艦娘恋物語   作:青色3号

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霞の場合

ノックもなしに提督執務室の扉が開く。「入るわよ」の声とともに、小柄な駆逐艦娘が姿を現す。今まで何度も来たことのある場所なのに、珍しい場所だとでもいうかのように辺りをきょろきょろと見まわしながら霞は提督の机に近づき、まっすぐ提督の顔を見据える。その霞に提督は呑気な声を作って問いかける。

 

 

「霞か。どうした?俺の顔が恋しくなったか?」

 

「まさか。クズ司令官がさぼってないか見張りに来たのよ。」

 

「相変わらず手厳しいな~。そうだ、霞。お前明日公休だったよな?」

 

「そうだけど?」

 

 

にっこりと笑って提督は制服のポケットからチケット二枚取り出しわざとらしく掲げながら霞に問いかける。

 

 

「偶然にも俺も明日公休なんだ。どう?一緒に映画でも。」

 

 

はぁ、と大げさにため息ついて霞は腰に手を当てると提督に向かて言い放つ。

 

 

「あんたねえ、何度私が断ったと思ってるの?」

 

「覚えてないな~…」

 

「珍しく気が合うわね、私も覚えてないわ。とにかくいい加減懲りなさいな。」

 

 

へいへい、と口先だけで返事して提督はチケットをポケットに戻す。そんな提督の飄々とした様子を眺めながら霞は呆れたような表情を隠そうともしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、外出前にちょっとした用事を済ませようと霞は鎮守府の本館に足を向ける。玄関を潜るところでふと顔を門の方角に向けると、見慣れた後ろ姿が目に入る。

 

 

紺のジャケットにチノパンというこれは珍しい私服姿の提督と、隣に歩くパーカーにショートパンツ姿の少女。提督に笑顔向ける陽炎に提督も笑顔で何か話しているのが遠目にも分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕を組み、バカにしたような声色隠そうともせず霞は呟く。

 

 

「なによ、私じゃなくてもお相手は誰でもよかったわけ?節操ないわね、クズ司令官も。」

 

 

ふと、頬を熱い感触が流れているのに気がつく。頬に手をやると濡れた感覚がする。自分が泣いていることに、そのことに今になってようやく霞は気がついた。

 

 

「…なによ!」

 

 

顔を地面に向け歯を食いしばる。そんなことをしても涙は止まってくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンガ作りの建物の裏で膝を抱えて座り込む。どのくらいの時間そうしていただろう、頭上から声がかけられる。

 

 

「んちゃ。」

 

 

声の方向にぼんやりと顔を向ける。姉妹艦の霰の姿がそこにあった。

 

 

「…霰か。」

 

「霞姉さん…どうしたの?こんなところで…」

 

「別に。」

 

 

ついついぶっきらぼうに答えてしまう。そんな霞の隣に霰は自分も腰かけると、顔を前に向けたまま傍らの霞に問いかける。

 

 

「もしかして、司令官と何かあった…?」

 

 

驚いて霰の横顔に顔を向ける。霰もゆっくりと霞に顔を向ける。ふたりの目が合ったところで、霞は霰に漏れるような声向ける。

 

 

「どうして…?」

 

「なんとなく…最近、霞姉さん、司令官とよくお話してたから。」

 

 

自分でも気づいていなかった。知らぬうちに、提督の姿を求めていた。サボりの監視と口実を設け、自分で自分に嘘をついて、自分でその嘘を信じ込んで、提督のところに通い詰めていた。

 

 

今更気づいても―――そんな想いに駆られながら霞は膝の間に顔を埋めなおすと絞るような声で小さく呟く。

 

 

「なにも、ないわよ…なにもなさすぎよ。」

 

「霞姉さんは、それが不満なんだね…?」

 

 

霰の言葉に無言のまま答えない。そんな霞の態度を責めるでもなく、霞の返事を期待するでもなく、霰は霞の横顔に向けて話し続ける。

 

 

「不満だったら…変えなきゃ、いけない。そうしないと、後悔するから。」

 

 

小さくもはっきりとした霰の言葉。その言葉に、知らずのうちに霞は小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、提督執務室の扉がノックもなしに開く。小柄な駆逐艦娘が姿を現す。霞の姿を認め、机の向こうから嬉しそうな表情隠そうともせず向ける提督の目の前まで近づくと霞は机を挟んだ提督に険のある言葉向ける。

 

 

「昨日はお楽しみだったみたいじゃない…別に、私が相手じゃなくてもよかったってわけね。」

 

 

違う、そんなことを言いに来たんじゃない。そう反射的に思っても放った言葉は戻らない。浮かべている厳しい表情崩すこともできぬまま、次の言葉を当てなく探す霞に向かって不思議そうな顔を向け提督は霞に問いかける。

 

 

「何の話だ?」

 

「とぼけないで、昨日見たんだから。陽炎と一緒に楽しそうにお出かけしてたじゃない。」

 

 

その事実を口にした途端、新たな痛みが胸に走る。表情に出ないようぐっと堪える霞の前で提督はしばらく何か考える風だったが、やがて心当たりを見つけたか椅子の背もたれに身を預けて話し出す。

 

 

 

「ああ、陽炎か。確かに昨日、一緒に歩いたな。」

 

「………」

 

「鎮守府を出ようとしたところで偶然会って、不知火と駅前で待ち合わせしてるからってんで門を出たところで別れて…」

 

「は?」

 

「んで、俺はひとりで映画見て帰ってきた。」

 

「はああ!?」

 

 

 バン!と思わず机に両手を乱暴に置く。身を提督の方に乗り出して霞は吠える。

 

 

「バッカじゃないの!?ひとりで映画だなんて、どこまで寂しいことしてんのよあんたは!!」

 

「お前それ、結構な数の見知らぬ人たちに失礼だぞ。」

 

 

別にひとりで映画を見に行くヤツなんていくらでもいるだろうが、と続ける提督に霞は返す言葉を失う。怒ったような顔のまま身を引きながら霞は提督に向かってようやく探し当てた言葉を向ける。

 

 

「だからってなにも好き好んで…あんたとなら一緒に映画見たいって物好きくらい、この鎮守府にもいるでしょうに!」

 

「ヤダよ。俺、霞としかデートする気ないもん。」

 

 

飄々とそんな言葉を提督は言い放つ。霞の頭にカッと血が上るが、それが怒りによるものではないことくらい流石の霞も知覚する。顔がみるみる熱くなっていき、早まる鼓動に息苦しさを覚える。

 

 

「ところでさ…」

 

 

そんな霞の様子にどこまで気がついているのか、提督は相変わらずの気取らぬ声を霞に向けながら制服のポケットからチケット二枚取り出してみせる。

 

 

「今度、霞の公休いつだっけ?俺も合わせるからさ…一緒に映画、どう?」

 

 

不覚にも身体が硬直する。もう心臓は破裂しそうなくらい高鳴っている。そんな自分に舌打ちしながら霞は強引に身体を動かし、提督からチケットを一枚奪い取ると怒った横顔提督に向け目を閉じる。

 

 

ブツブツと何やら霞は口の中で呟いていたが、存外素直な声で「つきあってあげるわよ…」と呟く。と、いきなり霞は提督に向き直り身を乗り出して提督に向かって吠えた。

 

 

「…ホンットあんたは私がいないとどうしようもないんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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