艦娘恋物語   作:青色3号

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鈴谷の場合②

目覚ましが鳴る前にパチッと目が覚める。鈴谷はベッドに起き上がると寝間着姿でガッツポーズをとり雄たけびにも似た声あげる。

 

 

「よっしゃああああああ!!!デートの日だあああああああ!!!うわああああああ!!テンション上がってきたあああああ!!!!!」

 

「…鈴谷。」

 

 

鈴谷に叩き起こされた形の熊野がベッドに身を起こし苦情を入れる。

 

 

「今、五時ですわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け足で待ち合わせ場所へと急ぐ。今日の休日ファッションは黒の春セーターに水色のジャケット、薄いグレーのタイトロングスカート。足元は黒皮ブーツでシックに決め、全体にオトナなイメージを狙う。

 

 

デートの相手は鈴谷の上官の提督、だったら一緒に鎮守府からお出かけしてもいいようなものじゃないかとも思うが、お外で待ち合わせした方がデートっぽいではないかと鈴谷が主張したのだ。港に面した公園の時計台の下、鈴谷はだいぶ早めに来たはずなのにもう提督が待っているのが見える。紺のジャケットに鈴谷とお揃いにも似た黒のハイネックセーターの提督に鈴谷は駆け寄り明るい声を向ける。

 

 

「テートク、おまったせ~♪ずいぶん早いじゃん。」

 

「鈴谷、なに、今来たところだ。」

 

「ふっふ~ん♪鈴谷とのデート、そんなに楽しみだった?」

 

「5分前行動が身についているだけだ。」

 

「今30分前だケド?」

 

「…行くぞ。」

 

 

照れ隠しか提督は鈴谷に背中を向けぶっきらぼうな声出し歩き出す。笑顔が自然と浮かぶのを自覚しながら鈴谷は提督を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街角のハンバーガーショップ、ふたりは向かい合って席を取る。チーズバーガーを口いっぱいにほおばる鈴谷に提督は少し遠慮がちに問いかける。

 

 

「…昼メシ、こんなもんでよかったのか?」

 

「なんで?鈴谷好きだよ、チーズバーガー。」

 

「そりゃまあ好きだろうけど…もっと豪華なレストランとか…」

 

「鈴谷肩こっちゃうよそんなのー。」

 

 

あなたと一緒なら何でもおいしい、とでも言えれば色っぽいのだろうが意外と照れ屋な鈴谷にはそんなセリフは言えやしない。そんなセリフを吐くことも想像してない様子でチーズバーガーをもうひと口がぶりとほおばる鈴谷のことを、提督は知らず微笑み浮かべて見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商店のウインドウを冷やかしながら街を歩く。ふたり、手をつなぐでもなく微妙な距離を保つ。と、ふたりの前を手をつないだ若い男女が歩いているのに鈴谷は気づく。

 

 

「ほらテートク、見て見てカップルだよカップル。」

 

「…いや俺らも一応カップルなんだがな…」

 

 

そうか、と呟き自分の立場を自覚する。自分たちもカップルなんだと思うとくふくふ笑いがこみ上げてくる。と、目の前を歩いていたカップルが実に自然な動作で通りの建物の中に消えてゆく。

 

 

「あ、ラブホ入った。」

 

 

思わず鈴谷は口にする。なぜか顔が赤くなる。見てはいけないものを見てしまった気分の鈴谷の横で提督は何気なさ装い提案する。

 

 

「俺らも入るか?」

 

「はあああああああああい!?」

 

 

提督も予想だにしなかった素っ頓狂な大声あげ鈴谷は眼を見開き顔を真っ赤にする。その分かりやすいリアクションにさすがに提督も早まったかなと反省する。そんな提督の心うち知らぬまま、鈴谷は考える表情になると次に上目遣いに提督を見上げ小さな声で提督に言う。

 

 

「…入る、だけだよ?」

 

 

言った瞬間ものすごく恥ずかしくなって鈴谷はますます顔を赤くして提督を見上げたまま必死の形相でまくしたてる。

 

 

「ホント入るだけだからね!?ヘンなことしちゃ、ダメだからね!?」

 

 

あまりにあまりなその条件に提督は一瞬脱力する。が、連れ込んでしまえばこっちのものかと思い直す。初デートでまだ早い気もするが―――据え膳食わぬはなんとやら、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に一歩入ったところで鈴谷は感動したような声あげる。

 

 

「わあ…」

 

 

思ったより広くてキレイ、というのが鈴谷の感想だった。部屋の真ん中に大きなベッドがデン、と鎮座しているのがこの部屋の目的を分かりやすく伝えている。部屋の奥に足を運びキョロキョロあたりを見回す。その無邪気にも見える鈴谷に後ろから近づき提督は鈴谷の肩に手を伸ばす。

 

 

「鈴谷…」

 

「あ!」

 

 

何を見つけたか、鈴谷は突然声を上げると部屋の向かいの大型テレビの方に駆け出す。膝まづいてテレビの下の箱型の機械をしげしげと見、機械の奥からマイクを二本取り出し提督に振り向いてにっこり笑う。

 

 

「テートク、カラオケあるよカラオケ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間後、げっそりした表情でふたりラブホを後にする。

 

 

「…まさか本当にカラオケで二時間潰れるとは思わなかった…」

 

「…鈴谷、なんかすごいことしちゃったなあって気が…」

 

「“ラブホ利用経験のある処女”って結構貴重な肩書なんじゃないか?」

 

「そだね~…」

 

