チキン・デビル   作:ムラムリ

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「俺は、俺は、俺は、俺は! 俺は、だめだ、ああ、いや、うう、くそ、だめだ、なんてことを、おれは、ああ、ああ、なんで、どうして、いやだ、ああ、ああっ!」

「俺は、何てことを! 俺は、どうして、どうして! 俺は食べてしまった! 俺は! ミツバを! コテツを! ツメトギを! 食べた! 俺は! 俺は! ああああああああああああああっ、いやだどうしてなんでああああ」

 地面を殴りつけた。何度も、何度も。

 主人を原型が無くなるまで奴等の前で殴りつけた蹴りつけた。スリーパーは消し炭にした。カクレオンは舌を引き千切って首をへし折った。ボスゴドラはその装甲をどろどろにしてそして動けなく固めてやった上で叩き壊した。

 この町の人間は皆殺しにした。人間のポケモンも全員ぶち殺した。逃げようとする奴等も全員全員どうせ俺達を食っていたんだろう! バラバラバラバラと空からヘリコプターがやってきていた。あの忌まわしいスリーパーのせいで知識がついてしまった。

「ごめんごめんごめんごめんごめんいやだごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいああ、ああ、ああ、ああ、ごめんなさいごめんなさい」

 全部名前が分かる。全部分かる。俺が食べたのがワカシャモというポケモン。俺はバシャーモ。ワカシャモを美味しく食べたバシャーモ!

「俺は、俺は、穢れてしまった。俺は俺は! 俺は!」

 死にたいでも死にたくない死にたいでもああああ。

「俺はどうしたら! どうしたらいいんだ! おれは! おれは!」

 ババババとヘリコプターが近付いて来る。うるさいうるさいうるさいうるさい!

 跳んで、腕から炎を噴き出した。全部、燃えた、全部溶けた、落ちていく。悲鳴が聞こえた。一番今までで強い炎だった。力がみなぎっていた。それはそれは!

 もう、何も聞きたくないもう何も見たくない。もうもうもうもうああああああああああああああああ。

「俺は俺はどうしたらいいんだおれはおれはごめんなさいごめんごめんごめんごめん」

 おれはおれはおれはおれはああああああ。

 そうだそうだ死ぬしかないよなそれしかないよなでも死にたくないでも死ぬしかないよな食べたのだもの俺は食べてしまったのだから俺は俺は俺は俺は。

 俺は駄目だ俺は俺は駄目だ食ってしまった殺してしまった俺は、大切だった皆を、この手で、切り裂いて、殺して、食べた。食べた、食べた! 食べた!! ああああああああああああああああああああ、ああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!

 食べてしまった!

 俺は俺は。

「死ぬしかない……」

 ここまで来る途中に、池があったのを思い出す。

 ……そこで、死のう。

 俺はもう、生きてなんかいられない。

 俺は、俺は、駄目なんだから。俺は、俺は。

 立ち上がる。もう、俺は、何もしたくないなにも何も。

 歩きたくもない。走りたくもない考えたくもない俺は俺は。

「ごめん……ごめん……お兄ちゃん、お兄ちゃんは……」

 

 ふらふら、と森の中まで戻って来た。忌々しい洗脳された自分の記憶が蘇る。忌々しい自分が忌々しい。さっさと死にたいもう何もしたくない。

 ぼちゃん、と水の中に入る。

 暗い、暗い、水の中。冷たくて、苦しくて、息が、詰まって行く。

 ああ、ああ、俺は、俺は、なんでこんな事になったんだ。

 なんでなんで。

 どうして。

 どうしてこんなことに。

 くるしい。

 なんでおれはどうしておれはこうなってしまったんだどうしてだ。なんでだ。

 ごぽごぽと息が漏れていく。

 くるしくなってくる。

 俺は、どうして。なんで。何か間違ったんだろうか何かいけない事でもしたんだろうか。

 俺は、俺は。

 ああ、ああ。

 どうして、やりなおしたい。

 やりなおしたい。ごめん、ごめん、コテツ、ミツバ、ツメトギ。ごめんごめんごめんごめん。俺は俺は兄ちゃんなのに。

 俺は。俺は。

 くるしい、くるしい。

 ああ、俺は、こんなことになるなら、あそこで死んでたほうが良かったのか俺は。

 俺はどうして俺は俺はああああああああ。

 くるしい、ああ、いやだ、やっぱり、死にたくない。俺は俺は俺は俺は。

 ああ駄目だ死にたくない。もがきたいでもでもでもでも、ああでも、動きたくない俺は死にたくない。

 俺は……。

 

「げほっ、ああっ、げほっげほっ、いやだっ、おれは、しにたくないしにたいしにたくないしにたいしにたくないしにたいおれはどうしたらいいんだおれはおれは」

 死ねない。こんな方法じゃ死ねない。死にたくない。でも嫌だ。死にたくない死にたくない。でもでもでもでも。ああああああ。

「ああああ……」

 腹が鳴った。暴れ回って、死にかけて、それでも腹は減った。

 そして俺は、あの味を思い出してしまった。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 どうして、どうして食べたいと思ってしまったんだ! どうして、どうして!

