艦娘恋物語   作:青色3号

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古鷹の場合

旗艦鳥海が作戦報告を終えるのを待って第八艦隊の古鷹は提督執務室に姿を表した。今しがた作戦を成功させたばかりの武勲艦の来訪を提督は温かく迎える。

 

 

「作戦ご苦労だったな、古鷹」

 

「いえ」

 

「休暇が明ければ秘書艦をお願いすることになるな。よろしく頼むよ」

 

 

作戦後各艦娘に与えられる公休のあと、古鷹は先任を引き継いで提督の秘書艦を務めることになっている。そのこと誇らしく思いながら古鷹は「はい」と笑顔見せる。その古鷹に提督は話を続ける。

 

 

「しかし、今回の作戦は重巡主体だったが……皆、よくやってくれた。期待以上だ」

 

「はい、そうです。重巡洋艦の皆さんは優秀なんですよ」

 

 

提督に向かい古鷹はさらに笑顔を広げた。

 

 

「提督に重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

公休日が明け古鷹は提督の秘書艦となる。提督の豪奢な机に直角に提督のより少し小ぶりな机をくっつけ、古鷹は書類仕事に勤しむ。ペンの走る音を割って提督執務室の扉をノックする音が響き、足柄と羽黒が姿を表す。作戦出撃前の顔見せだ。

 

 

「それじゃあ行ってくるわね。狼の戦果、楽しみにしていてね」

 

「姉さんたちのことは任せてください、司令官さん」

 

 

強気な笑み顔に浮かべる足柄とその傍らで穏やかな微笑み見せる羽黒、その二人に提督は激励の言葉向ける。

 

 

「頼りにしているぞ、ふたりとも」

 

 

提督の言葉に足柄と羽黒の二人は力強い頷きで答える。そんな二人を古鷹も笑顔で見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の作戦も重巡洋艦が主力となる戦いであった。執務室に今回の作戦の中心となる衣笠と青葉が顔を出す。

 

 

「まあこの衣笠さんにかかれば今回の作戦も大成功間違いなしね。衣笠さんに、おまかせ!」

 

「ちゃっちゃ~っと片付けて帰ってきますヨ」

 

 

二人の頼もしい言葉に提督は頷きひとつ向ける。その傍らで古鷹は、笑顔が少しぎこちなくなるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の作戦もまた重巡洋艦が中心の作戦であった。執務室に今回の旗艦を務める高雄が愛宕を伴い現れる。

 

 

「私達に挑むなんて、バカめと言って差し上げますわ」

 

「ちゃっちゃとやっつけてくるわね~♪」

 

 

二人の闘志満ちる姿に提督は頼もしげな笑顔向ける。その傍らで古鷹は、自分の顔に寂しげな表情が浮かんでいることに気づきながら、そのこと提督たちに気取られぬよう祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンクのパジャマに身を包み、ベッドに膝を抱えて腰掛ける。顔を半分膝に埋めた格好の古鷹に濃いブルーのパジャマ姿の加古が近づき声をかける。

 

 

「どうした古鷹、落ち込んだりして。仕事でなんかポカでもやらかしたか?」

 

「……私、悪い子なの」

 

 

くすん、と鼻をひとつ鳴らし加古の顔は見上げられぬまま古鷹はそんな言葉を口にする。ベッドの傍らに立ち首を傾げる加古に向かってか、古鷹は呟き続ける。

 

 

「最近、重巡洋艦の主力になる作戦が続いたでしょ?重巡洋艦のみんなが本当に活躍してて、提督もそのことを喜んでいて……そのことは、とっても嬉しいことのはずなのに……」

 

 

そこまで呟き顔を膝に埋めて古鷹は涙声で一言続ける。

 

 

「……『私のことも見て』って思ってしまうの……」

 

 

そこまで聞いてほんの少し加古は驚いた顔見せるが、微笑み浮かべると古鷹の隣に腰を下ろし静かに囁く。

 

 

「古鷹は、提督に恋してるんだね」

 

