とりあえず格闘家で戦いたいと思います。   作:アズライルン

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第三十六話

 サリーによるマイとユイの回避と攻撃の命中精度を上げるための訓練の手伝いをする事になったムサシ丸であった。双子の練度が上がり、サリーが少し息抜きしようと言い出してどうしようかと考えていると一人で街をぶらついて帰って来たメイプルが空中散歩しようと提案したので二人はそれに賛同し、巨大化したシロップに乗って暫く空の散歩を楽しんでいた。

 シロップの背中に乗っている時、メイプルが一人で街を出歩いた際に『夢の墓場』と言う場所に偶然辿り着き、そこで『機械神』と言うスキルを入手した。

 

「……でそこでまた変なスキルを入手したわけか」

 

「えへへ……」

 

 その経緯を聞いて辟易した目になっているムサシ丸にメイプルは照れ笑いするしかなかった。

 

「『暴虐』は一日一回限定だし『滲み出る混沌』や『捕食者』だけじゃちょっと厳しいだろうから結果オーライかな」

 

 『機械神』と言う装備を破壊して銃などを生成するスキルでメイプルの装備は破壊されても強化されて復活するのでメリットになるがデメリットになる事はない。強いて上げるなら『機械神』は一発一発の攻撃力が低く回数制限がある事だ。

 

「機械神か…俺がこの前戦った守護獣のバックボーンにあったな」

 

「そう言えばムサシ丸君は守護獣と戦ったんだよね?どう思ったの?」

 

 自分のスキルと関係のあるダンジョンボスに興味があるのかメイプルはムサシ丸にそのモンスターについて訊いてみた。

 

「分かりやすく言うと攻撃速度も動きも速いわ、弾幕の密度が濃いわ、挙句の果てには攻撃が全て貫通攻撃で全身殺意の塊って言葉が似合う奴だった。戦っている際にメイプルでも厳しいんじゃないかと思った」

 

 貫通攻撃と聞いてメイプルは苦い表情を浮かべる。第三階層の実装で貫通攻撃に対する防御スキル実装が設けられたがムサシ丸が戦った守護獣は攻撃速度と弾幕の密度が段違いで自分のプレイヤースキルでは到底対処できないと判断したからだ。

 ムサシ丸もムサシ丸で『不屈の守護者』と『復讐の一撃(ヴェンジェンス・ストライク)』の二つのスキルでどうにか勝てたのである意味では幸運と言えよう。

 

「そのおかげでユニーク装備をゲットしたんだしこっちもこっちで結果オーライって事で」

 

 クロスレンジが得意なムサシ丸と戦うのならアウトレンジが基本だ。しかし、魔法攻撃だと『マジックリフレクター』で反射しその隙に接近されるため、同じくアウトレンジが得意な弓使いだけとなる。

 だが、それは暴獣の具足を装備している時だけ。今回手に入れた『オルトロス・ガントレット』の『オルトロス・アーツ(バレット)』によってアウトレンジ攻撃が出来るようになり、矢の攻撃を撃ち落とし、その隙に接近する戦いが出来るようになった。サリーは今の彼と互角に戦えるのはトッププレイヤーか彼をよく知る自分かアジタート、初見殺しのスキルが多いメイプルだと考えていた。

 

「(ムサシ丸との戦いは如何に間合いを詰められないように立ち回れるかが重要なるから安易に遠距離攻撃が出来ると思っていると物理的な意味含めて痛い目に遭うのよね)」

 

 簡単な手合わせの際に短剣の連撃をまるで最初からその軌道を見切っていたのか全て防いでみせただけでなく、攻撃もこちらの動きを先読みして躱せないポイントに飛んで来るので反射神経には自信があるサリーでも手も足も出なかった。

 

「そう言えば、ムサシ丸さんは誰に格闘技を教わったのですか?」

 

「教えて貰ったのは爺ちゃんだよ。俺もアジタート姉さんも爺ちゃんから『自分の身は自分で守れるように』って言われて色々な格闘技を教えて貰った。そこから格闘技の面白さに気付いて総合格闘技にのめり込んだ」

 

 サリーは祖父の教えがムサシ丸の強さの根底であると直感した。様々な武術に経験した事によってどんな状況でも立ち回れる事が出来たのだ。

 

「爺ちゃんは元警官で今は後輩の警官達に武道の指導をしている。それでその知り合いの人達から狂った『ヤ』のつく自営業の人と殴り合ったとか銃弾の雨を躱したとかそんな話を聞くが実際にどこまでが本当の話か分からん」

 

 そして同時にどうやら自分が思っていた以上に彼の祖父はヤバい人物であった事が判明した。そんな会話をしながら目的の湖に到着した。

 メイプルとマイとユイは足の装備を脱いで湖に入っていく。ムサシ丸もイズが作った釣竿を取り出そうとしたが誰かに見られる視線を感じた。勿論、その事はサリーも気付いていた。

 

「そろそろ出て来たら?」

 

「あー、やっぱりバレてたか」

 

