艦娘恋物語   作:青色3号

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Conte di Cavourの場合

おしとやか、なんて言葉とは無縁だと思っていた。そんな言葉について、考えたこともなかった。だからコンテ・ディ・カブールは今夜もまた提督執務室で遠慮のない言葉を提督に向ける。

 

 

「あんた、まだ仕事してたの?いったい今何時だと思ってるのよ」

 

「そうは言っても期日の近い書類がなあ……どこかでキリをつけなければとは思うんだが」

 

 

ふん、と鼻を鳴らしてコンテ・ディ・カブールは腰に両手をあてた格好を取る。

 

 

「秘書艦殿は?」

 

「大鳳なら先に返したよ。あまり夜遅くまで拘束するのも悪いしな」

 

 

すると今夜はもうこの執務室ではふたりきりの時間を邪魔する者はなし、とコンテ・ディ・カブールは素早く算段する。上がる鼓動とニヤける顔を提督に気取られないように表情に力を入れながらコンテ・ディ・カブールは提督に提案する。

 

 

「あまり根を詰めすぎてもいいことないわよ。ここらで一度休憩したら?せっかくワシが顔を出したんだし」

 

「それもそうだな。ちょっと休憩するか」

 

 

うん、と提督は背を伸ばす。椅子から立ち上がりながら提督はコンテ・ディ・カブールに問いかける。

 

 

「ちょうど羊羹があったんだ。お前も、食うか?」

 

「食べる♪」

 

 

にへへ、と笑ってコンテ・ディ・カブールは戸棚に向かう提督のあとをちょこちょことついてゆくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご機嫌で寝床である戦艦寮に戻り、自室への廊下を歩いていたところでコンテ・ディ・カブールは同郷の戦艦娘に出くわす。

 

 

「あら?カブール、今帰ってきたところ?」

 

「うん」

 

「どーせまた提督の顔を見に行ってたんでしょう?」

 

 

呆れたような微笑を浮かべるローマの一言にボッ!とコンテ・ディ・カブールの頬が朱に染まる。自分が隠し事の上手い方ではないことは自覚があったが、それにしてもこの眼鏡戦艦娘に自分の秘めたる想いを見抜かれるのは早かった。もじもじと身を揺するコンテ・ディ・カブールに向かいローマは当たり前のように問いかける。

 

「それで?今日は何か進展あった?」

 

「羊羹一緒に食べた♪」

 

「色気ないわね」

 

 

えへえへと嬉しそうにコンテ・ディ・カブールのした報告をローマは一言のもとに切り捨てる。笑顔のまま固まってしまうコンテ・ディ・カブールに向かいローマはさくっと言ってのける。

 

 

「どうもカブールは女として見られてないんじゃないかしらね」

 

「そ、そんなことないわよ!……多分」

 

 

自分でも自信が持てなくてコンテ・ディ・カブールの声の最後の方は小声になる。顔を伏せてしまったコンテ・ディ・カブールに向かいローマはもったいぶったような言葉向ける。

 

 

「カブールはざっくらばんすぎるのよ。少しは慎みを持った方が、殿方相手にはうまくいくわよ?」

 

 

ローマのその言葉にコンテ・ディ・カブールは縋りたいような気持ちにさせられる。少しの逡巡ののち思い切ってカブールはローマに向かい問いかける。

 

 

「ど、どうすれば慎みってやつが持てるの?」

 

「そうねえ……慎みといえばあの娘かしらね」

 

 

ローマの挙げたその名前にコンテ・ディ・カブールは頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、燦燦とお日様の照る鎮守府をコンテ・ディ・カブールは人探しに奔走する。西に東に鎮守府を駆けまわり、最後にお散歩中だった大東にその娘の居場所を聞いてコンテ・ディ・カブールが向かったのは甘味処・間宮。

 

 

「あ!いたいた!」

 

 

コンテ・ディ・カブールのその声にあんみつを口に運ぶところだった大和は手の動きを止め、おっとりとコンテ・ディ・カブールに向かい問いかける。

 

