艦娘恋物語   作:青色3号

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大和の場合

執務室の書類棚にファイルを戻している最中、後ろから声をかけられた。

 

 

「大和って背ぇ高いよな。」

 

 

密かに気にしていることをいきなり口にされ、ツクンと大和は胸を突かれる。それでもなんでもない風を装って大和は後ろの提督に振り向き言葉返す。

 

 

「提督だって、背が高いじゃないですか。私くらい身長があると私より背の低い殿方も珍しくないですよ?」

 

「まー確かに俺の方が大和より身長高いけどなぁ…」

 

 

机についたまま頭をぼりぼり掻きながら提督はそんな返事をする。念願の秘書艦になって2か月、一向に縮まない距離に少しやきもきしていた大和は思い切って一歩踏み出した質問を提督に向ける。

 

 

「…提督は背の高い女性はお嫌いですか?」

 

「ん?んー…そうだなあ…俺の好みとしては…」

 

 

ごくりと唾を飲み込んで提督の続く言葉を待ち受ける。と、勢いよく音を立てて提督執務室の扉が開きひとりの戦艦娘が姿を現した。

 

 

「テートクー!第一艦隊、ただいま帰還したネー!」

 

 

書類片手に扉を開け放ち笑顔満開で姿を見せる金剛に提督はこれも笑顔で応じる。すぐに作戦報告に移る金剛の横で、大和は気づかれないように頬を膨らませるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後のよく晴れた昼下がり、大和は鎮守府本館から開発工廠に向かう。明石と夕張が開発を進めている新装備の開発状況を聞くためだ。建物の裏手に回り、中庭に出たところで大和は提督と小柄な艦娘の姿に気づく。

 

 

「もー!司令官、頭なでなでするのはやめてよー!」

 

「ははは、暁は相変わらずちんまくてかわいいなあ~。」

 

「ひどーい!それがレディに対する言葉―?」

 

 

帽子の上から頭を撫でられながら腕を振り回してぷんすかぷんすか怒ってみせる暁と、そんな暁の様子に頓着する様子も見せず暁を撫で続ける提督の姿。建物の陰に隠れてその微笑ましくも見える情景を見つめながら、しかし大和の表情は暗かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岸壁に膝を抱えて座り込む。ざざん…と打ち寄せる波の音に身を委ねる。どれだけ時間がたったか、大和の頭上から声が降る。

 

 

「どうした、そんなところで座り込んで…悩み事か?」

 

 

その声に顔をあげると隣に立つのは大和型二番艦・武蔵の姿。ほけっと自分を見上げる大和の返事を待たずして武蔵は大和の隣に腰を下ろし胡坐をかく。その武蔵から視線外し再び膝の間に顔を埋め大和は武蔵に向けてというより波間に向けてとでもいうかのように呟く。

 

 

「私も、駆逐艦娘に産まれたかったな…」

 

「清霜が目をむきそうなセリフだな…いきなり、どうした?」

 

「私じゃ、頭なでなでなんてしてもらえないもの…」

 

 

誰に、と問うほど武蔵も愚鈍ではない。姉妹艦の想う相手など、とうの昔に知っている。だから武蔵はくすりと笑い、大和に向けて軽口飛ばす。

 

 

「そんなことでいじけてどうする。46㎝三連装砲が泣くぞ?」

 

「別に泣いたっていい。」

 

「重症だな、これは。」

 

 

笑いながら立ち上がり、武蔵は大和に顔を向けると腰に手を当てあっけらかんと言い放つ。

 

 

「大和型戦艦の本懐は敵艦との正面からの殴り合い…その本懐を、忘れたか?」

 

「え?」

 

「そこまで思い詰めているのなら、こんなところで膝を抱えている場合じゃないだろう。女なら、女らしくぶつかってこい。」

 

 

乱暴とも思える武蔵の言葉、だけどそれが今はありがたかった。ひとつコクンと頷くと、大和は立ち上がりようやく笑顔見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の提督執務室、ファイルを書類棚に戻しながら大和は何気ない風を装い、机の上の書類と格闘中の提督に背中越しに声をかける。

 

 

「提督、背の高い女性ってどう思います?」

 

