孤独の王座   作:風神莉亜

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勢いで書いた第2弾。孤独の王座のダンテ視点みたいなもの。


俺がトレーナーである限り

 ──彼女に負けた瞬間のことは、今でもはっきりと思い出せる。

 きっとあの衝撃は、何年経とうが今と同じように、当時のままに思い出せる確信がある。何故か? それはまるで俺の身体が、頭が決して忘れてはいけないと言っているかのように、一週間と空けずに夢となって再体験させられるからだ。

 

「……フフ。よほど悔しかったのだろうな」

 

 テントの中で目を覚ました俺は、握り締めていたらしい拳をゆっくりと開く。しっかりと残った爪の跡を少し眺めてから、身を起こしてテントから這い出した。

 大きく身を伸ばし、同じく大きくあくびをして。腰に手を当てて空を見上げる。

 

「ふむ。リベンジマッチには幸先の良い天気だな!」

 

 懐かしきガラル地方。俺がチャンピオンの座を彼女に明け渡してから何年経っただろうか。

 旅先でキバナから連絡を受けて戻ってきたが、やはりここは俺のホームなのだと強く実感する。元々、近い内に今もチャンピオンに君臨する彼女に挑戦状を叩き付けるつもりではあったが、キバナから伝えられた彼女の様子がどうにも気になって少しだけそれを早めたのだが、結果的に良かったのかもしれない。むしろ、自分にしてはよくよく我慢した方であろう。

 

「よう。顔を見るのは久しぶりだな」

「キバナ! 迎えに来てくれたのか!」

「また勝手にどっかにいかれちゃたまらねぇからな!」

「はっはっは!」

「笑いごとじゃねぇっつうの」

 

 ……実はもう少し早くガラルに着いている予定だったのだが、ちょっとした事情で一月ほど遅れてしまっていた。でも仕方がないだろう。そこにポケモンがいたら追いかけるのは本能だ。

 

「とっととホテルいって準備するぞ。エキシビションはもう今日を逃したらまた一月後になる。ユウリだって暇じゃない。元チャンピオンならわかんだろ」

「それはまずいな。急いで向かうとしよう」

 

 久方振りとなるライバルの顔を見て胸が滾るが、これ以上迷惑をかける訳にもいかない。

 さっくりとキャンプ道具を片付けてその場を後にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「んで、どうだったんだよ」

「あぁ、楽しかったぞ! 手始めにカントーから行ってみたが……どこも非常に興味深かったな!」

 

 勿論各地のトレーナーとも手合わせしてきた。純粋に手強いトレーナーもいれば、とことんまで自分のこだわりを突き通す者。各地の伝説も素晴らしく胸が踊ったものだ。

 

「ユウリ君には感謝せねばいけないな。彼女がいなければ、きっとこのような経験は出来なかっただろう」

「へぇ。もっと悔しがってるかと思ったけどよ」

 

「──それはもちろん、悔しかったに決まっているだろう。……いいや、俺は今でも悔しさに歯噛みをしているくらいさ」

 

 ホテルの部屋で、キバナが頬杖をついたままにこちらを見やった。その顔は、驚き、だろうか。

 椅子に座り、手を組んだまま、続ける。

 

「全ての力を注ぎ込んだ。持てる戦略を組み上げた。ポケモン達も、俺の全てに応えてくれた。文字通りの、全力だった」

 

 そして、俺は負けた。

 

「勝ち続ける中で、俺はいつしか傲慢になったいたのかも知れない。勝つのが当たり前だ、なんて思っていたつもりは無いが……それでもきっと、どこかで思い上がっていたのだろう」

 

 これは、きっと間違いなくキバナが怒るだろうから言わないが。俺を負かすのであれば、それは目の前の彼なんだろうとうっすら考えていたのは否定出来ない。

 そんな思い上がりや、積み上げた自信、チャンピオンとしての誇り──その全てを、あの日、もろともに粉砕された。

 

