フランドールの旅   作:めそふ

5 / 11
人気投票ふらんちゃんにいれてね


蓬莱の呪い

 辺り一面に広がる焼け焦げた匂い。

 未だ燃え盛る竹林を消火する為に、兎達が忙しなく走り回っている。

 フランドールは、此方に降りかかって来る火の粉を振り払いながらその様子を眺め続けていた。

 

「随分派手にやったねぇ」

 

 1人呟きながらフランドールは、妹紅と輝夜の殺し合いなるものによって引き起こされた、この状況への回想を始める。

 

 2人による殺し合いは、始めの内はお互い周りに被害が及ばない様に気を遣っている様であったが、時間が経って白熱してくると、その事を忘れてしまった様でお互いに一切手加減の無い攻撃をする様になった。

 永遠亭に飛んでくるようなものは流石に無かったが、2人の流れ弾は次々と周辺の竹林を破壊していく。

 そんな中、妹紅が放った炎が1つの竹に引火し、どんどんと火の手を広げていった。

 それに気付いた兎達が2人を止め、現在の様に火を止めようと駆け回っているのだ。

 

 暫くの間惚けながらその様子を見ていたフランドールであったが、どうやら兎達の懸命な消化活動が功を奏した様で、竹林に広がっていた火の手は完全に消し止められていた。

 

「あー久しぶりだからか竹林に引火しない様にするの忘れちまったよ」

「……正直あんたと殺り合うよりこっちの方が疲れるわ」

 

 お互いに愚痴を零し合いながら2人の少女がこの屋敷へと戻って来ている。

 どちらの髪も乱れ、衣服は一部が焦げたり破れてたりしている。

 2人は、フランドールが座っている縁側まで来て腰を落とす。

 少しの間沈黙が続いたが、妹紅がふとフランドールへ顔を向けた。

 

「ずっと見てたみたいだったけど、そんなに面白いもんだったか?」

「勿論。他人の弾幕を見ることや貴方達が慌てふためく様子も、何もかもが私にとっては新鮮だしね」

 

 そんなもんなのかと思いながら、妹紅は、なんとなくその場で寝転んで空を見上げる。

 

「そういえば、ちょっと前こうやって火事騒ぎになった時に、取材とか言って天狗が来なかったけ?」

「あーあの新聞記者とか言うやつか」

 

 輝夜と妹紅が言うには、前にも同じ様に竹林に燃え移ってしまった事があり、その時に烏天狗の記者が取材をしに来たとの事である。

 フランドールは、いつのことだったか自分にも同じ様に取材と言う体で屋敷に入って来た天狗が居た事を思い出した。

 

「私にも来たことあるわ、その天狗。隕石を壊した時だったかしら」

 

「へぇ、貴方の所にも」

 

 色々な所に行ってるのねぇとその天狗に感心した様に答える輝夜。

 すると、空を見上げていた妹紅が、突然何かに気付いた様で声を上げる。

 

「噂をすればってやつか。こっちに飛んできてるのあの天狗じゃないか?」

 

 妹紅に言われ、2人は空を見上げてみると確かに誰が此方に飛んで来ている。

 風切音と共に高速で急降下して来たその人物は、3人の目の前で地に降り立った。

 

「どうも、先程の火事について取材に来ました」

「やっぱり来たか、この天狗め」

「射命丸文です。それで、前にもこんな様な事が有ったと思うんですけど、今回もまた煙草のポイ捨てとか言うんですか?」

「根に持つなぁ。今回もそんな様なもんだよ、諦めて帰りな」

 

 妹紅と射命丸文と名乗った天狗が押し問答を続けていると、ふと文が2人の方を見る。

 

「あれ? レミリアさんの妹さんじゃないですか。どうしてこんな所に?」

 

 文は、フランドールの姿を見つけると妹紅との押し問答を止めて、2人の方へと近づいてくる。

 文は当然の疑問をフランドールに投げかけた。

 文からすると、フランドールは情緒不安定で外出を許されていない、と聞かされていた。しかし、どうした事か屋敷の外に出ており、一体何の繋がりか永遠亭で輝夜とお茶を飲んでいるのだ。