 そう言って現れたのは金髪のサイドテールの魔法使いのプレイヤー―――――集う聖剣に所属しているフレデリカだ。

 

「どうして私達を尾行していたの?」

 

「大方、情報収集だろうな」 

 

 第四回イベントのギルド対抗戦が近づいているため少しでも他のギルドの情報を持ち帰ろうするギルドは多い。

 

「私は炎帝の国の情報を持っているけどいる?」

 

「残念だけど炎帝の国の情報なら持っているわ」

 

 第一階層のボスや第二回イベントでミィ達、『炎帝の国』のメンバーとパーティーを組んだ事のあるムサシ丸から主観的ではあるがある程度の各プレイヤーのスタイルをサリーは把握している。

 

「でも、新しい仲間(・・・・・・・)になった情報は持っていないよね?」

 

 これにはムサシ丸も目を丸くする。炎帝の国のメンバーとはそれなりに交流のあるムサシ丸だが新しいプレイヤーが入ってきたのは知らなかった。

 

「それは欲しいな。私からも『楓の木』の情報を教えてあげるわ、決闘に勝てたらね」

 

 フレデリカからしたら同士討ちして欲しかったがサリーはそのプレイヤーと少しでも集う聖剣のメンバーの情報が欲しいため決闘を申し込もうとした。

 

「…サリー、その決闘の相手は俺に任せてくれないか?」

 

 すると、サリーの提案にムサシ丸が乗って来た。

 

「でも……」

 

「安心しろ。この中で情報漏洩しても被害が少ないのは俺だけだ。それにお前の事だから何か策(・・・)でもあるのだろう?ならば、温存しておいた方が良い」

 

 その言葉を聞いてサリーはハッとする。そもそもムサシ丸のプレイスタイルは今まで身に着けた格闘技をベースにしているためスキルを発動させるのは大抵、接近するための補助か一撃での高火力の攻撃が欲しい時だ。それに加えて自分が考えている策を見抜いて乗って来たのだ。

 

「決まった?」

 

「俺が相手をする事になった。集う聖剣からしても俺の情報は欲しいだろうからな」

 

 ムサシ丸が戦うと言い出すとフレデリカがほんの一瞬だけ顔を強張らせたのを見逃さなかった。

 

「(第二イベントで感じた視線はこいつ……いや、こいつの仲間か)」

 

 銀のメダル集めに他のプレイヤーと戦っている際に感じていたがフレデリカではなくその仲間のプレイヤーの視線であると確信した。

 一方のフレデリカは魔法使いの天敵とも言えるムサシ丸が相手になった事で内心穏やかではなかった。

 

「(となると『暴獣拳』と『マジックリフレクター』はバレていると仮定して動いた方が良いな)」

 

 ある程度考えを纏めているムサシ丸を他所にサリーはフレデリカから炎帝の国の新メンバーの情報を聞いていた。そのメンバーは槍使いで大きな盾を所持しているとの事だ。

 

「知っているのは此処まで。じゃ……はい、決闘の申請したよ。ルールはHPが0になるまでのデスマッチだからね」

 

「あい、分かった」

 

 フレデリカから決闘の要請をが来たのでムサシ丸は承諾すると目の前に魔法陣が現れて二人はそれに乗ると姿が消えた。

 そして二人が転移した先はまっ平な闘技場だった。

 

「決闘の空間ってこんな感じなのか…」

 

「まぁ、このシステムを使う人ってあまりいないからね。十秒後に開始ね」

 

 そう言ってカウントダウンが始まり、ムサシ丸とフレデリカはお互い向かい合う。そしてカウントが0になった瞬間、フレデリカが手始めに炎弾を放ったがムサシ丸は簡単に避けた。

 

「(やっぱ、単発の攻撃じゃ避けられる……となると生半可な攻撃は逆に危険か)」

 

 ムサシ丸の回避能力はかなり高いと判断したフレデリカは観察しながら自分の十八番となる魔法攻撃を行う。

 

「これはどうかな?『多重炎弾』!」

 

「(この一発は躱せないか)『マジックリフレクター』」

 

 多重炎弾の一発だけ躱せないと思ったムサシ丸はマジックリフレクターで反射したがトップ層にいるフレデリカは反射された攻撃を避けた。

 先ほどの攻撃を警戒しつつムサシ丸は逡巡する。

 

「(何らかのスキルで一つの魔法を複数回詠唱する事ができるのか。あの様子からして燃費は良いと思って行動した方が良さそう……だが)甘いな。『超加速』」

 

 そう呟いたムサシ丸はフレデリカに超加速で接近する。近づかれる前に多重炎弾で倒そうとしたが当たる前にムサシ丸が攻撃の軌道を読んで躱し続けたのだ。

 

「へっ?嘘!?」

 

 攻撃が当たる直前で躱される事は何度かあった。しかし、攻撃が当たる前からその軌道を読まれて回避される事は今までなかった。

 まぐれかと思って『多重水弾』と『多重石弾』を詠唱したがどれもムサシ丸は回避してみせた。

 

