艦娘恋物語   作:青色3号

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早潮の場合

それは、執務室を離れようと提督に背中を向けたとき机の向こうの提督からふいに投げられた言葉。

 

 

「早潮はさー、好きな男とかいるのか?」

 

 

その言葉に早潮は弾かれたように振り返り「えっ!?」と大袈裟に動揺してしまう。机の向こうの提督は今の言葉がなかったかのように書類に目を落としている。それでも今問われた言葉がウソのはずもなく、早潮は存外素直に答えてしまう。

 

 

「い……いるし」

 

「ふーん、どんな奴?」

 

 

すかさずの追撃に早潮は提督の方に向き直りながらそのまま固まってしまう。まさか目の前にいる提督その人がその相手だといきなり告白する度胸もない。胸に両手を当てながら早潮は思わず口走ってしまった言葉の後始末を必死に考えるが、思いつくとそのまま口走る。

 

 

「ほ、ほら!私の艤装を担当してくれてるオニーサン!彼なんかいいかなって!」

 

 

そうか、と答える提督の微笑みに寂しそうな色が混じっていることに早潮は気がつかない。

 

 

「すまんな、変なことを訊いて」

 

「び、びっくりしたよもぉー……」

 

 

この場をうまく誤魔化せたことに早潮は安堵する。これ以上ボロがでないうちにと早潮は「じゃあね、提督!」と手を軽く振り今度こそ提督執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあって数日後、早潮は鎮守府本館の廊下で提督と行き当たる。敬礼の代わりにひらひらと手を振って同じように片手をあげる提督の前で立ち止まると、提督が早潮に話題を振る。

 

 

「この間早潮が言っていた艤装整備兵、顔を見てきたぞ」

 

「え?」

 

 

一瞬なんの話だか分からず早潮は記憶を探る。数日前の執務室での会話を思い出すと冷や汗を一筋おでこに垂らす。その場の勢いで口走ってしまったデタラメが思いのほか深く提督の心中に刻まれたらしいことを悟り言葉を失くす早潮に提督は朗らかに語り続ける。

 

 

「それとなく評判も聞いたが、なかなかの好青年らしいな。整備の腕もいい」

 

 

笑顔を浮かべそんな言葉を口にする提督を早潮は何か遠くのものを見るような気分で見つめる。自分が好いていると思い込んでいる青年のことを屈託なく褒める提督の姿に、早潮は言いようもない寂しさを感じる。そんな早潮の心のうちは知らぬまま提督は明るい口調で話を締めくくる。

 

 

「彼だったら、応援するぞ。なにかあったら相談しろよ」

 

 

それだけ言って提督は早潮を置いてその場を離れる。置いてけぼりにされたような気がして早潮は遠ざかる提督の背中をずっといつまでも見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしようもない誤解を生んでしまって、それでもその打開策も見つからないまま早潮は鬱々とした数日を過ごす。暗い気分で鎮守府本館の中庭を歩いていると、向こうから軽く手を振りながら暗い気分の原因の提督がこちらに近づいてくる。

 

 

「早潮」

 

「提督」

 

 

話しかけられる内容が予想できるような気がして早潮はきゅっと唇を噛む。はたして早潮の目の前まで来た提督は邪気のない笑顔で無邪気な言葉を早潮に向けてくる。

 

 

「あの艤装整備兵な、今カノジョはいないらしい」

 

「…………」

 

 

「それとなく訊いてみたんだが、早潮のこともまんざらでもなさそうだぞ。どうだ?よければ俺が間に立って……」

 

 

「やめて!」

 

 

大声が出てしまう。驚いた提督が身を引く。きゅっと目を閉じて溢れる涙堪えながら早潮は身を降り両手で胸を庇いながら叫ぶ。

 

 

「ザンコクだよ、そんなの!整備兵さんのお話なんてデタラメだし!私が、私が本当に好きなのは……」

 

そこで一度言葉を切り濡れた瞳を見開き提督に向け早潮は決定的な一言口にする。

 

 

「提督だよ!」

 

 

提督が今の早潮の言葉に大きく目を開けて驚いた顔をする。その顔からまた目を背けて足元を見つめ、自分の身体を抱きしめるようにしながら早潮は涙声続ける。

 

 

「なのに、なんでその提督の口から他の男の人の話を聞かなきゃいけないの!私が本当に好きなのは提督だし!他の人のことなんか、考えたこともないし!」

 

 

そこまで一気に言い切って後は早潮は涙頬を伝うにまかせる。その場の勢いでしてしまった告白、それを悔いる心の余裕も今はない。しゃくりあげる早潮のことを提督はぽかんと見つめていたが、やがてその手を早潮へ伸ばしゆっくりとその肩を抱き寄せる。

 

 

「そういうことは最初から言えよ」

 

 

早潮の小さな身体を胸に収め、提督は早潮の耳元に囁きかける。

 

 

「他に好きな男がいると聞いて諦めようと思ったんだ……早潮が、幸せになれるならと思ったんだ。だけど、その好きな相手が俺だというのなら……」

 

 

早潮を抱きしめる腕の力を強めて提督は力強く言葉継ぐ。

 

 

「俺は、その気持ちに応えたい。好きだ、早潮」

 

 

早潮の涙に光る瞳が見開かれる。提督の胸の中で、早潮は今の言葉を反芻する。

 

 

「……ホント?今の言葉、デタラメじゃない?」

 

「好きだ、早潮」

 

「……嬉しい」

 

 

そんな言葉しか口にできない。言葉の代わりに提督の背中に手を回し提督のことを抱きしめ返す。温かな体温が、伝わってくる。提督の想いが、伝わって、くる。

 

 

 

ふたり、想いを交わしあう。一度はすれ違った想いを交わしあう。もう、この人にウソはつかない。素直な想いを伝えていく。

 

 

風が、一陣中庭を駆け抜ける。早潮の黒髪が風に舞う。その早潮を風から守るように提督は早潮を抱く腕に力を籠めた。

 

 

 

 

 

 

 

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