フランちゃん人妖部門5位、音楽部門1位おめでとう!!
気がつくと、星々の煌めきに飾られた黒い空は儚げな蒼色と移り変わっていた。
時が経つのは早いもので、文が飛び去ってから既に数時間は経とうしていた。
「あ、もう夜明けね。そろそろ失礼しようかしら」
フランドールは隣に置いてあった傘を持って立ち上がる。
夜明けに外へと出る吸血鬼とはなんとも滑稽なものだなと思った輝夜は、微笑みながらフランドールに問いかける。
「あら、吸血鬼というのは夜に活動するものではなくて? 良ければまだ此処に居てもいいのよ。私もまだ貴方とお話ししたいのだから」
「お姫様からのお誘いはとても光栄なのだけれど、遠慮しておくわ」
「そう、残念ね」
輝夜は断られた事に少し気を落としたようだが、それでも直ぐに穏やかな表情に戻った。
それにしてもと、輝夜は空を見渡し始めた。
「寝ないで夜明けを迎えるなんて一体いつぶりかしら」
「不老不死でも睡眠は取るのね」
「ふふっ、いくら死なないって言ってもお腹は空くし眠くもなるのよ」
「へぇ、そういうもんなのね」
未だ空を見続ける輝夜に釣られたのか、フランドールもまた段々と明るくなっていく空へと目を向けた。
「ねぇ、貴方は吸血鬼なのにどうして明るい時に出ようとするの?」
いつの間にかフランドールの方へ顔を向けていた輝夜が、フランドールに対して問いを投げかけてきた。
フランドールは離れていく夜を目で追いながら、そうねぇと一言置いてから話始める。
「私はねぇ、起きているこの世界が見たいのよ。だって夜は殆どの生き物が眠っているでしょう? まぁ、妖怪とか例外もいるけど。みんな寝静まってるんだもの、退屈ったらありゃしないわ」
「それもそうね。異変や宴会でもない限り、あの紅白巫女や白黒魔法使いだって寝てる筈だもの」
そうしてお互いに笑い合う2人に対して、何処からか声が掛かる。
「おい、もう行くんだろ」
声がした方へと顔を見やると、既に準備を整えてフランドールも待っている妹紅の姿があった。
「どうせお前1人じゃ此処から出られないんだ。私が案内してやるから早く行くぞ」
「あら、今までずっと待っててくれたって訳? 随分優しいのね」
「煩いよ。置いてくぞ」
フランドールは輝夜のもとを離れ、先に歩き出した妹紅の方へと向かう。
妹紅のもとへと向かう途中でフランドールは、背後から誰かが自分の名前を呼ぶ声を聞いた。一度立ち止まって振り返ると、此方に向かって微笑む輝夜の姿が見える。
「またいらっしゃい。歓迎するから」
「えぇ、また遊びに来るわ」
お互いに別れの挨拶を済ませると、フランドールはもう一度歩みを始めた。
眼前に拡がるのは土と樹々で構成された巨大な壁であった。
「……驚いた、山ってこんなに大きかったのね」
意図せずに言葉が漏れ出て来る。
フランドールは、妖怪の山と呼ばれるものの想定外の大きさに、その場に茫然と立ち尽くすばかりであった。
永遠亭を出て妹紅と共に竹林を出た後、2人は其々の目的へと別れた。
妹紅の方は家へと戻り、自警団の仕事をしにいくようであり、フランドールの方は霊夢から貰った地図を確認しながら、妖怪の山へと歩みを進めた。
途中、妖怪の山へ向かっていると宙に吊るされて移動している奇妙なものを見つけた。どうやらそれも妖怪の山へ向かっているようだったので、付いていくといつの前か山の麓へと着いていたのだった。
「さて、着いたは良いけど何処に行こうかしら」
妖怪の山に着いたは良いが、何分広すぎる為に初めに何処へ向かえばいいのか迷い出す。
まぁここで立ち尽くしている訳にはいかないと、フランドールは妖怪の山の中へと入って行った。
山の中に一歩足を踏み入れた瞬間、視線が全身を突き刺すのを感じた。
フランドールは足を止めて、周辺を見渡すが人影どころか気配すらも感じられない。
此方からは姿を捉えられないのに、何処からかの視線を感じ続けるという違和感、気持ち悪さと言ったものを抱きながら、フランドールは止まっていた足を動かし始める。
しかし、山の奥へと進めば進むほど、纏わり付く視線は強くなっていく。そればかりか自分に対する敵意の様なものが段々と昂まっていくのを感じた。
「止まれ。これ以上進むことは許されない」
