艦娘恋物語   作:青色3号

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飛龍の場合

提督執務室の扉をバタン!と勢いよく開けて橙色の着物の艦娘が緑色の着物の艦娘を従えて現れる。

 

 

「提督、二航戦率いる機動部隊、ただいま帰投いたしましたぁ!」

 

 

正規空母娘・飛龍のニコニコ笑顔に提督は改めて今回の作戦の成功を知る。作戦の立役者をねぎらうべく提督は執務机から腰を上げて飛龍と蒼龍に歩み寄りつつ声をかける。

 

 

「ご苦労だった、よく無事に戻ってきたな。」

 

「エヘヘ、私今回MVPですよM・V・P!多聞丸も褒めてくれるかな?」

 

 

笑顔浮かべたまま手を後ろ手に組んでそんなセリフを言う飛龍に提督も合わせる。

 

 

「ああ、きっと褒めてくれると思うぞ。」

 

「やったぁ!嬉しいなあ…」

 

 

パン、と掌を合わせて飛龍は笑顔ますます広げる。その後ろで蒼龍がなにやら微妙な表情を浮かべていることには提督も飛龍も気づかぬままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督執務室を離れ、廊下を歩く。絶えぬ笑顔浮かべたまま飛龍は後ろを歩く蒼龍に向けてか、それとも独り言でか鼻歌交じりに言葉出す。

 

 

「嬉しいなあ、多聞丸も褒めてくれるだって!」

 

 

ウキウキと前を歩く飛龍に、一歩遅れて歩く蒼龍が遠慮がちな言葉を向ける。

 

 

「ねえ、飛龍。提督の前であまり山口中将の名前は出さない方がいいんじゃないかな?」

 

「なんで?」

 

 

ぴたりと足を止めこちらを振り向き不思議そうな表情見せる飛龍相手に蒼龍は「なんでって…」と言いよどむ。「他の殿方の名前を連呼してたら提督だってヒいちゃうでしょう?」とは思っても言えない。蒼龍だって気がついている、提督を見つめるとき飛龍の頬が染まり瞳が潤むことを。飛龍自身気づかぬうち、飛龍が提督を目で追っていることを。

 

 

「…なんとなく。」

 

「なによそれー」

 

 

でもどうやら自分の想いに飛龍自身は無自覚のようだ。そんな相方の危なっかしい様子についつい蒼龍の唇からため息が漏れる。そんな蒼龍の心中知ることもなく、飛龍はパン!と手を合わせて今までの会話がなかったかのように話題を変える。

 

 

「ね!今から間宮さんトコ行こ?私、大盛りクリームあんみつ食べたいなぁ~」

 

「よく食べるわね…太っても知らないよ?」

 

「うっ、それを言うか…」

 

 

運動してるから大丈夫だもん、と飛龍は唇を尖らせてみせる。そんな飛龍に苦笑してみせて、蒼龍は飛龍と肩を並べて間宮の甘味処へと進路をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、書類の山を抱えて飛龍は鎮守府本館の廊下を歩く。提督執務室に立ち寄った際、秘書艦の大淀に事務局へのお使いを頼まれたのだ。えっちらおっちら廊下を歩き、角を曲がったところでドン!と衝撃が走り飛龍は廊下に尻餅ついた。

 

 

「きゃっ!」

 

「す、すまん!大丈夫か?」

 

 

言いながら廊下に散らばった書類を集める提督の姿。してみるとどうやら出合い頭に提督に正面衝突したらしい。自身も腰を上げ書類を集めながら飛龍は慌てて自分からも謝罪の言葉口にする。

 

 

「いえ、こっちこそごめんなさい。スキがあったから…」

 

「なにも鎮守府の中でまで気を構えなくてもいい…書類は、これで全部かな?」

 

 

言いながら提督は書類の束を飛龍が抱える別の束の上に乗せる。提督が間近にいることに鼓動上がるのを何故だろうと不思議がりながら飛龍はぺこりと頭下げる。そのまま事務局に進もうと歩きかけた時、すれ違いざまに提督から言葉向けられた。

 

 

「いやしかし山口中将が見てたら俺が怒られるところだな。」

 

「え、多聞丸?」

 

「ああ、山口中将にとっても飛龍は大切な存在だろう。俺が立ち入る隙なんてないな、と飛龍の言葉を聞いていて思うよ。」

 

 

ズキリ、と胸が痛むのを飛龍はどこか他人事のように感じる。他人事に感じるのは、なぜ提督の言葉が刺さるのかわからないから。そんな飛龍の強張った微笑みに自身もこれは自然な微笑み向けて、提督はその場を立ち去った。なぜか、その後ろ姿から目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府の建物のレンガ作りの壁に背中を預ける。後ろ手に手を組みながら。俯き、足元の雑草見つめながら飛龍は沈んでいく己の心と対峙する。

 

 

なぜ落ち込むのかわからない。それでも、提督の言葉が原因だという事だけはわかる。提督は、あの時なんと言ったんだっただろうか。そんなにおかしなことは言ってなかったような気がするが―――

 

 

ため息ひとつつき、唇を噛んだところで声をかけられた。

 

 

「飛龍?」

 

 

声の方向に顔を向けるとそこにいたのは相方の蒼龍。「そんなところで何やってるの?」と当たり前の問いを向けてくる蒼龍から一度目を外し、もう一度足元に視線をやって飛龍は今の自分の気持ちを正直に打ち明ける。

 

 

「ちょっと落ち込んでて…」

 

