「絶対大丈夫だよ! だってだって、日本で一番のお医者様だもの! また素敵な物を一杯見られるよ。お花だって、海だって!」
とある病院、手術着に着替えた小さな女の子を乗せたカートが廊下を進み、それに付き添うように立花響はその子を励ましながら帯同していた。
女の子が明後日の方向へと掲げたちいさな手を手繰り寄せ、祈りを込めるようにそれをしっかりと握る。
その女の子の名前はアッコちゃん。
S.O.N.Gが支援している怪獣災害により両親を亡くした子どもたちの養護施設に暮らす女の子だ。
彼女には夢があった。
それは絵描きになり綺麗な花々を一杯書きたいという普通の女の子が誰もが願うささやかな願いであった。
だが、運命の神々はあまりにも彼女に厳しすぎた。
彼女は現在眼病に侵されており、手術を行わなければ視力を失うという病魔に侵されていたのだ。
よく養護施設にボランティアとして訪れていた立花響はそんな彼女のため色々と走り回り、掛け合った甲斐もあってか最高の環境と設備と人材を用意することが出来た。
やがて一同は手術室へとたどり着き、響とアッコちゃんの手は離れ一旦お別れとなる。
次に会う時は目が見える状態で‥‥。
しかし神殺しの拳を持つ彼女でもってしても運命と言う神までをも殺すことは出来なかった。
「父さんもお母さんも居なくて、独りぼっち。でもね、アッコちゃんって偉いんだよ! 見えなくても聞こえるんだから音楽家になるよって。絵と音楽とどっちにしようか迷っていたから丁度いいよって。それでねそれでね! 最近ピッコロを始めたんだよ! 一生懸命練習して、その発表会が明日あるの!」
「それでどうしても明日は休みたいって言っていたのか」
手術の日から数か月経った。
リディアン音楽院から寮へと帰宅途中の響はまるで自分のことのようにアッコちゃんの近況を雪音クリスに告げる。
クリスも響を通じてアッコちゃんの支援をした一人でありその後の経過を気にかけていた。
そして人助けが趣味であり自分より他人を優先するお人好しである響が装者としての活動を一日だけ完全にお休みしたいと司令にお願いしていた理由に納得していた。
「うん。わたしよりずっと小さいのに……ずっとえらい。そしてここが発表会の会場なの!」
明日が待ち遠しい様子の響。
明日まで何事も起きないことを願っていたがその想いも虚しく二人に支給されたS.O.N.G専用の携帯端末が唸りをあげる。
それは事件が発生したことを示していた。
「なんなんだ? このスッとんきょんな物体は?」
「マシュマロかな?」
発表会場から然程離れていない広場にそれはあった。
現場に一番近い響とクリスは先行し、場合によっては本部からの援軍が来るまでの間二人で持ちこたえようと気合を入れたつもりがそこにあった物体を見て肩透かしを食らった形となってしまった。
響の言う通り、現場にあったのはマシュマロのような巨大な白い物体が動くことも周囲に影響を与えること無く、ただそこに存在していたのだ。
試しにそこらに落ちていた枝でつついても弾力によるものか反発力を感じる以外はなんの反応も示さなかった。
「響ちゃんたちからデータが届きました!」
「メインモニターに出します」
遠く離れたS.O.N.G本部のメインオーダールームでは響から送られてきた映像データを基にその物体の解析が進められていた。
「エルフナイン君、これをどう見る?」
「問題の物体ですが‥‥、周辺の温度と全く変わりはありません。脈拍も呼吸も見受けられませんので‥‥」
「つまりこれは生物ではないと? ではこれはなんだ?」
「分かりません。今のところただの物体としか呼称できません」
「どうやら危険は無さそうだな。手早く焼却処分としよう」
解析の結果エルフナインが科学的観点よりそう結論づけ、S.O.N.G司令である風鳴弦十郎が総合的な判断を下す。
なにせ無害とはいえ巨大な物体が其処にあるだけでも害を被る人々がいるのだ。
その判断は決して間違ってはいないだろう。
オペレーターである藤尭朔也と友里あおいを通じて部下たちに的確な指示を与え、数分後には焼夷弾と消火弾を搭載したヘリコプターが現場に到着し作業を開始し始める。
ものの見事に燃え盛る謎の物体。
エルフナインがコンピューターの計算により算出した完全燃焼時間を超え、延焼防止のために消火弾を投下したその時不可思議なことが起きたのだ。
消火弾投下よって生じた煙のベールのから現れたのはその質量を殆ど減らすことなく、ただの真っ白だった物体だったはずの物体がまるで生き物のように炎を噴き出しながら暴れ回る姿だった。
