とりあえず格闘家で戦いたいと思います。   作:アズライルン

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数年ぶりに投稿しました


第七話

 

 ムサシ丸はイズの目の前で土下座している。その理由は暴獣の住処で折角作ってくれた装備をボロボロにしてしまったからだ。

 

「イズさん、作ってくれた装備をボロボロにしてすみませんでした!」

 

 入店してから早々に土下座するムサシ丸を見てイズは目を丸くして理由を訊くと隠しダンジョンに見つけてチャレンジしてボスを倒し、その対価として作ってくれた装備をボロボロにしてしまったのだ。

 

「いいのよ、ムサシ丸君が無事で。それに武器が壊れるのはよくある話だわ」

 

 生産職のためムサシ丸が遭遇した事例はそれなりにあり作った装備が破壊されるのがほとんどであった。それでもボロボロになったとはいえ、破壊されずに残ったのはムサシ丸のプレイヤースキルの高さを窺える。

 

「それでも謝らないと俺の気が済みません」

 

 しかし、当の本人は謝らないと気が収まらずずっと土下座している。その姿にイズはどうすれば良いのか試案しているとあるアイデアが浮かんだ。

 

「なら、私の手伝いをしてくれる?」

 

「手伝い…ですか?」

 

「そう、私は生産職だから戦闘能力はからっきしなの。だから素材採取の時の護衛を頼みたいの」

 

 素材を集める時に何度かクロムと同行させたが時間がいつも合うとは限らないため彼がいない場合にムサシ丸に依頼しようと思いついたのだ。実際に初心者にも関わらず上位のプレイヤーにも引けを取らない実力を持っている。

 

「成程…分かりました。善心善意でお守りします」

 

「ありがとう。ところでムサシ丸君は格闘家を選んだのは総合格闘技をしていたからだけど…総合格闘技を始めたきっかけ何?」

 

 格闘家はプレイヤー自身の能力が問われるため初心者のムサシ丸が手足のように扱えている事にイズは疑問に抱いたのだ。

 

「多分、祖父と母の影響だと思います。祖父が元警官で今は警官に武道を教えており、幼い頃に躰道を始め柔道や合気道、空手等の武術を教わり、有名なプロレス道場の出身の母にプロレス技を仕込まれました。その関係で総合格闘技を始めたんです」

 

 なお、余談ではあるがムサシ丸の祖父は彼に剣道を教えようとしたがムサシ丸が剣道はからっきしであったため断念した。そしてこれも余談ではあるがムサシ丸の父は真面目な銀行員だが空手と柔道どちらも黒帯だ。

 そんな事情は知らずにイズはムサシ丸の強さの根源を知る事ができた。

 

「(成程ね…武道の経験があったから十全に扱えることができたのね)」

 

 祖父と母の影響で総合格闘技をしていた。それが土台となっているからこそ格闘家と言う癖の強い装備を難無く扱えたのだ。槍や剣、短剣の対処できるだろうが弓矢や魔法攻撃と言った遠距離攻撃への対策は不慣れだろう。しかし、今後取得するかもしれないスキルや経験次第では大きく化けるだろう。

 現にムサシ丸は低レベルモンスターの遠距離攻撃なら普通に対応できた事から他の格闘家を選んだプレイヤーでもトップの実力を持っている。

 

「採取する時に連絡するから護衛はお願いね」

 

「分かりました」

 

 そう言ってムサシ丸はイズの店を後にした。

 

 

 

 

 

 ムサシ丸はイズの店を出た後、レベルアップのために適当な森に行くとやや見晴らしの良い場所に出ると眼前にある木に向かって構える。

 

「(武器の耐久値の関係で暴獣拳がどう言ったスキルなのか分からない。けど、ユニーク装備のおかげでその心配はない。)試し打ちでまずは…暴獣拳・剛の型!」

 

 スキルを発動させると半透明のゴリラにマンモス、鮫が出現するとムサシ丸に吸収された。その時にムサシ丸の脳裏には一連の動きがイメージできた。

 

「(力が漲ってくる…)せい!」

 

 ラリアットの感覚で木を殴るとゴリラの腕みたいなオーラが出ては木を半ば半分折れた形で吹っ飛んだ。そして踏み込むとマンモスの脚のオーラが出現して周囲の岩をその衝撃波で上空に舞った。俺は鮫のオーラと共にそれ目掛けて挟むように蹴りを入れると地面目掛けて投げ飛ばした。

