艦娘恋物語   作:青色3号

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鹿島の場合

水柱が何本も海面に立ち上がる。砲音の響く海面を少女たちが疾走してゆく。そのひとりの駆逐艦娘が勢いよく隊列から飛び出してゆく。

 

 

「っ、ぽい!」

 

 

隊列から単艦離れた艦は集中砲火を浴びやすい。たちまち夕立を水柱が取り囲む。放たれた砲弾の一撃が、夕立を直撃する───

 

 

 

───模擬弾のペイントがオレンジ一色で夕立の全身を染め上げる。

 

 

 

 

「は~い夕立ちゃん大破判定~。」

 

「ぽ~い……」

 

 

情けない声を上げる夕立の後ろで今回の演習を仕切っていた練習巡洋艦・鹿島がクリップボードにメモを取る。全身オレンジ色に染まった夕立に、同じくペイントにまみれた睦月が海面を滑って近づき声をかける。

 

 

「残念にゃしい…睦月も吹雪ちゃんもやられちゃった。これでうちの水雷戦隊は全滅。」

 

「うう…悔しいっぽい~…」

 

 

気弱な笑顔浮かべ手を差し伸べる睦月とじだんだを踏む夕立を鹿島は微笑み浮かべ見守る。その鹿島の前で夕立は腕を胸の前に持ち上げ拳を握って宣言する。

 

 

「いざ出撃となったらこんな醜態みせないっぽい!夕立のイイトコ見せてやるぅ~!」

 

 

空に向かって夕立は叫ぶ。その夕立の姿を、鹿島は何か考えるような表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習結果を提督に報告するため鹿島は提督執務室を訪れる。簡潔にして要領を得た報告を受けると提督は満足そうにひとつ頷く。

 

 

「報告ご苦労、鹿島」

 

「いえ」

 

 

その言葉を機にいつもなら鹿島は執務室を離れる。あるいは、雑談のひとつも提督に持ちかける。しかし今日の鹿島はそのどちらもせず黙ってその場に立ち続ける。気配に気づき、顔をもう一度あげ提督は鹿島に問いかける。

 

 

「どうした、鹿島?」

 

「提督、折り入ってお願いが。」

 

 

張り詰めた空気まとったまま鹿島は短く要望する。

 

 

「私も、実戦に参加させてください。」

 

 

短い鹿島の言葉に返す提督の応えもまた短かった。

 

 

「ダメだ。」

 

 

そっけなく突き放すような提督の一言、それでも鹿島は食い下がる。

 

 

「私も提督さんのお役に立ちたいんです!どうか私にも出撃命令を…」

 

「出撃は許可しない。今後も、鹿島には演習の指揮をお願いしたい。」

 

 

なおも言葉を探そうとするが、壁のように自分の言葉を跳ね返す提督に返す言葉が見つからない。それでも鹿島は何か言おうとするが、結局何も言えぬまま唇を噛むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦娘寮の大休憩室のテーブルに上半身を預ける。横顔をテーブルの表面に押し付ける。テレビのチャンネル争いをする潜水艦娘たちの声が聞こえる。その声を聞くともなしに鹿島は耳にしていたが、やがて眼を閉じ意識をシャットアウトする。

 

 

「鹿島?」

 

 

自分を呼ぶ声に目を開く。上半身を起こし顔を声のほうに向ける。

 

 

「…香取姉ぇ?」

 

「どうしたの、暗い顔して?」

 

 

書籍を何冊か胸に抱え自分に不思議そうな顔を向ける香取のことを鹿島は見上げる。少し逡巡するが誰かに気持ちを打ち明けたほうが楽になるかと鹿島は目を伏せ語り始める。

 

 

「……提督さんが、私を出撃させてくれないんです。」

 

「出撃?実戦に?」

 

「そう。私だって実戦に出たいのに、提督さんのお役に立ちたいのに…」

 

 

自嘲するように薄い微笑み浮かべ小さな声でつぶやく鹿島の横に腰を下ろし、香取は穏やかな声を出す。

 

 

「鹿島は十分役にたっているわ。今日出撃していった娘たちの練度があがったのだって、鹿島のおかげじゃない。」

 