その物体は手始めに炎を吐き出すとS.O.N.Gが送り出したヘリコプターを瞬く間に破壊してしまった。
「ああ! ヘリが!」
「にゃろ! アイツは怪獣だったってのか! いくぞバカ! 怪獣退治の時間だ!」
「うん! 行こうクリスちゃん!」
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
「Killter Ichaival tron」
響とクリスが聖なる心の歌を謳い上げシンフォギアを装着する。
手始めにクリスがミサイルを大量に産みだし全弾先制攻撃でその物体へと発射。
そもそも動くことのないその怪獣に見事全弾命中する。
下手な怪獣なら倒してしまえるほどの過剰な攻撃、しかし怪獣は倒されるどころか更なる変化を見せた。
なんと4本の足が生え、顔のような部位と、体中からは砲のようなものが大量に伸びてきたのだ。
そしてその砲から大量のミサイルがばら撒かれそのすべてが響とクリスを標的として降り注いでくる。
「うそだろ!?」
「クリスちゃん危ない!」
響が空を舞い近くのミサイルから自慢の拳で叩き落していく。
クリスも直ぐに正気に戻りアームドギアを2丁拳銃へ変化させると連携してミサイルを迎撃していった。
しかしミサイルの他にも吐き出される追尾式の炎までは迎撃のしようがなく、二人は唯々防戦を強いられる形となってしまった。
「一体どうなっているんだ!?」
二人が苦戦している最中、指令室は混乱していた。
生物ではないと思われた物体が突然予想外の変貌を遂げ、装者を襲っているのだから無理もないだろう。
急ぎオペレーター陣に解析を命じ、有効な手立てを見つけようとするが前例のない現象に苦戦をしていた。
そんな中エルフナインが一つの仮説に辿り着く。
「これは……、受けた攻撃に応じて変化しているのではないでしょうか?」
「どういうことだ?」
「その……火で焼こうとしたら火を噴くものに、ミサイルで攻撃したらそれを発射する者になったのではないでしょうか?」
「つまり……攻撃すればするほど強くなるってことか?」
「そんな! 司令! このままでは響ちゃんたちが!」
「……やむを得ん。響君! クリス君! 攻撃は一旦中止だ! 敵は攻撃すればするほど強くなる! 安全な場所まで退避するんだ!」
「ちくしょう! そんなのアリかよ! 攻撃すればするほど強くなるなんて、そんなの勝ち目ねぇじゃねーか!」
「ああ! 公会堂が!?」
司令室からの退避命令により響たちは何とか怪獣の攻撃範囲から振り切ることができ、少し離れた場所で息を整えながら怪獣の動向を見守っていた。
だが目標を見失った怪獣はその場でじっとして欲しいという彼女たちの思いを無視するかのように生えた4本の足で移動を始める。
その行く先にはアッコちゃんが演奏を予定していた公会堂があった。
それを見過ごせる響では無かった。
「おい! 何処へ行くんだ!」
「公会堂の行かないように別の方向におびき寄せる!」
「やめろバカ! 相手は今までとは遥かに違う相手なんだぞ!」
「行かせてクリスちゃん! あの公会堂だけは壊させるわけにはいかない! 発表会の時に渡す花束だって、もう買ってあるんだ! どうしてもアッコちゃんに花束を渡さないといけないんだ! すっごく素敵だったて言わなきゃいけないんだ!!」
そう言うと響はクリスの制止を振り払い怪獣の元へと近づく。
「こっちだ! こっちにきなさい!」
怪獣と併走しながらそこらに落ちていた瓦礫を拾い投げながら怪獣の気を引こうとする。
しかし怪獣はまったく気に留めず、その進行を止めることはなかった。
「こっちだってば! 当てないと分からないのか!?」
公会堂のすぐそばまで近づく怪獣、痺れを切らした響は全力投球で瓦礫を怪獣の顔目掛けて投げると怪獣はやっとその歩みを止め響に向き合う。
そして口から響が投げた物より大量のつぶてを吐き出す。
それらをなんとか躱した響だったがその隙に怪獣は炎とミサイルを発射、空中で避けることが叶わないと悟った響は防御の姿勢を取りその衝撃に備えようとした。
だがその時、背後からバイクのエンジンと共に歌が聞こえる。
「Imyuteus amenohabakiri tron」
その聖なる歌と共に響の直ぐ側をバイクが通り過ぎると炎と直撃し相殺され、響は誰かに抱きかかえられ猛スピードで怪獣との距離を取った。
そしてなおも追尾してくるミサイルは着地した場所よりも更に後方からのビームの矢によって全て撃ち落される。