頭上からフランドールを制止しようとする警告が聞こえた。
フランドールは足を止めて頭上に意識を向ける。一瞬で視線の正体はこの人物であると確信した。
すると、フランドールの前に1つの影が降り立つ。
どうやら天狗の様であった。
刀と盾を其々の手に持つその白髪の天狗は、直ぐにでも斬り伏せんとする程の鋭い眼光をフランドールに向けている。
「一体何をしに来た」
「別に来たかったから来ただけよ」
「とぼけるんじゃない。そんな曖昧な理由でこの山に侵入する者がいるものか」
「ほんとなんだけどねぇ」
白髪の天狗の表情は依然として険しいままであり、到底話を信じて貰えそうにない。それどころか、フランドールに向ける敵意は更に強くなり始めていた。
だが、この妖怪の山について殆ど知識を持たないフランドールは当然ながら、山に入っただけでこうも警戒される理由が分からずにいる。
「ねぇ、どうしてこの山に入ってはいけないのかしら?」
「ここは我々の領域だからだ。そんな事も知らないのか?」
白髪の天狗の問いにフランドールが頷くと、天狗の警戒がほんの少し緩む。
無知故に侵入してきたのであれば、事情を知る事で直ぐに出て行くと考えたのだろう。
唐突に、何かを思い出したかの様にしてフランドールがある方向へ顔を向けた。
「そういえば、あそこに行きたいんだったわ」
白髪の天狗はフランドールの指す方向へと目を向ける。其処には最近完成し、未だ見慣れることのない守矢神社への索道の姿があった。
「あぁ、あの神社の架空索道か」
「へぇ、あれは架空索道って言うのね」
「あれを近くで見たいのだったら1度山を降りるんだな。此処から進むとなるとどう行っても我々の領域を侵すことになる」
そう言って、白髪の天狗はフランドールに索道への行き方を教え始める。
一度此処まで登ってきたものをまた登り直すというのは中々億劫であると感じたが、この天狗の指示に従わない場合はもっと面倒な事になると考え、フランドールは素直に話を聞くことにした。
索道への行き方とついでに守矢神社の詳しい場所を知ったフランドールは、其の2つの目的地へと向かう為に山を下っていた。
「そろそろ日傘差すのも面倒になってきたわねぇ。日傘のせいで色々と突っ掛かるし……」
妖怪の山はそれこそ至る所に樹々が生い茂っているが、魔法の森とは違い、所々で日の光が漏れ出してくる。
傘を刺していないとそれらに当たってしまう為に、傘を下ろす事は出来なかった。
もういっその事、あの宵闇の妖怪の様に自分の周りを霧で覆ってみようかなんて考え始めた頃、何処かで聞いた事のある様な風切音が聞こえる。
「あやや、やっぱり来ちゃったんですねー」
フランドールの眼前に降り立ったのは先程永遠亭で出会った、射命丸文であった。
「来ないでって言われたら行きたくなっちゃうもんよ」
「それは私も概ね同意しますけどね」
フランドールの言葉に苦笑いをしながら答える文であったが、唐突に纏う雰囲気を変える。
「さて、一体どんな用件でこの山に入ったの?」
文は普段とは違う、鋭い口調でフランドールに問い掛ける。先程の白髪の天狗と同じ敵意も向けながら、フランドールを見つめた。
フランドールはそんな文の気迫に押されることなく、涼しげな顔をしながら先程あった事を答え始めた。
「それさっき会った天狗にも言われたわー。だからこうして大人しく山を下りてあげてるのに」
フランドールの言葉を受け、文は向けていた敵意を収める。
先程の言葉の意味が良く理解出来ていない様で、再びフランドールに問い掛けた。
「どういうこと?」
「だから、さっき会った天狗があの架空索道への行き方を教えてくれたから、素直に山を下りてあげてるってことよ」
「あぁ、そういえばあそこら辺は椛が仕事してたっけ。要するに、貴方は椛と会って山を下りるように言われたってことね」
「そうね、大体合ってるよ」
フランドールがこれ以上山に侵入する気が無いという事が分かり、文は警戒を解く。
しかし、それとは別にフランドールが言っていた架空索道という言葉が気になり出した。
あの索道へ向かうと言うことは守矢神社に向かうつもりなのだろうかと考え、文はフランドールへと尋ねる。
「ん? あぁそうね。この山に来るくらいしか決めてなかったから、途中で見つけた索道ってやつを見に行こうと思ってね」
