艦娘恋物語   作:青色3号

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Saratogaの場合

随伴艦を連れ海面に立つサラトガの左腕がすぅ、と伸ばされる。艤装の飛行甲板が海面に水平に掲げられる。一機、また一機と帰還した艦載機が飛行甲板に戻ってくる。

 

 

「お帰り…サラの子たち」

 

 

穏やかな微笑みに見守られ艦載機が次々着艦する。最後の一機が甲板に降り、その翼を休ませる。

 

 

「いい子たちね」

 

 

帰還した艦載機を見つめるサラトガの眼差しは慈しみに溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府に戻り、作戦報告を済ませる。サラトガの簡潔にして要領を得た報告に提督も頷く。今回の作戦の首尾も上々だと確認すると提督は椅子に背中を預け直しサラトガに向かって語りかける。

 

 

「今回の作戦もうまくいったようだな」

 

「ええ…サラの子たちも頑張ってくれました」

 

 

微笑み告げるサラトガの言葉に「サラの子、か」と提督は呟く。椅子に座りなおし机に肘を乗せ顎を手の上に預け提督はサラに問いかける。

 

 

「艦載機はサラトガの子供、か?」

 

「ええ、大事な子たちです」

 

「なにも艦載機を子供扱いしなくても、サラトガも本物の子供を産もうとは思わんのか?」

 

 

きょとん、とした表情を見せるサラトガの横で秘書艦の大淀が提督に苦言を呈する。

 

 

「提督、今のはセクハラですよ」

 

「ん、そうか?いや、すまん」

 

 

あまり悪びれもせず軽い口調で形だけは謝罪の言葉を口にする提督の前でサラトガは静かな微笑み浮かべ穏やかに諭す。

 

 

「提督…サラは艦娘です。人間ではありません」

 

 

微笑みは浮かべたままサラトガは穏やかな口調のまま、しかし有無を言わさない調子で付け加えた。

 

 

「そのことは、忘れないでくださいね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラトガが外した後の執務室で提督は部屋に残る大淀に問いかける。

 

 

「大淀、艦娘ってのはやはり子をなさないのか?」

 

「え?…ええ、そうですね。月のものがありませんから」

 

 

提督も知っている艦娘の生態、提督の質問は知るためのものではなく確かめるためのもの。大淀の言葉に鼻を小さく鳴らす提督に向き直り大淀は付け加える。

 

 

「ただ、提督もご存知の通り艦娘の身体の構造・機能は人間とほぼ同じです。なんらかのきっかけで、艦娘も妊娠できるようになるのかもしれませんね」

 

「なんらかのきっかけ、か」

 

「そうですね…例えば、終戦、とかかしら」

 

 

彼女にしては珍しい悪戯っぽい口調で大淀はそんなことを言ってのける。「ふむ」と提督はひとつ頷き自分の考えに沈む。終戦とともに艦娘の時間も動き出す、大淀が告げたそんな仮説はなぜか非常な説得力を持って提督の耳に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岸壁をひとりサラトガは歩く。波風にその赤茶の髪靡かせながら。と、向こうから同じ故郷を持つ米国艦娘が近づいてくる。

 

 

「Hi、サラ」

 

「アイオワ。How’s doing?」

 

 

にっこり笑い足を止める。そのサラトガの目の前まで歩み寄るとアイオワは気安い母国語でサラトガに話しかける。

 

 

「戻ってたんだ」

 

「ええ、先ほど提督に報告を終えたところ」

 

 

頷くアイオワにサラトガは先ほどの会話を開陳する。

 

 

「提督に『子供を産むつもりはないのか?』って聞かれちゃった」

 

「Wow…ビミョーな質問ね」

 

 

肩を竦めてサラトガは首を回し顔を波に向け言葉だけをアイオワに向ける。

 

 

「…艦娘の私たちが子供を産む。そんな未来があると思う?」

 

「考えたこともなかったわね…でもいいんじゃない?そんな未来があったとしても」

 

「未来、か」

 

 

ひとつ呟き首を振る。波に顔を向けたままサラトガは言葉継ぎ足す。

 

 

「それは、夢見てはいけない未来ね」

 

「なぜ?」

 

「あまりに、不遜だから」

 

 

サラトガの言葉にアイオワは首をかしげる。そのままアイオワはサラトガの言葉の続きを待つ。しかしそれ以上の言葉はサラトガの唇から発せられることはなく、サラトガはただ無言で波を見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

埠頭にサラトガは波風を受けながら立つ。アイオワと別れて、気がつけばサラトガはひとりこの場に立っていた。何を思うか視線を遠く水平線に向けるサラトガを後ろから呼ぶ声。

 

 

「サラトガ、」

 

「…提督」

 

 

