艦娘恋物語   作:青色3号

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瑞鳳の場合

提督執務室にカリカリとペンが走る音だけが聴こえる。と、その音がぴたりと止まる。秘書艦・瑞鳳は顔をあげると可愛らしい唇を尖らせ傍らの机にこちらに横姿を向けて座る提督に文句を向ける。

 

 

「も~…提督ぅ、お仕事しようよ~…」

 

 

その声にはっと気がついたように、頭の後ろに手をまわして背もたれに上半身を預けうたたねをしていた提督が姿勢を正す。

 

 

「ああ、スマン…陽気がいいのでついつい。」

 

「言い訳になってないよ…頑張らないと、書類たまってくばっかりだよ?」

 

 

そうだな、と簡単に応え提督は書類に向き合いなおす。やがてカリカリと書類を片付ける音が再開する。瑞鳳も合わせて書類仕事に戻るが、その一瞬提督の横顔を盗み見ると「ふふっ」と小さな笑い声上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でね、でね、あれだけあった書類があっという間に片付いちゃったの!やっぱりお仕事できる男の人っていいよね~…」

 

 

寮の私室のお布団の上に正座して枕を膝の上に置き、瑞鳳は髪を下ろしたお寝間姿で姉妹艦の祥鳳に「その日の提督」を報告する。エヘラエヘラ笑顔を浮かべて頬を染めいつものように提督の様子を嬉しそうに語る瑞鳳の様子を祥鳳は自分も微笑みを浮かべて見つめていたが、瑞鳳が秘書艦になってからここしばらくずっと続くこの恒例行事に内心ちょっとうんざりしないでもない。それでもそんなことはおくびにも出さず、とはいえ事態を少し変えたいのもあって祥鳳は瑞鳳に問いかける。

 

 

「よかったわね、瑞鳳…ところで瑞鳳、そろそろ次の段階に進もうとは思わないの?」

 

「次の段階、って?」

 

 

きょとんとした表情を浮かべる瑞鳳に祥鳳は単刀直入に切り込む。

 

 

「もちろん、提督と恋人同士になることよ。」

 

「こ、っ…!」

 

 

バムッ!と音を立てそうな勢いで瑞鳳の顔が朱に染まる。手を自分の前でぱたぱたさせながら瑞鳳はぎゅっと目を閉じ祥鳳に答える。

 

 

「む、無理だよぅ、そんなの!」

 

「あらどうして?ずっと好きだったんでしょう?秘書艦になった今がチャンスじゃない。」

 

 

首を傾げニッコリ笑ってそんなことを告げる祥鳳に瑞鳳は泣きそうな顔向ける。それでも祥鳳は笑顔保ったまま瑞鳳に退路を用意してはやらない。無言でにこにこする祥鳳になぜか気圧された格好で瑞鳳はようやくおずおずと呟く。

 

 

「…どうすれば、いいの?どうすれば、コイビトドウシになれる?」

 

 

言った瞬間ものすごく恥ずかしくなって、それがとても現実離れしたことのように思えて、瑞鳳は俯く。そんな瑞鳳を「かわいいなぁ」と思いつつ祥鳳は人差し指を立て瑞鳳にアドバイスする。

 

 

「とにかく、瑞鳳の気持ちに気づいてもらうことね。もっと積極的にならなきゃ。」

 

「と、いいますと?」

 

「そうねえ…差し入れなんてどうかしら。あなた、得意料理あったでしょ?」

 

 

自分の手料理を提督に食べてもらう―――その妄想に、またも瑞鳳は顔を真っ赤に爆発させる。それでも姉妹艦からのありがたきアドバイス、瑞鳳は勇気を振り絞りコクンと小さく頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日提督執務室、いつもと同じカリカリとペンの音が響くその光景。お仕事の手を進めながら瑞鳳はちらちらと提督の横顔を盗み見する。そんな時間がどれだけ続いたか、ついに提督が顔を瑞鳳に向け問いかける。

 

 

「なんだ瑞鳳、さっきから…俺の顔に、なんかついてるか?」

 

「ひゃっ!?う、ううん、なんでも…」

 

「それにしてもさすがに疲れてきたな…ひと休みするか。」

 

 