「じゃあ、初めから神社に行く気は無かったと」
「そういうこと。何と言っても当てのないもんだからねぇ」
フランドールの返答を聞き、文は呆れた様な溜息を吐く。
「全く……、大した理由も無くこの山に入るなんて大抵の奴はやらないんだけど。それこそあの人間達ぐらいよ」
「私の知ってる人間ならやりかねないわね」
そう言って、文の呆れ具合を余所にフランドールは別段気にした様子もなく微笑んでいた。
さて、そろそろ行くわ、とフランドールは文の前へと歩き出す。
文が呼び止める暇もなく、彼女の姿は小さくなり続けていった。
文は、ひたすらに個を貫き通すフランドールと組織に属する事を選んだ自分を知らず知らずの内に比較していた。
淡い黄色の髪を靡かせ、1度も振り返る事無く進み続けるその姿は、何物にも代え難い自由の象徴に感じられた。
文は組織に属する事に、不満がないと言えば嘘になるが、それなりに充実した生活を送っているつもりであった。
だが、心の何処かでほんの少しだけ、誰に命令されるでもなく自由に飛び回りたいという憧れがあったのかもしれない。
文の足は自然と、歩き去っていくフランドールへと向かっていた。
「で、どうして貴方が私に付いて来てるのかしら?」
椛と呼ばれた天狗が言っていた道を進んだフランドールは、守矢神社へと続く架空索道の真下で佇んでいた。営業スマイル崩す事の無いを天狗を隣に置きながら。
「まぁまぁ、良いじゃないですか。新聞のネタになると思ったんですよ。密着取材って訳です」
フランドールは、いつの間にか自分に付いて来ていた文に目を向ける。
「貴方の取材ねぇ。あれだけ話が通じないとか言ってたくせに、分からないもんね」
「だって本当に仰ってる事が分からないんですもん」
「まぁ好きにすれば良いよ。私にとっては居ようが居まいが大して気にする事でもないわ」
では、好きにさせて頂きますねと文はフランドールの写真を撮り始めた。
写真を撮る音の煩わしさに少し後悔しながらも、フランドールはもう1度上空の架空索道へと目を向ける。
乗り物の類は初めて見るフランドールだったので、少し期待をしながら何かが始まるのを待っていた。
ただ、幾ら待てども何も始まる様子は無かった。
「あー、そういえば河童達が最近不調だからメンテナンスしてるとかなんとか」
「それって動かないってこと?」
「まぁそうなりますね」
「残念。ちょっと楽しみだったのだけど」
架空索道が動かないと知った事で、フランドールの顔が少し不機嫌なものになった。
初めてフランドールの不満げな表情を見る文は、その事を意外に思いながらも、フランドールを励まそうと声を掛ける。
「大丈夫ですよ。山の上の神様や河童達のことだからどうせ直ぐに直るでしょう。それに、椛から神社の場所も教えてもらってたのでしょう? ついでだから行ってみませんか?」
文の言葉を聞き、フランドールの表情が普段のものに戻る。
確かに、山の上にある神社も気になるとフランドールは文の提案に乗る事にした。
霊夢から貰った地図を取り出し、先程教えて貰った道と照らし合わせる。
「あれ、そんな地図持ってたんですか?」
「霊夢に貰ったのよ。もう要らないんだってさ」
「へー、あの巫女って案外優しいんですね」
「ゴミを押し付けられただけじゃない?」
「それを貴方が言うんですか……」
暫くの間、多少の雑談を交わしながら歩き続けていると、境内へと続く階段と鳥居が見えだした。
「思ったより長かったわ。少し眠くなってきちゃった」
「そういえば、吸血鬼って昼間は寝てますもんね。レミリアさんの事もあるのですっかり忘れてました。夜更かしは良くないですよ」
「私達の場合は昼更かしってやつじゃないの?」
「……確かに夜更かしとは呼ばないか」
階段を上り終え、鳥居を潜ると神社の本殿の前に1人の少女が箒を持って立っているのが見えた。
彼方の少女も2人の姿を見つけたらしく、此方に向かって声を上げた。
「参拝の方ですかー? 此方へどうぞー!」
満面の笑みを浮かべながら此方に駆け寄ってくる少女の服装は、どうにも何処で見た事があるような格好であった。
小説書いてるごとにキャラみんな好きになっちゃうんですけど