「(いやいや……可笑しい、可笑しい!?)」

 

「(視線と放たれる気配で軌道が丸わかりだ。シンさんみたいな途中で軌道を変えられたり、ミィさんみたいに広範囲攻撃をバカスカ撃っている訳じゃないから分かりやすいな)」

 

 あまりにも現実離れした光景にフレデリカがパニックを起こしているのにムサシ丸は対して冷静に距離を詰めていく。

 

「『多重障へ』―――――」

 

「もう遅い」

 

 障壁を張ろうとしたが既にムサシ丸の得意な間合いに詰められてしまった。

 

「っ!『降参』」

 

 彼が放った蹴りが僅か数ミリで当たる所でフレデリカは降参した。負けを認めた事で元の空間に戻った。

 

「何で早い段階で私の魔法を避ける事が出来たのかな?」

 

「端的に言えばこれまで培ってきた経験だな」

 

 何故自分の攻撃を避ける事が出来たのかを問うたフレデリカにムサシ丸は簡単な言葉で片付けた。

 

「(経験って……まぁ、ムサシ丸の戦闘スタイルが分かっただけでも収穫かな。尤もムサシ丸の間合いに入った瞬間、待っているのは手痛いどころじゃない一撃を貰う事になるだろうけど)」

 

 余りにも分かりにくい返答にフレデリカは愛想笑いしかできず、そのまま帰っていった。フレデリカがか完全にいなくなったのを確認したサリーからムサシ丸は言い寄られた。

 

「フレデリカに余計な事を言わなかった?」

 

「余計な事と言われても端的に経験とだけ言ったが拙いのか?魔法攻撃も爺ちゃんから教わった『弾の避け方』を応用して避けただけだし」

 

「それはまぁ、拙い訳ではないけど…(ムサシ丸自身、嘘は言っていないけどフレデリカからしたら生粋の廃人プレイヤーとしての認識になるからな…)」

 

 ムサシ丸の言う経験とは祖父から教えて貰った格闘技の数々の事であってどれだけゲームをしていたかではない。

 

「(ムサシ丸の戦い方って他のプレイヤーから見たら恐ろしいけど、それはムサシ丸の格闘技の経験あってこその成り立っている訳だしおいそれと真似は出来ないしね)」

 

 常に後の先の戦いをしてきたため如何に相手が自分より速かろうがその倍先読みして攻撃を当ててくるのでサリーでも真似るのは不可能だ。

 

「と言うか……弾の避け方って何?」

 

「爺ちゃん曰く『視線と放つときの殺気で弾道を予測する』だと。俺もそれに倣ってフレデリカさんの視線と放つ気配を読んで躱した。流石に範囲攻撃されたら被弾するけどな」

 

「……ムサシ丸のお爺さん、色々とぶっ飛んでない?」

 

「それは俺にも分からん」

 

 余りにもぶっ飛んだムサシ丸の祖父にドン引きしたサリーであった。

 

 

 

 一悶着あったものの良い息抜きができたムサシ丸達はギルドホームに帰ると少し古びたロングコートと大き目のゴーグルにブーツ姿のイズが出迎えてきれた。

 

「イズさん、装備が変わりました?」

 

「分かる?生産職用のダンジョンを攻略したらユニーク装備を入手したの」

 

 イズの話を聞くに工房に居なくてもアイテムを生産できうえにゴールドを一部の素材に変換する事で薬草や火薬等を生産できる。更には新しいアイテムを作り出す事が出来るようになったのだ。

 

「あぁ、うちのメンバーがドンドン可笑しな方向に……」

 

「イズさんの場合、所持しているスキルとの相性が良すぎるだけだから。突飛な発想と謎の幸運で予想外のスキルを取得しているメイプルよりマシだろ」

 

「えっ?」

 

 頭を抱えるクロムにムサシ丸がメイプルよりマシと言った。言われた本人はキョトンとしているものの周りにいたサリー、カスミ、カナデ、アジタートはうんうんと頷いた。

 

「そうはそうとやっと完成したわ。ギルドの湯!」

 

 それは第三回イベントでムサシ丸が手に入れたギルド専用の設置アイテム『ギルドの湯・意気軒昂』が完成したのだ。

 どんなものかとイズ以外の楓の木のメンバーはそのギルドの湯を見てみると日本の洞窟風呂を思わせる内装だった。

 

「おぉ、ザ・日本って感じだな」

 

「ムサシ丸君が取って来た素材のおかげで最高の出来になったわ」

 

 あれやこれやと色々な案を出しては没にしての繰り返しであったが漸くイメージが纏まり、ムサシ丸が採集した素材のおかげで完成したのだ。

 

「これでギルド対抗戦も少しは楽になるだろうな」

 

「そうだね。でも、まだまだ油断はできない」

 

 ムサシ丸とサリーは気を引き締めたが今はこの空気を楽しもうと思った。

ムサシ丸のテイムモンスターは

  • メカっぽいオルトロス
  • 悪魔チックなTレックス
  • 空飛ぶ鯨
  • その他
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