 

「どうしてって、お茶飲んでたいから此処に居るのよ」

「そうじゃなくて……、貴方は外に出る事を止められていたのではなかったのでは?」

「出会う奴皆んな同じ様な事を聞くのね。そんなに私が外に出るのが気になるのかしら」

「普段外に出ていない人が出てきたらそれだけで気になるとは思いますけどねぇ。まぁ私の場合は新聞のネタになりそうってのもあるんですが」

 

 フランドールは、暫くの間、面倒である為に文の取材を断り続けていたが、しつこく食い下がってくるので答えることにした。

 

「しつこいねぇ。それで、何で外に出れたかって? 別に閉じ込められてる訳じゃないんだから出ようとすれば出れるわ。外に出たのは、まぁずっと家の中で休んでたしねぇ。外の景色が見たくなっただけよ」

「はぁ……、それでレミリアさんは許してくれたんですか?」

「そうねー」

 

 フランドールに対していつもの調子が取れない様子の文であったが、良いネタだと感じたのか、フランドールが言ったことに、戸惑いながらもこまめにメモを取っていた。

 文が、フランドールが永遠亭に居る理由を聞こうとすると、輝夜もそこに割って入ってきた。

 

「それは私も聞きたいわね。うちのイナバが連れて来たって言ってたけど、どうして永遠亭にいるかはまだ聞いてないもの」

 

 フランドールは、そういえばまだ話していなかったなと輝夜への説明も兼ねて永遠亭に来た経緯を話し始めた。

 

 

 

「えーっと、まあ要するに不老不死を見に行こうと博麗神社からこっちまで向かってる内に竹林で迷ってしまい、そこで妹紅さんと鈴仙さんと出会ってここまで連れてきてもらったと」

「大体合ってる」

 

 従者の兎からお茶の御代わりを貰ったフランドールは、輝夜と文に今までの経緯を話し終えていた。

 

「イナバが永琳にお仕置きされてたのもそういうことだったのねぇ」

 

 フランドールは、何処か納得した気の輝夜に相槌を打ちながら貰ったお茶を飲み終える。

 博麗神社の時もそうであったが、緑茶が意外にも好みな様で、帰ったら咲夜に入れてもらおうと思う程気に入っていた。

 流石に結構な量を飲んでいたので御代わりを貰うのは止め、口内に残る緑茶の余韻に浸りながら縁側で惚けることにした。

 すると、輝夜がフランドールに向かって話しかけてきた。

 

「不老不死を見にここまで来るってねぇ。幻想郷は変人だらけだけど、貴方も相当変わってるわね」

 

 フランドールは、よく言われるわと微笑みながら答える。

 そういえば輝夜も不老不死と呼ばれる存在であったなという様な事をぼんやりと考えていると、ある疑問が湧き始めた。

 不老不死の存在そのものについて。

 妹紅の復活の場面を見たときはかなりの衝撃を受けた為に冷静に考える事が出来なかったが、よくよく考えてみると、まだ不老不死とは何たるかを完全に理解出来ていない。

 先天的なものか、あるいは後天的なものなのか。後天的なものだとしたら如何様にしてか。そして、不老不死は果たして文字通りの不老不死であるのか。

 際限なく、次々と浮かび上がってくる疑問に答えを出そうと、あれこれと思考を巡らせるが、依然解を得ることは出来ない。

 

 1人思考の海へと漂うフランドールを我に返したのは輝夜の声であった。

 

「どうしたの? 急に何か考え始めちゃって」

 

 そう声を掛けてきた輝夜の顔は、少し困惑している様子であった。

 声を掛けたきた輝夜の顔を見て、フランドールはふと輝夜に聞けば良いという事に気付く。

 考え過ぎる余り、簡単な事を見逃してしまっていた事に少々恥を感じながらもフランドールは輝夜にこの疑問を投げかける。

 

