艦娘恋物語   作:青色3号

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那珂の場合

照明の落ちた鎮守府講堂、スポットライトが壇上の少女を照らす。軽快なポップミュージックの伴奏に合わせて少女が楽しげに歌い舞う。

 

 

「中破したって気にしない♪だって私はみんなのアイドル♪」

 

「「「「N・A・K・A・な・か・ちゃん!!!」」」」

 

 

少女の唄声に呼応して通信兵が、整備兵が、艦娘たちがペンライトを振り身体を揺らす。軽巡洋艦娘・那珂の恒例鎮守府ライヴ、その会場にひとりの青年が背中を押され腕を引っ張られて連れ込まれる。

 

 

「通りがかったが運の尽き!とにかく見てってよ!」

 

「川内、俺は仕事が……」

 

「まあまあ提督、妹の晴れ姿ぜひ目に収めていってください」

 

「神通、お前まで……」

 

 

川内に腕を引っ張られ神通に背中を押されて鎮守府の提督が講堂に足を踏み入れる。途端、身体を揺らす轟音に提督は目を見張る。

 

 

「あなたのハートに徹甲弾♪恋の主砲を直撃させるわー♪」

 

「「「「L・O・V・E・な・か・ちゃん!!!」」」」

 

 

可憐な笑顔を振りまく那珂に惜しみなき声援を送る観衆。こいつら仕事はどうしたんだ?と頭の端っこで思いつつも、提督もまたライヴ会場を覆う力場に圧倒されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

楽屋代わりの講堂の物置、ステージとは打って変わったその薄暗い空間で那珂は汗を拭く。姿を現した提督に向けて那珂はキッと眉を上げる。

 

 

「あー!楽屋は関係者以外立ち入り禁止だよー!」

 

「す、すまん那珂……ていうか俺、関係者じゃないの?」

 

「んー、でも提督ならいっか」

 

 

にへっと表情を崩す那珂の姿に提督もちょっと胸を撫でおろす。無邪気な笑顔を見せる那珂に提督は素直な賛辞贈る。

 

 

「それにしても圧巻だったな、初めて見たが圧倒されたよ」

 

「えー?提督、那珂ちゃんのライヴ今まで見たことなかったのー?薄情だなあー」

 

 

ちょっと唇を尖らせる那珂に提督は苦笑見せるが、表情を微笑みに戻して那珂に提案する。

 

 

「それだけ歌えるなら音楽隊でも通用するな」

 

「おんがくたい?」

 

「ああ、海軍にも音楽隊があるんだよ。艦娘が実戦隊以外に配属されたケースはないが転属願いを出してみるか?」

 

 

途端、寂しげな色瞳に浮かべる那珂に提督は続く言葉を引っ込める。てっきり目を輝かせるかと思っていたのでこの反応は予想外だ。意外そうな提督に向かい静かな微笑み浮かべながら那珂は囁くように応える。

 

 

「音楽隊は、いいかな……」

 

「そうなのか?」

 

「うん。それに、那珂ちゃんはホントはアイドル失格だから」

 

 

言葉の意味が分からず首を傾げ、提督は那珂に問いかけようとする。

 

 

「那珂、それはどういう……」

 

「那珂さん!サイン貰いに来ました!ぜひ俺のTシャツに……げっ、提督!」

 

 

まだうら若い作業服姿の整備兵が物置に飛び込んできてそこにいる上官の姿に硬直する。Tシャツを手に固まる整備兵に那珂はとことこと近づいて嗜めるような声向ける。

 

 

「ダメだよー、楽屋は関係者以外立ち入り禁止だよ?」

 

「あ、すいません……」

 

「まあ今回はトクベツね?」

 

 

言いながら那珂はTシャツとサインペンに手を伸ばして受け取りさらさらと器用に自分のサインを残してゆく。疑問を解消しそこなった形の提督は不思議そうな視線を那珂の背中に向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大盛況のライヴから数日後、提督はひと仕事終えて岸壁を本館に向けて歩く。ふと埠頭に顔を向けると突端に立つオレンジの制服にシニヨンの髪型の艦娘の姿が目に入る。

 

 

なんとはなしに近づくにつれ、歌声が提督の耳に届いてくる。海に向かって歌う那珂の背中に提督はそっと声をかける。

 

 

「那珂」

 

「あ、提督」

 

 

振り向いてそこに提督の姿を認め那珂は無邪気な笑顔浮かべる。つられるように微笑んで提督は那珂に声向ける。

 

 

「歌の練習か?熱心だな」

 

「へへー、アイドルはレッスンを欠かさないのです」

 

 

両手を後ろ手に那珂は提督に応える。その笑顔に向かい提督はこの間の疑問を投げかける。

 

 

「那珂、音楽隊を断ったのはなんでだ?」

 

 

透き通った笑顔で那珂は応える。

 

 

「那珂ちゃんはね……“艦隊のアイドル”でいたいんだ。自分の身の回りの人、自分を助けてくれる人たちを応援したいな、って。だから、見知らぬ人たちに向けても歌う音楽隊はちょっと違うかな、って」

 

 

得心して提督はひとつ頷く。と、もうひとつの疑問を思い出し提督は那珂に問う。

 

 

「そういえば気になることを言っていたな。『那珂はアイドル失格』とか。どういう意味だ?」

 

 

舞台の上で熱唱する那珂の姿は間違いなくアイドルのそれだった。それなのにどうして、という提督の疑問に那珂はいつか見せた寂しげな微笑み浮かべて逆に質問する。

 

 

「提督は、もしも那珂ちゃんが音楽隊に行ったらどう思う?」

 

「ん?んー……」

 

 

少しだけ考え、提督は存外素直に口にする。

 

 

「寂しい、かな」

 

 

那珂の大きな瞳を見つめながら提督は言葉続ける。

 

 

「那珂がこの鎮守府から離れてしまったら、寂しいと思う。那珂のためになるんじゃないかと思って音楽隊の話をしたが……正直、断られてほっとした」

 

 

喋り過ぎたか、と提督はそれ以上の言葉閉ざす。思いのほか心の深いところまで見せた提督の言葉に那珂は「そっか」と呟くと、囁くように言葉紡ぎ始める。

 

 

「アイドルはね……みんなのものでなくちゃいけないの。みんなに公平に、みんなに平等に」

 

 

目を閉じ顔を軽く俯かせ、胸を庇うように両手を当てて那珂は告白する。

 

 

「でも那珂ちゃんの心は、提督のものなの」

 

 

海風がさあ、と通り抜ける。どこかでカモメが鳴いている。歌のような那珂の告白、受け取った提督は那珂に向かい一歩足を進める。

 

 

「俺に、心をくれるのか?」

 

「那珂ちゃんのでよければね」

 

「嬉しいよ……代わりに、俺も那珂に自分の心を差し出そう」

 

 

はにかむような顔を見せて提督は付け加える。

 

 

「俺ので、よかったらな」

 

 

那珂が提督を見上げる。真っ直ぐに提督を見つめる瞳が潤んで輝く。そっと那珂は提督の身体に身を寄せ、その華奢な肢体を提督の胸に収める。

 

 

 

 

 

 

どこかでカモメが鳴いている。新しい恋人たちを祝福する歌声のように。

 

 

 

 

 

 

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