「………」

 

「みんな、鹿島に感謝しているわよ?なにも、実戦に参加することだけが艦隊の役に立つ方法とは限らないでしょう?」

 

 

理屈ではわかる、その通りだ。それでも想いは抑えられない。そんな感情を表情に出したまま顔を伏せる鹿島のことを香取はしばらく見つめていたが、顔を天井に向けると謎めいた言葉を放つ。

 

 

「それに、提督のワガママを聞くのも私たちの役目だとも思うしね。」

 

「え?ワガママって?」

 

「知らな~い。提督に直接聞いてみたら?」

 

 

クスリと笑って香取は席を立つ。その場を離れる香取の背中を鹿島は黙って見送るが、言葉の意味は分からないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岸壁に腰掛け波の音を聞く。夕陽が鹿島の白い肌を照らし出す。打ち寄せる波の音に身を任せ考えに沈む鹿島に背中から声がかけられる。

 

 

「こんなところにいたのか。」

 

「…提督さん?」

 

 

振り向いて声の主の名を呼ぶ鹿島の横に提督は腰かける。しばらく鹿島は夕陽見つめる提督の横顔を見ていたが、やがて自分も夕陽に目を向けると静かな声で問いかける。

 

 

「…提督さん、なぜ私を出撃させてくれないのですか?」

 

「………」

 

「装備も装甲も二線級だから?実戦では、お役にたてないから?」

 

 

知らず詰問口調になる自分がイヤになる。いや、実際鹿島の声はそんなに鋭くなくむしろ穏やかに響いていたが、いつも素直に提督の言うことを聞いている鹿島だからこそこんな場面には慣れていない。そんな鹿島の思いのたけを提督は黙って聞いていたが、やがて夕陽に目を向けたまま呟くようにその問いに答える。

 

 

「…見たくないんだ。」

 

「え?」

 

「傷ついた、鹿島を。」

 

 

そこまで言って吹っ切れたか、提督はふぅ、と息をつきあとは滑らかに語りだす。

 

 

「出撃するたびに傷ついて帰ってくる艦娘がいる。理屈では避けられないとわかっているつもりだが、実際目のあたりにすると毎回辛い。」

 

「………」

 

「その中に、鹿島が入っていたらと思うと…俺には、耐えられそうもない。」

 

 

岸壁に立ち上がって腰に手を当て、提督は言い切ってせいせいしたとでも言うように声の調子を変えて話を続ける。

 

 

「提督失格だと思うよ、そんな個人的な感情で出撃の可否を決めるなんて。でも、実際鹿島が“練習”巡洋艦でほっとしている自分がいることもまた事実なんだ。」

 

 

胸が締め付けられるような感覚の中で、ちょっと後ろめたい喜びの中で、鹿島は頭の片隅で考える。他の艦娘が聞いたら怒りそうだな、と。そんな鹿島と目を合わせ提督は悪戯っぽい笑顔浮かべ鹿島に言葉向ける。

 

 

「他の艦娘には内緒だぞ。こんなことバレたら、怒られるどころじゃすまないからな。」

 

 

屈託のない顔向ける提督から視線を外し目を閉じて鹿島は微笑み浮かべ小さく応える。

 

 

「もう、しょうがない人ですね、提督さんは。」

 

 

また波の音に身を任せ、鹿島は提督にとも自分にともつかない言葉を呟く。

 

 

「…そんなワガママ提督さんに言われちゃったら、私もうワガママ言えないじゃないですか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴れ渡った空の下、演習艦隊が抜錨する。元気な駆逐艦娘たちが鹿島の後をついてゆく。

 

 

「一人前のレディの戦いっぷり、見せてあげるわ!」

 

「みんな、遠慮なくわたしに頼っていいのよ!」

 

「電の本気を見るのです!」

 

「ハラショー」

 

 

第六駆逐隊を先導して鹿島は船速をあげてゆく。この娘たちをより強くするために、提督さんのお役に立つために───

 

 

 

 

 

―――水平線を目指す少女たちを、桟橋で提督が見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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