 

しまった、直球過ぎたと口に出してしまってから思うが今更言葉は取り消しようがない。それでも大和の言葉に深い意味を感じ取ったとも思えない口調で提督は大和の質問に応える。

 

 

「ん?うーん…俺としてはどちらかというと小さいオンナの方が好みなんだけどなあ…」

 

 

ズキンと胸が痛み思わず俯く。そんな大和の様子には気づかないまま提督は書類に目を落としたままペンを走らせながら言葉を続ける。

 

 

「でも惚れた女は背が高いんだな、これが。」

 

 

思わず大和はぱっと振り向く。胸に片手を当て提督を見つめる。それでもそれ以上の言葉を提督は大和に与えることなく、書類仕事を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の岸壁に座り、大和は満天の星空見つめる。流れ星ひとつ夜空を舞い、闇の中に溶け込んでゆく。願い事を口にする間もなく消える星の残像探す大和の視界に、武蔵のこちらを見下ろす姿が写り込む。

 

 

「どうした、こんなところで。天体観測としゃれこんでいるのか?」

 

 

言いながら自分の隣に腰を下ろす武蔵に、大和はひとこと問いかける。

 

 

「ねえ、武蔵…この鎮守府で、背の高い艦娘っていったら誰だと思う?」

 

「ん?まあ、真っ先に思いつくのはお前や私だな。」

 

「そ、そうよね!」

 

「でも戦艦娘はだいたい背が高いからな。」

 

「そっか…そうよね…」

 

「その中でも大和型は特に背が高いが。」

 

「そ、そうよね!」

 

「一般的な話をすれば、金剛や伊勢も十分背が高い部類に入る。」

 

「そっか…そうよね…」

 

 

分かりやすく浮き沈みを繰り返す大和の姿に悪いと思いつつもつい笑ってしまう。小さな笑いをかみ殺しながら武蔵は大和に顔と言葉向ける。

 

 

「だいたい提督に何を言われたか察しがつくな…『自分のことか』と聞けば早いんじゃないか?」

 

「聞けないよ、そんなこと…」

 

 

呟きながら膝を抱え、膝の間に顔を埋める。流れ星ひとつまた宙を舞い、願い事唱える前に夜空に散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明け、また戻ってくる日常。思いがけず空いた時間を大和は散歩をしながら過ごす。開発工廠に向かった提督を迎えに行くことも兼ねながら、大和は鎮守府の敷地を遠回りして緑濃い一帯に足を踏みいれる。と、なにかがぶつかり跳ねる音が耳に届き、大和はそちらに足を向けた。

 

 

少し歩くと開けた場所に出る。そこにいたのは、開発工廠にいるはずの提督その人。大和の見守る前で提督は大き目のボールを両手で胸の位置に構え、高い位置に設置された網籠に向けてそのボールを放つ。

 

 

弾むような音を立ててボールはバックボードに反射し、バスケットゴールに吸い込まれる。地面に落ちたボールを拾ったところで提督はこちらを見つめる大和に気がつく。

 

 

「大和か。ハハ、サボっているところをみつかっちまったな。」

 

「すみません、お邪魔をするつもりは…籠球ですか?」

 

「ずいぶん古風な言い方をするな。そう、バスケットボール。」

 

 

戦争前に設置されたものだな、と提督はゴールポストを見上げながら説明する。つられてゴールポストを見つめる大和に向かい、提督はこんな提案をする。

 

 

「そうだ、大和。ひとつ勝負しないか?」

 

「え、勝負?」

 

「そう、勝負。」

 

 

ひとりで遊んでいるのもつまらないからな、と提督は悪戯っぽく言ってのける。大和の返事を待つことなく提督は話を進める。

 

 

「ルールは単純、交代でゴールを狙ってどちらか先にミスをした方が負け。負けた方は勝った方の言うことをひとつだけなんでも聞く…というのでは、どうだ?」

 

 

トクン、と大和の心臓が鳴る。勝負ごとにかこつけてなら、勇気を出せるかもしれない。大和は表情引き締めるとひとつコクンとはっきりと頷く。そんな大和に提督はボールを投げよこす。

 

 