 

「成程、剛の型はこういった仕様か」

 

 剛の型を発動して体験するとどのように最適化すればいいのかムサシ丸は思考する。格闘技をしていたからか新しい技を見たり覚えたりするとこの技をどのようなタイミング、シチュエーションで使うべきかを試行錯誤できる。それ故にどうすれば隙が無く素早く相手を倒せるのかを冷静に最適解を導き出そうと考える事ができる。ある程度纏まると実践してまた思考するのを繰り返す。最適化ができると迅の型や魔の型にも同じように岩や木々を標的にして破壊する。

 暴獣拳の全ての型の最適化を見つけた頃には周囲の木や岩は無くなっていた。

 

「暴獣拳の仕様は大体理解したが…プレイヤー相手に使うとなると厳しいだろうな」

 

 静物相手になら問題はないが動いているプレイヤーに当てるにはタイミングが重要になると踏んだムサシ丸は考えを巡らせている。

 そう考えていると大勢でこちらに向かって来る音が聞こえて来た。振り返ると目を丸くした。ムサシ丸の目の前に100体以上のモンスターが迫っていたのだ。

 

「何じゃ!?」

 

 いきなりの事で困惑したがすぐに迎撃の体勢に入る。

 

「(暴獣拳を使用しすぎてMPは殆ど残っていない…ならば)格闘技で全部倒す」

 

 最初の兎を殴ると後ろにいる蜂のモンスターを蹴りで倒す。死角に入ってきた熊のようなモンスターを変形の大外刈りで仕留める。

 

「(常に敵との距離を把握し次の行動を予測しろ!相手が倍速いなら倍先読みすれば…)見えるんだよ」

 

 一般のプレイヤーなら相手が自分よりAGIに特化した敵だと攻撃を当てるのは困難だろう。

 しかし、ムサシ丸は違った。幼少期から格闘技を教わっていたムサシ丸は相手の動きを先読みする事ができる。そしてどう動いてもかわす事も出来ないポイントに攻撃を置けば勝手に当たるのだが、余りにも数が多いため全てのモンスターを倒せるか自分のHPが尽きるかの勝負である。ムサシ丸は眼前のモンスターを一心不乱に倒す。

 

『レベルが27に上がりました。スキル「格闘王」を取得しました』

 

 レベルが上がり新たなスキルを獲得したアナウンスが流れたがムサシ丸は敵の対処に忙しいため無視した。

 

『レベルが29に上がりました。スキル「破壊者の流儀」を取得しました』

 

 またアナウンスが流れたが忙しいと言わんばかりにムサシ丸は無視してモンスターの大軍を倒して行く。

 

「ふぅ~、何でいきなり敵がうじゃうじゃ湧いて来たんだ?」

 

 最後の一体を倒すと同時にアナウンスが流れたが今のムサシ丸にはどうでも良かった。今はゲーム初心者である彼は何故このような事態に起ったのかなんて理解できる訳がないため首を傾げていた。

 

 

『格闘王:殴打以外の攻撃が二倍になる 獲得条件:打撃以外でモンスターを10体以上倒す』

 

『破壊者の流儀:自分のSTRが相手のVITを上回っていた時、相手の耐性・無効スキルを無効できる 取得条件:周囲のオブジェクトを全て破壊する。アクティブスキルとドレイン攻撃無しで敵を100体以上連続で倒す』

 

 

「マジか……」

 

 取得したスキルを見て唖然とした。前者のスキルは専用のような感じがするので特に驚きもしないが後者のスキルはゲーム初心者の自分でも強過ぎると思えてしまう程の代物だった。

 

「条件を見るに相当取れる人は限られるな…」

 

 それを会得できた自分は運がいいのか悪いのかと苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

一方で―――――

 

 

「ア“ァァァァァァァ!!」

 

「ど、どうした!?」

 

 今後の追加することになる第二階層や次回のイベント等に対しての運営サイドが話し合っている中、運営の一人が大声を上げた。

 

「ムサシ丸が格闘王と破壊者の流儀を取得しちまったんだよ!」

 

「「「「マジ!?」」」」

 

