艦娘恋物語   作:青色3号

77 / 124
満潮の場合②

このあいだ、司令官に告白された。

 

 

嬉しかった。自分でも驚くくらい嬉しかった。それでようやく、自分も司令官のことが好きだったんだって気がついた。

 

 

だけど―――

 

 

 

 

 

公園の時計台の下に満潮は立つ。グレーのブレザーに濃緑のフレアスカートを纏って。少し早く来すぎたかな、と思ったとき思いがけず待っていた相手から声をかけられる。

 

 

「満潮、すまんな。待ったか?」

 

「あ、ううん、私も今来たところだから……」

 

 

やだこれじゃデートの出だしみたいじゃない、と思った瞬間これがデート以外の何物でもないことに改めて気がつく。いつもの見慣れた純白の海軍将校制服とは違う提督の紺ジャケットにベージュのチノパン姿を新鮮に感じながら。なにもかも不慣れなシチュエーションに少し身を固くする満潮に誘うように寄り添いながら提督は満潮に声をかける。

 

 

「冷えてないか?先に来させて悪かったな」

 

「あ、ううん、大丈夫」

 

 

提督がさりげなく肩に手をまわした瞬間、思わず満潮は身をすぼめる。満潮の反応を敏感に察知した提督が手を遠ざける。はっとして満潮は提督を見上げるが、提督は別段気を悪くした様子も見せず「さて、行くか」と声に出して満潮と並んで歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍人と艦娘の公休日は土日祝とは限らず、なので平日の遊園地は人出に余裕が感じられた。それでも結構な賑わいを見せる園内を提督と満潮は歩く。ふたりアトラクションを冷やかしつつ、提督が満潮を案内したのはとある施設の前。

 

 

「お化け屋敷ぃ~?」

 

「なんだ、馬鹿にしたものでもないぞ。最近のお化け屋敷は結構本格的らしい」

 

「本格的、ね」

 

 

下心見え見えなんですけれど、とは思いはしたが口には出さず、それでも満潮は存外素直に提督と一緒におどろおどろしい外観の入り口を潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

なるほどなるほど最近のお化け屋敷は結構本格的らしい。廃病院をイメージした館内の暗い廊下を満潮はおっかなびっくり歩く。

 

 

「ふ、ふ~ん……結構雰囲気あるじゃない……」

 

 

独り言つ自分の声が少し震えているのが自覚できるのが悔しい。満潮の指先が提督のジャケットの裾を求めて宙で彷徨いそのまま離れる。角を曲がった瞬間、天井から血染めの包帯に身を巻かれた屍が鼻先へと落ちてくる。

 

 

「きゃあ!」

 

 

思わず提督にしがみつく。思いのほか強い力で抱きしめられて流石の提督もたじろぐ。

 

 

「お~い、満潮……?」

 

 

はっとして提督から飛びのく。顔が真っ赤になっているのが暗い照明のおかげで悟られないことに感謝しながら満潮はまくしたてる。

 

 

「ちょ、ちょっとびっくりしただけよ!12.7㎝連装砲さえあればあんな奴一撃なんだから!」

 

「いや遊園地の敷地内で発砲しちゃマズいでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も角をひとつ曲がるたび、薄暗い廊下がつきあたるたび、満潮の景気のいい悲鳴が響き渡った。出口を潜り、お天道様の光を今までになくありがたく感じながら満潮は弱り切った声を上げる。

 

 

「ほ、本格的だったわね……本格的……」

 

「うん、本格的だったな」

 

 

満潮の肩を支えながら提督はゆっくり歩くが、ふたりの身長差があるので満潮のちっちゃな身体が半分ぶら下がるような格好になる。そのまま引きずられるように満潮は足を進めていたが、日差しに理性を取り戻されるとぱっと提督から飛びのく。

 

 

「ご、ごめん、ありがとう!もう大丈夫だから!」

 

「なんだ、歩けないならおんぶしてやろうかと思ったのに」

 

「おんっ……!!」

 

「はは、冗談だよ」

 

 