「……うん」

 

言い当てられ、素直に古鷹は認める。提督に見てもらいたい、そんなわがままだとしても抑えられぬ気持ち持て余す古鷹の肩を抱き加古は古鷹に囁きかける。

 

 

「あたしは、まだそーゆーのよくわかんないけどさ……古鷹の気持ちは、尊いと思うよ。古鷹は、悪い子なんかじゃない」

 

 

小さくしゃくりあげひとつ古鷹は頷く。そんな古鷹を加古はいじらしく思う。古鷹の肩を抱く手に力を込め、加古は古鷹をしっかりと支えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、提督執務室で古鷹は書類に向かう。横顔を見る形になる提督の姿をたまに盗み見しながら古鷹は書類を片付けてゆく。古鷹と一緒に書類にペンを走らせていた提督が顔を書類に向けたまま古鷹に話しかける。

 

 

「重巡主導の作戦がここしばらく続いたな」

 

「はい」

 

「みな、よく頑張ってくれた……うちの重巡洋艦たちは優秀だ」

 

 

嬉しそうに提督は力強く口にする。その言葉が古鷹にも嬉しく、同時につくんと胸を穿つ。そんな古鷹の様子には気づかぬまま提督は古鷹に顔を向けて明るい声古鷹に向ける。

 

 

「古鷹が言ってたな。『重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです』って。本当に、重巡のいいところをたくさん知れた。支えてくれた、古鷹のおかげだ」

 

 

そんな言葉を口にして提督は笑顔を古鷹に向ける。そんな言葉にいともたやすく古鷹の気持ちは舞い上がってしまう。それと同時に罪悪感に胸を突かれ、古鷹は片手で胸を抑えて俯く。

 

 

「……私は、そんなにいい子じゃないです」

 

 

不思議そうな顔を見せる提督の視界の中で古鷹はさらに顔を俯かせ小さな声で言葉続ける。

 

 

「私、悪い子なんです」

 

 

加古に告げた独白繰り返すように、古鷹は提督の顔を見れぬままに小さな声で告げる。

 

 

「みんなが活躍して提督に認められて……それは、とても嬉しいことのはずなのに、私こう思っちゃうんです。『私のことも見て!』って」

 

 

愛の告白と言うにはあまりに悲しげなその響き、その響きに提督は黙って聞き入る。このような形でこの日告げることになるとは思わなかった想い、古鷹は提督に差し出す。

 

 

「提督に私だけを見てほしい、そんなことを思ってしまう……私、悪い子なんです」

 

 

ぽろり、と涙古鷹の瞳から溢れる。そんな古鷹の俯いた姿提督はしばらく無言で見つめていたが、やがて静かな声で古鷹に告げる。

 

 

「古鷹は、いい子だよ」

 

 

その言葉にも古鷹は顔をあげない。それでもいいと提督は古鷹に向かい更に言葉続ける。

 

 

「俺の好きになった子だ。いい子じゃないわけないじゃないか」

 

 

その言葉に古鷹は弾かれたように顔を上げる。その濡れた瞳見つめながら提督は古鷹に謝罪する。

 

 

「すまなかったな、見ているつもりだったんだが……気遣いが、足りなかったようだ」

 

「いいえ……いいえ!」

 

 

両手を絞るように組み合わせ、それだけようやく古鷹は口にする。想いが溢れて言葉にならない、そんな古鷹の唇からやっとの思いで声が絞り出される。

 

 

「私で、いいんですか?本当に?私、で?」

 

 

返事の代わりに古鷹に手を伸ばす。その手が、古鷹の柔らかな髪を捉える。ゆっくりと古鷹を撫でながら提督は古鷹にひとつ頷く。

 

 

 

 

 

 

 

いい子になりたい、そう古鷹は願う。自分が大切に思う人のため、自分を大切に思ってくれる人のため。

 

 

 

 

 

 

 

そしてこれからも自分のことをたくさん知ってもらえたら嬉しい、そう古鷹は強く想う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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