学級委員事件は特に問題もなく終わった。
原作の通りだ。
差異は司に2票入ってたことくらいか。
誰だ入れたの。
とはいえ委員長は問題なく飯田天哉に決まった。
副委員長も八百万百に決まった。
演習場へと向かうバスの中、話は各々の個性についてのものになった。
皆優秀な個性を持っていて、それをそれとなく自慢している。
勿論自分の個性を地味であると思っていたり、使いづらいな、と思っている人もいたわけだが。
『いいねぇ、青臭い青春の匂いだ。達する達する!』
「……ノーコメント」
興奮するベリアルを尻目に、司は皆を観察する。
何か原作との違いはないか、違和感はないかと。
まあ、司にはそんな細かい差異などわからないわけだが。
「ねえねえねえねえ! あんたってどんな個性なの!?」
「……ん?」
そんな中で、元気な声で司に話しかけてきた人物がいた。
紫色っぽいピンクの肌に黒目がちで、触角を生やしている女の子。
芦戸三奈である。
「確かにそうだよなぁ。羽が生えてるだけかと思ったけど、剣を出したりとかしてたし」
そういえば、B組との交流試合を見られていたのか、と思い至る司である。
さて、どうやって説明したものか。
司は考える。
「蝙蝠の個性だよ」
考えた結果、無難な選択肢を選んだ。
羽は蝙蝠、剣は牙。
そうやって誤魔化していくつもりなのである。
「ふーん。じゃあさじゃあさ、吸血ーとかしちゃったりするの?」
「あーいや、どうだろ。試したことないや」
誰かの身体に噛みつくとか、正直勘弁して欲しい。
司はそう思ったが、しかしベリアルならやりかねないな、とも思った。
悪趣味だからなぁ……と考えると、ズキリと頭が痛くなる。
ベリアルの仕業である。
だから悪趣味って言ったんだ、と悪態をつく司である。
そんな話をしていると、バスが目的地に到着した。
なおも食い下がってこようとする芦戸三奈を押し退け、バスを降りる司。
しかし中々に嫌な予感。
それもそうだ。
何故なら、ここにヴィランが攻めてくるのだから。
「……さて」
黒い霧に飲み込まれて飛ばされた先ではボッチ。
辺りにクラスメイトの姿はない。
これは楽そうだと思った司である。
「おいおいおい、何笑ってるんだこのガキ」
「怖くておかしくなったんじゃねーの?」
ぎゃははは、と下品な笑い声を上げるヴィラン達。
いや、まあいいか。
司はスルーした。
意識をすーっと底へと沈めていく。
そこにはポケットに手を入れて待っていたベリアルがいた。
『やあ、依り代の少年。力が必要かい?』
「そういうこと。ちょっと俺の持ってる力じゃ足りない」
『もっと借りていってもいいんだぜ?』
「冗談。使えない力を求めるのはただの馬鹿だよ」
『うふふふ。そういうところ、結構好みだよ』
「なんだこいつ。いきなり動かなくなったぜ?」
「構わねえ! やっちまえ!」
ヴィラン達は動かなくなった司に向かって各々の個性を叩き込む。
遠距離攻撃を放ち、近付くことなく攻撃する。
土煙が上がり、司の姿が見えなくなっていく。
そして、満足したのかヴィラン達が攻撃をやめる。
その頭の中にはボロボロになった司の姿でも思い浮かべていることだろう。
しかし、そこにいたのはまるで別人の姿だった。
端的に言ってベリアルである。
「な、なんだお前!?」
「あーあまり普通の言葉を使わないでくれ。萎えちまう」
姿を現したベリアルに、ヴィラン達は慄く。
それもそうだ。
冴えない少年を嬲り殺そうとしていたところで、怪しい青年と入れ替わったのだ。
驚くのも慄くのも無理はない。
ベリアルは4枚羽を展開し、その場から飛び立つ。
司が空を飛ぶよりも滑らかな動きである。
『殺すなよ』
「安心しなよ。弁えてる」
笑いながら呟くベリアルに若干不安になる司。
しかし嘘はついたことがないベリアルに、まあ一応の安心はする。
実際は嘘に気付いていないだけなのかもしれないが。
飛び上がったベリアルは羽を広げ、地上を見下ろす。
そしてそのまま手をかざし、小さく唱えた。
「―――――バルトロマイ」
瞬間、爆発。
轟音と共にヴィランの集まっていた場所が吹き飛んだ。
『……本当に死人は出てないの?』
「手加減には自信があるぜ? 試してみるかい?」
『遠慮しておく』
爆破された地面を見ながら、ベリアルはその場にとどまる。
思考の側に追いやられている司はその視線から外を見ていることしかできない。
姿形を真似するだけならそのようなことはないのだけれど、ベリアルが外に出ている場合はそれもできないのである。
そう、鈴と出会っている時のベリアルは、実際のところ司が姿形を真似しているだけなのである。
あの変態的な発言も物真似だったりする。
若干恥ずかしいが、もはや慣れたものだ。
「おい、あいつベリアルじゃないか……?」
「ベリアル……? 誰だそれ?」
「知らねぇのか! ヴィランヒーロー問わずに襲い掛かる変人だよ!」
ヴィランの一部が騒ぎ始める。
ベリアルの存在は中々知れ渡っているようだ。
『……どうやら色々やってる様子で』
「まあ、鬱憤の発散って奴さ。大目に見てくれ」
うふふふ、と笑いながらベリアルはゆっくりと地面に降り立つ。
寝ているはずなのに疲れが取れないのはそれか。
司は漸くその事実に気付いた。
「くそ、そんな変人に殺されたくねぇぞ!」
「逃げろ逃げろ!」
蜘蛛の子を散らすかのように逃げていくヴィラン達。
本当にどんなことやってるんだベリアル。
司はそんなことを思ったが、まあベリアルだしと思考停止。
「おやおや」
『追わないのか?』
「嫌がる相手に無理強いはしない趣味なのさ」
どうだか。
司は鼻で笑ったが、即座にぐるりと感覚が変わった。
どうやらベリアルが引っ込むつもりらしい。
肉体の変化にバキバキと身体が悲鳴を上げるが、いつものことだ。
慣れてしまった。
司はすーっと呼吸を整えて、さっさと立ち上がる。
いつの間にか寝っ転がってしまっていたようだ。
両手をグーパーして感覚を確かめる。
異常なし。
司はその場を後にする。
他のクラスメイトと合流することを優先しようということだ。
「ま、誰かと合流すれば何とかなるか」
基本、司は楽観的であった。