艦娘恋物語   作:青色3号

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瑞鶴の場合②

ひとりの美少女が海沿いの公園の時計台の下にたたずむ。ゆったりした朱色の長袖Tシャツの上にカーキ色のショートコート、黒のレギンズにスニーカーを合わせ長い髪をツインテールにまとめている。スマホを弄りつつの人待ち姿だった少女が待ち人を近づく人の群れの中に見つけて笑顔になる。

 

 

「提督さ―ん!」

 

「おう瑞鶴、早いな。すまない、待たせた」

 

 

瑞鶴の姿に気がついて提督は駆け足で瑞鶴の傍らに走り寄る。紺のジャケットに白のシャツを合わせベージュの綿パンを着込んだ提督の珍しい私服姿に瑞鶴の目が丸くなる。

 

 

「はー、なんか新鮮。提督さんじゃないみたい」

 

 

肩を竦めて提督は瑞鶴の言葉をいなす。そのまま手を伸ばし瑞鶴の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

 

「わっ!なによー、髪がボサボサになっちゃうじゃないー」

 

「いやなに、気分でな」

 

 

にかっと笑う提督を上目遣いに睨み瑞鶴は頬を膨らませる。そんな瑞鶴に困ったような笑み見せながら提督は瑞鶴に語りかける。

 

 

「さて、行くか。今からなら時間もちょうどいいだろう」

 

 

今日は瑞鶴のリクエストで今話題のアニメ映画を見にいくのだ。数年前国民的ヒット作を作った監督の最新作で予告が発表された時から瑞鶴はそわそわしていた。あいにく前作が公開された時は瑞鶴はまだ顕現前でその映画はレンタルで観ていたので今作はぜひ劇場でと願っていたのだ。まさかその頃はこうして提督と肩を並べて映画館に向かうことになろうとは思わなかったが―――

 

 

映画館までの道すがら、提督が瑞鶴に話しかける。

 

 

「そういや瑞鶴、俺に敬語使わなくなったな」

 

「ん?んー、そうね。提督さんにかしこまってもしょうがないって気がしてきたし」

 

「…なんか俺、威厳ないな」

 

 

大げさに嘆き顔作って肩を竦める提督の横で瑞鶴はくすっと笑って見せる。多少威厳がなくても、多少頼りなくても、この人は私の大切な人。自分をいつも大事にしてくれて優しくしてくれる大切な人。その人の隣歩けることに心温かくなりながら瑞鶴は提督と肩を並べて街を歩く。

 

 

「瑞鶴の私服姿も、新鮮だよ」

 

「そう?」

 

「似合ってる、かわいい」

 

「えへへ、ありがと」

 

「胸元のゆったりした服でバストラインを隠そうとしているのがいじらしくていい」

 

「…爆撃するわよ」

 

 

歯を食いしばって眉を吊り上げる瑞鶴を「冗談、冗談」と提督はあやす。ふたりショッピングモールの中にある映画館に入りカウンターで手際よく前売り券を座席券に変える。早めに席に移動し、二人並んで腰かける。

 

 

「ポップコーンでも買ってくるか?」

 

「いい、映画に集中したいから」

 

 

まだ何も映っていないスクリーンを見つめる瑞鶴の表情はすでに笑顔だ。館内が暗くなり予告編が流れ始める。そのあといよいよ本編が始まると、瑞鶴の目はスクリーンにくぎ付けになった。

 

 

映画は現代ファンタジーもののジュブナイル映画だった。世界を変えてでもヒロインを選ぶ主人公の選択のシーンで瑞鶴は思わず涙する。周りに迷惑にならないようにそっと鼻をすすり、指で涙を拭おうとしたとき隣の席からハンカチを差し出された。

 

 

――こういうところが、敵わないんだよなあー…

 

 

素直にハンカチを受け取って瑞鶴はそっとハンカチを瞼に押し当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大満足で映画館を出て瑞鶴はうん、と身体を伸ばす。

 

 

「あー、サイコーだった!やっぱこの監督すごいわー!」

 

 

ニコニコ笑顔でそんな台詞を言う瑞鶴の姿に提督の顔もついほころぶ。どこか喫茶店にでも入って今の映画の感想を思う存分瑞鶴に語らせてやろうと提督は思う。実際、見ごたえのある映画だった。評判になるのもよくわかる。ショッピングモールを軽く歩き、手近にあったカフェのひとつに提督は瑞鶴を誘った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェオレの冷めるのも気にしないで瑞鶴が提督に勢い込む。

 

 

「で、やっぱりあの瞬間主人公は思ったわけよ!自分は確かに選択したんだって。それを受けてのラストの『きっと僕たちは、大丈夫だ!』のセリフなわけよ!」

 

 

身を乗り出して熱く映画の感想を語る瑞鶴の姿に提督の心が温まる。30分ほどもほぼ一方的に瑞鶴が喋っただろうか、ようやく落ち着きを取り戻し喉の渇きに気づいて瑞鶴が冷めたカフェオレを口に運ぶ。そんな瑞鶴に提督が提案する。

 

 

「なんかこのショッピングモール、色々店入ってるみたいだしちょっとそこら辺見ていかないか?面白い店があるかもしれないし」

 

「いいわね、ちょっと見て歩こうか」

 

 

