『目を覚ましな。あんまり遅いと嫌われちまうぜ?』
「っ!」
司はベリアルの声によって意識を取り戻した。
しかし状況が読めない。
どうしてゴールに到達しているのか、わからないのである。
「目、覚めたなら降りて」
「ん? 痛っ!」
司が頭を振っていると、急に身体が落下した。
頭から落ちた司は痛みに耐えながら振り返り、意外な人物を目にした。
「鈴……?」
「何? 悪いの?」
その人物とは、疲れた様子で不機嫌そうな顔をした鈴だった。
「いや、意外すぎて驚いた」
「……はぁ。ぶっ倒れてたあんたを運んでやったのに感謝の言葉もないの?」
「え、ああ。ありがとう」
「はぁー……」
司が感謝すると、更に疲れた様子の鈴。
未だに思考がまとまっていない司は、その理由が分からなかった。
「まあいいわ。次は仕留めるから」
「?」
鈴はそれだけ言うと、人混みの中に消えていった。
司はぽかんとしたまま動けずにいた。
『そういえば言ってなかったな。おめでとう
「え、あ」
司は、ベリアルの台詞で全てを思い出した。
地雷原を抜ける時に4枚羽を展開したこと。
途中で能力の制御に失敗して気を失ったこと。
そして、何故か鈴に運ばれてゴールしたこと。
「……謎だ」
『うふふふ』
「何だよ気持ち悪い」
ベリアルは笑うと、即座に深層へと潜っていった。
不満気に吐き捨てたが、どうにも気になった。
何故鈴が自分を運んでくれたのか、だ。
しかし、どれだけ考えても正解に辿り着きそうになかった。
まあいいか、と思考を放棄して司は自分の背中の様子を探る。
すると、いつも以上に大きく穴の開いた体操服。
司ははぁ、と息をついた。
何とか前段階は突破できたようだ。
手をグーパーとすると、バチバチと紫電が奔る。
今までに感じたことのない力の大きさである。
ふふ、と自然に声が漏れてしまう司であった。
「……ちょっと」
「ん?」
更に感覚を試そうとしたところで、鈴が戻ってきた。
とても不満気な、とても納得のいっていない様子の顔。
司は不審に思いながらも返事をした。
「何?」
「あんた……飛べるでしょ?」
「うん」
「くっ……!」
聞いておいて苛立っている鈴。
どうやら空を飛べる司が羨ましいらしい。
宙を曲芸のように跳躍していた鈴を見て、司は結構面白いな、とか思っていたが。
「だから。あんたが上に乗って、騎馬作るの」
「……なるほどねぇ」
読めてきた司である。
司は今、騎馬に誘われているのである。
「いいよ。やろう」
「そう、それじゃあ仕方ない。あきらめ……って」
鈴的には断られると思っていたのだろう。
あっさり了承した司に拍子抜けしたようだ。
「え……いいの? 他の奴らB組だけど」
「いいよ」
そもそも悩んでいたのだ。
司自身、結構交流していると思っているが、Aと微妙に相性が悪いようなのだ。
本当はまだ全然馴染むとか以前の問題で、まだ各々の特徴とかを知っている人物の方が少ないのだが。
司は逆に中途半端にみんなのことを知ってしまっているから、違和感を感じてしまうのである。
そんな仲良し空間に、自分がいるという違和感を。
実際はまだそんな関係を築く前のみんななのだが、その認識に至っていないのである。
「ふぅん……。ま、いいけど」
ついてきなさい、と歩き出す鈴。
それにあっさりついていく司。
何故か若干不満気な鈴。
「あ、この人が目当ての飛べる人ね。私は拳藤一佳。よろしく」
「わたしは小森希乃子ー」
「黒羽司です。よろしく」
見事に女子ばかり。
そんな中に放り込まれて、司は違和感ないだろうかと若干不安になる。
「……言っておくけど、こいつ男だからね?」
「え?」
「ええー!?」
「?」
鈴の台詞に、2人は驚く。
司のことを女子だと勘違いしていたのである。
しかも、司自身はそのことに気付いていなかったので訂正もない。
実際のところ、司の見た目は完璧に女の子のものとは言えない。
しかし、中性的であり、髪の毛もそこそこ長い。
そしてB組では人見知りとして知られている鈴が連れてきた相手である。
男だと思う方が難しいというわけである。
「じゃあハーレムだね。嬉しい? 嬉しい?」
小森希乃子は司をからかうように言う。
司は実際その通りなので何も言えなかった。
うん、可愛い子はみんな好きだよ俺。
