博麗の巫女である博麗霊夢とその友人である霧雨魔理沙であった。

 この暑さにうんざりしているのは、これまでに数々の異変を解決してきた2人であっても例外ではなく、ただ怠けるばかりである。

 すると何処からともなく、階段を登り、神社の境内に入ってくる音が聞こえた。

 

「参拝客か? 随分と珍しいな」

「こんな暑い中わざわざ来るなんて、何かあったのかしらね?」

 

 来客を見に行くために、2人は靴を履いて、参道へと足を運ぶ。

 参道を見ると、そこには此方に向かって歩いてくる1人の小さな少女の姿が見える。

 日傘を差していたためにレミリアかと思った2人であったが、すぐに別人であることに気が付いた。

 レミリアの妹であるフランドールであった。

 フランドールは2人に目を向けると、まるで何か面白いものでも見つけたかのように微笑む。

 

「おまたせ」

「「呼んでないわ(ぜ)」」

 

 冗談よと言いながらくすくすと笑うフランドール。

 しかし、2人は彼女が外に出ていることに驚きを隠さないでいた。

 

「妹君じゃないか。外に出るなんてどうしたんだよ」

「出たいと思ったから出ただけよ。特に驚くことでもないでしょう?」

 

 別段変わった様子も見せずに質問に答えるフランドール。

 しかし、2人の疑問は未だ消えることはなかった。

 

「それで、あんたは何しに此処に来たの? 神社を壊すなんて事したらどうなるか分かってるんでしょうね」

「欲しいなら壊してあげるよ?」

「んな訳あるか」

 

 まぁいいわと霊夢が話を切る。これ以上外で話をしていたくなかったのも相まって、霊夢はフランドールを家に入るように促した。

 フランドールが外に出ている事実に未だ困惑している魔理沙であったが、ここで考えていてもしょうがないと思い、2人に付いていくことにした。

 

 フランドールは家の中に入るや否や日傘を畳み、部屋を見渡す。

 

「ふーん、和室ってこんな感じなのね。結構変わってるじゃない」

 

 そう言いながら彼女は畳やちゃぶ台の手触りを楽しんでいる。

 そんな彼女の様子を見ながらも、霊夢は未だに彼女の目的が分からないでいた。

 

「あんた、何で外に出てるの? 普段はレミリアがあんたを出さないようにしてるって聞いてたけど、その様子だと別にこっそり抜け出してきたとかいう訳じゃないんでしょ?」

「さっきも言ったでしょう? まったく、幻想郷って何度も同じ事を言わないといけない所なのかしら」

「あんたが何言ってるのか分からないけど、取り敢えず、特になんかしでかすつもりはないようね」

 

 それに対して笑顔を向けることで答えるフランドール。

 続けて魔理沙もフランドールに疑問を投げかける。

 

「じゃあなんだ? ただ散歩でもしてたってのか?」

「その通り。そんな程度に過ぎないよ」

 

 椅子はないのねと言いながら、フランドールは畳の上にちょこんと座りはじめた。

 そうして博麗神社まで来た経緯を話し始める。

 

 

「それで、この神社に来たってわけね」

「まぁなんだ。つまり、何処に行こうか決めもせずに迷った挙句、こんな所に来てしまったと」

「迷ってなんかいないわ。まぁ大方それで合ってるけど」

 

 そう言ってフランドールは眠たげにあくびをする。

 すると、ふと何かに気が付いたかの様に顔を上げる。

 

「ちょうど良いわ。幻想郷について教えてよ。そうすれば、少しは歩きやすくなるってもんだわ」

 

 フランドールは2人に向けて幻想郷の地理について聞くことにした。当てのない散歩を楽しむのも良いが、何かあったときに土地勘が無いと困ると考えたのだ。

 すると、突然霊夢が部屋の奥に入っていった。

 ガサゴソと音を立てながら何か探してる様である。

 

「あったあった」

 