さっき提督がやっていた要領でゴールポストの前に立つ。両手に持ったボールを胸元に持ち上げ、放つ。バスン!とバックボードを一回叩きボールはリングに吸い込まれてゆく。

 

 

「さすが、やるな…次は俺だ。」

 

 

地面に落ちたボールをドリブルの要領で回収し、今度は提督がボールを構える。放たれたボールは弧を描きストレートにゴールリングの中心を捉える。

 

 

 

 

 

 

 

そのまま、しばしの時が流れる。両者、一歩も譲らない。次第に緊迫してゆく空気の中、無言の時が、ボールが弾む音だけが響く時が過ぎてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

何投目になるだろう、提督がバスケットボールを頭上に構える。投げ放つその瞬間、素っ頓狂な声が響き渡る。

 

 

「あー!こんなところでサボってるー!」

 

 

思わず提督の手元が狂う。反応が一瞬遅く、バスケットボールはそのまま提督の手を離れる。リングのふちに当たり、二、三度バウンスし、無情にもリングを外れてそのまま地面に落下する。

 

 

「わわっ、トッキー!な、なんでこんなところに…」

 

「鈴谷さん、演習中じゃなかったの?しれぇに言いつけちゃうよ?」

 

「わーっ!マジでそれだけはカンベンしてー!」

 

 

茂みの向こうから聞こえる声に提督は思わず苦笑する。ボールを持ち上げ片手で支え、提督は大和を振り返り潔く降参の姿勢を見せる。

 

 

「負けちまったな…約束は約束だ。大和、なんでもひとつ好きな願い事していいぞ。」

 

 

胸に片手を当てごくりとひとつ喉を鳴らす。もう、こんなチャンスは来ないかもしれない。ありったけの勇気振り絞り、ぎゅっと目を閉じて大和は小さく叫ぶように提督に言葉放つ。

 

 

「て、提督の好きだっていう背の高い女性が誰のことなのか教えてください!」

 

 

言った瞬間顔が熱くなる。期待と、怖さが入り混じる。「え?うーん…」と提督は唸り、しばらく考えるような表情見せていたがやがて諦めたように肩を竦める。

 

 

「まあ、なんでも言うこと聞くって言ったししょうがないか。」

 

 

大和のことを見つめなおし、提督はひとこと簡単に告げる。

 

 

「お前だよ、大和。」

 

 

言葉が胸に沁みとおる。目頭が熱くなるのを感じながら大和は目を開け提督見つめ返す。鼓動がうるさく感じるほどの勢いで鳴り、大柄な大和の身体揺らす。そんな大和に笑顔向けながら提督は大和に簡単に問う。

 

 

「で、返事は?」

 

 

そこではっと気がついたような表情大和は浮かべる。答えなんて、決まっている。ずっと胸に秘めていた想いを大和は余すことなく口に乗せる。

 

 

「私…わた、し、提督が、好きです!」

 

 

提督の笑顔が広がってゆく。その姿見つめる大和の頬を、涙ひと粒伝う。なぜ私は泣いているのだろう?とぼんやりとどこかで考える大和に提督はからかうような声向ける。

 

 

「大和は無欲だな…そういうことなら、さっきのお願い事、『私の恋人になってください』でよかっただろうに。」

 

「あ。」

 

 

言われて初めて気がつくが、果たしてそれはありなのか。そんなことを考える大和に笑顔向けたまま、提督はゆっくりとボール片手に大和に近づいてゆく。その距離があと一歩になったところで足を止める提督に、大和は躊躇いがちに声向ける。

 

 

「あの、提督、お願い事、あとひとつだけいいですか?」

 

「意外と大和は欲張りさんでもあったか…特別だぞ、あとひとつだけ。」

 

 

ほんのりと頬を染め大和は提督にひとつおねだりをする。

 

 

「頭、撫でてください。」

 

 

言われてその意外な気もする言葉に一瞬きょとんとするが、また提督は笑顔浮かべその言葉の答えとする。ゆっくりとその手を伸ばし、大和の柔らかな髪に手を下ろす。

 

 

 

 

 

 

自分を撫でる暖かな感触に、大和は酔いしれ子猫のような笑顔浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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