 格闘王に関しては実質的に格闘家の専用のスキルなので遅かれ早かれ取得しても可笑しくないので無視はしていた。

 しかし、問題は破壊者の流儀だ。このスキルはぶっ壊れたスキルのため取得条件を難しくしておりそのおかげで今まで取得したプレイヤーは未だに出ていない。オブジェクト破壊ならどのプレイヤーでも出来るが問題は後者のアクティブスキルを使わず、それでいてドレイン攻撃を使わずに敵を連続で100体以上を倒さなければいけないのと魔法使いを選んだら絶対に取得できないし他の装備なら出来なくはないがそれでも取得するには困難を極める。

 それなのにムサシ丸は取得してしまってこれには運営も大慌ての模様。

 

「ま、まずはムサシ丸がどういった経緯で取得できたのか詳しく見てみよう。場合によってはスキル修正の候補にしなきゃ」

 

 運営の一人が映像を出すとそこには暴獣拳を試しているムサシ丸の姿があった。

 

「暴獣拳のスキルを確かめるために周囲のオブジェクトを破壊したのか……」

 

「オブジェクト破壊に関してはスキルを使用しても問題ないから分かるけど…同じ能力なのにどうして違う行動をしているんだ?」

 

 運営の一人がそう呟くともう一人がムサシ丸の行動に訝しんだがもう一人がその理由を答えた。

 

「暴獣拳は強力だが放つ際の技の構成は会得したプレイヤーの自由だ。恐らくムサシ丸は暴獣拳を如何に無駄無く発動させるために模索していたんだろう」

 

「それなら納得だな。……それでもう一つの会得条件だな」

 

 100体以上のモンスターにムサシ丸が挑む姿が映し出された。

 

「殴る蹴る…時々柔道技やプロレス技も使っているな。暴獣拳の連続使用でMPが枯渇して出せなかったのか?」

 

「試運転であれだけ使っていればMPが枯渇しても不思議じゃないし殴打だけじゃなく投技とかも使っているから格闘王が取れても可笑しくないな。でも何で急にあんな数のモンスターが出て…ん?ちょっと巻き戻して」

 

 何故あれだけのモンスターがやって来たのかと運営全員が首を傾げていたが一人がある事に気付いた。

 

「あのプレイヤー、ムサシ丸にモンスターの集団を押し付けやがった!?」

 

「トレインはマナー違反だろ!!」

 

「それは分かったけどお前ら、ムサシ丸の動きを見ろよ!自分より速い相手に攻撃を当てるとかPS可笑しくね!?」

 

 背後にいる敵に対してまるで見えているかのようにカウンターに近い攻撃を当てるムサシ丸の姿に全員は目を丸くしていた。

 

「この動きは…」

 

「何か分かったのか?」

 

「あぁ、ムサシ丸は相手の動きを先読みして攻撃している。多分、あいつはリアルで格闘技とか習っているくちだ」

 

 初見の敵で自分よりは素早い相手に対して悉くカウンターを当てる様は全ての敵の動きを先読み出来るとしか言いようがない。

 

「マジか…これAI強化しても当ててくるぞ」

 

「只でさえメイプルで頭を抱えているのに……いや、奇抜な行動をしていないだけまだマシか?」

 

「寧ろ、奇抜じゃないからこそPSの高さが余計に目立つだろ」

 

 少なくとも不遇装備と名高い格闘家でこれだけの動きができるのだからムサシ丸が如何にPSの高いプレイヤーなのかを理解できた。

 そして彼が最後のモンスターを倒した所で映像が終わった。

 

「マジか……」

 

「偶然と偶然が重なって今に至るか…でも、フィールドモンスターのAI強化は必須である事が分かっただけでも収穫だな。第二、第三のメイプルやムサシ丸を生み出す対策にもトレイン対策にも繋がる」

 

「そうだな。後はスキルの取得条件か効果に修正を入れるかのチェックだな。…破壊者の流儀は確実に入るだろうけど」

 

「パッシブスキルだから変な使い方はできないだろうしムサシ丸は格闘技がメインのため射程が短いからある意味バランスはまだ良い方だ。でもムサシ丸以外に取得するプレイヤーがいないとも限らない。どう修正するか考えよう」

 

 今日も残業確定だなと運営サイドは大きなため息を吐いた。

 

 

 

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