艦娘恋物語   作:青色3号

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清霜の場合

提督執務室を訪れるとき清霜にはふたつお目当てがある。その日執務室を訪れた清霜はお目当てその2に対面する。

 

 

「武蔵さん!今日はいてくれたんですね!」

 

「おお清霜、顔を出してくれたのか」

 

 

秘書艦の武蔵はあちこち動いていることが多く清霜が執務室に顔を出してもいつでもいるとは限らない。うまいこと武蔵の顔が見られて清霜は嬉しさを隠そうともしない笑顔見せる。つられる様に笑顔浮かべる武蔵の奥で清霜にとってのお目当てその1が机の向こうから声をかける。

 

 

「清霜、よく来てくれたな。まあ茶でも飲んでいけ」

 

「しれーかん、ありがとう!」

 

 

提督の言葉を受けて武蔵が戸棚からマグカップを取り出しポットのお湯とティーパックを用意して清霜に紅茶を入れる。「ありがとう」と両手でマグカップを受け取り清霜はソファに腰を下ろす。その隣に書類を手に座る武蔵に顔を向け、清霜はうっとりとした声を武蔵に向ける。

 

 

「武蔵さんは今日もかっこいいなあ……」

 

「ん、そうか?面と向かって言われると少々照れるが悪い気はしないな」

 

「どうしたら武蔵さんみたいな立派な戦艦になれるのかなあ……」

 

 

もはや口癖のような清霜の呟き、その呟きを耳にして武蔵は優しく問いかける。

 

 

「改めて訊くのもなんだが、清霜はどうしてそんなに戦艦になりたいんだ?」

 

「だって!戦艦といえばやっぱり海戦の主役じゃない!おっきくて強くて。それに……」

 

 

そこまで一気にまくしたてると急に清霜は顔を伏せ、もじもじと身をゆすりながら今度は小さな声で呟く。

 

 

「……戦艦の人や、空母の人は秘書艦になることが多いでしょ?私も戦艦になれたら、秘書艦にしてもらえるかなあ、って……」

 

 

2,3ヶ月の期間で交代で艦娘たちが務める秘書艦の職は、確かに戦艦娘や正規空母娘が務めることが多い。常に提督の傍で職務に勤しむ秘書艦の地位は、提督に想いを寄せる清霜にとって憧れの地位だ。そんな清霜の願いを耳にして武蔵は「ふむ」と考えるような顔を一瞬見せると提督の方に顔を向ける。

 

 

「提督、私の後任はまだ決まってなかったな?」

 

「そうだな、まだそんなに急ぐ時期でもないし」

 

「たまには駆逐艦娘も悪くないだろう。私の次は、清霜などどうだ?」

 

「ぴゃ!?」

 

 

武蔵の唐突な言葉に清霜は素っ頓狂な声をあげてソファの上で飛び上がる。そんな清霜の反応に気がついていてかいないでか、提督は眉を寄せて考えに沈むが改めて清霜を見つめなおす。

 

 

「そうだな、そろそろ駆逐艦娘に経験を積ませるのもよいだろう。清霜、頼めるか?」

 

「は、はい!」

 

 

ソファから立ち上がって背筋を伸ばしお返事する。しばらく眠れない夜が続くかも、と清霜はどこか他人事のように考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月日は流れ、清霜がワクワクと眠れない夜を幾夜か重ねたのち、清霜の秘書官着任の日がやってくる。提督執務室に朝早く姿を現した清霜は硬い敬礼提督に捧げると早口に提督に挨拶する。

 

 

「ゆ、夕雲型駆逐艦19番艦・清霜!ただいまより秘書艦の任につきます!」

 

「うん、そんなに固くならないで気楽にやってくれ」

 

「は、はい!失礼します!」

 

 

提督のつく大ぶりな机に直角にしつらえられた提督のより幾分小ぶりな執務机、その机に向かう清霜は右手と右足が一緒に出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリカリと書類にペンが走る音だけがしばらく執務室に響く。と、提督がペンを止め書類を一枚持ち上げ清霜に示す。

 

 

「清霜、ここ0の数がひとつ多い」

 

「え!?どこどこ!?」

 

「ここ、この原油補給要請のこの欄。流石にこの量を補給されても入れるタンクがないぞ」

 

 