 

「え、っと……私に、ご用?」

 

「うん!」

 

 

お返事しながらコンテ・ディ・カブールは大和の向かいの席に腰を下ろす。穏やかな微笑みを浮かべながら大和はコンテ・ディ・カブールに声を向ける。

 

 

「どんなご用かしら?私でお役に立てることかしら?」

 

 

上品な佇まい、静かな声色。なるほど、こういうことかとコンテ・ディ・カブールは得心する。腕を組んでうんうんと頷くコンテ・ディ・カブールに大和はちょっと戸惑ったような顔をする。

 

 

「あの~……」

 

「あ、おかまいなく!どうぞ、ワシに構わずおやつを食べてください!」

 

 

私に用だったのでは?と大和は思うがコンテ・ディ・カブールの目的は大和とお話をすることではない。文字通り大和撫子との誉れも高い大和の一挙一動をこの目にしかと焼き付けることが目的である。とりあえず様子を見よう、と大和は結論付けて目の前のあんみつに取り掛かることにする。しかし匙を持ち上げたところでコンテ・ディ・カブールの視線が遠慮なく大和に突き刺さる。

 

 

「じー……」

 

「あの……そうやってじっと見つめられているととってもやりづらいのだけれど……」

 

「あ、おかまいなく!」

 

 

そうは言っても、と大和は心の中だけでため息をつく。なんとかあんみつを口に運ぶが、コンテ・ディ・カブールに凝視されながらのお茶の時間は今までになく大和にとって居心地の悪いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

大和を観察して何か得るものがあったか、コンテ・ディ・カブールはうきうきと提督執務室を目指す。いつもより心なし優しくコンコンと扉をノックして「どうぞ」の言葉に応えるように重い扉をそっと開く。

 

 

「カブールか、また顔を出してくれたのか。羊羹でも食べるか?」

 

「いただきます」

 

 

にっこり笑って応えるコンテ・ディ・カブールの様子に提督は違和感を覚えるが、その違和感の正体にはまだ気がついていない。椅子から腰を上げ戸棚に近づき、引き出しを開けて提督は半分ほど残った羊羹の棹を取り出す。そんな提督の姿をコンテ・ディ・カブールは見守っていたが、気がついたように提督に問いかける。

 

 

「わたし、お茶を淹れましょうか?」

 

「え?ああ、うん」

 

 

ここに至って提督は違和感の正体を知る。いつも遠慮なし配慮なしデリカシーなしのコンテ・ディ・カブールがしゃなりしゃなりとまるで貴婦人を気取っているかのようなこちらを伺うような態度を取っている。いったいなんのつもりなんだ?と思いつつ、どう訊いたものかわからぬままに提督は執務机の上で急須を傾けるコンテ・ディ・カブールの背中に声向ける。

 

 

「なあ、カブール……」

 

「あ、羊羹はわたしが切らせていただきますね。えーと、小刀はどこかしら?」

 

 

きょろきょろと執務室を見回すコンテ・ディ・カブールを提督はぼんやりと見つめていたが、やがて思い切って質問する。

 

 

「カブール、どうしたんだ?なんだか、いつものお前らしくないぞ」

 

「そ、そんなことありませんよ?わたしはいつも通り……」

 

「『わたし』ってあたりで、既にいつも通りじゃない」

 

 

ビシッと突っ込む提督の言葉のキレにコンテ・ディ・カブールは声をなくす。こちらに身体を向けて、それでも俯き自分の顔を見ようとしないコンテ・ディ・カブールにゆっくりと近づきながら提督は静かな声を出す。

 

 

「どうしたんだ、カブール?いったい、なんのつもりだ?」

 

 

言えない。言えば、自分の想いを告白することになる。そんな勇気はまだ自分にはない。いっそ伝えられたら楽になるかもと思いつつ、それでも想いは言葉に形を変えてはくれず、コンテ・ディ・カブールはますます俯き黙り込む。

