艦娘恋物語   作:青色3号

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Jervisの場合

中庭を通りがかったとき、少し舌っ足らずな幼さ残す声に呼び止められた。

 

 

「Darling!見つけたわ!」

 

 

その声に提督が振り返ると、はたして駆逐艦娘・ジャーヴィスがニコニコ笑顔を向けながらこちらに駆け寄ってくる。豊かなブロンド後ろに靡かせ青い瞳を光らせて。足を止めジャーヴィスを待ち受ける提督の一歩手前までジャーヴィスは駆け寄り、一度身を折り両膝に手をついて息を整えてから顔を上げ提督に笑いかける。

 

 

「Darling、お時間あるかしら?Jervisのお茶会にご招待するわ」

 

「あー、スマン。今から会議でな」

 

「Oh…that’s too bad. Darlingは忙しいのね」

 

 

笑みは浮かべたまま眉を下げて見るからにがっかりしてみせるジャーヴィスの姿に提督も少しばかりの罪悪感を覚える。このまま背を向ける気にもなれず提督はジャーヴィスに提案する。

 

 

「明日の午後だったら時間を作れるぞ。その時に改めてお誘いを受けてもいいかな?」

 

「That’s great!モチロンよ!楽しみにしてるわ!」

 

 

パン、と両手を打ち合わせジャーヴィスは笑顔広げてみせる。そんなジャーヴィスのあどけない姿に提督の顔もほころぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、提督居室の扉の下に挟んであった案内状の示す先に提督が足を運ぶと、木陰に白いクロスを敷いた丸テーブルと椅子のセットが用意されていた。

 

 

「本格的だな」

 

「Darling!お待ちしてたわ」

 

 

椅子のひとつにちょこんとおすましして座るジャーヴィスがいつものニコニコ笑顔を提督に向ける。テーブルの上には本格的なティーセットとスコーンの山盛りになった白い大皿が置かれている。ジャーヴィスの隣に腰を下ろしながら提督はごもっともな感想を述べる。

 

 

「こりゃ準備が大変だっただろう。よくひとりで運べたな」

 

「妖精さんに手伝ってもらっちゃった」

 

「あ、そういうことか…そういえば、今日はウォースパイトもジェーナスもいないんだな。いつもはよく一緒にお茶をしているらしいじゃないか」

 

 

その何気ない提督の一言にジャーヴィスは身をすぼませる。もじもじと身を揺すりながら顔を赤らめ、ティーポットを手に取り提督分のカップに紅茶を注ぎながらジャーヴィスは提督に種明かしをする。

 

 

「今日は、Darlingとふたりっきりでお茶会したかったの」

 

 

ストレートなジャーヴィスの愛情表現、その真っ直ぐさにさすがの提督もちょっとだけ身じろぎする。うまい言葉も見つけられないまま提督がなんとか言葉をつなごうとする前にジャーヴィスが少し慌てたように言葉を付け足す。

 

 

「あ、でもホントはふたりっきりじゃないのよ?そこにSnow ballがいるでしょ?」

 

「スノーボール?」

 

 

言われて改めて前を見てみれば、提督の向かいの椅子に鎮座するは大きな真っ白い犬のぬいぐるみ。「なるほど」と提督は微笑み浮かべジャーヴィスの淹れてくれた紅茶を口に運びながら言う。

 

 

「可愛いお客様だ」

 

「でしょ?」

 

「お、美味い紅茶だな」

 

「ホント?よかった!」

 

 

ジャーヴィスの淹れてくれた紅茶はなるほど見事なものだった。提督も紅茶に詳しいわけではないがそれでも素人にも上質の葉を丁寧に淹れたものだとわかる。ジャーヴィスお手製らしいスコーンに手を伸ばす提督の耳に、カップを両手で持つジャーヴィスの感情込めた呟きが届く。

 

 

「嬉しいなあ…一度、こうしてDarlingとお茶会したかったの」

 

 

サク、とスコーンを口に入れながら提督はジャーヴィスの言葉を反芻する。ふと思いついて提督はジャーヴィスに問いかける。

 

 

「ジャーヴィスは、なんで俺のことをダーリンって呼ぶんだ?」

 

「一番愛しい人、一番大切な人をDarlingって呼ぶのよ?」

 

「いや、だから…」

 

 

言いかけて口をつむぐ。これ以上の詮索は野暮になる。ジャーヴィスのまっすぐな想い受け止めながら、それでも、否、それだからこそ伝えなければならない言葉を伝えようと提督はさりげなく話題を変える。

 

 

「戦争も長引いているな」

 

「そうねー。この周辺の海域は特に激戦区だって聞いているわ。だからジャーヴィスたちが呼ばれたって」

 

「そうだな…それでも、いつかそう遠くないうちにこの戦争を終わらせる」

 

 