苦笑い浮かべる提督の姿に清霜の顔がかっと熱くなる。「ごめんなさい……」と小さく呟いて清霜は書類を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレッダーをかける清霜の背中に机の上をゴソゴソと漁っていた提督が声をかける。

 

 

「清霜、ここにあった書類はどこだ?」

 

「え?机の上にあった書類なら、全部下書きだと思ってシュレッダーにかけちゃった」

 

「演習指示書が一枚ここにあったはずなんだが……」

 

「え!?」

 

 

慌てて清霜はシュレッダーの電源ボタンを切るが、無情にも書類は裁断された後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドジも続けば落ち込みたくもなる。しょぼんとした表情を隠すこともできずうなだれて書類に向かう清霜に提督が気遣うような穏やかな声かける。

 

 

「清霜、一服入れないか?お茶にしよう」

 

「あ、じゃあ私紅茶入れます……」

 

 

椅子から清霜は立ち上がり戸棚に向かう。マグカップをふたつ用意してお盆に載せ、ティーパックにポットのお湯を注ぐ。お盆を運ぶその途中、なにもないところで清霜はけつまずく。

 

 

「わ!」

 

 

お盆とマグカップが宙に舞う。何か反応する暇もなく、マグカップの中身が提督の頭に降りかかった。

 

 

「あちちちち!」

 

「わわわ、しれーかん大丈夫!?ごめんなさい!!」

 

「あー大丈夫大丈夫」

 

 

濡れて紅茶色に染まった軍帽を脱ぎながら立ち上がる。軍帽と同じように紅茶の色に染められた制服の肩口をハンカチで拭いながら提督は清霜に声をかける。

 

 

「流石にこの格好じゃ仕事できんな……ちょっと私室で替えの制服に着替えてくる」

 

 

言いながら清霜とすれ違い提督は執務室を後にする。提督の出ていった扉を見つめながら清霜は視界がぼやけるのを止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波音響く埠頭に膝を抱えて座り込む。期待に胸膨らませて就いた秘書艦の立場なのに、なにも上手くこなすことができなかった。くすん、と鼻を鳴らしじんわりと目尻を濡らす清霜に背中から声がかけられる。

 

 

「清霜、こんなところにいたのか。探したぞ」

 

 

声の方角に振り向くことができない。代わりに、膝に顔を埋める。自分の傍らに提督も腰を下ろす気配を感じながら清霜は涙声で呟く。

 

 

「しれーかん、ごめんなさい……」

 

 

涙声のまま清霜は続ける。

 

 

「こんなんじゃ、立派な戦艦になれないね……」

 

 

清霜の嘆きを受け取って提督は波間に視線を向けながら通る声を出す。

 

 

「俺は、清霜は駆逐艦のままでいいと思うけどな」

 

「…………」

 

「戦艦より駆逐艦の清霜がいい」

 

 

提督のその言葉に清霜は顔をあげて涙に濡れたままの瞳を提督の横顔に向けて問う。

 

 

「戦艦より、駆逐艦がいいの?しれーかんって、もしかしてろりこん?」

 

「いやそーじゃなくて……」

 

 

頭を搔きながら提督は清霜に応え、また膝を抱える姿勢になると傍らの清霜に言葉向ける。

 

 

「ありのままの、今のままの清霜が好きだってことだよ」

 

 

どくん、と清霜の心臓が大きくひとつ波打つ。その瞳が大きく見開かれる。期待と恐れが大きく自分の中で膨らんでいくのを感じながら、清霜は思い切って提督に問う。

 

 

「好きって……どういう……」

 

 

こほん、とひとつ提督が咳払いをする。言葉で応える代わりに提督は清霜の肩に手を伸ばし、その小さな身体を自分の方に抱き寄せる。

 

 

「こういう、意味」

 

 

清霜の瞳がますます大きく広がる。先ほどとは違う涙が溢れ、一筋清霜の頬を伝う。こらえるようにきゅっと目を閉じ清霜は途切れ途切れに提督に囁く。

 

 

「私も……私も、しれーかんが……」

 

 

それ以上は言葉にならない。それ以上の言葉はいらない。自分を抱き寄せる提督の温かさその身いっぱいに感じながら清霜は胸を満たす暖かさに酔う。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦艦でもない、駆逐艦でもない、女の子の清霜がここにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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