振り向いて、こちらに近づく提督の姿を視界に収める。サラトガに見つめられながら提督はゆっくりとサラトガの方に歩み寄る。サラトガの目の前で足を止め、視線をサラトガから海に向けなおし提督はサラトガに語りかける。

 

 

「さっきの話なんだがな」

 

「え?」

 

「子供の話…大淀に言わせれば、艦娘も何かのきっかけで子を成せるようになるかもしれないそうだ」

 

 

その言葉にサラトガが示した反応は動揺。ぴくん、と身体を震わせ胸をかばうように両腕で抱き怯えの表情を見せるサラトガの様子には気づけぬまま提督は言葉続ける。

 

 

「考えてみてもいいんじゃないか?まあ子供を産む産まないは個人の自由だが、案外サラトガならいい母親に…」

 

「やめて!」

 

 

身を折り、サラトガは悲痛に叫ぶ。驚いたように提督がサラトガの方に顔を向けなおす。身体を小さく縮こませるようにしながら、涙その頬につたわせながら、サラトガは悲愴な涙声で訴える。

 

 

「そんな未来を語らないで!そんな希望を与えないで!そんなことを言われたら私、わた、し…」

 

 

ぎゅっと閉じた目から涙溢れさせながらサラトガは小さく叫ぶ。

 

 

「貴方との子供を、望んでしまうから…!」

 

 

閉じていた目を開いて涙湛えた瞳提督に向け、サラトガは溢れる想い言葉に変え提督に向ける。

 

 

「貴方との未来を、夢見てしまうから…っ…!」

 

 

胸の奥に押さえつけていた想い、胸の底に隠していた想い、もう留め置くことはできぬままサラトガは胸の前で両手を合わせ揉み絞り提督に向けて言葉迸らせる。

 

 

「でも、それは不遜すぎる願いで…!サラは、艦娘で、戦うための存在で…!…そんな私が、貴方との未来を夢見るなんて許されるはずもなくて…!」

 

 

サラトガの真っ直ぐな想い、突然に捧げられて提督は言葉失い黙り込む。その提督の目の前でサラトガは言葉続けることもできず泣きじゃくる。そのまま、それほど長くもない時間が経過したのち提督はサラトガにその手を差し出す。

 

 

「…許さないと、誰が決めた?」

 

 

静かにサラトガの肩にその手を置く。そのままゆっくりとサラトガの細い身体を引っ張りよせる。何が起こっているのかわからないうちにサラトガは提督の胸の中に納まる。

 

 

「誰かが許さないと言っても…俺が、許す。俺は、サラトガを受け入れる」

 

 

自分を包み込む温かな感触、自分の耳に届く優しい言葉。それらが、サラトガの心に温かな光を灯す。まだ自分の身に何が起きているか全てはわからないまま、それでも大切なことはわかって、サラトガは提督に抱かれたまま涙に濡れた瞳見開く。提督の胸で、サラトガは小さく呟く。

 

 

「でも、やっぱりサラは艦娘で…人間とは違っていて…」

 

「なにも変わらない」

 

 

断言し、サラトガを抱く両腕に力を籠める。サラトガの耳元に唇を寄せ、提督はサラトガに言い聞かせる。

 

 

「この暖かさも、流す涙も…なにも、人とは変わらない。サラトガは、未来を夢見る権利がある」

 

 

サラトガの赤茶の髪が柔らかく頬をくすぐるのを感じながら、提督はサラトガの耳に囁きかける。

 

 

「俺の子を、産んでくれるか?」

 

 

言葉が、鼓動を波打たせる。提督の胸の中でひとつ頷く。と、いきなりその両腕を伸ばしサラトガは提督の身体からバッと離れる。

 

 

「あ、あの、でもですね、いきなり今すぐは無理というか、ほらこういうことには順番が、というかサラはまだ子供産めない身体だし…」

 

「…いや、今すぐ産めとは言っていないが」

 

 

焦りを隠そうともせず両手をぱたぱたさせてまくしたてるサラトガに、流石の提督も少し呆れた表情を向ける。顔を真っ赤にして「あぅ、あぅ」と意味不明な呟き漏らすサラトガに向けて小さくくすりと笑いかけると、提督は再びサラトガに手を伸ばしその柔らかな身体を引き寄せる。

 

 

再び、サラトガは抱きしめられる。お互いの体温交換しながら、提督はサラトガの耳元に囁きかける。

 

 

「未来を、夢見る気になったか?」

 

「…はい」

 

「覚えておけ…それが、人間の特権だ」

 

 

こくんとひとつ頷く。ぎゅっと提督に身を摺り寄せる。いつか、そう遠くない将来、この人とともに未来を築ける日がやってくる。

 

 

 

 

 

そう、サラトガには信じられた。なぜか、無条件に信じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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