あと鈴は結構アレです。
「動くなよ! 個性も禁ぶべら?!」
「え、あ……。司?」
捕まっていた上鳴を助けながら、司はヴィランを張り倒す。
いや、実際は剣でヴィランの脳天をぶっ叩いたわけなのだけど。
ゴエティアの剣はこういう時便利。
「助かったぜー」
上鳴がひらひらと手を伸ばしてきてハイタッチ。
ちょっと顔がゆるーくなってるけど、気にしない司。
女子2人の背後にいるヴィランも剣を飛ばして蹴散らす。
遠隔操作は慣れたものだ。
地味だが。
「あ、ありがと……」
「ありがとうございます」
「あーまあ、気にしないで」
ひらひらと手を振って感謝の言葉を受け流す司。
慣れたものだとでもいうのだろうか。
どうやって慣れたというのか。
「てめぇ……!」
「舐めやがってこのガキが……!」
ヴィラン達はその様子を見て怒りの声を上げる。
完全に馬鹿にされていると思っているのだろう。
実際には司にはそんなつもりはない。
それどころか興味すら持っていないのだが。
「―――――ゴエティア」
司は手をかざして呟いた。
それと同時に2枚羽が展開され、剣が2本宙を舞う。
イメージはできている。
決して致命傷を与えないように適度に傷つける。
だん、だん、だんと剣がぶつかる音。
みねうちである。
勢いよく吹き飛ばされるヴィラン達。
「すご……っ」
凄いとは言われるが、他の個性と比べてしまうとやはり地味にも思える司である。
4枚羽になれば更に強くなるだろうが、それを制御できるかわからない。
制御に失敗すれば、緑谷出久以上の被害が出る恐れがある。
というか周囲を巻き込んで爆発まであり得る。
なので未だに2枚羽のまま戦っているのである。
ベリアルからは4枚羽を勧められているが、今はその時ではないと思っている。
というか破滅する様を見るのが目的じゃないかと当たりをつけている。
「……っと、あらかた片付いたか」
周囲を見渡す。
司たちの周りにはヴィラン達が倒れ伏していた。
電撃でやられていた奴もいるし、司が仕留めた奴もいる。
とりあえず八百万百が縄と創り出して拘束していく。
こういう能力はいいな、と司は思う。
生み出すって凄い。
「……さて」
司は思考する。
このまま待機するか、他のクラスメイトと合流するか。
先程は合流を優先したが、今は4人だ。
動くのは得策と言えないかもしれない。
司は慎重だった。
「おーい! 無事かー!」
先生達が一斉になだれ込むように助けに入ってくる。
正直助かった。
司の体力は地味に限界だったのである。
はぁ、と一息ついて座り込む。
もう剣を飛ばしたりするのは無理そうだった。
『しかし……オレが出ていく必要があったかい?』
騒ぎが終わり、自室へと帰って来たところで、ベリアルが語り掛けてきた。
実際のところ、司1人でもどうにかできる可能性はあった。
それでもベリアルに出てきてもらった理由は何なのか。
暫くして、司は口を開いた。
「目標だよ。それを確認しておきたかった」
司はそう言って、チェス盤を出し始める。
そう、目標だ。
当面、司の力の引き出せる範囲の限界を確認したかったのだ。
恐らく、ベリアルは本当に司が使いこなせるギリギリの能力だけで戦っていた。
それを感じ取った司は、そんな言葉を口にしたのだった。
『うふふふ……そういうの、嫌いじゃないぜ』
「そうか」
何でもないかのように話しながら、司はチェスの駒を並べていく。
既に慣れた作業だ。
最初は全くできなかったが、慣れた。
人間慣れる生き物である。
『さて、じゃあ今日も始めようか』
そして時は流れて2週間。
合間に司と鈴のにらみ合いなど小さな事件はあったが割愛。
運動会である。
最初の競技は障害物競走。
コースさえ守れば
まあその辺りは限度が決まってるだろう。
多分。
『ははは、いいねえ青春だねぇ』
司は無視した。
どうせやることは変わらないのだから。
「スタート!!」
瞬間、跳躍。
上を飛ぶ個性を持った人間は少ない。
狭い場所を通るより、広い場所を通る方が安全だ。
合理的である。
「こ……のぉっ!」
司が2枚の羽で悠々と飛ぼうとしていると、背後から声。
最近よく聞く声。
というか鈴の声だった。
ガシャンという大きな音と共にスタートゲートに鋼鉄の翼が突き刺さる。
そしてその刺さった翼を利用して勢いをつけ、前へと飛んで行った。
いや跳躍していった。
「思い切ったな」
『ははは、いいねぇ』
司は多少呆れつつ、そのまま自分のペースを維持しつつ進んでいく。
あれは墜落するな、というオチが見えたからだ。
案の定、大きな音を立てて地面に翼から落ちた鈴が見えた。
「しかし……」
翼を変形できるようになったのか、と呟く司。
そう、本来なら30cmほどの大きさの翼が、かなりの高さまで届いたのだ。
かなりの長さまで伸ばせるようになったのだろう。
何となく満足した司である。
特訓の賜物だろうからだ。
とはいえこれは勝負。
司は地面にめり込んだ鈴をしり目にさっさと先に進むのだった。
