とりあえず格闘家で戦いたいと思います。   作:アズライルン

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第二十九話

 俺の名前はクロム。ギルド『楓の木』に所属している大楯使いの一人だ。ギルドを結成して最初にやる事は二つ。一つはギルドの運営金の調達に木材と布のドロップアイテム集め、二つはイズが工房内に溜め込むための素材集めだ。前者は俺、サリー、ムサシ丸、カスミの四名で後者はイズ、カナデ、メイプル、アジタートの四名。

 初心者装備のカナデはイズと共に採掘に専念するが武器は兎も角、身に着けているのがカナデと同じ初心者装備であるアジタートを心配していたがムサシ丸が『大抵の敵ならあの人は大丈夫』と言っていた。どうやらリアルでも知り合いのようだ。そんなムサシ丸が大丈夫と言うなら杞憂で済む。

そして俺は今現在―――――――

 

「まさかクジラに乗る日が来るとは思わなかった…」

 

 俺は今現在空を泳いでいるクジラの背中にいる。このクジラの名前はメルヴィルと言ってムサシ丸が第二回イベントで手に入れたテイムモンスターだ。

 

「それは私も思った。しかし、何故これだけの大きさで噂になっていないのだ?」

 

「俺はメイプルと違ってステータスを極振りにしていないしメルヴィルの超巨大化は閉鎖的空間だと逆にデメリットでしかないからな。使うとしたら今みたいなパーティー単位での大移動の時くらいじゃないと」

 

 カスミの疑問にムサシ丸が答えた。

 VITに極振りしているメイプルと違い、AGIとVITのバランスが良いムサシ丸は個人で使うよりもパーティーで移動する時に使った方が便利だと判断したからだ。確かにこの大きさなら20人くらいは乗れそうなためムサシ丸の判断は正しい。

 

「サリー、この場所で間違いないか?」

 

「うん、この場所で合ってる」

 

 そんな会話をしているうちに目的地に着いた。

 広い場所に降りるとムサシ丸はメルヴィルを指輪の中に収めた。

 

「相棒がいると便利だな」

 

「そうですね。俺の戦闘スタイルは基本クロスレンジなのでアウトレンジが得意なメルヴィルがいて本当にありがたいです」

 

 格闘家は大楯使いや短剣使いよりも攻撃のリーチが短いためクロスレンジが基本だ。それ故に少しでも判断を誤れば大ダメージは必須だ。それなのにムサシ丸は第一回イベントでメイプルと同じ第三位なのは現実(リアル)で培ってきた経験が大きい。

 目的地を少し探索すると二種類のモンスターが現れた。木のモンスターはサリーちゃんが、狼のモンスターはムサシ丸が対応する。木のモンスターがサリーちゃんの足元から根を伸ばして攻撃するがその攻撃をサリーちゃんはヒラヒラと躱してから倒す。ムサシ丸に至っては攻撃が当たる前に倒していく。

 

「ムサシ丸の事は噂で聞いていたから予想できたがサリーちゃんもヤバかったか」

 

「私は第二回イベントでムサシ丸の攻撃を寸止めとはいえ、貰ったが避ける事が出来なかった」

 

「マジか……」

 

 これも現実で培ってきた経験なのだろう。少なくともサリーちゃんレベルの回避能力かVITに自信のあるプレイヤーじゃないとムサシ丸の相手にならないだろう。それだけムサシ丸の攻撃は敵側からしたら厄介だ。

 

「気になったのがそのオーラは何だ?」

 

「『剣の舞』ってスキル。攻撃を躱すとSTR上昇」

 

「俺も欲しかったけど取得条件を聞いて諦めた。ダメージを受けるなとか俺のプレイスタイルじゃ無理だ」

 

 自己紹介でムサシ丸は俺やメイプルのような大楯使いがいない時は盾役になる所謂第二の盾役のため多少のダメージを負うのは仕方がない。

 

「これでもメイプルには敵わないけど」

 

