艦娘恋物語   作:青色3号

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Rangerの場合

もう何度目になるかの大規模作戦の祝勝式、その宴会の場に艦娘たちは席を連ねる。ちゃっかり提督の隣の席を確保したレンジャーが真っ赤な顔でジョッキを持ち上げ喜色も表情に露わに声を上げる。

 

 

「えへへ~、やっぱり作戦成功のあとのお酒はおいしいですね~。レンジャ~!」

 

「おいおいレンジャー、飲みすぎるなよ」

 

 

提督の言葉が聞こえているのか、レンジャーはぐいっとジョッキを傾ける。ぷはっと息をつきジョッキを唇から離し、レンジャーは周りの騒音にかき消されそうな小さな声で呟く。

 

 

「ねえ、Admiral……私、前からAdimiralに言いたかったことが……」

 

「なんだ?」

 

 

しっとりと提督にしなだれかかり、酒のせいだけではなく顔を赤らめながらレンジャーは提督だけに聞こえるように囁く。

 

 

「私……ずっとAdimiralのことが……」

 

 

その言葉を切るようにお猪口を傾けながら提督が告げる。

 

 

「そういうことを、酒の勢いで言うのか?」

 

 

はっとした表情をレンジャーは浮かべる。その瞳から、酔いの色が引く。姿勢を正して提督から離れ、しばらくレンジャーは両手で持ったジョッキを見つめていたが、やがてジョッキをテーブルに置くとふらりと立ち上がる。

 

 

「私、ちょっと吞みすぎたみたいです……お先に、お部屋に帰りますね」

 

 

頷きだけで提督は答える。その顔は見られないまま、レンジャーは祝勝会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ぱっちりとレンジャーは目覚める。幸い、二日酔いにはなっていないようだ。そのおかげで、いや、そのせいで昨夜のことをはっきりと思い出しながらレンジャーはがばっとベッドに身を起こす。

 

 

「どうしよう……」

 

 

傍らのベッドで同室のホーネットはまだ寝ている。ホーネットの安らかな寝息が聞こえる。その穏やかな朝の空気の中、レンジャーはもう一度呟いた。

 

 

「……どうしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうもこうもない、どうしようもない。酒の席でやってしまったことは仕方がない。そう思いつつも取り返しのつかないことをやってしまったショックでレンジャーは鎮守府本館の廊下をぼんやりと歩く。と、向こうから今しがたまで頭を満たしていた人物の姿が近づいてくる。

 

 

「レンジャー、おはよう。二日酔いにはなっていないか?」

 

 

穏やかに微笑み自分に近づきながらそんな言葉をかけてくる提督の姿にレンジャーは昨日のことは自分の思い違いだったのかもと考え始める。しかし、そうではないことはレンジャーの一歩前で足を止めた提督が放った一言で分かった。

 

 

「なにか、俺に言うことがあったんじゃないのか?」

 

 

びくっ、とレンジャーは身を竦ませる。もう自分の想いはバレている、そのことにレンジャーは目の前が暗くなるような感覚を覚える。それでも提督は曖昧にしてくれるつもりはないようだ。逃げ場を失った気分で、震える瞳をレンジャーは提督に向ける。

 

 

 

 

伝えなきゃ、ちゃんと伝えなきゃ。ここまで来たら言い逃れはできない。ずっと胸に秘めてきた想いだけど、もう隠しておくことはできない―――そう思えば思うほど、喉に言葉が張り付いてレンジャーは一歩も動くことができない。

 

 

 

 

くるりとレンジャーは身を翻して駆け出す。提督から、必死に逃げ出す。廊下をぱたぱたと駆けながらレンジャーは視界が滲むのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

埠頭の端に、海を見つめてひとり立つ。さっきから同じ思いがレンジャーの頭の中を駆け巡る。自分は、何と愚かなことをしてしまったのだろう。酒の勢いで、何ということをしてしまったのだろう。

 

 

「レンジャー」

 

 

その声に、レンジャーは大きく身体を震わせる。自分を追ってきたらしい提督が背後から近づいてくる。逃れる先ももうないまま、逃れる気力も湧かないまま、レンジャーは再び涙が瞳に溢れるのを感じながら震える声で俯き呟く。

 

 

「……Admiralは、いじわるです」

 

 

その言葉に提督が足を止める。提督の視線が自分の小さな背中を見ているだろうことを感じながらレンジャーは震える言葉続ける。

 

 

「もう、私の気持ちなんて知っているんでしょう?だったら、これ以上いいじゃないですか。これ以上、私から無理に言葉を引き出さなくても、恥ずかしい思いをさせなくても……」

 

 

レンジャーの薄い肩が細かく震えるのを見つめながら提督はふぅ、と息をつく。

 

 

「……そうだな、俺が、ちょっと意地悪だった」

 

 

更に一歩レンジャーに近づきその頼りない背中にあと一歩のところまで迫ると提督は更に言葉連ねる。

 

 

「レンジャーの気持ちは伝わったもんな……今度は俺から、はっきりさせるべきだった」

 

 

言いながら提督はレンジャーの腕を掴み、こちらを向かせる。

 

 

「レンジャー、好きだ」

 

 

提督と向かい合ったレンジャーのその濡れた瞳が見開かれる。その青い瞳真っ直ぐに見つめ、提督は繰り返す。

 

 

「好きだ」

 

 

唇を開き何か言おうとして、でも言葉にならないレンジャーに更に提督は言葉紡ぐ。

 

 

「だから、酒の勢いじゃなく普段のレンジャーからレンジャーの想いを聞きたかった……教えてくれるか、レンジャー?」

 

 

提督の言葉が、その真剣な眼差しが、レンジャーを捉えて離さない。腕をがっしりと掴まれたままレンジャーはなんとか想いを言葉に変えようとする。

 

 

 

 

なのに、怖い、恥ずかしい。もう提督の気持ちは知ったのに。あとは応えるだけ、なのに。

 

 

 

 

ああ、そうか。

 

 

 

 

怖いのは、自分をさらけ出すから。恥ずかしいのは、裸の心を相手に見せるから。

 

 

 

 

それでも、伝えなきゃいけない。想いを、伝えなきゃいけない。ずっと、ずっと想っていたのだから。いつかは伝えたいと、願っていたのだから。

 

 

「Adimiral……好きです。大好き」

 

 

言葉とともに涙が溢れ出る。想いをくれたレンジャーを提督は強く抱きしめる。提督の胸の中で、レンジャーはうっとりと目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

お酒以外にも酔えることってあるんだな―――レンジャーは、そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

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