思い立ったがすぐ実行、席を立つ瑞鶴にせかされるようにして提督も席から腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッピングモールの明るい通路をふたり歩いていると、瑞鶴がある店のショーウインドウに吸い寄せられる。そのあとを追ってショーウインドウに陳列されている提督は意外そうな顔をした。

 

 

「…模型屋?」

 

 

ショーウインドウに並ぶのはいわゆるプラモデルの類。車や飛行機、アニメに出ているだろうロボットの姿など、など、など。その中でガラスに両手をついて瑞鶴が見つめているのは先の大戦で活躍したこの国の在りし日の艦船の模型だった。

 

 

「瑞鶴、模型なんか興味あるのか?」

 

「うん、たまにつくるよ」

 

「へー、意外」

 

「瑞鳳も結構好きなんだよ、こーゆーの。あのコが作るのは艦載機で、私は艦船模型が主だけどね」

 

 

提督に説明しながら瑞鶴が視線の先に捉えるのは重巡洋艦の勇壮な姿。その艦名ラベルを確かめながら提督が思ったことを口にする。

 

 

「羽黒か…あのおとなしい羽黒の元々の姿が、こんな厳めしい姿だとは想像しづらいな」

 

「あはは、言えてるー」

 

 

提督に相槌を打ちながら熱心に艦船模型を見つめる瑞鶴に提督は問いかける。

 

 

「なんか買ってやろうか?」

 

「え、悪いよそんな」

 

「遠慮すんな、まあ女の子へのプレゼントとして適当かどうかはわからないけどな」

 

「…いいの?」

 

 

遠慮がちに、それでも期待を込めて瑞鶴は上目遣いに提督を見つめる。そんな瑞鶴を誘って提督は店内に足を踏み入れ艦船模型のコーナーに向かう。棚に陳列してある箱から瑞鶴はひとつを選び出し両手で持ってじっと見つめる。

 

 

「それで、いいのか?」

 

「うん、これがいい」

 

 

瑞鶴が選んだのは比較的小さな箱の駆逐艦の模型。もっと派手というか大きな(それだけお値段の張る)艦船の模型でも、といぶかる提督にようやく聞こえるような声で瑞鶴は囁く。

 

 

「朧ちゃんには、あのころ随分お世話になったんだあ…」

 

 

先の大戦での艦としての記憶、それをおぼろげながらも瑞鶴も持っていた。戦後の生まれの提督には分からない想いが瑞鶴にもあるのだろう。その想い汲み取るように提督はもうひとつの箱を上の棚から取り出す。

 

 

「じゃあついでにこれも買おう」

 

「え、いいの?提督さん、サーンキュ!」

 

 

駆逐艦【秋雲】の箱を取り出し瑞鶴の持つ【朧】の箱の上に乗せる。こんなもんかな、と思いながらなんとはなしに棚の他の場所をきょろきょろしていた提督の目があるひとつの大き目の箱を見つけて止まった。

 

 

「おい、こんなのもあるぞ。これは買わなきゃな」

 

「え、なに?」

 

 

ニヤニヤしながら提督が棚の下の方から引っ張り出したのは空母【瑞鶴】の艦船模型。

 

 

「え、え、なんか恥ずかしいよ~」

 

「なに言ってんだ、これを買わずして何を買うっていうんだ」

 

 

半ば強引に瑞鶴に箱を押し付け、提督は顔を真っ赤にする瑞鶴をカウンターに誘う。まさか高校生くらいの美少女が艦船模型を作るとは思わないのだろう、箱を詰めた紙袋をごく自然に自分の方に差し出してくる店員から荷物を受け取り提督は瑞鶴とともに店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと100円ショップやアクセサリーショップなどなどをひやかして提督と瑞鶴はショッピングモールを離れる。駅から電車に乗って鎮守府の最寄り駅に向かう代わりに、途中下車して駅を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いたのちに辿り着いたのは砂浜の広がる冬の海。波の寄せる音だけが響く人気のない海岸に提督と瑞鶴は並んで立つ。

 

 

「…静かな、海だね」

 

「そうだな」

 

「でも、本当は違うんだよね」

 

 

この水平線上のどこかにあの凶悪な深海棲艦が潜んでいる。その脅威を排除するのが瑞鶴たちの役目。本当の意味での静かな海をいつか取り戻すのが瑞鶴たち艦娘の役目。

 

 

何を思うか、瑞鶴の視線が水平線の向こうへと向けられる。その凛とした横顔見つめながら提督は瑞鶴に言葉向ける。

 

 

「いつか、この戦いが終わったら…」

 

 

その声の方向に瑞鶴の視線が向けられる。瑞鶴と視線合わせながら提督は静かな声を瑞鶴に紡ぐ。

 

 

「いつか、静かな海が帰ってきたら…瑞鶴を、俺の故郷に連れていきたいな」

 

 

瑞鶴の目が見開かれる。その瞳が潤む。真っ直ぐに向けられる瑞鶴の視線受け止めながら提督は穏やかな言葉を続ける。

 

 

「いいところだぞ、瑞鶴に見せてやりたい」

 

「うん、楽しみにしてる」

 

 

いつか静かな海が帰ってきたら―――

 

 

 

 

いつか静かな海を取り戻せたら―――

 

 

 

 

―――そのあとは、この人の傍らで、歩いて行こう

 

 

 

 

 

それは、少女の、確かな誓い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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