うん、と背筋を伸ばして提督は瑞鳳に提案する。今だ!と瑞鳳は心の中でガッツポーズ作り、いそいそと椅子の傍らの風呂敷包みを解く。

 

 

が、タッパーを持ったところで動きが止まる。ここから先の勇気が出ない。膝の上にタッパーを乗せ瑞鳳はもじもじと身を揺する。そんな瑞鳳の様子にようやく気づき、提督は瑞鳳に声向ける。

 

 

「どうした、瑞鳳?」

 

「ひえ!?あ、あの…」

 

 

バクン!と高鳴る鼓動に押し出されるように瑞鳳はぎゅっと目を閉じタッパーを提督につきつける。

 

 

「あ、あの…おなか、すくだろうと思って差し入れ用意したの!卵焼き、たべりゅ?」

 

 

緊張のあまり噛みながらそれでも瑞鳳は言い切って見せる。そんな瑞鳳の様子とタッパーを交互に見比べて一瞬提督はぽかんとするが、すぐに笑顔見せタッパーに手を伸ばす。

 

 

「わざわざ作ってくれたのか…ありがたく頂くよ。」

 

 

言いながらタッパーを受け取る。ふたを開け、少し行儀悪いと知りつつも直接卵焼きを指でつまんで口に運ぶ。

 

 

「ん、うまい。」

 

「ホント!?ホントにおいしい!?」

 

 

ぱあっと瑞鳳の顔が満開の花になる。目をキラキラさせて提督を見つめる瑞鳳に見守られながら提督は次々と卵焼きを片付けていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でね、でね、あれだけあった卵焼きがあっという間に片付いちゃったの!おいしそうに食べる男の人っていいよね~…」

 

 

寮の私室のお布団の上に正座して枕を膝の上に置き、瑞鳳は髪を下ろしたお寝間姿で姉妹艦の祥鳳に「その日の提督」を報告する。エヘラエヘラ笑顔を浮かべて頬を染め昨日に引き続き提督の様子を嬉しそうに語る瑞鳳の様子を祥鳳は自分も微笑みを浮かべて見つめていたが、やがてようやく一言問いかける。

 

 

「よかったわね、瑞鳳。それで次の予定は?」

 

「次の予定、って?」

 

 

頭にはてなマークのっけて笑顔浮かべたまま首傾げる瑞鳳の姿に、祥鳳は「はぁ、」とため息つく。なんともスローモーな妹分の恋の行方を案じながら祥鳳は今夜も単刀直入に切り込む。

 

 

「提督にはいつ告白するの?」

 

「こ、っ…!!」

 

 

過去最高記録といった勢いで瑞鳳の顔がバムッ!と真っ赤に染まる。頭から湯気を吐きながら瑞鳳は祥鳳にしがみつく。

 

 

「そ、そんなこと無理だよ~!!わたし、そんなことしたら死んじゃう!!!」

 

「え~いしがみつくな暑苦しい!!」

 

 

瑞鳳のあまりにあまりな行動に、ついついいつもの落ち着きはらったクールな物腰忘れ祥鳳は乱暴な口調向ける。それでもひるむことなくしがみついてくる瑞鳳の姿に祥鳳はまたもため息ひとつつき、言い聞かせるように瑞鳳に説く。

 

 

「提督ってああ見えて結構鈍いから…はっきり言わないと、伝わらないわよ?」

 

「は、はっきり、はっきり…」

 

「そう。『提督、あなたが好きです』って。」

 

「!!」

 

 

もうこれ以上赤くなることはないと思われていた瑞鳳の顔の赤みが一段上がり、その大きな瞳に涙が浮かぶ。祥鳳にしがみついたまま瑞鳳は逃げ道を求めるように祥鳳を必死に見上げていたが、やがてそんなものないと知ると唇噛んで俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日はよく寝られなかった。なのに、眠気は感じない。今日も今日とてペン先がカリカリと紙をひっかく音響く提督執務室で、瑞鳳はちらちらと提督の横顔を盗み見る。

 

 

「なんだ、瑞鳳。俺の顔になにかついてるか?」

 

「ひゃっ!?」

 

「それとも、またなにか用意してきてくれたのかな?」

 

 

仕事の手を止め笑顔でからかいの言葉向ける提督の姿に瑞鳳の鼓動が一段と跳ね上がる。それでもなけなしの勇気集め、瑞鳳は椅子から腰をあげると提督の机の前に回り込む。

 