「負けて見える景色があることは知っていた。それを思い出させてくれた……他にも、彼女には沢山の感謝を送りたい。──だが」

「…………」

 

 そう。だが、だ。

 

「俺がチャンピオンで無くなろうとも、トレーナーである限りはこの悔しさを忘れることは無い。この燃える想いが消えたその時こそが、きっと潮時なんだろう。で、あればこそだ」

 

 席を立つ。ベッドにあった、身を隠す為の布を身体に羽織る。フードになった部分を頭にかぶれば、俺がダンデだという情報は外には漏れない。

 

「俺は、どうしようもなくトレーナーだ。この数年は、口から火を吐ける程に身体の中で炎が燃え盛っているからな! キバナならわかるだろう?」

「少しは俺の気持ちがわかったみたいで嬉しいぜ。俺は今すぐにでもお前に火を吐いてやりたいくらいなんだからな」

「残念ながら、今から先約があるんでな! と、言うわけで道案内を頼むぜ!!」

「……しまんねぇなぁ」

 

 目の前で、がっくりとキバナが肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタジアムの中でチャンピオンの登場を待つ。観客は俺の正体がわからないのだろう、ざわめきながらも俺と同じようにチャンピオンを待っていた。

 目をつぶり、自らの鼓動を感じる。

 身体ごと跳ねてしまいそうな強い鼓動。その衝動に身を委ねてしまいたくて、しかしまだ早いとそれを押し留める。フードで隠した顔、その口元は抑えきれずにつり上がってしまっている。

 

 果たして、この感情は綺麗なものとは言えるのか。

 

 

 

 強いトレーナーと戦える喜び? 

 

 ──それもある。

 

 きっと、強く美しく成長したであろうユウリ君と出会える喜び? 

 

 ──あぁ、それも楽しみだ。

 

 それとも、強くなった俺の姿をガラルの皆に魅せられる、喜び? 

 

 ──いいや、いいや。そんなことよりも、遥かに大きな想い。炎。昂りが胸にある。

 

 

 

「七年越しのリベンジマッチだぜ? それに燃えない男がいるかよ。なぁ?」

 

 自分にしか聴こえない小さな声で呟いた俺は、万を持して現れたチャンピオンの姿を見て、強く拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歓声が耳を焼く。軽くなった頭を一度振り、改めてユウリ君を真正面に捉えた。

 記憶にあるよりも随分大きくなった。髪も伸びて、着られていた印象が強かったそのマントも、今ではなければならないほどに似合っている。

 何よりも、その身に纏うオーラが違う。王者としての、傲慢なまでの絶対強者が放つ気配。なるほど、チャンピオンとして歩んだ道は決して平坦で無かったと見える。

 

 

 それにしても──

 

 ──キバナから聞いていたものとは、随分話が違うではないか! 

 

 

 どこか無理をしていると。張り付けた笑みの裏で、きっと現状に刺激を感じてはいないのではないかと。

 どこか聞き覚えのある(・・・・・・・)言葉に少し心配していたのだが。

 

「ダンデさん」

 

 目の前に居る彼女は、いつか俺を負かした時と同じ熱を持った瞳で、俺を真正面から見据えている。口の端は恐らく勝手につりあがり、キバナよりも幾分可愛らしい犬歯が顔を出している。

 

「沢山、沢山、沢山。お話したいことが、沢山あるんです」

「あぁ」

「ですが。今ここに立つ私は、ガラルのチャンピオンである私です。なら──」

 

 会場がざわついた。あぁ、可愛い顔が台無しだ。そんなに嬉しそうに顔を歪ませて。まるで、大好物を目の前にした獣のように。

 彼女は、先ほど俺がやったように、そのマントを脱ぎ捨てて後ろに放り投げた。そして、彼女の仲間が入ったボールを俺に向けて突き付ける。

 

「リベンジなんてさせません。貴方には──あぁ! 貴方にだけは! 私は負けられないんです! 見せてあげますよ、私の──私だけの、チャンピオンタイムを!!」

 

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