「え?なにがあったの?」

 

「うん、さっき提督が…」

 

 

ああ、そうだ。提督は「俺の立ち入る隙なんて無い」と言ったんだった。そんなに、重い口ぶりじゃなかったのに、なぜか酷く突き放された気がして、なにか大事なものを失ってしまった気がして。

 

 

ひとつひとつ思い出すように飛龍は蒼龍にあったこと伝える。飛龍の独白ひと通り聞いたところでまるで飛龍の落ち込みが伝染したかのように大きなため息蒼龍はつく。いや、蒼龍のそれは多分に呆れを含んでいる。だから多聞丸の名前を口にするのはほどほどにしろと言ったじゃない、と今更詮無きことを考えて蒼龍は「さてこれから何を言おうか」と頭を巡らせる。

 

 

「あのね、飛龍…」

 

「ねえ、それほんと卯月?」

 

「ホントだっぴょん弥生、うーちゃんこの目で司令官が事故ったことろみたっぴょん!」

 

 

ぱたぱたと近くを駆けていく駆逐艦娘二人組の会話が耳に入った瞬間、飛龍の顔から血の気が引く。蒼龍とふたり顔を見合わせ、お互いなにか言う前に飛龍はその場を駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督執務室へと走り出す。その場に事故に遭った提督はいないだろうが、秘書艦の大淀がいるだろう。無事でいて、お願い無事でいてと涙交じりに祈りながら飛龍は執務室を目指す。

 

 

こんなことになるまで気がつかなかった。なぜ、提督の言葉が辛かったのか。今、一番大事な人は誰なのか。立ち入る隙が無いなんて言わないで欲しい。いくらでも自分に立ち入って欲しい。どこまでも、自分を開くから。全てを、さらけ出す用意はあるから。

 

 

執務室の扉をはね開ける。そこに今一番見たい人がいるはずもないが―――

 

 

「お、飛龍?」

 

 

…いた。

 

 

息を切らせて開いた扉によりかかるようにして身を支える飛龍を不思議そうに提督は見やる。部屋の真ん中に書類片手に立ちながら自分に問いかけるような視線向ける提督に飛龍は息も絶え絶えに声向ける。

 

 

「て、提督、提督がさっき事故に遭ったって…」

 

「ん?ああ、工廠行く途中に自転車でコケたことか?」

 

 

思わず思いっきり脱力する。そのままヘタヘタと座り込む。尋常でない様子の飛龍に提督は慌てて駆け寄ってしゃがみ込むと起き上がらせようとするかのように飛龍の両肩を支える。

 

 

「おい、大丈夫か飛龍!?」

 

「あ、私は大丈夫…提督が無事なら…」

 

「なんだ、心配してくれたのか。ずいぶん大げさに話が伝わったようだな。」

 

 

飛龍を安心させるように提督は微笑んで見せる。そのまま優しく導くように飛龍を立ち上がらせる。なんとか飛龍が自分自身を支えられるようになったところで提督は手を放し飛龍に言葉続ける。

 

 

「いや、しかしこんなに飛龍に心配させたとあっては俺が山口中将に怒られちまうな。」

 

「あ…」

 

 

解かないと、この誤解を。言わないと、自分の本当の想いを。そう思うのに、言葉が出てこない。だってやっぱり多聞丸は大事な人。自分にとって、かけがえのない人。でも―――

 

 

「た、多聞丸は…」

 

「ん?」

 

「お父さんなんです!」

 

 

顔を上げ、一気に告げる。きょとんとした表情浮かべ飛龍の真意探る提督に飛龍は艦爆隊の一斉爆撃のように言葉浴びせる。

 

 

「そう、お父さん!多聞丸は、私のお父さんのような存在なんです!私、艦娘だからお父さんとかいないけど!」

 

 

そこまで告げて続く言葉を言おうとするけど、まるで封をされたように飛龍の勢いが止まってしまう。真っ赤に顔を染め潤む瞳提督から逸らし飛龍は小さな声振り絞るように呟く。

 

 

「だ、だからその…私にとって、今、一番大切な人は…」

 

 

そこで言葉は潰えてしまう。言葉の代わりに瞳向ける。想い湛える潤んだ瞳提督に向け、飛龍は必死の表情浮かべる。

 

 

そんな飛龍の姿に、確かに想い受け取って提督は笑顔浮かべ飛龍に問う。

 

 

「それは、俺は期待していいってことなのかな?」

 

「ハイ!期待しちゃってください、思いっきり!」

 

 

なんともおまぬけな愛の言葉、でも自分らしいとどこかで思う。そんな飛龍の肩に両手を乗せ、提督は飛龍見つめながら顔を近づけてゆく。

 

 

「え!?て、提督、そ、そんないきなり!」

 

 

思わずぎゅっと目を閉じる。次の瞬間、額に熱い感触伝わる。飛龍のおでこにキスひとつ落とし、提督は飛龍を解放する。

 

 

「あ…」

 

「ま、山口中将に―――お義父さんに、怒られないようにな。」

 

「ファーストキスじゃ、なかった…」

 

「そのうちに、な。」

 

 

その言葉にか、よみがえった額の感触にか飛龍の顔が音を立てそうな勢いで真っ赤に染まる。そんな自分に笑顔広げる提督を濡れる瞳で見つめ返しながら飛龍は心の奥深くで想う。

 

 

 

 

 

 

―――多聞丸、みてくれている?

 

 

 

 

 

 

――――この人が、私の一番大切な人だよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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