艦娘恋物語   作:青色3号

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酒匂の場合

鎮守府本館の中庭を通りかかったとき、ふたり並んで歩く姉妹艦の後ろ姿を見つけた。酒匂は走り寄って阿賀野の背中に飛びつく。

 

 

「ぴゃあ!」

 

「わっ!」

 

 

酒匂にいきなり抱きつかれ、阿賀野がつんのめる。隣で能代が目を丸くする。阿賀野の背中にすりすりと頬を擦り寄せ酒匂は甘えた声を出す。

 

 

「えへへ〜」

 

「もう、甘えっ子だなあ酒匂は」

 

 

眉を下げて阿賀野はしょうがないなという苦笑を浮かべる。能代の顔にも笑顔が浮かぶ。そんな三人の様子を見かけた矢作が近づいてくる。

 

 

「あら、お揃いね」

 

「矢作ちゃん!」

 

 

四姉妹の勢揃いに酒匂はぱっと表情を明るくする。四姉妹勢揃いしたところでこの鎮守府の最高指揮官たる提督が声をかけてくる。

 

 

「お、四姉妹勢揃いだな」

 

 

提督が近づいても酒匂は阿賀野の背中にしがみついたままだ。そのままの姿勢で提督を待つ酒匂に提督は優しい声向ける。

 

 

「酒匂は、姉たちが大好きだな」

 

「うん!酒匂、お姉ちゃんたちだ〜いすき!ぴゃあ!」

 

 

屈託のない笑顔で酒匂は付け足す。

 

 

「司令のことも、だ〜いすき!」

 

 

虚を突かれて一瞬提督は怯むが、すぐに微笑み取り戻す。えへへ〜、と甘い声を出す酒匂のことを、優しい空気が包んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼下がり、酒匂はひとりで先ほど姉たちとじゃれていた本館中庭を歩く。

 

 

「酒匂」

 

「司令!」

 

 

向こうから歩いてくる提督に声をかけられ酒匂は素直な笑顔見せる。その酒匂に近づきながら提督はひとつ決心を固める。

 

 

正直、自信はある。酒匂からストレートな言葉を向けられるのも珍しいことじゃない。それでもいざその言葉を口にするには度胸がいる。今までとは声質の違う緊張を感じながら提督は酒匂の一歩手前で立ち止まり、酒匂を見つめる。

 

 

「酒匂」

 

「ぴゃん?」

 

「お前が、好きだ」

 

 

軍人としてではない、ひとりの青年としての告白。その告白に酒匂は身を竦ませる。自分を庇うように両手を胸元に上げ、酒匂は提督をじっと見つめる。

 

 

やがて、酒匂の唇から漏れたのはこんな言葉。

 

 

「ごめんなさい……」

 

 

そうか、とだけ提督は告げ寂しげな微笑み浮かべる。自分がフラれた側であるかのように酒匂は俯き涙瞳に浮かべる。その姿を見つめながら、提督はしばらく味わったことのない喪失感が胸に広がるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

海に向かって埠頭に座り込む。ぼんやりと酒匂は空を見上げる。トンビが、空を円舞している。どこかでウミネコが鳴いている。

 

 

「さーかわっ」

 

 

隣に、いきなり阿賀野が腰を下ろす。ちょっとびっくりする酒匂に向けて阿賀野は意味深な微笑み向ける。

 

 

「さっき、提督とふたりでいるの見たよ。いい雰囲気だったじゃん」

 

「…………」

 

「もしかして、告白とかされちゃった?」

 

 

興味津々で問うてくる阿賀野に酒匂は俯いた横顔見せて呟く。

 

 

「告白、された」

 

「え、ホントに!?きらりーん!」

 

「でも、断っちゃった」

 

 

その言葉に阿賀野は言葉なくし目を見開いて酒匂を見つめる。心底意外そうな声で阿賀野は酒匂に向かい声向ける。

 

 

 

「酒匂も、提督さんのこと好きなのかと思ってた」

 

「うん、好きだよ。大好き。でも……」

 

 

俯く首をますます深く下げ、酒匂は微かに震える声を出す。

 

 

「……怖いの」

 

 

ぽつり、と酒匂の閉じた瞳から涙零れる。涙声になる自分の言葉、こらえようともせず酒匂は呟く。

 

 

「生まれたときは阿賀野ちゃんも能代ちゃんももういなくて……矢矧ちゃんもすぐいなくなっちゃって……」

 

 

しゃくりあげながら酒匂は続ける。

 

 

「生まれ変わって、みんなに会えて……み、みんないてくれてすごくすごく幸せで……」

 

 

首を振りながら酒匂は涙声を大きくする。

 

 

「怖いの!これ以上、幸せになるのが!ま、またみんないなくなっちゃうんじゃないかと思って……また、ひとりぼっちになっちゃうんじゃないかと思って……」

 

「酒匂」

 

 

静かに阿賀野は傍らの酒匂のことを抱きしめる。小さく震える酒匂の身体を包み込みながら、阿賀野は酒匂に囁きかける。

 

 

「ごめんね、寂しい思いさせたんだね。もう、いなくならないから。ずっと、一緒にいるから」

 

「っ……っ……」

 

「酒匂は、うんと幸せになっていいんだよ。だって、ひとりで頑張ってきたんじゃない。最後まで、ひとりで頑張ってきたんじゃない」

 

 

頬を、酒匂に擦り寄せる。その華奢な身体を抱きしめる。今までいろいろなことをひとり背負ってきた酒匂を、阿賀野は強く抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

酒匂が、提督執務室に姿を表す。

 

 

「酒匂……か……」

 

 

あんなことの直後で流石の提督も少々気まずい。それでも表面上は平静を保ち、提督は椅子から立ち上がりお茶を淹れる準備をする。

 

 

「どうした、なにか用か?今は、俺しかいないが……」

 

「司令」

 

 

こちらに半身を向け小さなテーブルに乗った茶碗にお茶を注ぐ提督に酒匂は告げる。

 

 

「さっきは、ごめんなさい」

 

「あ、ああ……なにも、改まって謝ることじゃ……」

 

「酒匂、司令が好き」

 

 

提督の、動きが止まる。茶碗に注がれるお茶の水音が止む。驚いた顔をこちらに向ける提督の瞳を真っ直ぐに見つめ、酒匂はもう一度言う。

 

 

「大好き」

 

 

ひたむきな視線、結ばれた唇。真剣な表情で想いを告げる酒匂に提督はゆっくりと近づく。その提督を待ち受けながら酒匂は言葉紡ぎ出す。

 

 

「怖かったの、これ以上幸せになるのが。でも、やっぱり好きだから。もう、怖がらないと決めたの……幸せを、怖がらないと決めたの」

 

 

提督が酒匂の前に立つ。その手が、酒匂の頬に添えられる。提督の手のひらの温かさ感じながら酒匂は提督を見上げる。

 

 

 

ゆっくりと、提督は酒匂を自分の胸に誘う。酒匂の小さな身体が提督の腕の中に収まる。提督の腕に抱きしめられながら、さっき自分を抱きしめてくれた阿賀野の腕の優しさ思い出しながら、酒匂は優しさの中で想う。

 

 

 

ずっとずっと、幸せになろう。

 

 

 

もっともっと、幸せにしよう。

 

 

 

 

 

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