艦娘恋物語   作:青色3号

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浦風の場合

深夜の声を聴き始める提督執務室、提督のつく重厚な机に直角にそれより少し小ぶりな机をくっつけて駆逐艦娘・浦風は秘書艦業務に勤しむ。提督の走らせるペンが止まり、その提督の口から浦風をいたわる声が放たれる。

 

 

「浦風、そろそろいいぞ。キリのいいところであがってくれ」

 

「はーい。ちょうどひと段落ついたところじゃ」

 

 

顔を上げて笑顔見せ、浦風は仕事の手を止める。その笑顔に提督も微笑みで応えると、引き出しをあけてなにやら中を漁る。

 

 

提督が取り出したのは竹製の耳かき。その耳かきを手にすると、提督はごそごそと耳を掻き始める。

 

 

「提督さん、耳痒いんか?」

 

「ああ、さっきからどうにも気になってな…」

 

「ふ~ん…」

 

 

提督が耳を掻く様を興味深げに浦風は見つめていたが、ふと悪戯っぽい表情になると気安い口調で提督に提案する。

 

 

「うちが、提督さんの耳かきしちゃろうか?」

 

「え?」

 

 

思わず手を止め提督が浦風の方を見ると、浦風は提督の手から耳かきを取り上げる。椅子から立ち上がり執務室のソファまで軽い足取りで歩み寄ると、ソファに座りぽんぽんと自分の膝を叩き、提督に誘いの声向ける。

 

 

「ほら、提督さん。こっちこっち♪」

 

 

一瞬ためらうものの、その誘いは抗いがたい。吸い込まれるように提督は椅子から立ち上がり、浦風の隣に腰を下ろす。しばらく提督は逡巡していたがやがて意を決すると浦風の白い腿に頭を乗せる。

 

 

弾力ある柔らかさに心を持っていかれる。そんな提督の気持ちにどこまで気がついているか、浦風は「ふふっ」と小さく笑うと手にした耳かきを持ち直す。提督の耳たぶを軽くひっぱり耳の穴を広げると、慎重に竹の耳かきを挿れてゆく。

 

 

「お…」

 

 

壁を擦られる気持ちよさに提督は思わず小さな声を上げる。こりこりっ、と耳垢が擦り取られる感触が提督に伝わる。浦風はゆっくりと耳かきを引き出し、乾いた耳垢をポケットティッシュで拭い取る。

 

 

再度、耳かきを穴の中に潜らせる。壁を優しく掻きながら少しずつ奥を目指していく。自分で掻いたのでは得られない快感に提督の軽く開いた唇から思わずため息が漏れる。

 

 

丁寧に、耳かきを前後させる。また大きな塊の感触が浦風に伝わる。耳かきを回り込ませ、その塊を引っかけるとこりこりと根元から削り取る。

 

 

しばらく浦風はそうやって提督の耳を掃除していたが、仕上げにふわふわの梵丹で提督の耳の穴を撫で、最後にふうっと優しく息を吹きかける。

 

 

「はい、こっちは終わり。提督さん、今度は反対側じゃよ?」

 

「お、おお…」

 

 

ひどく贅沢な時間を過ごさせてもらっている気がしながら提督は言われた通り素直に身体をひっくり返す。浦風の華奢なウエストラインが視界に飛び込み提督は思わず唾を飲み込む。包み込むような微笑み浮かべ、浦風はまた耳かきを再開する───

 

 

───極楽のような時間が過ぎ、提督は心ここにあらずの体で身体を起こす。

 

 

「はい、終わり。提督さん、どうじゃった?」

 

「あ、ああ…気持ちよかった…」

 

「それはそれは」

 

 

満足げに浦風は笑顔見せると耳かきをティッシュで丁寧に拭う。これまた満足そうな表情で提督は身を起こすと、ご機嫌の表情で浦風に振り返る。

 

 

「いや~、いいもんだな耳かきされるってのは。こりゃ俺だけこんないい思いしたんじゃ申し訳ないな~…」

 

「え?」

 

「浦風、お前耳かき上手いな。他の奴にもやってやったらどうだ?ほら、例えば整備の連中。あそこの若い奴らなんか喜ぶぞ~」

 

 

上機嫌に言い放つ提督のテンションに反比例するように、凍り付いた笑顔顔に張り付けた浦風の表情がみるみる曇る。その変化に提督が気がつく前に、浦風は勢いよく立ち上がると一言叫ぶ。

 

 

「バカッ!」

 

 

目尻に涙を浮かべ、そのまま浦風は執務室を飛び出す。あとにはぽかんとした表情浮かべる提督だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、浦風は「体調不良」で秘書艦業務を休んだ。とはいえども、その言い訳を額面通り受け取るほど提督も愚鈍ではない。どうやらだいぶ怒らせてしまったようだとは悟るものの、浦風の心中計りかね、首を捻りながら提督はひとり寂しく仕事に向かう。しばらく能率の悪い書類仕事を進めたところでコンコンと丁寧に扉をノックする音が響き、銀髪ボブの駆逐艦娘が姿を現す。

 

 

「提督、ただいま終了した演習の報告をお持ちいたしました」

 

 

落ち着いた態度と声の浜風から書類を受け取りながら、さりげなさを装い提督は問う。

 

 

「浜風、今日浦風に会ったか?彼女の様子はどうだ?」

 