「後これは余談だが最近分かった事で関節技は貫通攻撃扱いになります。まぁ、メイプル相手にやるのはリスクが高いですけどね」

 

 倒しながらそんな事を話すムサシ丸に俺は辟易した目を向けた。例え貫通攻撃ではあるけど関節技を仕掛けるプレイヤーはいないだろう。と言うかそんな行動を選択肢に入れているムサシ丸が可笑しい。

 

「俺も働かないとな!」

 

 二人に戦わせるのは流石に申し訳ないと思い戦闘に参加する。飛んで来る攻撃を大楯で防ぎ、短刀で攻撃する。

 

「あれが本来の大楯使いの戦い方だぞ」

 

「そうだね…」

 

「盾がいらんくらいメイプル本人が硬すぎるからな」

 

 そんな会話が聞こえて来る辺りメイプルの行動は経験者のサリーとカスミはおろかゲーム初心者のムサシ丸でも可笑しいと思っているようだ。

 

「しかし私もこのギルドにいると普通でなくなるかもしれんな」

 

「このギルドって普通(・・)が少数派だからね」

 

「普通じゃないのは俺にメイプル、サリー、アジタート姉さん、カナデだな」

 

 モンスターを倒しながらムサシ丸が該当するメンバーを言う。ムサシ丸は知らないだろうが生産職に限ればイズも異常枠に片足を突っ込んでいる。そう考えると普通枠は俺とカスミしかいない。

 

「俺も今はわりと真っ当なプレイしているんだがな…」

 

「皆メイプル色に染まっていくかもね」

 

「それはそれで面白いがな」

 

 ムサシ丸は楽観的な笑みを浮かべているが俺は笑えない冗談だと思いながらアイテム集めに精を出す。

 

 

 

 

 素材集めから翌日。ムサシ丸は一人で街中を歩いていた。他のメンバーとは時間の都合が合わずに本日は単独で行動する事となった。

 

「ソロで動くのはなんか久しぶりだな」

 

 思い返すと第二回イベントでカスミやミィ達と臨時でパーティーを組んだり、ギルドの結成のためにサリーとアジタートとパーティーを組んで資金集めをした。そう考えると久々と感じてしまうのは仕方がないのかもしれない。

 

「さてと、何か良いクエストとか無いかな。……出来ればSTRかAGI上昇スキルがあれば良いが」

 

 ギルドに加入した以上他のメンバーの足手纏いになりたくない。そのためには自分の強みを強化するか弱点を補うスキルを得るのが最良の選択肢だ。

 

「(俺の強みは耐性貫通と総合格闘技の経験による手数の多さだ。それらを活かすためには素早く間合いを詰めるための機動力だ。超加速だけだとサリーやカスミさんより遅いし第二回イベントでやったSTRによるロケットダッシュだと小回りは効かない。そうなるとパッシブスキルかアクティビティスキルの一つを取得するべきだな)」

 

 自分なりに分析して今の自分に足りない物を自覚してどのように強化しべきかを逡巡していると襤褸を纏った男性が街道を彷徨っていた。

 

「(あれはNPCか?)」

 

 サリー曰く特定のNPCに話しかけるとイベントが発生するとの事だ。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「あ、あれは……人が戦ってはいけない、戦ってはいけない……あれと戦うのは……む………だ」

 

 うわ言のようにつぶやくNPCに話しかけるとクエストの発生を告げるチャイム音が鳴った。

 

「えっと……クエスト名『生き残る術などない』。これまた物騒な名前だな」

 

 クエスト名があまりにも物騒過ぎる名前に呆れるムサシ丸であったが新しいスキルが入手できると思うと受ける価値はある。

 クエストを承諾するとマップが表示された。

 

「この場所に行けば良いって事か」

 

 早速行ってみると行商人の男性と彼の護衛と思わしきNPCが狼型のモンスターに襲われている。モンスターの姿は今まで戦ってきた物と同じだが明らかに素早く強くなっている。しかし、動き自体は従来のモンスターと同じなのでムサシ丸は容易く倒した。