 

組み合わせた手を落ち着きなくもみ絞りながらもじもじと身を揺すり、しかし瑞鳳はそのまま固まってしまう。それからどれだけの時間が過ぎたか、ようやく瑞鳳の唇から掠れた小さな言葉が漏れる。

 

 

「あ、あのね、提督、大切なお話が…」

 

「話?」

 

「あのね…」

 

 

そこで勇気は潰えてしまう。ぎゅっと目を閉じ、なんとか言葉を押し出そうとする。しかし潰えた勇気はもう再び戻ることはなく、言葉の代わりに閉じた瞼の隙間から涙溢れ、瑞鳳は提督に背中向けるとそのまま執務室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府本館の裏手、誰も通りがからないような建物の隙間。そこに瑞鳳は身を隠すと膝を抱えて座り込み膝の間に顔を埋める。ぽろぽろ零れる涙を拭おうともせず、瑞鳳はひとり小さく呟く。

 

 

「やっちゃった…もう、わたしの想いなんて、バレバレだよね。」

 

 

なんともかっこ悪い告白だ。いや、告白なんてできなかった。中途半端に想いを知られ、その答えを聞く勇気もなく提督執務室を飛び出した。

 

 

「明日から、提督にどんな顔して会えばいいの…?」

 

 

涙声で呟き一段深く膝の間に顔を埋める。その頭上から、慣れ親しんだ、今最も聞きたくて聞きたくない声が降る。

 

 

「別に普通の顔で会ってくれて構わんが?」

 

 

その声にバッと顔を上げる。涙に頬を濡らす瑞鳳を見下ろしながら提督は不思議な言葉を口にする。

 

 

「どうも瑞鳳は料理は得意でも告白をするのは得意じゃないようだな…艦隊司令として、見本を見せてやるよ。」

 

「え?」

 

 

意味が分からず大きな目を見開いてきょとんとする瑞鳳見つめ返し、提督はすぅとひとつ深呼吸するといつもと変わらぬ声色で一言告げる。

 

 

「好きだ、瑞鳳。」

 

「え…」

 

「好きだ。」

 

 

言葉が耳に入り、心臓に届く。とくん、と心の音がひとつ響く。その言葉より提督の真剣な顔に、これが夢ではないと本当のことだと瑞鳳は悟り、ひとつしゃくりあげると座り込んだまま盛大に泣き声響かせる。

 

 

「うえ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!」

 

「な、っ!!そ、それがリアクション!?」

 

「だって、だってえ~~~~~~~~~~~~!!!」

 

 

夢じゃない、本当のことなんだと泣きながら自分に言い聞かせる。そんな瑞鳳に手を伸ばす。「ひっく、ひっく」としゃくりあげる瑞鳳に手を貸し立ち上がらせ、提督は瑞鳳の身体を自分の方に向けさせるとその薄い肩に手を置いたまま微笑み浮かべ問いかける。

 

 

「さて、俺は返事は貰えるのかな?」

 

「へ?」

 

「告白の、返事。」

 

 

そっか、そうよねと思いつく。提督の顔を見つめなおす。自分を映すその瞳まっすぐにとらえ、瑞鳳は唇を開く。

 

 

「え、えっと、その…わ、わたしは…わたしの、気持ちは…」

 

 

そこで瑞鳳は腰砕けになる。涙がまたも瞳に満ちる。ぎゅっと手を握って胸のあたりにあげながら、瑞鳳は意味不明な声漏らす。

 

 

「あうあうあう…」

 

「…こりゃ長期戦の構えが必要だな。まあいい、時間をかけるのはキライじゃない。」

 

 

ぽんと瑞鳳の頭に手を置いて提督は瑞鳳に微笑みかける。その微笑みに誘われて、瑞鳳の顔にもようやく笑顔浮かぶ。瑞鳳を誘い歩き出す。提督に肩を抱かれながら瑞鳳もふわふわする足を前に進める。

 

 

「あのね?提督。」

 

「ん?」

 

「…好きだよ。」

 

 

その呟きはあまりに小さく、提督の耳には届かなかったかもしれない。それでも自分の肩を抱く手に力が込められるのを感じ、瑞鳳は自分の想いが届いたのを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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