 

答えた瞬間言葉の意味に気が付いて鈴谷は背筋を伸ばして硬直する。再び顔を真っ赤にして鈴谷は提督に食ってかかる。

 

 

「しょ、しょしょしょしょしょ、しょー!しょー!しょー!」

 

「何言ってんのか分からんぞ。」

 

「しょ、処女って!処女って!」

 

「なんだ、お前鉄板で処女だろが。」

 

 

デリカシーというものの欠片もない提督の言葉に鈴谷は顔を真っ赤にしたまま口をパクパクさせる。それでも気を取り直して顔の紅潮消えないまま鈴谷は腰に両手をあて提督に横顔向けて強がって見せる。

 

 

「わ、わかんないよ~?鈴谷さんって、お休みの日に何度も街に繰り出してるワケだしその時にアバンチュールのひとつやふたつ…て、なに笑ってんの提督。」

 

 

口を押えクックッと喉の奥で笑う提督に鈴谷はジト目向ける。その鈴谷に「お前さっき明らかにラブホ初体験だっただろが」と突っ込む代わりに提督は放言する。

 

 

「いやボロボロ泣きながら告ってきたような純情鈴谷にそんな度胸があるとは思えん、と思ってな。」

 

「!?そ、そーゆーこと言う!?フツー言う!?」

 

 

もうこれ以上赤くなりようがないほど爆発寸前の顔で鈴谷はキリキリ歯を食いしばる。肩を怒らせ提督に背中を向けて鈴谷は「怒ってます」と看板を掲げたような態度で歩き出す。その鈴谷に後ろから近づき提督は鈴谷の小さな肩を抱く。

 

 

抱かれた肩が熱を帯びる。こわばった心が簡単に柔らかくなってゆく。我ながらチョロいな、と思いながら鈴谷は唇尖らせる。その鈴谷の耳元に口を寄せ提督は囁きかける。

 

 

「そう怒るな。そのうちいろいろ教えてやるから。」

 

「そのセリフ、超オヤジくさいんですけど~…てかテートク、そんなキャラだっけ?」

 

 

怖い顔を作って睨んで見せるが真っ赤な顔では迫力がない。提督を威嚇することを諦め鈴谷はむっとした表情に切り替わる。と、考えるような表情になり鈴谷は指先を唇に当て呟く。

 

 

「あ、でも初めてがラブホはイヤかもな~…」

 

「ゼータクだな…じゃあ、俺の部屋なんかどうだ?」

 

「あ、いいかも。カレシの部屋ってなんかロマンチック…て!ト、トーブン先の話だからね!?トーブン先!!」

 

「へいへい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美術館の壁一面に飾られた円と直線を基調とした抽象画、その前にふたり並んで立つ。ジャケットのポケットに両手を突っ込んだ姿勢で提督がしみじみとした声を出す。

 

 

「こーゆーのは俺には分からんな~…。」

 

「鈴谷も~…絵よりマンガの方が好き~。」

 

「芸術品とマンガをいくらなんでも並べるなよ。だいたいお前、もうマンガって歳じゃ…」

 

 

そこまで言いかけ傍らの鈴谷に顔を向け、提督は初めて気が付いたように鈴谷に問う。

 

 

「鈴谷、お前何歳になるんだ?」

 

「ん?1歳2か月。」

 

「いやそういうことじゃなくて…いやそういうことか…しかし、う~ん…」

 

 

開発工廠の金属チューブの中から今の姿で鈴谷が生まれてから確かにそれくらいの月日しか経ってない。それにしてもさすがに1歳と言われても納得できず提督は鈴谷のことをしげしげと見つめ確認するように話しかける。

 

 

「見た目は、15,6歳ってところだよな?」

 

「あ、それじゃあ鈴谷、JK?JK?」

 

 

ニマッと笑ってそんなことを言ってみる。そのまま視線を提督から目の前の絵に移し鈴谷は夢見がちに呟く。

 

 

「あ~、でも高校生活とかってちょっと憧れるかも~…」

 

「そのうち通えるさ、戦争が終わればな。」

 

「そだね。」

 

 

いつかは分からない、でもきっとそんな日が来る―――不思議と、そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波打ち際を、ふたり歩く。砂浜にふたりの足跡が残る。潮風が鈴谷の髪靡かせる。風が髪を洗うに任せたまま、鈴谷は沖に目を向け傍らの提督に囁く。

 

 

「…この静かな海の向こうに、深海棲艦がいるんだね。」

 

 

提督は黙って頷く。その提督に横顔向けたまま鈴谷は風に呟き乗せる。

 

 

「いつか、平和な海が見られるのかな…」

 

「見られるさ、いつかきっとな。」

 

 

提督の力強い言葉に頷き返す。そのまま靡く髪を手で押さえ鈴谷は小さくまた呟く。

 

 

「いつか、平和な海になっても、戦いが終わっても…鈴谷は、提督の傍にいたい。」

 

 

いつもだったらとても言えないストレートな台詞は、寄せる波が言わせたものだろうか。鈴谷のその小さくひたむきな呟きに提督はただ一言だけで応える。

 

 

「いてくれなきゃ、困る。」

 

 

鈴谷は眼を閉じ微笑む。提督の言葉が心に染みてゆく。一歩提督の隣から波打ち際に歩を進め、くるりと提督を振り返り鈴谷は満開の笑顔浮かべ潮風に乗せて提督に向け言葉奏でる。

 

 

「これからも、ずーっとヨロシクねテートク♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

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