 

 

ほんの少し、提督にオンナノコとして意識してもらいたいだけなのに。ほんの少し、色気のある空気を作りたいだけなのに。そのための努力もどうやら上手くは行かなかったことを知り、コンテ・ディ・カブールは唇を噛む。

 

 

ぽろぽろ、と涙が自分の瞳から零れ落ちるのをコンテ・ディ・カブールは感じる。きゅっと目を閉じて泣くのを堪えようとする。突然涙流し出したコンテ・ディ・カブールの姿に流石の提督も驚き焦る。

 

 

「か、カブール!?」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ……!!」

 

 

情けない、と思いつつも溢れる涙は止まってはくれない。提督を困らせちゃう、と思いつつも溢れる感情は堰き止められない。そんなコンテ・ディ・カブールの一歩手前で提督は弱り切ったような声を出す。

 

 

「すまん、泣かせるつもりはなかった……ただ、いつもとカブールの様子が違うから心配したんだ」

 

 

その時提督の胸をよぎったのは彼女を泣かせていてはいけないという強い思い。彼女の涙など見たくない、そう提督は思いながらひとつ深呼吸して自分の胸の奥に秘めていた想いをコンテ・ディ・カブールに差し出す。

 

 

「いつものお転婆なカブールが好きだったから……ちょっと、心配になっただけなんだ」

 

 

ぱっとコンテ・ディ・カブールが目を見開く。今しがたの提督の言葉の意味を反芻する。顔を上げ、気まずそうな表情を見せる提督の瞳と視線を合わせるとコンテ・ディ・カブールは提督に問う。

 

 

「好きだった……って?」

 

「えーと、その……オンナノコ、として」

 

 

うりゅっ、とコンテ・ディ・カブールの表情が歪む。そのまま、ひとつくすんと鼻を鳴らしてコンテ・ディ・カブールは派手に泣き声あげる。

 

 

「うわ~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!」

 

「か、カブール!?」

 

「ずるいずるい~~~~~~~~~~!!!いつかワシから告白するつもりだったのにぃ~~~~~~~~~~~~!!!!」

 

 

ぴーぴー泣きじゃくるコンテ・ディ・カブールの前で提督はおろおろと手をぱたぱたさせる。と、思い切って提督はコンテ・ディ・カブールに腕を伸ばしその小さな身体を引き寄せる。

 

 

コンテ・ディ・カブールの小柄な肢体が提督の胸に収まる。温かな感触がコンテ・ディ・カブールを包む。やがてしゃくりあげるコンテ・ディ・カブールの泣き声が小さくなってゆく―――

 

 

―――と、コンテ・ディ・カブールは腕を突っ張り提督から身体を引きはがす。

 

 

「ちょっと待って!今、ワシのこと『お転婆』って言ったわよね!」

 

「え?自覚なかったの?」

 

「そういう問題じゃなあい!」

 

 

腕を振り上げ顔を真っ赤にして怒ってみせる。そんな表情のころころ変わるところもまた可愛いと提督が思っていることなど知らぬまま。ぷりぷり怒ってみせるコンテ・ディ・カブールに提督は困ったような声向けあやそうとする。

 

 

「ま、まあまあ、そこはひとつ言葉のあやってことで……あ、羊羹まだ切ってなかったな。食べるか?」

 

「食べる♪」

 

 

さっき泣いたカラスが怒ったかと思えば今はご機嫌な笑顔見せる。そんなゲンキンなところさえ、提督は愛しいと感じる。

 

 

 

 

 

おしとやか、なんて言葉とは無縁だと思っていた。そんな言葉について、考えたこともなかった。そして、それでいいのだとこの人は自分に教えてくれた。

 

 

 

 

だから、自分らしくこの人と恋していこう。自分らしくこの人を愛していこう。そうコンテ・ディ・カブールは心に刻む。とりあえず、今日の羊羹がいつもより甘いといいなと願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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