艦娘恋物語   作:青色3号

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PrinzEugenの場合

立木の生い茂る鎮守府本館中庭は談笑には最適の場所である。なのでというわけでもなかろうが、その日提督は通りがかったビスマルクを呼び止め立ち話に入る。いくつか話題を変えた後の提督の問いにビスマルクが答えようとしたとき、素っ頓狂な声が響いた。

 

 

「あーっ!」

 

 

その声の方角にふたりが顔を向けると、眉を吊り上げた表情でこちらにかけてくるのはドイツ重巡洋艦娘プリンツ・オイゲン。プリンツ・オイゲンはふたりの傍まで駆け寄ってきて一度膝に両手をつき呼吸を整えるとキッと提督を睨んで高い大声上げる。

 

 

「Admiralさん!なにビスマルク姉さまと馴れ馴れしくしているんですか!」

 

「いや俺はビスマルクの調子を聞いていただけで……」

 

「ビスマルク姉さまの体調管理は私がきちっとやってます!姉さまに馴れ馴れしくしないでください!」

 

 

あまりにあまりな言いがかりに反論することも忘れて提督がぽかんとしていると、そのままプリンツ・オイゲンはビスマルクの腕に自分のそれを絡ませ「行きましょう、姉さま」とさっさとビスマルクをその場から連れ去ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日、整備工廠の傍の開けた場所で提督とビスマルクは立ち話をする。と、素っ頓狂な声がその場に割って入る。

 

 

「あーっ!Adimiralさん!なにまたビスマルク姉さまと馴れ馴れしくしているんですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまた数日、鎮守府本館の廊下で提督とビスマルクが立ち話をしていると……

 

 

「あーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなの数日後、ビスマルクはプリンツ・オイゲンと連れ立って甘味処・間宮への道を歩く。「今日はあんみつにしようかな~。ヤーパニュッシュあんみつ、美味しいよね~」とほくほく笑顔でウキウキした様子を隠そうともせず歩くプリンツ・オイゲンにビスマルクはなんともいえない表情を隣から向ける。ここしばらくのプリンツ・オイゲンの行動について聞こうとビスマルクが口を開きかけた時、間宮の方から今しがたお茶を終えたところなのだろうビスマルクの担当の艤装整備兵が近づいてくる。

 

 

「やあ、ビスマルク」

 

「Guten tag」

 

 

こんにちは、と挨拶を返しビスマルクは立ち止まる。そのビスマルクに相対するように立ち止まり、整備兵はビスマルクに話しかける。

 

 

「艤装の調子は、どうだい?」

 

「上々よ。日本の艤装整備兵は腕がいいわね」

 

「はは、そう言ってもらえると嬉しいね。実は今度試したいことがあって……」

 

 

そのままふたりはビスマルクの艤装の近代化改装について話し合う。その傍らにちょこんとプリンツ・オイゲンは立ち、お行儀よくふたりの話が終わるのを待つ。ほどなくふたりの話も終わり、艤装整備兵が立ち去るのを手のひらをひらひらと振ってビスマルクは見送ると、不思議そうな目をプリンツ・オイゲンに向ける。

 

 

「なあに、姉さま?」

 

「オイゲン……彼が、私に話しかけるのは気にならないの?」

 

「なんで?」

 

 

きょとんとした無邪気な瞳を向けてくるプリンツ・オイゲンをビスマルクはしばらく見つめていたが、「そうか、そういうことか」と独り言ちてプリンツ・オイゲンに向き直る。

 

 

「オイゲン、あなた……」

 

「うん」

 

「『私に』提督が馴れ馴れしく話しかけるのが許せないのではなくて……」

 

 

ずばりとビスマルクは核心に斬りこむ。

 

 

「『提督に』私が仲良く話しかけるのが気に入らないのね?」

 

 

一瞬の沈黙ののち、返答の代わりにプリンツ・オイゲンの顔がぼっと音を立てそうな勢いで朱に染まる。隠していた乙女心をずばり言い当てられてプリンツ・オイゲンは身をすぼませ真っ赤な顔を下に向けてしまう。そんなプリンツ・オイゲンを彼女にしては珍しいちょっと意地悪な笑い顔でビスマルクは見下ろしていたが、優し気な微笑みを浮かべ直すとしゃがんでプリンツ・オイゲンと背の丈を合わせ言葉向ける。

 

 

「そういうことなら、あんな回りくどいことしている場合じゃないわね」

 

「え?」

 

 

