艦娘恋物語   作:青色3号

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照月の場合

黄色いセキセイインコを思い出させる容貌、幼さ感じさせる声。秋月型防空駆逐艦二番艦・照月。その彼女が鎮守府本館の廊下の角を曲がった時、この鎮守府の最高司令官たる提督につきあたった。

 

 

「提督」

 

「照月か、ご苦労」

 

 

きれいな敬礼捧げながら笑顔向ける照月に提督は問いかける。

 

 

「今日の予定は、もう終わりか?」

 

「いえ、今夜フタフタマルマルに夜戦演習が予定されています。それまでは時間がありますけれどね」

 

 

夜戦、と口にした時にほんの少しだけ照月の笑顔がこわばったことに提督は気がつかない。「そうだったな」と確かめるように返し、提督は照月に軽く手を上げすれ違う。その提督の背中を身体を振り返らせて照月は見送る。想い、瞳に乗せながら。

 

 

 

いつかこの想いを伝えられたらいいな、そう照月は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開発工廠での用事が思っていたより長引き、工廠を提督が離れたのはフタサンサンマル過ぎだった。恐らく夜戦演習の報告も、秘書艦が受け取っていることだろう。鎮守府本館への道を自転車で急ぐ提督の目に、こちらに向かって歩いてくる照月の姿が映る。

 

 

自転車を止め声をかける。「提督」と照月がこちらに気づき声を上げる。自転車から降り、提督は自転車を押しながら照月の方へと近づく。

 

 

「今、夜戦演習が終わったところか?ご苦労だったな」

 

 

言いながら提督は照月の様子に気がつく。いつも快活な照月が、沈んだような顔をしている。気丈に微笑み浮かべているものの、怯えたようなその態度までは隠せない。照月の一歩前まで近づいて提督は静かな声照月に向ける。

 

 

「どうした?演習で何かあったのか?」

 

「いえ、そういうわけでは……」

 

 

言いよどみ、照月は次に提督の問いには直接関係ない質問を返す。

 

 

「提督は、夜は好きですか?」

 

「ん?」

 

 

いきなりの質問に少々調子を狂わされるものの提督は素直に照月に応える。

 

 

「わりと、好きかな。この時間帯は落ち着く」

 

「そうですか……」

 

 

提督からつい、と瞳を逸らして照月は呟く。

 

 

「照月は、夜はなんだか苦手で……」

 

 

そうだった、と提督は自分のうかつさを呪う。数々の夜戦で僚艦の最後を看取り、自身も夜戦で沈んだ艦歴を持つ照月は夜に恐怖心を持っている。そのこと忘れ「夜は好き」などと軽く口にしてしまった自分を内心叱責する提督に照月は再び笑顔向け明るく装った声を出す。

 

 

「もう、今夜はお部屋に帰って寝ちゃいますね。提督、おやすみなさい!」

 

 

手をひらひらと振りながら照月は駆け出し闇夜に消えていく。その遠ざかる背中を提督は目を離すことができぬまま見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日も、提督の仕事終わりは遅かった。三日月が闇夜に存在感を示すフタサンサンマル、波止場を通り埠頭に差し掛かったところで提督は埠頭の端に立つ人影に気がつく。

 

 

自転車を止め埠頭を歩く。人影の正体に気がついたとき、提督は相手を驚かさせないよう静かに声をかける。

 

 

「照月」

 

「あ、提督」

 

 

闇空と一体に溶け込んで見えぬ水平線に目をこらしていた照月が提督の声に振り向く。照月に近づきながら提督は当然の質問を照月に向ける。

 

 

「どうしたんだ、こんな時間に」

 

「あ、いえ……」

 

 

胸に片手をあてて提督から目線を外し俯く照月に提督はできるだけ優しく問いかける。

 

 

「夜は、ニガテなんじゃなかったのか?」

 

「そうだったんですけれど……」

 

 

煮え切らない照月の言葉の続きを提督は辛抱強く待つ。その提督からは目を背けたまま照月はようやく小さな呟き洩らす。

 

 

「提督が、夜は好きだっていうから、照月も夜が好きになりたいな、って」

 

 

照月の顔が熱くなる。闇夜の中では顔色を見られないだろうことがよかったと思う。その言葉だけ告げてしばらく照月は無言でいたが、やがて付け足すようにもう一言小さく発する。

 

 

「提督と同じものを、好きになりたいな、って」

 

 

照月の想いが提督の胸に満ちる。思わず、一歩踏み出して照月の細い腕を掴む。衝動のままに照月の華奢な身体を引き寄せて己の胸に収める。

 

 

「……夜じゃなくて、俺を好きになってくれよ」

 

 

照月を抱きしめ、耳元で囁く。照月の瞳が見開かれる。その大きく開いた瞳に熱い涙が満ちてくるのを感じながら照月は微笑み提督の胸の中で小さく、しかしはっきりと告げる。

 

 

「ずっと前から、好きですよ」

 

 

きゅっと提督の制服を掴む。自分を抱きしめる腕に身を任せ、提督の胸に顔を摺り寄せる。ずっと、ずっと好きだった人の心臓の音が聞こえる場所で照月は三日月の祝福受ける。

 

 

 

 

 

夜の月が、埠頭のふたりの姿を照らし出す。

 

 

 

 

 

 

 

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