 

「これで良しと。アンタ等、大丈夫か?」

 

「助かったよ。最近、狼のモンスターが出没していると聞いて護衛を付けたのですが想像以上に強くてね」

 

「森の主と言う巨大な狼が凶暴になっていると噂で聞いてはいたのですがその噂は本当のようですね」

 

 話を聞くに森の主と呼ばれる巨大な狼がいて、その狼が凶暴になっているためこの森の狼型のモンスターが強化されているとの事だ。

 

「今度は洞窟か。此処からだと少し遠いな」

 

 メイプルなら迷わずシロップを出す場面であるが生憎とムサシ丸のAGIは低くないのでそのまま徒歩で向かう事にした。その道中に狼型のモンスターが襲い掛かってきたが対処できるくらいの動きであったのでムサシ丸は悉くカウンターの一撃で屠る。

 そうしている内に目的の洞窟へと辿り着いた。

 

「ここからが本番か」

 

 回復系のアイテムの在庫を確認し、洞窟に入ると一本道でモンスターはおらず、ボスまでの道のりは容易だった。やがて洞窟の最奥に到達すると数十mはあろう深縹の狼型のモンスターがいた。

 ムサシ丸の存在に気付くとボスモンスターは唸り声をあげて襲い掛かって来た。ムサシ丸は避けたが完全に躱す事が出来ずHPバーを少し減らされた。

 

「(動き自体はこれまでのモンスターと変わらないがステータスと言うかSTRとAGIが異様に高い!?動き出しを見てからじゃ遅すぎる。ある程度動きを予測しないとやられる)」

 

 相手との実力を見極めて自分の打てる最善策を模索しながら戦っている。基本的な前脚の引っ掻き攻撃と噛み付き、体当たりの三種だが攻撃の速度が早く、一撃一撃が重い。それ故に一つでも攻撃を貰うのは危険である。

 

「(VITは低くく、HPはそこそこ高い。問題はあのSTRとAGIに物言わせた連続攻撃は厄介だよな)」

 

 ムサシ丸の攻撃は通っているのでどうやって切り抜けるかと逡巡している。ダメージを受けたボスモンスターの体勢が低くなった。この構えは連続攻撃の合図だ。

 

「一か八かだな……(攻撃が当たるギリギリまで引きつけろ。チャンスは一瞬、失敗したらHPの大部分を持っていかれる)」

 

 迎撃するためにムサシ丸は拳を構え、深呼吸をする。それを待っていたかのようにボスモンスターが襲い掛かって来た。

 

「(此処だ!)『暴獣拳・剛の型』!」

 

 当たる直前にムサシ丸は一歩前に出てボスモンスターの懐に入るとゴリラの腕の幻影と共にボスモンスターを空中に殴り飛ばした。それを好機にマンモスの脚で地面に叩き落し、鮫のオーラと共にボスモンスターの首に一撃を入れた。

 この三連撃を当てると、ボスモンスターは倒れ光の粒子になった。

 

「キッツ。階層が上がる事に難易度が上がっているな」

 

 クエストの内容があまりにも過酷なためクリア出来たのはある意味幸運と言えるだろう。

 クエストクリアと共にその報酬としてとあるスキルが貰えた。

 

『野生解放:5分間、VITが50%低下するがAGIとSTRが3倍になる』

 

「おぉ、このスキルは良いな」

 

 VITは半減するが5分間だけAGIとSTRが3倍になるのはありがたい事だ。

 

「俺でこれならクロムさんやカスミさんはどうなるのかね…」

 

 楽しみではあるものの少し恐怖を抱いてしまったムサシ丸であった。

ムサシ丸のテイムモンスターは

  • メカっぽいオルトロス
  • 悪魔チックなTレックス
  • 空飛ぶ鯨
  • その他
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