「浦風?いいえ、今日は顔を見ていませんが…なにかありましたか?」

 

 

不思議そうな表情を見せる浜風を前に提督はしばし悩むが、思い切って昨夜の一部始終を浜風に伝える。浦風に耳掃除をしてもらったこと、その腕を褒めたら急に浦風が怒って執務室を飛び出したこと───

 

 

───「腕を褒めた」その褒め方の詳細を提督から聞き、浜風は細い指を額に当て頭を振ると提督に問う。

 

 

「…本当に、そんなことを言ったのですか?『他の奴らにもやってやったら喜ぶぞ』、と?」

 

「ああ、言ったが?」

 

 

飄々と答えてのける提督に呆れの表情隠そうともせず向けながら、浜風は提督に再度問う。

 

 

「提督は、本当にそれでいいのですか?」

 

「何?どういう意味だ?」

 

「想像してみてください、浦風が誰かほかの男の人の耳かきをしてあげているところを」

 

 

意味が分からないがとりあえず言われた通りにしてみることにする。適当な若手部下を頭に思い浮かべ、想像の中の笑顔の浦風のお膝の上に頭を乗せさせて───

 

 

───ムカムカムカムカ...

 

 

名状しがたいむかつきに襲われ提督は顔をしかめる。急ぎ想像を取りやめ頭を左右に振って脳内映像を振り払うが、イライラは治まってくれない。そんな提督の様子を浜風は黙って見つめていたが、一拍置くと提督に問いかける。

 

 

「もう一度聞きます。提督は、本当にいいのですか?」

 

 

バン!と机に手をついて提督は椅子から立ち上がる。その勢いにさすがの浜風も目を見開いてちょっと身を引くが、すぐに落ち着き取り戻すと目をわざと提督から逸らしひとり言のように呟く。

 

 

「ああ、そういえば思い出しましたが…浦風なら、さっき中庭にいましたね。誰かを探しているようで…耳かきの相手でも、物色していたのでしょうか?」

 

 

その言葉に弾かれたように提督は駆け出し浜風とすれ違う。すれ違いざまの突風で浜風の髪靡かせながら提督は執務室を飛び出す。ゆっくりと浜風は振り返り提督の飛び出した後の開け放たれたままの扉を見つめていたが、やがて提督の机の上の黒電話の受話器を持ち上げるとダイアルを回し、受話器の向こうの相手と短く言葉を交わすと電話を切る。

 

 

「…まったく、世話のかかる人たちですね」

 

 

そんな言葉を口にしながらも、浜風の顔には楽し気な微笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中庭に走り込んできょろきょろと周りを見回す。探し人の姿は見当たらない。焦りがどうしようもなく心の中に広がっていくのを感じながら提督はなおも浦風の姿追い求める。

 

 

「…提督さん?」

 

 

その探し求めていた声に振り向くと、そこにいたのははたして浦風その人。きょとんとした顔浮かべながら浦風は提督に問いかける。

 

 

「提督さん、お仕事は?」

 

「いや、お前を探していた…浦風は、いつの間にそこに?」

 

「あ、うちは浜風に呼び出されて…そしたら、提督さんが見えたから…」

 

 

微妙に話が食い違っている気がするが、今は細かいことを気にしている場合ではない。顔の筋肉を引き締め浦風に近づき、一歩身を引く浦風の青い瞳見つめて提督は言葉放つ。

 

 

「浦風、他の奴の耳かきなんてするな」

 

「え?」

 

「頼む、俺の耳だけ掻いてくれ」

 

 

ぽかーんと浦風は提督を見上げるが、やがて丸めた手を顎に当てくすくすと笑いながら提督に問う。

 

 

「提督さん、それもしかして告白?」

 

「そ、そうだ!」

 

「なんともユニークな告白文句じゃのお…」

 

 

なおもくすくす笑いを浮かべたまま、浦風は提督に向かって意味ありげな声色で語りかける。

 

 

「耳かきって、恥ずかしいんよ?腿の上に男の人の頭を乗せて、あーんな近くで顔に手をやって…」

 

「う…」

 

「だから…うちが耳かきしてあげるのは、提督さんだけ」

 

 

頬を染めて上目遣いに提督を見上げ、腕を背中で組みながら浦風はそんな言葉を口にする。言葉の意味を確かめるように提督は浦風の瞳を探るように見つめていたが、やがて呻くように問いかける。

 

 

「また、耳かきしてもらえるか?」

 

「耳かきだけでええの?うち、もっといろんなことしちゃるよ?あーんなことやこんなこと…」

 

 

提督に一歩近づきながら浦風は妖艶に囁きかける。囁かれた提督の顔に浮かんだ表情確かめいきなり浦風は厳しい声上げる。

 

 

「なーに想像したんじゃ!提督さんのえっち!」

 

「い、いや、俺は…まいったな…」

 

 

しどろもどろになる提督を浦風は睨みつけていたが、また笑顔広げ提督を見つめる。その浦風の笑顔にようやく提督も表情を緩め、ゆっくりと浦風に手を伸ばす。浦風の空色の柔らかな髪ひと房掬う。その髪、指に巻き付ける。

 

 

 

 

 

 

 

ふたりの視線が絡み合う。たった今得たものを、もう見失わないこと誓うように───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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