笑顔を見せて提督はそんな軽口を叩くが、その笑みを優し気な微笑に変えると満潮に問う。

 

 

「次は平和なやつにするか……順番メチャクチャだけど、観覧車にでも乗るか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観覧車の赤いゴンドラがふたりを乗せてゆっくりと空を登っていく。提督と向かい合って満潮は外の光景を見るでもなく身体を小さくすぼませる。そのまま無言になってしまう満潮に、提督が心配そうな声を向ける。

 

 

「満潮、大丈夫か?疲れたか?」

 

「あ、ううん、そうじゃなくて……」

 

「……もしかして、遊園地じゃない方がよかったか?それとも……」

 

「あ、ううん、楽しい。しょっぱなお化け屋敷というセンスはどうかと思ったけれど……」

 

「なんつーか、スマン」

 

 

律儀に頭を下げる提督の後頭部を見ながら満潮は囁くような声を出す。

 

 

「司令官とふたりだと、楽しい。本当に楽しい。だけど……」

 

 

そこで満潮はまた顔を俯かせ、消え入りそうな声を出す。

 

 

「…………怖い」

 

 

その言葉に提督が顔を上げると、満潮は俯いた姿勢のまま微かに瞳を慄かせて呟きを続ける。

 

 

「また、なくなっちゃうんじゃないかって。あの時みたいに、大事なものをまた失くしてしまうんじゃないかって。無くしたくないものを見つけんだって気がついたら、こんなに嬉しくなって、こんなに怖くなるだなんて……」

 

 

かつて第八駆逐隊最後の生き残りとして姉妹たちの最後を看取った艦歴、その艦の記憶が満潮を怯えさせる。小さく鼻を鳴らす満潮に提督は静かに手を伸ばすと、その栗色の髪に触れ、穏やかな声向ける。

 

 

「俺も、他のみんなもいなくならないよ。約束する」

 

 

その声に満潮が顔を上げる。潤む満潮の瞳をまっすぐに見据え、提督は力強く断言する。

 

 

「満潮の大事なものは、俺が全部守ってやる」

 

 

ほけっと提督の顔を見つめる。その声が、その眼差しが満潮の胸に温かいものを運ぶ。くすりと笑って満潮は提督に向かい軽口向ける。

 

 

「すごい自信家ね」

 

「そうでなきゃ艦隊司令官なんて務まらん。ま、大船に乗った気でいろって」

 

「私、船だけどね」

 

 

そんな明るい声とともにようやく満潮の顔に満開の笑顔浮かぶ。ふとその視線をゴンドラの外に転じながら満潮は華やいだ声上げる。

 

 

「すごーい!ここからだと、海が見えるのね」

 

「お、デカい客船がいるな」

 

「ホントだ……どこへ向かうんだろう?」

 

「いつか、一緒に乗ってみるか?」

 

 

その言葉に満潮はゴンドラの窓に手を当てたまま提督の方に顔を向ける。曇りなき声で満潮は、未来への約束提督に告げた。

 

 

「うん、いつか、連れていってね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴンドラを降りてふたりは再び地上に立つ。なにかが吹っ切れたような爽やかな笑顔浮かべながら満潮はちょっと先にあるアトラクション指さす。

 

 

「さあ、次はあれに乗るわよ!」

 

「え、あれ?あの絶叫コースター?」

 

 

離れていても聞こえる乗客の悲鳴と猛スピードで空中一回転するコースターを目の当たりにしながら提督はおずおずと満潮に提案する。

 

 

 

「あの~……観覧車からいきなりアレですか?ギャップでかすぎませんか?もうちょっと、こう、平和な奴で肩慣らしを……」

 

「なによ、びびってるの?だらしないわね!」

 

 

言うだけ言って満潮は絶叫コースターの乗り場に向かって駆け出す。慌てて提督も後を追う。乗り場の列に並び、うきうきわくわくした様子を隠そうともしない満潮に寄り添いながら提督は自分もなんのかんので心が高揚するのと、若干の不安感がこみあげてくるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

満潮が提督におんぶされたのは、それからまもなくのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。