 そう言いながら霊夢は見つけたものを此方に持ってきた。

 それは相当古い物らしく、所々文字が掠れている。どうやら地図であるようだった。

 

「霊夢、それは何だ?」

「幻想郷について書いた、言わば地図のようなものね。結構古いものだけど、何処に何があるのか説明するのならこれで十分でしょ」

 

 霊夢はそれを広げると、フランドールに対して説明を始める。

 

 博麗神社は幻想郷において最東端に位置する。

 神社から西へ向かうと、巨大な森林に当たる。それがフランドールが歩いた、魔法の森である。

 魔法の森を抜けた先には人間の里、妖怪の山、その山の麓側にある霧の湖と紅魔館がある。

 また、妖怪の山には守矢神社や天狗や河童達といった様々な勢力が存在する。

 人間の里から少し離れた所には、聖白蓮が率いる命蓮寺が位置している。

 また、人間の里から南西辺りに向かうと、迷いの竹林というものがあり、その中にはかつて月の住民であった者達が住う、永遠亭が位置する。

 

 

「まぁ、ざっと説明するとこんな感じじゃない? 細かく説明するとなると結構時間かかるし。何より、散歩したいだけなんならそこまで詳しく知る必要もないでしょ」

「ええ、十分だわ」

 

 満足げに答えるフランドール。彼女の説明は思っていたよりもずっと分かりやすく、別段不足を感じることもなかった。

 また、いくつか気になる場所を見つけたために、今後はその場所らに行こうといった目的が出来たことにも満足を覚えていた。

 当てのない散歩からも良かったが、目的地を作ることも悪くない。フランドールはこの外出を、気ままな散歩から目的地に向かう旅に変更することに決めた。

 

「ちなみに言うと、私はお前が通ってきた魔法の森に住んでるんだ」

「へぇ、私には意味はないけれど、あそこ、普通の人間が住めるような場所には思えなかったけどね」

 

 2人が雑談で盛り上がりかけてきた時、霊夢が彼女らの話を止める。

 その手には先程の地図が丸まっており、フランドールに向けて差し出されていた。

 

「これ、いらないからあんたにあげるわ。私にとってはただのゴミだしね。それと、用が済んだならさっさと何処かに行きなさい。2度あることは3度あるって言うように、あんたまで入り浸りになっちゃったらまた神社が壊れちゃいそうだわ」

 

 ぶっきらぼうな霊夢の言葉に軽く笑いながらも、フランドールは差し出された地図を受け取る。

 

「冷たいのね。でもお断りさせて頂くわ。今はとっても眠いんだもの。ちょっと昼寝でもするから日が沈む頃に起こして」

 

 フランドールは霊夢の指図を拒否して、完全に寝入ってしまった。

 通常なら寝ていた時間に無理矢理起きていたために眠気が頂点に達してしまったのである。姉のレミリアのように、吸血鬼にとっての昼夜逆転生活に慣れていないので仕方がない事なのだ。

 

「あっ! ちょっと、何勝手に寝てるのよ!」

「駄目だこりゃ、速攻で寝入っちまった」

 

 その後、なんとかして起こそうとするが、意外にも寝付きが良く、暫くの間一回も目を覚さなかった。

 

 

 

 

 

 

「フランドールさん、起きてください。フランドールさん」

 

 体を揺すられ、寝ぼけ眼で起き上がった彼女の前には見知らぬ顔があった。

 

「……だれ?」

「こんばんは。この神社の狛犬の高麗野あうんです」

 

 狛犬? と訝しんでいるフランドールを余所に、あうんはすでに霊夢と魔理沙を呼びに行っていた。

 まだ覚め切っていない頭で立ち上がり、少し歩いて顔を外に覗かせると空が赤く焼けていた。

 いつかの紅い霧とは違い、まるで全てを焼き尽くさんとする炎が、空を覆っている様であった。

 

「あれー? フランドール、あんた起きたのー?」

 