「どうしてどうしておれはこんな事になったどうしてだよどうして俺はどうしてなんでいやだよやめてやめてああああ」

 もう何で。

 もう。

 もう。

 嫌だよ。

 がさり、がさり。

 …………誰か、来る。

「……だれ」

 そいつは、俺に臆する事なく近付いて来た。

「タブンネ……」

 そいつは、虚ろな目をしていた。

 無言で、池から這い出て来た俺の前で膝を付き、癒しの波導を流して来た。

「何を……」

 タブンネは、聞いて来た。

「……やり残した事は、無いのですか?」

「やり残した事…………」

 …………。

「そうだ。俺は。俺がやり残した事は、恨みだ。

 俺達をこんな目に遭わせた奴等を。俺達を食っている奴等を! 皆殺しにしたい!

 人間も! ポケモンも! 俺達を一度でも口にした奴等を! 俺達を閉じ込めて食うために育てている奴等を! それを見殺しにしている奴等を! 全員、全員、ぶち殺したい! 焼き殺したい! 首を潰して、人間の何もかもをぶち壊して、絶滅させて、全てをとにかく、壊したい!」

 ……。

「でも、俺にはまだ、力が、足りないんだ。俺には、俺には、どんな事があろうともそれをやれるような力が、足りないんだ。ねこだましを食らっただけで俺は、俺は仲間を、食べたんだ」

「……。

 提案があります」

「提案?」

「……私を、殺して、食べてください」

 ……は?

「…………言っている意味が分からない」

「……私達は所謂ポケモントレーナーという人間達に良く虐げられる種族でした。

 そして、私はそれが嫌で強くなろうと思いました。

 でも、私の体は鍛えても戦えるような体ではなかったのです。私は、戦う種族ではなかったのです。幾ら強くなろうとも、素早い獣や、頑強な獣には全く敵わないのです」

「……それで、どうして俺に食べろ、なんていうんだ。

 丁度、弟同然の同族を食った、俺に」

「獣は鍛えた相手を倒す程、そして、殺して食べるほど、その鍛えられた量に比例して力が付くのです。

 強いか弱いかより、鍛えたかに影響されるのです。

 私は、無駄に鍛えました。鍛えても弱いままだったのに。

 そして私達タブンネは、元々何故か倒されると相手の力が付きやすい種族なのです。

 ……虐げられる原因もそれでした。

 力が付きやすいタブンネという種族、そして鍛えた私……。それを食べていただければ、とても強くなれると思うのです」

「…………お前に、やり残した事はないのか」

「無いです」

 即答だった。虚ろな目のまま。

「仲間が沢山殺されました。でも私達は、幾ら強くなっても虐げられる側から逃れる事は出来なかったのです。しかし、貴方には力がある。

 私はそれに賭けたいのです」

「………………」

 俺は、どうしたい。

 …………当然だ。人間を全て殺すまで、俺は死にたくない。死んでやるものか。

 そうだ。俺は。

「出来るだけ苦しまないように、殺させてもらう……」

 タブンネは立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございます」

 その顔は、ずっと虚ろだった。

 

**********

 

 肉を食う音。

 血を飲む音。

 暗闇の中、びしょ濡れのポケモンが、一匹のポケモンを殺した。

 崩れ落ちるポケモン。死んだ事を確認すると、その柔らかい腹に噛みついた。

 ぶち、ぶちぶち、むちぃ。

 一口を飲み込むと、意を決したように顔をその腹の中に顔を埋めるように、一心不乱に食べ始めた。

 腹が膨れ、苦しくなろうとも、食べる毎にトラウマを思い出そうとも。それでも一片たりとも無駄にしまいと食べ続けた。

 咀嚼音は暫くの後に鳴り止んだ。

 そして、そのポケモンは立ち上がった。

 腕から、脚から出た青い炎が、次第に体を包み込んで行く。ゆっくり、ゆっくりと。

 

 パンチや キックの かくとうわざを みにつける。すうねんごとに ふるくなった はねが もえて あたらしく しなやかな はねに はえかわるのだ。

 

 急激に強くなり続けた体は、一年も経たない内により燃えにくい羽毛を必要としていた。

 青い炎でも、全く燃えない程の羽毛を。

 耐え切れなくなった、古い羽がほろほろと崩れていく。草木に燃え移り、明るくなる。姿形が次第にはっきりとしていく。

 そのバシャーモの腕は、脚は、全身は、何故か他のバシャーモより一回り大きかった。筋肉はどのバシャーモよりも密に詰まっており、そしてそこから繰り出される格闘技は、何者をも一撃で破壊してしまう程だった。

 そしてその顔にはとても深い、確固たる殺意があった。それは、自分へも向いている程の殺意だった。

 そのバシャーモは、今さっき殺したタブンネの体から、血を掬い取った。

 それを顔に塗りたくると、前を向いた。

 拳を強く握り締め、一歩一歩殺意を踏みしめながら、歩いて行った。




後日談1個だけ書いてたので、それも後で投げます。

ワカシャモは

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