「ねぇ、不老不死ってどうやってなったの?」

 

 突然の質問に少し驚く輝夜であったが、すぐに穏やかな表情を取り戻し、フランドールの質問に答え始める

 

「無いとは思うけれど、なりたいの?」

「まさか。ただ知りたいだけよ。私は吸血鬼で十分だもの」

 

 輝夜の問いに微笑みながら否定するフランドールを見て、輝夜も笑顔で返す。

 

「それで、不老不死にどうやってなったかよね。結論から言うと、薬を飲んだの。不死の薬、蓬莱の薬を。私がまだ月に住んでいた頃、永琳と一緒にその薬を作り上げた。そうして蓬莱の薬を飲み、蓬莱人となった私は地上に堕とされた。その時の話が、あの竹取物語って訳ね」

「月では蓬莱人になるのは禁忌って事なのね」

 

 フランドールはそこで、どうして蓬莱人となるのは禁忌なのかを疑問に思う。

 ただ、そんなフランドールの疑問を汲み取ったかのように輝夜は説明を続けた。

 

「月人は生と死という穢れを嫌った。そして蓬莱の薬を飲んだ者はその身に穢れを纏う事となるの。故に、私は罰として穢れに満ち溢れた地上へ堕とされた」

 

 これが私が不老不死になった理由よと輝夜は説明を終えた。

 フランドールは先程の輝夜の説明に納得した様で、もう1つの疑問を持ち出す。

 

「じゃあもう1つ聞きたいのだけれど」

 

 輝夜は、断る理由が無いといった表情でフランドールの頼みを受け入れる。

 

「不老不死って言っても本当に何をしても死なないの? さっき妹紅を壊してみたけど、少ししたら元通りになったわ。でも、それだけじゃ完全な不老不死の証明にはならない。ただ、その蓬莱の薬とやらを作った貴方には、それが証明出来るんじゃなくて?」

 

 輝夜は、フランドールの言葉の一部が理解出来なかったが、何ということもなく、彼女の質問に答え始めた。

 

「妹紅を壊したってのはよく分からないのだけれど……。えぇ、蓬莱の薬を飲んだ者に死という概念は無くなる。怪我でも、毒でも、飢えでだって、私達を殺す事は出来ない。厳密に言うと、肉体的な死を迎えても、暫くすれば正常な身体に戻るの。だから何をしようと私達は死なないの」

 

 輝夜の説明を聞いて納得したのか、フランドールは何処か満足気な表情となった。

 ただ、ふと何かに気付いたかの様にしてフランドールは輝夜に目を向ける。

 

「つまり、貴方達は生きてもいないし、死んでもいない。そのどちらの性質も持ち合わせない、中途半端にすらも成り得ない存在なのね」

 

 輝夜は、フランドールの言葉にほんの少しだけ揺れるが、何も言わず、ただ頷いた。

 

 生きる事とは、死にゆく事と同義である。

 死にゆくという概念が無くなれば、それは同時に生きるという概念が無くなるに等しい。

 本来は死ぬ事の無い妖精であっても、象徴とする自然が滅べば同時にその妖精も死ぬ。死神を追い返す事で寿命を持たない天人であっても、それは寿命を持たないだけであって、死なないという事は無い。

 この様に、全ての生きとし生けるものは死という概念から逃れる事はできない。

 しかし、蓬莱人はこの死という概念から完全に逃れ、絶対に死なないという存在となった。同時に生という概念を失いながらも。

 

 

「貴方は、私が思っていたよりもずっと聡明な様ね」

 

 輝夜は、フランドールに微笑みかけながら彼女を褒め始めた。

 

「お褒めに頂き光栄ですわ、お姫様」

 

 フランドールも同様にして、輝夜に微笑みかける。

 2人がお互いに笑い合っていると、今の今まで完全に蚊帳の外であった文が割り込んできた。

 