 少しの間であったが夕暮れに心を奪われていると、奥の方から霊夢が彼女を呼ぶ声が聞こえる。

 

「おっ、起きたみたいだな。あうんが里でうどん買ってきたみたいだから食べようぜ」

 

 まだ寝起きのフランドールを見ながら魔理沙が食器等を運んでくる。

 魔理沙が運んできたものを見ると、少し太めの白い麺が置かれていた。

 知識にはあったが見たことがなかったために、フランドールはうどんをまじまじと見つめている。

 

「さて、食べちゃいましょうか。あんたもさっさと触っちゃいなさい」

 

 そう言って、霊夢は立ち尽くしていたフランドールに座るよう促す。

 何をするでもなく、フランドールは促されるままに霊夢の隣へと座った。

 

「霊夢、この狛犬ってのは何?」

 

 フランドールは、先程自分を起こしたあうんのことが気になっていた。

 

「あうんのことね。何でも勝手にこの神社を守護してる守護神獣ってやつよ」

「ふーん。でも守護神獣って割りには弱そうだけどね」

 

 それを聞いたあうんは少し凹んでいた。

 実際、あうんは決して強い部類の妖怪ではなく、ましてや幻想郷のパワーバランスの一角を誇る吸血鬼のフランドールからすれば、あうんの力はお世辞でも強いと呼べるものではなかった。

 

「確かにあうんは強くはないけど、他の部分で優秀だからね。今日も私の代わりにおつかいに行ってきてくれたんだから」

 

 霊夢があうんのフォローに回ると、あうんは照れますねーと分かりやすいぐらいに喜んでいた。

 

 食べ始めて暫くの間、4人は軽い雑談を続けていた。

 フランドールがうどんを見たことがなかったことに驚く3人であったり、紅魔館の住民への愚痴のこぼし合い、魔理沙が今までに食べたパンの枚数やフランドールが意外にも和食を気に入ったこと等々。

 食卓を囲んで、集団で食事を楽しむといったことは、今まで常に1人で食事をしてきたフランドールにとっては初めての経験ではあった。

 

「こういうのも案外悪くないのね」

 

 フランドールは半ば独り言のように呟いた。

 

「そういや、お前は宴会とか一度も参加しなかったもんな。今度の宴会はお前も呼んでやるよ」

 

 その呟きを拾った魔理沙は、全て食べ終わり、食器を片付けに向かった。ついでに既に食べ終わっていたフランドールの食器も一緒に持っていった。

 

「さて、ちゃんと睡眠も取れたしお腹も一杯だから、そろそろ行くわね」

 

 ごちそうさまと言ってフランドールは立ち上がる。

 その様子を見た霊夢は、やっと面倒が終わると言った表情でため息をつく。

 

「やっと行くのね。なんだかんだでこのまま神社に居座るんじゃないかってひやひやしたわ」

「素直じゃないねぇ。あいつの命令でもないのに、わざわざご飯を出してくれたんだから、実はそんな事思ってないんじゃない?」

 

 そんなフランドールのからかいであったが、はいはいと適当に流される。

 流れた事にくすくすと笑いながらも特に気にする事もなく、フランドールは玄関に向かい、靴を履く。

 いざ引き戸を開けようとすると、食器を置きに行っていた魔理沙が此方に戻ってくる。

 

「お、なんだもう行くのか。また来いよ。来た時には多分茶でも出して貰えるさ。まぁ紅茶じゃなくて緑茶だけどな」

 

 面倒を増やす様な勝手な事を言う魔理沙に怒る霊夢。いつもの事だと見守るあうん。

 そんな彼女達を面白げに見ながらもフランドールは扉を開く。

 次は何処に行こうかと新たな期待を抱きながら彼女は歩みを始める。

 

「ええ、また来るわ」

 

 去り際に、一言を残して。

 




ぶっちゃけ次どこ行こうか決まってません。
誰か原作リスペクトのフランちゃんください

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