赤地のポンチョコートに秋色のセーターと焦げ茶のフレアスカート、ゆったりと巻いたオレンジのマフラーを鮮やかな赤毛が彩る美少女。その少女デ・ロイテルは公園の時計台の下で想い人を待つ。まもなく紺ジャケットにベージュのチノパンといういでたちの青年がデ・ロイテルに近づき声をかける。
「デ・ロイテル、待たせた。寒い中悪かったな」
「あ、提督。ううん、大丈夫だよ」
珍しい提督の私服姿にデ・ロイテルは目を大きくするが、見惚れているのはデ・ロイテルだけではないらしい。マフラーに指を添えるデ・ロイテルを提督は見つめるが、木偶の様に突っ立っているのも芸がないと思ったか少々思い切った台詞を口にする。
「その服よく似合っているな。可愛いよ」
「え、ホント?」
提督の不器用な響きのする言葉にデ・ロイテルが分かりやすく嬉しそうな笑顔見せる。そんなデ・ロイテルの表情にドキリとするのを感じながら提督はデ・ロイテルを誘い歩き出した。
冬の寒気をものともしない遊園地の熱気がふたりを包む。楽しげなバックグラウンドミュージックの流れる園内をふたりは歩く。なにかお目当てがあるらしいデ・ロイテルに提督がついていくと、とある和風の少し異質な雰囲気のある施設のところでデ・ロイテルが足を止める。その施設の正体を知った提督が思わずといった感じで声を出す。
「お化け屋敷?」
「うん。パースが、遊園地に行くなら最初にここに行けって」
さらりと言ってのけるデ・ロイテルの横で提督は複雑な表情を見せる。パースの魂胆は見え見えだがデ・ロイテルにはそれが見えてないらしい。まあパースの思惑に乗ってやるか、と提督は少なからず期待しながらデ・ロイテルと一緒にそのおどろおどろしい入り口を潜った。
角を曲がるたび、つきあたりに到達するたび、楽しげな少女の笑い声がけらけらとお化け屋敷に響く。
「あはは、さっきの天井から落ちてきたミイラ、かわいかった」
「はあ……かわいかったですか……」
期待していた展開にはまったくならないことに不満な様子を隠そうともしない提督の横でデ・ロイテルはにこにこと足を進める。と、茂みに埋もれていた井戸から勢いよく女幽霊が飛び出してくる。腹に響く効果音とともにこちらに恨めしげな目を向ける女幽霊にデ・ロテイルはとことこと近づくとまたころころと笑い声あげる。
「あははは、おかしな顔!」
「お前祟りとか怖くないんか?」
口に手を当て鈴の転がるような笑い声を出すデ・ロイテルを見つめながら提督はこの展開をパースは予想できただろうかと考えるのであった。
お化け屋敷を後にして、デ・ロイテルはマフラーを巻き付けなおしながら上機嫌な声を出す。
「ニッポンのお化けってかわいいね。入ってよかった♪」
「喜んでくれたならようござんした」
むすっとした顔をデ・ロイテルには見られないように横にそむけながら提督はデ・ロテイルと歩を進める。と、デ・ロイテルがぴたっと足を止め遠方の軌道を指さす。
「ね!次はあれ乗ろ!」
曲がりくねった軌道を疾走する絶叫系ジェットコースター。遠方からでも乗客の悲鳴が聞こえてくる。「いいけど」と生返事しながら提督は、今度は何も期待していない自分に気がつくのであった。
それからしばらく、提督に肩を貸してもらいながらよろよろとデ・ロイテルはよろめき歩く。
「やっば~い……」
「デ・ロイテル、大丈夫か?」
「やばいよ~……」
デ・ロイテルの腰を支えて歩きながら提督はデ・ロイテルの華奢さに驚く。ぴったりと密着するデ・ロイテルの体温の暖かさ感じながらこれぞ自分の求めていたものだと心の中でガッツポーズ決める。実はもうわりと回復しているデ・ロイテルがそれでもわざと提督に身を預け続けていることには気がつかぬまま提督はデ・ロイテルのセーター越しの感触堪能するのであった。
今度は平和なアトラクションに乗ろうとふたりが選んだのはコーヒーカップ。ゆるりと回転を続けるカップにふたり座りながら穏やかな時の流れに身を任せる。
「これ、このわっかを回すと回転が速くなるんだよね?」
「ん?そうだな」
どれ、と声に出してデ・ロイテルがカップの中心に水平に据えられた大きな円盤に手をかける。提督が止める間もあらばこそ、デ・ロイテルは景気よくぐるぐるとその円盤を回転させるのであった。
平和なはずのアトラクションを絶叫系アトラクションに変えたデ・ロイテルが提督におぶわれてうめき声を出す。
「や、やっば~い……」
「デ・ロイテル、ホントに大丈夫か?」
「やばいよ~……」
思っていた以上に軽いデ・ロイテルの身体をおんぶしながら提督は心の中でまたもガッツポーズ決める。背中に押し付けられる思ったより豊かな双丘の柔らかな感触に年甲斐もなく胸がドキドキする。思わず顔を赤らめる提督は、デ・ロイテルの頬も負けす劣らず真っ赤なことには気がつかぬままだった。
今度という今度こそ平和を享受しようとふたりが選んだのは観覧車。少しまだタイミング的に早い気もしたが、とりあえず今は安らぎを手にしたい。ふたりを乗せたゴンドラがゆっくりと天空に登っていく。
「あー、楽しい!」
「さっきまで青い顔をして腰を抜かしていた割には元気だな」
「むう~、そういう意地悪言うんだ」
唇を尖らせてデ・ロイテルは表情で提督に向かい抗議する。そんなデ・ロイテルに向かって提督は少々意地の悪い笑みをニヤリと浮かべる。ドヤ顔を優し気な微笑に変えて提督はデ・ロイテルに声向ける。
「デ・ロイテルはいつでも楽しそうだな」
「提督が見ている私は、そうかもね」
にっこり笑ってデ・ロイテルが返すそんな言葉に提督は「ん?」と表情を変える。そんな提督にデ・ロイテルは静かな微笑向けて言葉を差し出す。
「提督といると、私はいつでも楽しいの。幸せなの。だから、提督が見ている私はいつでも楽しげ。わかる?」
デ・ロイテルの言葉が、心が、提督の胸に染み入る。そんな提督にデ・ロイテルはふぅわりとした笑顔向ける。
「……デ・ロイテル」
「ん?」
狭いゴンドラの中で提督が椅子から腰を浮かせる。かがむようにしながら提督はデ・ロイテルに近づき、その薄紅色の唇に顔を寄せる――――
――――唇の触れ合うようなキスは、ぴりぴりとした感触がした。暖かな何かが唇に溢れ、胸に届いた。
……何秒かそうしていただろうか、提督はそっとデ・ロイテルから離れる。ふたりそのまま、お互いの瞳を探りあう。と、デ・ロイテルの大きな瞳からぽろりと大粒の水滴溢れた。
「デ、デ・ロイテル!すまん、いきなりだった!」
「あ、謝らないで!これ、は!」
慌てふためく提督の言葉を遮りデ・ロイテルは頬にひと筋涙伝わせながら顔をほころばせる。
「……ね、嬉しくっても涙って出るんだよ?わかる?」
デ・ロイテルの言葉が、笑顔が、提督の胸を締め付ける。観覧車のゴンドラが、天空に届く。天国に一番近い場所で、提督は何か言う代わりに再びデ・ロイテルの唇を塞ぐ。
二度目のキスは、ゴンドラに降り注ぐお陽様のように胸のうちを満たしていった。
了