「チィッ!」
司が空を飛んでいくのを、鈴は舌打ちしながら見上げていた。
余裕面しやがって、とでも言いたげである。
勢いをつけて立ち上がり、翼をガシャガシャ動かして土を落とす。
そしてそのまま走り出す。
置いていかれるわけにはいかない。
「あいつをぶっ飛ばす……!」
物騒である。
その感情のまま、近寄ってきた仮想敵に翼を突き立て、十字に引き裂く。
威力は既に司の劣化ゴエティアを超えていた。
そしてそのまま全力ダッシュ。
いや、全力で跳躍して翼を仮想敵に突き立てて、勢いをつけて更に遠くへと飛ぶ。
先程は失敗したが、練習しているのである。
そうそう失敗しなくなった鈴である。
「見えてきた……!」
鈴が司の背中を捉えた。
遥か先だが、鈴にはその背中が分かった。
何度も見ているからである。
こう書くとストーカーみたいだが、そういうわけではない。
ないったらない。
「第二関門! ザ・フォール!!」
司を追いかけていると、急に足場がなくなった。
第二関門、ザ・フォールに辿り着いた鈴である。
「くっ……! 卑怯者め!」
空を飛ぶ司を睨みながら、鈴は崖へとダイブした。
そしてそのまま崖の内側にいくつか存在する足場に翼を突き刺して移動していく。
両方の翼を的確に操り、まるで空を飛ぶように動く。
「だけど、まだだ」
しかし、鈴は納得していない。
本当に空を飛びたいのだ。
自由に、全てから解き放たれたいのである。
だから、もっと強く。
もっと遠くに。
もっと速く。
鈴は加速していくのであった。
「……さて」
司は2枚羽をしまい、地面に着地する。
ちょっと休憩が必要だったのだ。
『おいおい、諦めちまうのか? そりゃないだろ』
「違うよ」
司は意識を集中して、ベリアルとの繋がりを太くする。
もっと、もっと力を込めて、集めて、深く深く。
『―――ああ、なるほど』
ベリアルは納得したかのような様子で、司の深部へと消えていく。
それに気付くことなく、司は更に力を求める。
集中する。
集中して集中して、能力を具体化していく。
「―――――ッ!」
ブチリ、と司の背中の服が弾け飛ぶ。
最初から開けてあった羽の穴とは違う穴から羽が出てきたのである。
そう、
前方に見える2人を見つつ、司は自分の感覚と状態をコントロールしていく。
安定、安定させるんだ。
司はそう意識を集中させてバランスを保つ。
そして飛翔。
先程までよりも速い速度で飛ぶ司に、トップを争う2人は驚く。
驚いているが、司にはその様子を観察している余裕はなかった。
いたい。
いたいいたいいたい。
目の前が赤くなる。
目の前が黒くなる。
目の前が青くなる。
だけど。
それでも。
今は何とか。
今だけは何とか。
この力をモノにしたい……!
司は常に意識していた。
ベリアルの力を使う危険性と、その不安定さを。
ベリアルが力を貸してくれなければ、ただの無個性の雑魚になってしまう自分の不安定さを。
だから力を引き出した。
そして自分のモノにするために引きずり出そうとしているのである。
例えベリアルがいなくなったとしても、自分の中に何かが残るように。
それはただの悪あがきかもしれない。
ただの可能性かもしれない。
しかし、そんな小さなモノにも縋りたいのだ。
力が欲しかったのだ。
1人で立ちたかったのだ。
それはただのわがままで。
それでも司は力を欲したのである。
ここまで力を引き出せるようになって、もっと先へ。
司はベリアルの力を模倣するだけでなく、モノにしたいのであった。
『はは、いいねぇ。滾るねぇ。昂るねぇ』
ベリアルは嘲笑する。
司の覚悟を笑う。
司の思いを笑う。
司の希望を笑う。
しかし。
『―――――いいぜ、そこまでの力はくれてやるよ』
だが安心するなよ?
お前にその力はちょっとだけ
ベリアルがそう言った瞬間、司の目の前が真っ暗になった。
「ギ、ア、ああ……あっ!?」
司は激痛と内側から溢れるような何かに苛まれてそのまま地面へと落下した。
そして力尽きて動けなくなった。
何故今だったのか。
それは真剣勝負の場で、自分の力で戦いたかったからかもしれない。
中途半端な力で挑みたくなかったからかもしれない。
ただ何となく、今じゃなきゃいけないという感覚に襲われたのだ。
しかし、その結果がこれである。
司は力なく笑う。
力を欲して、結局破滅して。
まるで愚者じゃないか。
いや、愚者そのものなのか。
「―――――なにやってるの?」
ふと、背後から声がする。
誰の声だったか。
司はどうにか頭を働かせようとするが、どうにも思い出せない。
ぐちゃぐちゃになった頭は、今の声を反芻することさえできなかった。
「……はぁ。ここで脱落されちゃあ、困るのよね」
ふわりと司は身体が浮かぶ感覚に襲われた。
なんだろう。
運ばれてるのだろうか。
ぼんやりと考えていたが、結局考えはまとまらずに霧散する。
そして司はその振動に揺られながら、意識を手放したのだった。