艦娘恋物語   作:青色3号

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綾波の場合

作戦海域から帰投した艦隊たちが岸壁を歩く。あるものは傷つき、あるものは血を流し、ボロボロの幽鬼のように。綾波型一番艦・綾波もまた、流血する左腕を右手で支えながらよろよろと脚を進めていた。

 

ふと顔を上げると目に入る、艦隊を迎える提督の姿。苦悶の表情を笑顔に変え、綾波は小走りに提督に駆け寄る。

 

 

「司令官」

 

「綾波、無事帰投したか」

 

「や~りま~した~!作戦成功です!当該海域の制海権を見事確保しました!」

 

 

左腕を抑えていた右手を離し、ピースサインを提督に突き出してみせる。傷口から血を流しながらのその笑顔に提督もかける言葉を失うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから数日、作戦で被った傷も癒えた綾波は提督執務室を訪れる。

 

 

「司令官、綾波は戦列に復帰いたしました!」

 

「ご苦労」

 

 

簡単でぶっきらぼうにも聞こえる提督の一言に綾波は微笑向ける。ガッツポーズを大袈裟にとり綾波は提督に勢い込む。

 

 

「司令官、これからも綾波に期待してくださいね!どんどん戦果を挙げちゃいます!」

 

 

あどけない少女の口から放たれる好戦的な言葉、そのギャップに提督は無表情な視線向ける。提督の様子には無頓着なまま綾波は更に言葉継ぐ。

 

 

「いつか平和な海を取り戻しましょう!それまでこの正義の戦いを……」

 

「この戦いに、正義などないよ」

 

 

綾波の言葉を折るような提督の一言、その一言に綾波は言葉を閉ざしきょとんとした顔をする。その綾波の前で提督は椅子から立ち上がり、綾波に背を向けて窓の外を見つめつつ続ける。

 

 

「国を、民を護るのが俺の仕事だ。そのためにお前らを使うのが必要だったら、そうする。……年端もいかない少女であるお前らを戦地に送り込む。それだけの話だ」

 

 

言葉の意味を探して提督の背中にすがるような視線を向ける綾波に向かい提督は背中越しに言い放つ。

 

 

「そこに、正義などない」

 

 

どこか泣いているかのようにも聞こえる提督の声、その言葉が綾波を静かに捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐艦娘寮の部屋に戻ると、姉妹艦の敷波が机に向かい本を読んでいるところだった。

 

 

「綾波、戻ったの?」

 

「うん……」

 

「どうしたの、なにかあった?」

 

 

綾波の様子を敏感に感じ取り、敷波は綾波に問いかける。その敷波に綾波は今しがたの提督の言葉を伝える。この戦いに正義などない、と言い放った提督の言葉を。

 

 

一部始終を聴き、椅子ごと身体を反転させて敷波はベッドに座り顔を伏せる綾波に向け呟く。

 

 

「司令官らしいね」

 

 

敷波の言葉に答えを求めてすがるように見つめてくる綾波に敷波は目を閉じ微笑浮かべながら言葉続ける。

 

 

「司令官は、私たちのことを女の子だと思っているからね。その私たちを戦いに赴かせることを潔しとしないのは、司令官らしい」

 

 

その言葉に綾波は複雑な気持ちになる。自分たちは、戦うための存在なのではなかったか。深海棲艦と矛を交え、いつか静かな海を取り戻すために戦っているのではなかったか。

 

 

そんなことを思う綾波に顔を向け、敷波は一言問う。

 

 

「綾波は、司令官の想いをどう受け止める?」

 

「綾波は……」

 

 

そこで言葉が止まる。自分の今の気持ちをどう言葉にすればいいのかわからない。わからないまま立ち尽くす綾波に敷波は穏やかな声向ける。

 

 

「それを聞くべきは私じゃないね。もう一度、司令官のところに行ってきなよ」

 

 

こくんとひとつ頷く。自分の中に湧き上がる気持ち、その正体を噛みしめながら綾波は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

控え目なノックのあと、綾波は再度提督執務室に姿を表す。

 

 

「どうした、綾波。忘れ物か?」

 

 

先ほどまでの言葉がなかったかのように自然な態度を見せる提督に綾波は単刀直入に切り込む。

 

 

「司令官、やはり司令官の行いは正義です」

 

 

突然の綾波の言葉に虚を突かれる提督を見据えて綾波は言葉を紡ぐ。

 

 

「綾波たち艦娘は、戦うための存在です。その綾波たちを戦地に送り込むことに、何を司令官がためらう必要があるでしょう。どうぞ、綾波たちに躊躇なく命じてください。深海棲艦を、殲滅せよと」

 

 

強い視線を向けてくる綾波に自らも真っ直ぐな眼差し返しながら司令官は言い放つ。

 

 

「お前にそのような言葉を言わせてしまうこと自体がこの戦いに正義などない証左だ」

 

「司令官も強情ですね」

 

「本来、戦いは俺たち軍人の領分だ」

 

「繰り返しますが綾波たち艦娘は戦うための存在です」

 

「それが間違っていると言っている」

 

 

提督の言葉は静かだったが力があった。その言葉に押されぬよう綾波は一度深呼吸をして言葉を紡ぐ。

 

 

「司令官、ひとりで全てを背負おうとしないでください……綾波たちは、それほどに無力ですか?」

 

 

綾波の言葉に、一瞬提督はひるんだ表情を見せる。その提督を包むかのような笑顔見せ綾波は続ける。

 

 

「いいでしょう、綾波たち艦娘を戦わせることを司令官は潔しとしない……それなら、その想いを綾波たちにも共有させてください。このろくでもない戦争を、一日も早く終わらせましょう」

 

 

言葉が、提督を捉える。少女の強さが、提督を打つ。その提督をひたと見据え、綾波は最後に付け加える。

 

 

「その日までは、綾波に司令官を支えさせてください。綾波も、司令官に支えてもらいたい」

 

 

悪戯っぽく微笑んで両手を背中に回し、綾波はおどけた声上げる。

 

 

「や~りま~した~!綾波、愛の告白しちゃいました」

 

 

突然の宣言に目を見開く提督に向けて綾波は顔を突き出す。

 

 

「綾波たちを『年端もいかぬ少女』と思うなら、この程度のことも想定済みですよね?」

 

 

その言葉に提督は苦笑浮かべる。肩から力を抜き椅子にもたれかかり、提督は降参の意を示す。

 

 

「お前にゃ負けたよ、綾波」

 

 

椅子から立ち上がり机を回り、綾波の隣に立つ。綾波が身体を捻り提督を真正面から見る格好になる。その綾波の頭に手のひらを乗せて提督は穏やかな声を出す。

 

 

「いいだろう、一緒にこのろくでもない戦争をとっとと終わらせよう。それまでは、付き合ってくれるか綾波?」

 

「それまでじゃないですよ、それからがむしろ本番ですよ」

 

「ああ、そうだな。ずっと、一緒だ」

 

 

戦う以外の自分の価値、それを今綾波は手に入れたのかもしれない。そんなことを提督は思う。いいだろう、それを自分が差し出せるというのなら、これほどまでに嬉しいことはない。共に、この戦いの日々を歩んでいこう。共に、この長い人生を歩んでいこう。

 

 

 

 

ふたりで、このろくでもない素晴らしき世界を乗り越えてゆこう。

 

 

 

 

 

 

 

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