「えーうん、まあ、いっか」
拳藤一佳は楽観的だった。
というかあんまり気にしない様子である。
むしろ気にしているのは鈴。
大丈夫だろうか、と鈴のことを心配するくらいである。
「飛べるから騎馬から落ちても平気でしょ? こき使うよ」
鈴は先程からこの調子。
ふん、と不満げな顔でそっけなく言う。
別に何とも思ってないんだからね、とも言いたげである。
ツンデレか。
「まあ、足を引っ張らないように頑張るよ」
軽く笑う司。
新しい能力の可能性に高揚しているのもあって、いい笑顔だった。
「むっ……」
その笑顔を見て、むすっとするのはやはり鈴であった。
なんだこのやろうとでも言いたげである。
ただ笑っただけなのに怒り過ぎ。
司はそんな気配を何となく察した。
「とにかく、わたしを先頭で騎馬作るから、あんたが上で気張りなさい」
「オッケー」
「返事はハイ」
「はい」
司は怒った鈴を刺激しないように話を進める。
時間は短いのである。
さっさと手順は把握しなくてはならない。
そういうところは合理的である。
「―――――さて、始めるよ」
準備も終わり、4人は騎馬を組んで立ち上がった。
これから壮絶なぶつかり合いが始まるのである。
「―――――チィッ!」
鈴が舌打ちする。
狙っていた相手を他の騎馬に取られたのである。
先頭は鈴なので、動きを制御するのも鈴。
そして怒っている鈴は制御不能。
つまり暴走である。
「ちょっと鈴! いつも言ってるけどキレるの早過ぎ!」
「もっとわたしみたいにゆるーくゆっくり行こうよー!」
後ろの2人の抗議も知らぬ存ぜぬ。
ドスドスと勢いよく突き進み、多くの騎馬が集まる密集空間へと飛び込む。
「司!」
「はいはい」
鈴はすぐに司へと指示を飛ばす。
それに応じて司は跳躍する。
そして騎馬を作っている人の真上をとり、死角からハチマキを奪い取る。
そしてゆっくりと羽を動かして爆走する鈴を探すためにホバリングする。
そしてすぐ全力疾走してハチマキを奪った相手の反対側へと移動する鈴目指して方向転換する。
そして着地。
傍目からはジャンプしてハチマキを奪い取り、着地したかのようにも見えたかもしれない。
ちなみに、司が今展開している羽は2枚。
4枚羽は未だに制御が不安だった。
個人戦までには制御をしっかりしたいところだが、その練習は今ではない、というのが司の考えである。
―――――しかし。
「ぐっ?!」
全身に電流が走る。
比喩ではない。
上鳴の無差別放電であった。
そして、そこからのコンボを司は知っていた。
「3人とも、
司は足を鈴の鋼鉄の翼に固定し、意識を無理矢理集中させた。
そして一気に4枚羽を展開して宙を舞った。
瞬間、氷結。
足元が一気に凍り付いた。
「あっぶなっ! 痛! 痛!」
鈴は痺れた状態でも怒っていた。
こんな怒る子だったっけか、と司は思いながら着地する。
どさりと騎馬が崩れかけたが、なんとかセーフ。
「大丈夫?!」
「平気だよ」
拳藤一佳が声を上げる。
確かに今の攻撃は効いた。
効いたが、鈴ほどじゃない。
鈴は鋼鉄の翼を持っているのだ。
電流が人よりも通りやすい。
ダメージを受けたと考えるべきだ。
司はそう考えて鈴の様子を見たが、何やら怒っていた。
また怒ってるよこの子。
何となく、ベリアルの前での鈴は猫をかぶっていたことが分かってきた。
「あの2位、ぶっ潰す」
無理である。
何せ巨大な氷の壁に阻まれてその先へは行けない。
司が抱えていけばいい、とか何とか言っているがそれは無理。
司の4枚羽にも荷重制限という限界があるのである。
「とにかく、今は体力を回復しながら他のチームのポイントを奪っていこう」
「そうだよ鈴。今は我慢我慢」
「どーどー」
「ふー! ふー!」
まるで暴走しかけの爆轟少年に近い。
何となく浮かんだ想像をかき消し、司は他のターゲットを見繕う。
動けなくなっているチームがいくつかある。
そこを狙っていこうというわけだ。
「とにかく、この回を突破して次につなげるのが先決だ。決着はその時つけよう」
「ぐぬぬぬぬぬっ!」
司の台詞に、鈴は唸りながらも同意した。
そして氷の壁に向けていた先頭を変えて、他のチームに狙いを付けた。
「とりあえず勝つからね!」
「はいはい」
何となく、鈴の扱い方も分かってきたような司であった。