「あのー、お二人の空気を邪魔する様で申し訳ないのですが……」

「ん? どうかしたの?」

「先程妹さんが仰っていた、妹紅さんを壊したってまさか隕石を壊した時の"あれ"をやったんですか……?」

「あぁ、そういえばそれ私も気になってたわ。それで、"あれ"って何の事?」

 

 輝夜の方は分かっていない様であったが、文が言っているのは、隕石を壊した時に使ったフランドールの能力であろう。

 文は、隕石をいとも容易く破壊した力を、死なないにしても人体に向けて使ったというフランドールに対し、興味や恐怖等が混ざった複雑な感情を向けている。

 フランドールはそんな文の様子を気にも留めず、ちらりと縁側で寝転んでいる妹紅を見た。

 

「あぁ、きゅっとしてドカーンね。ちょうど妹紅もそこで寝てるみたいだし、一回見せてあげようか?」

「えっ、ちょっとそれは……」

 

 文の静止も虚しく、フランドールは右手を握り締めた。

 突如として、辺りが鈍い爆発音に包まれる。

 妹紅の肉体は、原型を留めない程に細かくバラバラになり、全方位へと散ってゆく。

 一連の様子を見た輝夜は、驚いた表情を戻せないままフランドールに目を向けていた。

 

「壊すってこういう事だったのね……。人がこんな死に方するなんて、長い事生きてきたけど初めてみたわ」

「妹さんの力はあらゆる物を破壊出来るそうなんです。私も実際に見た訳では無かったので、何とも言えなかったんですが、こんなあっさり出来るものだとは……」

 

 2人が妹紅の爆発ぶりに驚きを隠せないでいると、先程まで妹紅が寝転んでいた場所に段々と肉体が形成されていった。

 肉体の形成が終わった妹紅は、怒った様子でフランドールを睨み付けている。

 

「フランドール、お前また私を殺したのか?」

「あら、今回は随分復活が速いのね」

「全く、一体私がお前に何したってんだ」

「百聞は一見に如かずって言うじゃない?」

 

 意味が分からんと愚痴を零しながら、妹紅はフランドールに詰め寄っていく。

 そこで文が、妹紅にこうなる前までの経緯を説明した事で妹紅は、渋々ながらも納得した様で、不機嫌であるものの縁側に座り直し、落ち着いた様であった。

 

「そういえば、フランドールさん、貴方は外を見て回ってると仰ってましたが、次は何処に行かれるか決まっているんですか?」

 

 突然の文の問い掛けによって、フランドールは次の目的地がまだ決まっていない事に気付いた。

 

「決まってないわねぇ。まぁ元はと言えば何の目的も無かったし。いくつか候補は考えているけど、焦って決めるものでもないからね」

「そうですか。出来れば妖怪の山には来て欲しく無いんで立ち寄らないで下さいね。まぁ神社とかは別ですが」

 

 どうやら文がフランドールに目的地を聞いてきたのは、妖怪の山に向かうかどうかを確かめる為であった。

 フランドールが、未だ目的地は決まっていないと答えた為に、文は、フランドールが妖怪の山に来る可能性を否めないと判断し、かなり直接的だったが、山への侵入を拒絶する事にしたのだ。

 ただ、来てはいけないと言われると誰しもが行きたくなるものである。また、霊夢の話で聞いた守矢神社の存在も気になっていたのもあり、フランドールは次の目的地を妖怪の山へと決める事にした。

 

「それでは、私はこの後記事を書かなければいけないので、この辺で失礼します!」

 

 そう言って文は飛び上がり、すぐさま目では見えなくなってしまった。

 暫く文の姿を見送っていた輝夜であったが、フランドールの方へと目を向けて、次は何処に行くつもりなのかと尋ね始めた。

 

「妖怪の山は行くなって、さっきの天狗が言ってたけれど、貴方はどうするの?」

 

 

「勿論、妖怪の山に向かうわ」

 

 




あややはけっこうすきです。多分次も出します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。