顔をあげてビスマルクの目を見つめ返すプリンツ・オイゲンの前で姿勢を直すと、ビスマルクはプリンツ・オイゲンの頭上に言葉降らせた。

 

 

「告白するのよ、オイゲン」

 

 

 

 

 

 

 

 

提督執務室の重い扉を微かに開けて中の様子をうかがう。秘書艦の姿も今はなく、室内には執務机に向かい書類と格闘する提督がひとりいるだけだ。その様子をプリンツ・オイゲンは扉の隙間からうかがっていたが、やがて背後のビスマルクに振り返ると恐る恐る問う。

 

 

「ねえ、ビスマルク姉さま……ホントに、やらなきゃダメ?」

 

「もちろん、ドイツ女は度胸よオイゲン」

 

 

ふえ、と情けない声をあげて泣きそうな顔をするプリンツ・オイゲンの姿にちくんと胸が痛むがビスマルクは心を鬼にする。実際、プリンツ・オイゲンにとって分の悪い勝負ではないとビスマルクは見て取っている。提督がプリンツ・オイゲンに向ける優しい瞳、さりげない気遣い、そういうことに女は敏感だ。でもビスマルクほど察しの良くないプリンツ・オイゲンはことここに至っても勇気を出すことができず、扉の後ろでもじもじと身を小さくする。

 

 

「いつまでもそんなところにいないで入ってきたらどうだ?」

 

「ぅわあ!」

 

 

扉の向こうの不審者に提督が向けた鋭い一言にプリンツ・オイゲンは大げさなほど飛び上がる。そのまま再度部屋の中を覗き込もうとプリンツ・オイゲンが扉に身体を向けた瞬間、ビスマルクはプリンツ・オイゲンの背中を優しく、しかし断固とした力で押し出す。

 

 

 

たたらを踏むような格好でプリンツ・オイゲンは執務室に押し出される。「オイゲン?」と意外な闖入者に提督は声を向け、書類を捌く手を止めて椅子から腰を浮かす。

 

 

 

プリンツ・オイゲンの方に提督が歩いてくる。逃れようのない重圧を感じプリンツ・オイゲンは足をすくませたまま固まってしまう。いや、提督は別にプリンツ・オイゲンを威圧しようとしているわけではなくいつも通りなのだが、いつにないプレッシャーをプリンツ・オイゲンはひしひしと感じる。

 

 

「どうした、俺に何か用事か?」

 

 

プリンツ・オイゲンの怯え切ったただならぬ様子に流石の提督もできるだけ穏やかな声を向ける。ここでプリンツ・オイゲンが告げねばならない言葉はひとつだけ、たったひとつだけなのだけれどその言葉が喉につかえて出てきてくれない。

 

 

「~~~~~~~~~~~~~~~っ……!」

 

 

ぽろぽろと瞳から溢れ出る涙をこらえようとプリンツ・オイゲンはきゅっと目を強く閉じる。そのプリンツ・オイゲンのただならぬ様子に提督は慌てたような声を出す。

 

 

「どうした、なにかあったのか?」

 

ブンブンと首を振りプリンツ・オイゲンは唇を噛む。プリンツ・オイゲンの真意がわからず提督は困ったような表情浮かべる。ここまで来たら告げたいのに、たった一言今までずっと胸の中に収めてきた言葉を告げたいのに―――切ない想いがプリンツ・オイゲンの心臓をかき乱し水滴の形を取って閉じたままの瞳から溢れ出る。

 

 

知らず、プリンツ・オイゲンは歩を進める。ふわりと提督の胸にその華奢な身体が吸い込まれる。提督の鼓動とプリンツ・オイゲンの鼓動が重なり早鐘となって鳴り響く。

 

 

私ってばなんて大胆なことを―――自分で自分の行動に驚くが、プリンツ・オイゲンは提督の胸から離れようとしない。そのまま、内側から自分を壊そうとするかのような激しい心臓の高鳴りに耐えながらプリンツ・オイゲンは審判の瞬間を待つ。

 

 

やがて、躊躇うように提督の腕がプリンツ・オイゲンの背中に回される。最初は遠慮がちに、ほどなく強く、提督はプリンツ・オイゲンの柔らかな身体を抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 

温かな提督の腕の中、ようやく手に入った安住の場所。そのぬくもりを、プリンツ・オイゲンは噛みしめようにして全身で感じる。

 

 

 

 

 

 

プリンツ・オイゲンの細い身体を強く、優しく抱きしめる。その温かさが提督に幸せの意味を教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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