決意を込めた提督の言葉、その言葉にジャーヴィスも頷きティーカップを口に運ぶ。そのジャーヴィスの動きを止めたのは、提督の続くひと言だった。

 

 

「そうすれば、ジャーヴィスたちを本国に帰してやれる」

 

 

氷の錐で胸を貫かれる感触があった。表情が、凍り付いた。カップを口に運ぶ手を止め、のろのろと顔を上げてジャーヴィスは我知らず呟く。

 

 

「…本国?Britain?」

 

「ああ、ジャーヴィスも母国が懐かしいだろう」

 

 

そう語る提督の姿を遠く感じた。紅茶が冷めるのも、気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝を抱え桟橋に座り、打ち寄せる波の音に身を任せる。沈みゆく己の心と対峙する。心のどこかでこのことも、予想していたかもしれないとジャーヴィスは思う。自分たちは海外艦、いずれこの国を離れる身だと。

 

 

「Jervis?」

 

 

自分を呼ぶ静かな声にふと振り向く。優雅な身のこなしでこちらに近づく英国戦艦娘の姿がジャーヴィスの瞳に映る。

 

 

「Lady…」

 

「What’s wrong with you?」

 

 

どうしたの、と声をかけるウォースパイトにまた背中を向けて膝を抱え直しジャーヴィスは海に向かって呟く。

 

 

「ウォースパイト姉さま…私たちは、いつか英国に帰らなくちゃいけないの?」

 

 

ふたりっきりなのに英語ではなくこの国の言葉を使うジャーヴィスに不思議さを感じながらウォースパイトはジャーヴィスの隣に腰を下ろす。ジャーヴィスに合わせてこの国の言葉でウォースパイトはジャーヴィスに問う。

 

 

「帰りたくないの?」

 

「帰りたくない…Admiralと離れたくない」

 

 

膝に顔を埋め涙声でジャーヴィスは呟く。提督の国の言葉で、提督への想いを告げるジャーヴィスの姿がウォースパイトには切なく愛おしい。ジャーヴィスにゆっくりと手を伸ばし、その背中を静かにさする。さすりながら、傍らのジャーヴィスの耳元に向かいウォースパイトは囁きかける。

 

 

「だったら、頑張らないとね」

 

「…え?」

 

「Lucky Jervis、幸運を引き寄せるのはいつだって行動よ?」

 

 

ジャーヴィスが顔をウォースパイトに向けなおすと、そこにあったのはウォースパイトの包み込むような優しい微笑み。その微笑みに誘われるようにジャーヴィスの瞳に光が満ちていくのをウォースパイトは見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海に向かい、ひとりジャーヴィスは桟橋に立つ。波風にブロンドのロングヘア靡かせながら。どれだけの時が経っただろう、後ろから待っていた人の声が届く。

 

 

「ジャーヴィス、どうしたんだ?こんなところに呼び出して」

 

 

身体ごと振り向き、提督の姿を視界に収める。逸る鼓動を鎮めようと片手を胸にあてる。自分に手が届く一歩手前で提督が立ち止まるのを合図に、ジャーヴィスはひとことだけ提督に告げる。

 

 

「Admiral…たとえ戦争が終わっても、私は国には帰らない」

 

 

怪訝な表情を提督は浮かべる。話の行方が分からないまま提督はジャーヴィスに問いかける。

 

 

「英国に帰らない、という意味か?」

 

「Yes」

 

「どうする気だ?」

 

 

用意していた言葉、その言葉を放つ勇気を得るために一度ジャーヴィスは深く息を吸う。息を放つその勢いに乗せ、ジャーヴィスは一気に言い放つ。

 

 

「わたしは、Admiralの隣に残る…残りたい、My darling」

 

 

潤む瞳から涙が零れそうになるのを唇を噛んで堪える。濡れたひたむきな瞳向けてくるジャーヴィスを真っ直ぐ見つめ、一歩近づきながら提督は更に問う。

 

 

「帰る場所を放棄するという意味か?」

 

「帰る場所ならあるわ」

 

 

静かに、胸に片手をあてた姿で静かに、しかしはっきりとジャーヴィスは言葉紡ぐ。

 

 

「Darling…あなたが、わたしの港」

 

 

心を打ち抜く少女の想い、その想いの深さが大柄な提督の身体を揺るがせる。さらに一歩ジャーヴィスに歩み寄り、その頬を片手で覆いながら提督は最後にジャーヴィスに確かめる。

 

 

「後悔、しないか?」

 

「するわけがない」

 

 

それ以上の言葉は無意味だった。だから、提督はジャーヴィスを強く引き寄せた。ジャーヴィスの小さな身体が提督の腕の中に納まる。大きな想い湛えた小さな身体が、提督の腕の中に納まる。

 

 

提督の温かさを全身に感じながら、ジャーヴィスはようやく閉じた瞳から涙ひと筋頬に伝わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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