「無事か立花!」
「翼さん!」
「ったく! 世話やかせるんじゃねー!」
「クリスちゃんも!」
響のピンチを救ったのは風鳴翼とクリスだった。
翼は響を下ろすとすぐさまアームドギアを生成し怪獣に対して相構える。
「ま、待ってください翼さんあの怪獣は……」
「承知している。こちらの攻撃を学習し、より強くなるとは厄介な。ならば、こちらの最大級の攻撃力でもって学習されるまえに一気殲滅するしか手は無さそうだ」
「まさか! 先輩もしかして!」
「ああ。こうなってはS2CAしかない。危険だがあの公会堂を守るにはそれしかない!」
「……やりましょう!」
「「「Grandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」」」
三人分の絶唱によるエネルギーが響の右腕に集中する。
これまで数多くの怪獣たちを葬ってきた膨大なエネルギーを纏った必殺技が見事怪獣を粉々にする。
「やったか!?」
歓喜に包まれる司令室、しかし次の瞬間信じられないことが発生する。
なんと粉々に砕け散った怪獣の破片が一か所に集中し、瞬時に元の姿へと戻ったばかりか、禍々しかった姿一転、禍々しくもどこか荘厳な2本足の怪獣へと進化したのだ。
「「そんな!?」」
「……何か来る! 警戒するんだ二人とも」
怪獣が自身の左腕よりも大きく肥大化した右腕を空へと掲げる。
翼は二人に警戒を促すが次に怪獣が起こした行動はあまりにも予想外であった。
「Grandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」
「「「……ッ!??」」」
なんと怪獣が絶唱を歌ったのだ。
そしてそれによって生み出された膨大なエネルギーは先ほどの響が放ったS2CAと同様に怪獣の右腕に集約され、それによって放たれたエネルギーの奔流が三人に襲い掛かった。
「ッ! なにをやっている二人とも! 早く退避しろ!」
あまりのショッキングな出来事に身動きが取れない響とクリス。
その二人を救うべく翼は盾にもなる大量の巨大な剣を前方に何本出現させ僅かな時間を稼ぎ二人を避難させる。
なんとか避難することが出来た二人だったが切り札でもあるS2CAまでもが効かないという現実に完全に戦意を喪失していた。
「……立花、雪音。口惜しいが一旦本部へ戻るぞ。 帰ってなんとかヤツを倒す手立てを考えよう」
そう促す翼。
しかし後方で建物が倒壊する音が彼女たちの耳にも届く。
茫然自失であっても反射的音の方向へと目を向けてしまう響。
その彼女の目に移ったのは怪獣が公会堂を容赦なく踏み潰す姿だった。
「うわぁぁぁっぁあぁぁ!!!!!」
「待て立花!!」
翼が止めるのも構わず単身で飛び出す響。
だがすぐ近くに放たれた怪獣の攻撃の余波を受け、彼女は意識を手放した。
響が目を覚ました時には半日が過ぎていた。
あたりを見回すと彼女が居たのは見慣れたS.O.N.G本部内の医療室であり自分以外はだれも居ない状態であった。
痛む体にムチを撃ち、とりあえず状況がどうなったのか確かめるべく装者専用の待機スペースへと向かう。
待機スペースには3人の装者が居た。
クリス、暁切歌、月読調、だが3人とも待機スペースの電気も付けずそれぞれ離れたところで膝を抱えており、響が入室したことにも気が付いていないようだった。
「ねぇクリスちゃん、切歌ちゃん、調ちゃんどうしたの? 怪獣はどうなったの?」
そう問う響。しかし誰もそれに答える者はいなかった。
ただ沈黙し、時折すすり泣く音が聞こえばかり響いた。
埒があかないと響はスペースを離れ、司令室へと向かう。
「師匠……状況はどうなっているんですか?」
「響君。体調のほうはもういいのか?」
「はい……なんとか。 それよりもあの怪獣はどうなったんですか? なんでクリスちゃんたちがあんな風になっているんですか?」
矢継ぎ早に疑問を問いかける。
弦十郎はしばし沈黙すると怪獣の動画を流し始める。
そこに映っていたのは装者だけの物のはずの胸の歌を唄いながら体中からミサイル、鎌、丸鋸をばら撒き、大剣に変化した左腕からは青き斬撃を、尻尾が蛇腹剣となり無数の短剣で街を朱く染め上げる怪獣の姿だった。
次回予告
遂に長き怪獣との戦いに終止符が打たれる。
果たしてシンフォギア装者たちはこの最強の怪獣を倒すことが出来るのか。
次回、シンフォギア VS ウルトラ怪獣
最終回 第三番惑星の奇跡 後編
お楽しみに